すべてを救いたかったんだ   作:ソウブ

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5話 お出掛け。出会い。

 

 6月6日土曜日

 

 

「――――さん」

 …………。

「か――さん」

 ………………。

「かず――さん」

 ゆさゆさ。体を揺すられている。

「和希さん」

 アイラの、声か?

 声だ。

「和希さ~ん。起きてくださ~い」

 耳元で喋られると、息が掛かる。

 こそばゆいような、くすぐったいような、少なくとも悪くない感覚。

「朝ですよ~。もう8時半ですよ~」

 なぬ?

 ベッドの上で上半身をガバッと起こす。

 横に立っているアイラに顔を向ける。

「おはようございます和希さん」

「ああ、おはよう。それで、今、何時だって?」

「8時半です」

「マジか」

「マジです」

 

 昨夜、夜遅くまで歩き回ってたのが災いしたか。

 今日は土曜日で、私立で緩いうちの学校が休みというのも拍車をかけた。

 それでもいつも通りの時間に起きれなかったのは、弛んでると思う、不覚だった。

 こんなんじゃ、駄目だ。

 

「今日は珍しく起きるの遅いですね。いつもなら5時くらいなのに」

 小首を傾げて意外そうな顔のアイラ。

「…………ああ、まあな」

「夜更かししてたんですか?」

「読んでたラノベが良いところで、切りのいいところが見つからなかったんだよ。それで結局最後まで読んだ」

 自分で言ったことだが、よくもまあそんな嘘がスラスラと吐けるものだと思った。

「そうなんですか。でも健康によくありませんから、あまり夜更かしはしないようにしてくださいね?」

「ああ」

 アイラはもっともらしい嘘にすぐに納得してくれたようだ。人差し指を立ててお姉さんぶった仕草で注意してくる。

 小動物のくせに。口に出したら拗ねるだろうけど。

 

「朝ごはん出来てますけど、食べますか? なんて訊き方も、ちょっと変ですね。食べないと体に悪いです」

 その笑みは、可愛かった。

 

 

 

 朝飯を平らげて、いつもよりもだいぶ遅い時間になってしまったがきっちり鍛錬もこなす。

 木の短刀を振って、仮想敵と戦うだけではない。

 腕立て伏せをし、近所をランニングもする。

 ランニング以外の時は、いつものようにアイラは縁側でちょこんと座って、俺のつまらない鍛錬を眺めていた。

 今日は起きるのが遅かったので、アイラはパジャマ姿ではない。

 服の名称とかはあまり知らないが、女らしい服みたいな感じだ。

 水色の、胸にリボンの付いたワンピース。清涼感のある見た目。

 そして白ニーソとミニスカートが作り出す絶対領域。

 絶対領域はいい。アイラはわかっている。白ニーソも俺好みだ。黒ニーソも嫌いではないが。むしろ好きな部類だが。

 アイラはおしゃれをしたいだけなんだろうけどな。

 

 

 11時ぐらいには、今日の鍛錬を終えた。

 シャワーを浴びて着替えると、アイラが「今日は二人でどこかに出かけたいです」というので、俺は二つ返事で「ああ、いいぞ」と答えた。

 今日は思い切り遊ぶのも、悪くない。

 どうせマンイーターについて調べても、一般人の俺では大したことは分からないだろうし、時間も無駄に浪費するだけだ。

 だから今は、心身を安定させるためにも、遊ぼう。

 

 ということで、少しリビングでくつろいだ後、二人で出かけた。

 

 

 

 特に決めていた訳ではないが、また駅前に来てしまった。

 昨日もこの近くのゲーセンで遊んだというのに。

「アイラ、どこか行きたいところないか?」

「どこでもいいですよ。ここでも」

 なんてアイラが適当なこと言うものだから、まあ、ここでいいのだろう。

 とりあえずもう昼なので、二人でファミレスに入って外食した。

 

 で。ファミレスから出た後。

「どこ行こうか」

「う~ん。どうしましょう」

 全く目的も決めていない外出だ。駅前でいいとはいえ、どこに行くか迷った。

 駅ビルのデパートに行くのも別に嫌じゃないが、アイラが積極的に行きたがらないなら俺も特に行きたい場所ではない。

「もうゲーセンでいいか? 二日連続になるが」

「そうですね。和希さんが行きたいならそれでいいですよ。他には――あっ。本屋さん行きたいです。新刊が出てたんでした」

「じゃあ本屋行ってからゲーセンでいいか」

「はい。そうしましょう」

 さっそく歩き出した。

 

 数分ほど歩くと、それなりの大きさの本屋へと着いた。

 自動ドアが開き、二人で店内へと入る。

 内装は、まあ本屋だ。

 本屋としか言えない。

 静かで、棚に本が所狭しと並び、白色なシンプルな内装。

 人は、土曜だからそこそこいる。

「では、私はあっちの方を見てきますね」

「おう」

 アイラは恐らく、恋愛小説か少女漫画が置いてあるところに行ったのだろう。

 ほんと好きだな。俺も人のこと言えないが。

 とりあえずライトノベルのコーナーに行こう。

 俺も欲しい新刊あったような気がするし。

 淡々と歩いて行き、ラノベの新刊が置いてある場所に着く。

 様々な文庫の様々な表紙。

 購入意欲をそそる新刊たちが色とりどりと平積みにされている。

 一冊手に取って最新1巻のあらすじを読んでみる。

 こうして吟味するのが楽しかったりもする。

 何冊かあらすじを読んでると、目に入った一冊。

 

「あ。これだ」

 欲しい新刊が出てたような気がしていたが、それを見つけた。

〈百殺の魔眼無双〉

 まあ、タイトル通りみたいなやつだ。

 異世界に転生した主人公が強力な魔眼の力を得て、敵をバッタバッタと倒し無双していく話。

 これだけ聞くとシンプルだが、このラノベ特有の要素もある。

 それは、その魔眼の力というのが百個の標的を指定しないと発動できないという強力だが面倒な力で、この能力をどう上手く使っていくかって感じの展開が続きが気になってしまうのだ。

 好みは人それぞれだが、俺はそれが気に入ってしまって続刊を購入し続けている。

 その最新6巻が今俺の手の届く範囲に存在していた。

 

 とりあえずこれは買おう。

 それと、さっきあらすじ呼んで気になったやつも買うか。

 もちろん異能バトルものだ。

 俺にとってのもちろんだが。

 

 さっそく〈百殺〉の6巻を手に取ろうと手を伸ばした。

 本の表紙に手を触れた瞬間、人肌の柔らかい何かとその手がぶつかった。

 というかぶつかった何かも手だった。

 咄嗟に手を放すのもなんか負けたような気がして嫌なので、そのまま本を取る訳でもないが手をそのまま固定した。

 相手の方は即座に飛び退く様に手を引いた。

 そちらの方に目を向けてみる。

 

 そこには、意外や意外、俺よりも年下であろう女の子がいた。

 この本を手に取ろうとするぐらいだから、中高生の野郎だとばかり数秒前は思っていたが。

 全然違った。

 完全に、どこからどう見ても中学生ほどの女の子。

 

 肩より少し長いほどの黒髪を小さくツーサイドアップにし、頭頂にはアホ毛が一本みょんと生えている。

 黒い眼帯を左眼に付けているが、本当に怪我か病気なのかアクセサリーの趣味が特殊なのかは判断がつかない。

 しかし服は女の子女の子した薄いピンクのワンピースだ。スカート部分に可愛らしいフリルが付いている。

 だがそう思った矢先に右腕に包帯を巻いているのを確認する。怪我をしているのかそれとも。

 そしてそして、黒ニーソ。

 絶対領域だ。

 わかってるなこの中学生。

 白い太ももが柔らかそうで眩しい。

 

「ふっ。同士ですか」

 眼帯に手を当てて不敵な態度でそう言った、多分中学生ぐらいであろう女の子。

 あ…………。

 眼帯も包帯も恐らく、いや確実に怪我でも病気でもないな。

 ちょっと特殊な子なんだと理解した。

 

 しかし。

 しかしだ。

 俺はそういう人種を差別などしないし、駄目だとも思わない。

 (むし)ろ伸び伸びと、好きなように生きてほしい。

 幸い俺もそういうのには造詣が深いと言えるだろう。なにしろバトルもののラノベを読み漁っているからな。

 ここはノリに任せて合わせてみよう。

 

「ああ。お前もこの書物を気に入ってるのか。心高ぶるよな〈百殺〉」

 一瞬ビクッと体を硬直させた女の子は、すぐに不敵な表情に戻ると。

「はい。私を満足させるに足る最高の書物と言えるでしょう」

 気分良さそうに言った。

 それ以降は特に口調を意識せずに感情を爆発させた。

「面白いよな!」

「はい!」

「4巻の最後らへんとかやべえよな!」

「はい! そこも好きですけど2巻の最後もいいですよね!」

「だよな!」

「はい!」

 

「ははははっ」

「ふふふふっ」

「「あははははははははっ!」」

 どちらともなく二人で笑った。

 女の子の黒瞳は楽しそうに輝いていた。キラキラしていた。

 

「ところで」

「はい」

「少し静かにするか。他の客に迷惑だ」

 こちらを迷惑そうに見ている客が数人ほど。

「……そうですね」

 反省したようだ。少しシュンとしている。アホ毛も萎れている。

 

「まあ、短い間だったがじゃあな」

〈百殺〉の6巻と新刊の1巻を二冊ほど手に取る。

「はい。本当に短い間でしたが〈百殺〉について話せてよかったです。なにしろ周りに好きな人がいませんから」

 苦笑する中二病なのかどうかよくわからない女の子。

 結構口調崩れるな。

「俺も同じだ」

 そう言い残して俺は会計へと歩いた。

 

 

 

 購入後アイラと合流し、店を出る。

 少し歩いてゲーセンへ着いた。

 

「つっても、アイラゲーム下手だしな。どうしようか」

「下手でも楽しめなくはないですよ?」

「そうなのか」

「そうなんです」

 笑みを向けてくるアイラ。そう言うのならそうなんだろう。

 

「ならホッケーやるか?」

「ホッケー……いい、ですよ?」

「今無理したろ」

「してないですよ」

 真顔で言ったが、イントネーションが少しおかしくなっている。

「ほう。本当に?」

「本当ですよ」

 今度は真顔&イントネーションも完璧。だが過去の失敗は覆せないぞ。

「そうか。そういうならホッケーやるか」

「望むところですよ」

 強がりはよせばいいのに。

 

 ホッケー台まで歩いて行き、対面に立つ。

 硬貨を投入すると、白色の平べったくて丸っこいものが出てくる。

「先行は譲るよ」

「はい」

 アイラに平べったい奴を渡す。

 

 所定の位置にお互いついて「初めていいぞ」と俺が言ってすぐスタートした。

 さあ、アイラの先行。

 動いた。

「えいっ」

 スカった!

 空振った!

「こほんっ。もう一度です」

 頬を染めて咳払いをするアイラ。

 

「えいっ」

 今度はスカらなかった。

 だが。

 カンッ。

 俺の側のゴールの横。角に当たって跳ね返る。

「わわっ。わっ」

 アイラは跳ね返ってきた平べったいやつを何とかしようとするが。

 カコンッ。ゴールに入る音。

 俺に一点入った。

 あっけなく自滅したアイラ。

 

「ううっ。まだですよ。私だってこれくらい」

 少し涙目になりながら再び構えるアイラ。

「えいっ」

 今度も空振らない。

 角にもぶつかりそうになかったので俺は打ち返す。

 全力で。

「わっ、早いですっ」

 対処しようと、卓球をしているように大きく動くアイラ。

「きゃっ」

 カコンッ。

 アイラはすっ転んだ上に俺に二点目が入った。

 やはり絶望的にアイラは運動オンチだ。

 無理に強がるものだから思わず意地の悪いことをしてしまったが、なんかかわいそうになってきた。

 

 対面に倒れているアイラの元に向かう。

「大丈夫か? やっぱりホッケーはやめるぞ。飽きた」

 手を差し出すと、アイラはその手を取って起き上がった。

「は、はい……そうしましょう」

 倒れた拍子にぶつけたのか鼻を赤くして恥ずかしそうに言った。

 

 

 その後は縦スクロールシューティングゲームやガンシューティングなど、二人で協力プレイできるものを主に楽しんだ。

 アイラは相変わらず下手だが、楽しそうに笑っていたので問題ないだろう。

 ガンシューティングをやり終え、歩いていたところ。

 

「あ」

 なんか、見覚えのある姿を見かけた。

 最近というか、ついさっき見たばかりの姿。

 本屋で出会った女の子である。

 UFOキャッチャーの前で難しい顔をしている。

 

「アイラ。ちょっと知り合い見つけたんだがいいか?」

 知り合いとすらいえないかもしれないが。

 なにしろ数分話しただけだ。

「え……? はい。いいですよ」

 アイラは微笑んでそう答えた。

 

 女の子に歩み寄って、すぐには話し掛けずに少し後ろで見守ってみた。

「くっ、この私をここまで追い詰めるとは、舐めた真似してくれますね……っ」

 苦渋の表情で女の子は呟いていた。

 どうやら欲しい何かが取れない模様。

 覗き込むと、UFOキャッチャーのガラスの中には沢山のぬいぐるみが所狭しと散乱していた。

 意外と女の子らしいものが好きなんだな。

 意外とか数分しか会ってない俺が言えることじゃないかもしれないが。

 

「あっ! この天からの魔手弱すぎます! 詐欺です! 貧弱魔手です!」

 アームが弱いのか鳥のぬいぐるみが落ち、女の子は黒いツーサイドアップとアホ毛をブンブン振り回す。

 こういうのはアームが弱いと相場が決まってるだろうに。

 ぬいぐるみなら地道に移動させるかタグに引っ掛けるかのどっちかだな。

「くうぅ……この魔の箱は、どこまで私の力を奪えば気が済むんですか……」

 結構小銭を吸われたらしい。

「うぅぅ…………もう、お金が……」

 可愛らしいデザインの財布を何度も(あらた)めながら嘆いている。アホ毛もシュンと萎えている。お通夜ムードな女の子。なんか不憫だ。UFOキャッチャーというものがそういうものなんだとしても。

 だからという訳じゃないが。しょうがねえ。

 

「〈百殺〉の同士よ。どうやら苦戦しているようだな」

 どんよりと俯いていた女の子が振り返る。

「あ、あなたは……! あの時の……!」

「ああ。いつぶりになるだろうな、俺たちが会いまみえるのは」

 女の子は、はっとした様に体をビクッと跳ねさせると「本当に、いつぶりでしょうね……」一転、態度を変えて左目の眼帯に手を当てながら返してきた。何時ぶりも何もついさっきだが。

「加勢するぜ。もうほとんど弾ないんだろ?」

「え…………はい。そうなんですけど……さすがに悪いですよ」

 と思ったらまた一転して中二病がぶれる女の子。申し訳なさそうに眉をハの字にしている。

「遠慮するな。俺がやりたいからやる。それだけだ」

「あ」

 静止する間を与えずに、俺はすかさずUFOキャッチャーの前へ移動し、硬貨を投入した。

「ああっ、そんな、でも」

 女の子は狼狽えるが無視する。

 

 ぬいぐるみにタグは、ちゃんと付いてるな。

 ――よし。この角度なら、いける。

 横に移動するボタンを押すと、軽快で珍妙な音を鳴らしながらアームが移動する。

 ここだ。

 再度ボタンを押してアームの動きを止める。

 今度は縦に移動するボタンを押し、タイミングを計って止める。

 よし、アームの開き加減は女の子がやってるのを見てたから問題ないはず。

 最後のボタンを押す。

 アームが開き、下降していく。

 そして、上手くぬいぐるみのタグにアームが引っかかった。

 そのまま上昇していく。タグが落ちることはなかった。

「す、すごいです……」

 狼狽していた女の子は途中から固唾を飲んで見守っていてくれたみたいだ。

 固唾を飲んでいたかは分からないが。とにかく、静かに見ていたようだ。

 無事落とし口にまで到達し、ぬいぐるみは落とされた。

 取り出し口から鳥のぬいぐるみを掴んで出す。

 

「一発です……どこの猛者ですか? 歴戦の戦士なんですか?」

 黒い瞳をキラキラさせてそんなことを言ってきた。

「俺はちょっとばかし手の器用さには自信があってね、それだけさ」

 言ってから気づく。

 手先の器用さはUFOキャッチャーに関係ない。

「神の手ですっ。ゴッドハンアームです!」

 ハンドかアームかどっちかにしようか。

 女の子は俺の失言に気づく様子はない。

 ならば良しとしよう。

「まあとりあえず、はい」

 鳥のぬいぐるみを女の子に押し付ける。

「え、で、でも。貴方が取ったものですし……」

「男の俺はぬいぐるみなんていらないんだ。だからかさばるし押し付けただけだが」

「で、でも」

「でもじゃねえよ。渡すために取ったのに受け取ってもらえなかったらそっちの方が嫌だぜ俺は」

「……はい、わかりました。ありがとうございます。大切にします」

 数秒逡巡した後、女の子はぬいぐるみを抱きながらペコリとお辞儀して来た。

 ふわっとツーサイドアップとアホ毛が躍る。

 女の子の甘い匂いが漂ってきた。

 

「俺は相沢和希だ。お前は?」

「え……?」

 小首を傾げる女の子。

「名前だよ名前。教えてくれ。俺は名乗ったぞ」

「あ、はい。詩乃守姫香(しのもりひめか)といいます」

「詩乃守か。俺は高二だがそっちは?」

「い、言わなきゃダメですか?」

「ん? やはり見知らぬ男に情報を与え過ぎたくないか?」

「う…………」

 図星なのか目を泳がせている。

「もうすでに名前を言ってしまっているのに?」

「そ、それは、相手に名乗られたら名乗るのが礼儀じゃないですか」

「そうだな。まあ別に言わなくてもいい」

 相手が何歳だろうとそんなことは重要じゃない。

「…………中三です」

「そうか。なんで今答えた」

「なんだか負けた気がしていやだったので」

「変な所にこだわるんだな」

「ということは相沢さんは先輩ですね。相沢先輩ですか」

「おう、先輩だ。敬えよ?」

「自分から言われると抵抗がありますね」

 とはいえ、やはり中学生だったか。アイラと同じくらいちんまいしな。アイラに言ったら拗ねるだろうけど。

 そろそろいいか。アイラを待たせ過ぎるのも悪い。

 

「じゃあ達者でな。元気でやれよ。夜にならない内に帰るんだぞ」

「はい。先輩も元気で。本当にありがとうございました」

 詩乃守は微笑んでそう言った。

 何度も感謝なんてしなくていいんだが。

 けれど、感謝されるというのは悪くないものだな。

 俺は詩乃守に背を向けて、アイラの元へ帰った。

 

 

 

「和希さん。あの子は?」

 アイラの元に戻ると、詩乃守について聞いてきた。

「ああ。あいつは詩乃守姫香。さっき行った本屋で会って意気投合した」

「さっきですか!? は、早過ぎませんか和希さん。春風さんの時もそうでしたけど、女の子と仲良くなるの早過ぎですよ!」

 アイラは驚愕と衝撃で慄いている。

 そんなオーバーリアクションされても。

「確かに現状だけ見ればそうだが、ただの成り行きだぞ?」

「そうはいっても、やっぱりこれは天性ですよ。和希さんはどちらが本命なんですか? どちらも悲しませてはいけませんよ?」

「なに言ってんだお前は。選ぶも何もねえよ」

「もしかしてハーレムがお好みですか!? それは修羅の道ですよ? 覚悟はあるんですか?」

「ちょっと黙れ」

 アイラの額にチョップする。

「あいたっ」

 飾り目(><)で痛がる。

「うぅ……ひどいですよ和希さん」

 自分の額をさすりながら涙目でこちらを見てくる。

「お前が変なこと言うからだ」

「だって」

「だってもヘチマもねえ」

「意地悪です~」

「そうだな」

「認めないでくださいよ~」

「面倒くせえ」

「むうぅ~」

 あ、頬を膨らませた。かわいい。

「悪かった悪かった。とりあえずどこか行こうぜ。ずっとゲーセンばかりじゃつまらない」

 アイラは頬を膨らませながら上目遣い。

 沈黙数秒。

「……はい。そうですね。どこかいきましょう」

「おう。どこ行く?」

「公園とかコンビニとか」

「公園はいいが、なぜコンビニ? 悪い訳じゃねえけど」

「うひゃい棒食べたくなっちゃいまして」

 照れ笑いをするアイラ。

「そうか。じゃあコンビニ寄ってから公園行くか」

「はい」

 そうして二人で、歩き出した。

 

 

 


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