話が決着した後。
美子に早退してもらい、学校から出て、待機していた三人の元へと戻った。
「と、いうことで」
美子の肩を掴んで前に出した。
「蕪木美子、新しいハーレム仲間だ。仲良くしてやってくれ」
「…………」
美子はコクッと会釈した。
精一杯の挨拶なのかもしれない。
「また増えた!?」
「仲間が増えましたっ」
「もう好きにしてください……」
真白、アイラ、姫香は三者三様の反応を見せる。
美子は警戒するような、窺うような様子で三人を見ている。
そんな美子の姿を見て、アイラが前に出た。
ビクッと体を震わせ一歩後ろに下がり、俺の袖を握る美子。
その行動を気にせず、アイラは微笑んで右手を前に出した。
「これからよろしくお願いします、の握手をしましょう」
「…………」
アイラは、微笑んで待っている。
美子は、戸惑っている。
俺含め他三人は、見守っている。
「……」
美子は俺の袖を握ったまま、こちらを見た。
その瞳は、いまだに戸惑いと、そして不安に揺れていた。
俺は美子の目を見て、頷いた。
「……っ」
美子は俺から視線を外し、意を決したようにアイラの顔を見る。
「よ、よろしく、お願いします…………」
美子はアイラの手を握った。
アイラはパッと笑顔になり。
「はい。よろしくお願いしますね」
握手をしながら、そう言った。
「…………っ」
美子は、頬を紅く染めて視線を下に落とした。
でも、悪くは思ってなさそうだ。
「わたしもよろしくね」
「わ、私もです」
真白と姫香も、二人の握手の上に手を重ねた。
「よ、よろしく、お願いします…………」
美子は、先と同じ言葉を同じ言い方で、繰り返すように言葉にした。
緊張しているのだろう。
ぎこちなく、他人行儀だが、これから慣らしていけばいいか。
そんなこんなで。
俺たちの仲間に、新たに一人の女の子が加わったのだった。
一応、仮だけどな。
――暗い、暗い空間。
そこには闇を体現せし人ならざる者達が集っている。
その数、七。
言葉を交わし合う闇達。
――あの『傲慢』の力はイレギュラーだ。危険すぎる。
――殺していない。魂が無い。意味がない。
――予定調和の殺戮。いや、無殺蹂躙。
――早急の対処が必要。
――我々が介入するか。
――止めろ。儀式に影響が出てしまうぞ。
――どちらにしろこのままではその影響が出る。
――なら大罪者達の力を使えばいい。
――そうか。我々は手を貸すだけでいい。それなら儀式への影響も僅かだろう。
――即座に取り掛かるぞ。
――時はどれほど必要か。
――なあに、それほど掛からない。許容範囲内だ。
――具体的な提示を。
――具体的な提示は、状況の誤差で無理だ、しかし大体、
――――数日だ。
美子を仲間にした後。
俺と真白は皆を待たせて、敵の中で唯一居場所の分かっている鈴倉へ対処しようと学校内へと向かった。
だが、鈴倉はいなかった。
それどころかしばらく休むらしい。
職員室にいる
身を隠したか?
それだと探しても徒労に終わるだろう。
他の大罪者は居場所が分からない。
佐藤は学生だろうから周辺の学校を探せば見つかるかもしれないが、俺の勘違いで同い年ぐらいだと判断しただけで実は違うかもしれない。
その場合無駄に労力を使うことになる。
無理に早く見つけようとする利点もあまりない。
ならば待つ方がいいだろう。
罪科異別が発動されれば、すぐに感知できるのだから。
俺たちの家は、四人の女の子と俺という、計五人が住む家と成った。
随分、賑やかになった。
全員、俺の恋人だ。
ということで。
「これから一緒にやってくんだから、名前で呼び合わないか?」
ということだ。
リビングのソファに座りながら、俺は提案した。
「それはいいですね」
手を斜めに合わせて賛同するアイラ。
「うん、わたしもいいと思う」
「はい、それでいいと思います」
「わ、私は別に……」
皆も大体賛同の様子。
「まあ、俺はすでにみんな名前で呼んでるんだが」
「恋人ですもんね」
「じゃ、わたしたちは今からってことで」
「では私から、真白さん、はもう呼んでいますが、姫香ちゃん、美子さん」
「次はわたしが。アイラちゃん、は同じく呼んでるけど、姫香ちゃん、美子ちゃん」
「次は私で。アイラさん、真白さん、美子さん」
「……アイラさん、真白さん、姫香さん…………」
皆それぞれ呼び合った。
「よし。これで一歩みんなの距離が近づいたところで、お互いのことをよく知るために、お互いの色々なことを話そうか」
「色々ってどんな?」
俺の提案に真白が首を傾げる。
「自分のことを知ってもらえる話とか。プロフィールみたいな」
「なるほど」
俺たちは、お互いのことを話した。
他人には言えないことまで、話した。
知った。
真白の天使とか、アイラのお姫様とか。
俺はそれを知っていたが、それ以外にも姫香がいつもどう生活しているのかとか、仲のいいクラスメイトの話とか、美子と俺が初めて会った時に美子がどう思ってたとか。
全部が全部を喋る必要はないし、強制もしなかったが。
俺は自分から言い出したこともあり、自らの過去も話した。
そうして、しばらくの時が経ち。
話が、終わった。
「俺たちは運命共同体だ」
俺は手を前に出した。
出した手の上に、皆の手が乗せられる。
「これからも、みんなでやっていこう」
「はい」
「うん」
アイラと真白は、気前よくナチュラルに。
「はい」
「はい……」
姫香と美子は躊躇いがちに、けれど嫌ではなさそうに。
皆の手が、一つになる。
結束を固めるために、こういうことをしておくのもいいだろう。
俺たちは、みんなでやっていく。
俺のハーレムに、幸せ漏れなど許さない。
みんな幸せにしてやる。
四人の楽しく笑ってる顔を、拝み続けてやる。
夜。
「みんなで寝ようか」
「はい」
「「ええ!?」」
「…………」
アイラは即応。真白と姫香は驚愕。美子は自然体で黙っている。
「だが俺のベッドに五人は無理だな。布団を三枚ぐらい敷くか」
「ちょ、ちょっと唐突過ぎないカズくん」
「そうですよ。心の準備とか、色々あるじゃないですか」
「ハーレムだから当然だろ」
「当然じゃないよ!?」
「理に反することは言ってないはずだが」
「でもなんか違いますよ!」
やいのやいのと、真白と姫香が騒ぐ。
「みんなで寝るの、楽しいと思います」
ふんわり微笑んでアイラは言った。
「「うぐ」」
真白と姫香はダメージを受けたかのように呻いた。
アイラの笑顔は、眩しい。
「私は……ハーレムというくらいだから、そういうものなんだと思ってましたけど……二人は一緒に寝たくないということは……和希のこと、好きじゃないんですか……?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「ないです、ですけど……」
美子の言葉に、ごにょごにょと返す二人。
「真白さんと姫香ちゃんは、恥ずかしがり屋さんなんですよ」
ふんわり微笑みの言葉が、俺たちの間を通っていく。
「な」
「恥ずかしいとかでは……」
アイラは穏やかに微笑みながら続ける。
「でも、一度一緒に寝たらきっとすぐに慣れます。そうしたら、後は楽しいだけですよ」
「ぬぐう」
「ぐぬぬ」
アイラの眩い笑顔にあてられ呻く二人。
「そんなにイヤなのか?」
本当に嫌がっているようなら今日の所はやめておいてもいいだろう。
「イヤってほどじゃ……」
「こう、乙女の、複雑な心情、みたいな感じでですね……」
「だったら寝る。決まりな」
「「――――」」
押し切った。
この家で最も広いリビングに三枚の布団を敷き、俺を中心として五人で横になる。
左から真白、美子、俺、アイラ、姫香の順だ。
「まったく、ほんとにまったく、まったくカズくんは」
「うう~~~」
真白と姫香はまだ何か言っているが、俺は目を閉じた。
美子は、ピトッと俺の左腕に抱き付いてきた。
俺は、皆の体温の暖かさと抱き付いてきた美子の柔らかさに包まれながら。
精神が穏やかな感覚になっていくと共に。
寝た。
「――さん」
起きた。
誰かの声が聞こえた、と思ったら、何かが起きたのかと考えた。
敵の夜襲を想定していたため、すぐに起きれるように意識を準備していたのだ。
「和希さん、まだ起きてますか?」
「今起きた」
夜襲ではなく、アイラが話しかけてきただけだったみたいだが。
他の皆は寝息を立てていて、寝静まっているようだ。
「起こしてしまいましたか……?」
「問題ない。それより話があるんじゃないのか?」
俺に起きているか訊いたということは。
「……はい」
「アイラ?」
アイラは、俺に抱き付いてきた。
いや。
抱きしめてきた、といった方が正しい仕草、抱擁だった。
「私、和希さんが体験した前の世界で死んじゃったんですよね?」
「――っ。なぜ、それを」
「和希さんのした話を聞いて、行動を見ていればわかります。あと、そんな感覚がするんです」
「…………」
「だから、ちゃんとここにいますって、伝えたくて」
アイラは、やっぱり優しいな。
そんな時に俺の心配かよ。
「アイラは強いな。自分が死んだことがあるとわかったら、また殺されるんじゃないかと怖がってもおかしくないと思うんだが」
「和希さんが守ってくれますから」
「過大評価かもしれないぞ?」
「そうなんですか?」
「違うな」
「それなら安心です」
微笑みを向けてくるアイラ。
どこまでも、信じてくれるんだな。
その信頼には応えないとな。
今度こそ、守って見せる。
取り零さず、その手に保ち続けてやる。
自分の手を眺めた。
今の俺は以前より強い。
特に戦闘面で。
だから、驕りでも慢心でもなく、やれると思う。
まあ。
例え、この力が無かったとして、どんな手を使ってでも。
守るけどな。
「和希さん」
アイラが、お互いの唇の距離をゼロにした。
最初は触れるだけだったが、逡巡の気配の後、舌を入れてきた。
突然だったが、俺も我慢ならなくなり、没頭した。
アイラが俺の口中、口蓋、歯、舌とすべてを舌で愛撫する。
俺もアイラの口中に舌を行き渡らせる。
舌を、絡め合う。
ぴちゃぴちゃと、淫靡な音が静かな部屋に響いた。
「――ぷはっ……ぁふぅ……」
息が続くまで深いキスを堪能し、口をお互い放す。
アイラは扇情的な息を吐いた。
潤んだ瞳もまた色っぽい。
「こんな風に、みんなも愛してあげてくださいね」
色香を漂わせながら、アイラは微笑みを湛えて言った。
言われて気づく。
そういえば。
ハーレム作ると宣言しておきながら、キスすらしていなかった。
抱きしめるぐらいしかしていない。
唯一真白とだけはしたことがあったが、それは前の世界の話だ。
つまりこの世界ではアイラが初めて。
余裕を出しながらも、張り詰めていたのだろうか。
あまりそういうことに頓着していなかった。
好きだ。幸せにするとは思っていたが、その方面を重要視していなかった。
けれど、女の子はそういうのを望むのだろう。
アイラからキスしてくれて、気づかせてくれた。
こんなところでも、助けられた。
やっぱりアイラは最高の女の子だ。
みんな、最高だけれど。
とにかく。
せっかく気づかせてくれたのだから。
ちゃんとしよう。
俺は、ハーレムの皆――最も大切な人たちだけは、必ず幸せにして守り通すと誓ったのだから。
いや。
誓ったというよりも、俺がそうしたいのだから。
「アイラ、ありがとうな」
今度は俺から、キスをした。
そうして、しばらくアイラとキスを続けて幸せを噛み締めた後。
眠りについた。