『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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8月終了まであと僅か……まだ慌てるような時間じゃない。

残り10分になってからが本当の勝負!


第9話

 ンフィーレアはカルネ村に向かっている。本来はポーションの材料がまだ残っているため、行く予定はなかった。しかし、最近気になる噂がエ・ランテルで流れているのだ。

 

 その噂によると、帝国の騎士達が王国の村々を虐殺して回ってるとのことである。最初は根も葉もない、悪質な噂だと判断していた。

 

 だが、ンフィーレアの祖母であるリィジー・バレアレはエ・ランテルにおいて最高のポーション職人でもあり、人脈も広い。だからこそ孫であるンフィーレアも、より一歩踏み込んだ噂を知ることができた。

 

 王国最強の戦士である王国戦士長が失意の色を隠せずに、エ・ランテルを訪れていた。配下の戦士団から戦死者も出ているらしい、と。

 

 そして噂を肯定するかのように、エ・ランテル最高で高価なバレアレ産のポーションの売り上げが、増加していた。

 

 つまり、質の良いポーションが多く使用される何かがあった。これに疑いの余地はない。

 

 では、誰に対してバレアレ家のポーションが使用されたのか? 値段なども考慮して普通に考えれば、上位の冒険者たちしかいない。しかし噂のこともある。王直轄の兵士たちが死傷していた場合、最高のポーションを購入することは妥当と言える。

 

 ついでに言えば、上位の冒険者たちの多くが死傷していた場合、エ・ランテルその物の危機だ。冒険者組合が伏せているのはおかしい。何かしらの対策を取るはずである。

 

 仮に市井の混乱を避けるために情報の公開を避けているのだとしても、有事の際に必要になるポーション作成のために、バレアレ家にはすぐさま情報が共有されるはずだ。だが、そんな情報は共有されていない。

 

 

 これが、ンフィーレアが持っていた疑惑を最大限に高めた。

 

 

 カルネ村は虐殺されていない。噂はただの悪戯に過ぎず、自分の考えは的外れであり、ポーションが多く売れたのはただの偶然である。そう信じたい。

 

 だが、絶対とは言えない。だからこそ、薬草採取と言う名目の依頼を出して、絶賛片思い中の相手の無事を確認しに行くのだ。

 

 今回は急いでいたのと、今まで雇っていた冒険者が不在であったため『漆黒の剣』と言われる銀級冒険者を雇うことになった。可能なら、街一番の冒険者であるミスリル級冒険者を雇いたかったが、さすがに薬草採取と言う不釣り合いな依頼や、上層部が伏せているかもしれない何かを考えて、銀級冒険者しか雇う決断はできなかった。

 

 ……彼らを雇ったのは大正解だった。カルネ村への道中に彼らと話せたことは、自身の不安を抑えるために有意義な事でもあった。強力な生まれながらの異能(タレント)持ちがいることもあり、戦力的にも申し分はない。不安が多かったンフィーレアの精神は、カルネ村への道中は安定されていた。

 

 そして、精神が安定した事がまるで間違いだったかのように、カルネ村が見える位置にまで来てンフィーレアは叫んでいた。

 

「……おかしい。カルネ村に何が起きてるんだ!?」

 

「ンフィーレアさん、落ち着いてください!」

 

 冒険者のリーダー、ぺテルが自分に冷静になるように呼び掛ける……その声に応じる形で深呼吸をして気持ちを抑える。

 

 周りを見れば、冒険者たちは全員が警戒態勢に入っていた。早急に情報を共有して、不自然さを伝えるべきだ。

 

「…あの村には柵なんて元々存在しなかったんです!……それだけじゃない。あんな頑丈そうな塀は無かった! ただの村人に、短時間であれだけの作業を行えるなんて思えません!」

 

「確かに完成はしていないみたいですけど……普通に考えれば、あれだけの作業を行うなら、年単位は掛かりそうですね」

 

「……とりあえず、何が起きているのかの確認が必要ですね」

 

 漆黒の剣達が話し合う。雇い主をどのように守りながら、村の状況を調べるかを……もしかしたら一度撤退して冒険者組合に報告するべきかと冒険者たちで話し合っていたが……状況は動いていたのだ。亜人達が秘密裏に近づいてきていたのだ。冒険者達は異常事態に混乱していて、接近する存在に気づくのが遅れた。

 

 十分、致命的である。

 

「武器を捨ててくだせぇ。あんた達の会話は聞こえていたから、カルネ村の敵じゃないとは予測できますが、確実じゃない。敵かどうか判断できない場合、あんたらをどんな手を使ってでも殺します」

 

 小鬼(ゴブリン)はとても流暢な言葉で伝えてきた……姿が見えてなければ、人間と勘違いする程に。

 

「……武器を捨てた場合、命の保証は?」

 

「敵じゃなければ、保証しますがね?」

 

 漆黒の剣のメンバーたちは黙りこくる。彼らにはこの村に何が起きてるのか理解できない。

 

 今からできることで最善なのは、エ・ランテルに退却し冒険者組合に報告することなのだろうが、全員が無事に退却できる保証はない。

 

 いや、一目見ただけで分かる。彼らは野良のゴブリンとは全く違う。戦闘に入れば、間違いなく全滅する。

 

「あんた達には村の近くまで行って姫さんたちに会ってもらう。敵じゃないかの判断の最終判断は姫さんたちが行うんでね」

 

「……姫さんとは誰ですか? 僕はこの村に何度も来ているけど、僕は知らない!」

 

「悪いが、名前を言う訳にはいかねぇな。俺達は詳しく知らねえが、魔法には名前を知ってるだけで、発動するものもあるらしいからな?」

 

 そんな魔法、聞いたことがない。だが、この中の誰かが、そんな魔法を使えるかもしれないと、警戒しているのだろう。

 

 勘違いにも程がある。もし、そんな魔法があるとして、行使が可能だとしたら、アダマンタイト級冒険者を超えた先にいる、帝国の逸脱者だけに違いない。

 

 

 ……ゴブリン達が目で問うてくる。これが最後通牒だと。どちらにせよこの状況では彼らに従うのが最善だ。

 

 だとしても、ンフィーレアはゴブリン達に問う。どうしても一つだけ確かめたいのだ。

 

「……君達はカルネ村の敵じゃないんだね?」

 

 それに周辺にいるゴブリン達全てが、当然のように頷く。不安はまだある。だけど、決断はできる程度の要素は整った。

 

「分かりました。あなたたちに付いて行きます。皆さんはここに残ってください」

 

「いいえ、私達も付いて行きます!  彼らの指示は全員が付いていく事です。それに何かあった時に護衛が必要です。私達で切り抜けられるかどうかは分かりませんが。できる限り努力します!」

 

 

 

 そして、対面の時は訪れた。ンフィーレアの目の前には三人の人間と……一匹の狼が付き従っているように見えた。

 

 汗が引き、全身が総毛立つ恐怖を覚えた。それもンフィーレアだけではなく、銀級に上った冒険者たちも同じだ。あの狼には自分達では勝てない。自分たちは単なる捕食者に過ぎないのだ。

 

 

 

 だがそれ以上にンフィーレアは安堵していた。

 

 エンリが生きていたからだ。 

 

「……エンリ、無事だったんだね!」

 

 それに対して、エンリはぎこちない笑みを浮かべていた。まるで、無事だったとは言えないかのように。疑問に思い、さらに問いを投げようと思ったが、その言葉は出てこなかった。

 

「……ンフィー君?  今度はンフィー君達が私達から奪いに来たの? ……やだ!これ以上私達から家族を奪わせないでっ!」

 

 エンリの妹のネムの言葉を引き金に、周辺の圧力が増した。比喩ではない。エンリが生きていたことで一瞬とはいえ忘れていた、狼の恐怖を思い出した。

 

 いや、その恐怖は今も増え続けている。ただ、唸り声をあげているに過ぎない。しかし、蛇に睨まれた蛙と言ってもいいぐらい、ンフィーレアたちは追い詰められていた。

 

「大丈夫よ、ネム。私はどこにも行かないから」

 

「……お姉ちゃん」

 

 ネムは涙目になりながらエンリに抱き着き、エンリもそれに応えている。ここだけを見るなら、仲の良い姉妹なのだろう。

 

 恐ろしい推測が立っていなければだが。

 

「私から、何があったか説明しよう」

 

「……お願いします」

 

 そしてカルネ村の村長は話し出し、内容を聞くに従い思わず呆然としてしまった。王国の陰謀の実行場所として巻き込まれたこと……王国戦士長を殺すために貴族が行動していたことを。

 

 そのせいで、村に死者が出たことも。ある魔法詠唱者(マジックキャスター)が助けてくれなければ、口封じとして村人全員が殺されていたことも。

 

 吐き気を覚えた。王国はここまで腐っていたのだ。薄々ではあるが、分かっていた。王国にとって、平民の命はどうでもいいものだと。

 

(……ふざけてる。王国の上層部は何を考えてるんだ! ……もしかしてエ・ランテルが兵士を派遣しなかったのも、戦士長を殺そうとしていたから? …………もし貴族達が王国戦士長を政治の都合で謀殺しようとしていた事を、ただの村人が知ったら、王国の上層部はどうする?)

 

 背中に冷たい物が走った。こんなことをした者達なら確実に、カルネ村の人間を皆殺しにして口封じするという確信を得たからだ。

 

 例え逃げだしたとしても、絶対に見つけ出して口封じをするはずだ……。もう、彼らに安息の地はないのかもしれない。

 

 叫びたかった。カルネ村の人間たちは普通に平民としての義務を為してきた。そして訪れた結果が虐殺だ。義務を為していようがいまいがどうでもいいのだ。王国は。

 

 怒りを解放したかった。だがその叫びよりも早く、別の人物の叫び声が聞こえていた。 

 

「――ふざけないでください!」

 

 最初に正気に戻っていたのは、冒険者のメンバーの一人だった。村に来る途中に聞いた話では、貴族に隔意を一番抱いている人だ。 

 

 涙を流しながらの、心からの叫びだ。

 

「これだから、あの豚達(貴族)は! 村人を私達(村人)を何だと考えているんですか! 私たちは王国の法律を守って、生きてきただけなのに!」

 

 一人の冒険者が大声で叫ぶ……まるで自分も似たような経験があるかのように、涙していた。

 

 そしてエンリに抱き着いていた、ネムが顔を上げ一人の冒険者を見つめていた。

 

「お兄ちゃんも何かされたの?」

 

 目からは涙は引き、自分達と同じように何故か怒っている。

 

「……ニニャと言います。私は、私たちは、自分の口に入るものなんか、ほとんど残らないのに、必死に畑を耕して、税を納めていました。でもその結果、(貴族)に最愛の姉を連れていかれました……ロクデモナイ噂しかない奴に」

 

「そっか、ニニャさんも家族を奪われたんだね……私達と一緒だね」

 

 先程あった自分たちにあった怒りの空気は無くなり、狼からの威圧感も無くなっていた。

 

 威圧感が無くなったことで、ンフィーレアも平静に声を出すことができた、尤も……。

 

「……エンリ、御両親はどうなったの?」

 

 唇が震えることを、抑えることはできなかった。

 

 恐怖からではない。怒りだ。こんなことを引き起こした王国への怒りだ。それに、本当は答えを聞かなくたって分かってる。

 

 二人は亡くなっている。

 

「私たちを逃がして、ね」

 

「……そっか」

 

 命を懸けてエンリたちを助けたのだ。ンフィーレアにとっても彼らへの思いは深い。エンリも当時のことを思い出したのか、辛そうな表情をしているが、すぐに引き締まっていた。強くあろうとしているからだろうか。

 

「あー、それでどうします?」

 

 ゴブリンの中で、恐らくリーダーと思われる人物が空気を読んでくれているのだろう。本当に亜人なのだろうか。

 

「大丈夫だと思うよ……話を聞いてしまうと我々と同じだから、ね」

 

 そして、許されたンフィーレアたちは村の中に入ることを許されたが、直前に待ったが入った。ンフィーレアにとって恐ろしい待ったが。

 

「ンフィー君は、私からお姉ちゃんを取ったりしないよね?」

 

「大丈夫よ、ネム。ね、ンフィーレア?」

 

 エンリが好きで、将来的には結婚したいとは願っている。やっぱりそれは、ネム()からエンリ()を奪うことになるのだろうか?

 

「ンフィーレア?」

 

「……も、モチロンだよ」

 

 少し黙っていたのと、声が上擦ってしまったせいか、エンリたちの視線がンフィーレアにはとても痛く感じられた。

 

 事情を知っている冒険者たちのあちゃーと言った表情が辛い。というより、何故村長も同じような雰囲気なのだろう?

 

 徐々に視線に敵意が強まっている……誤解を解くしかない。だが、どう誤解を解けばいいのだ。

 

 ……そして、ンフィーレアの顔は青白くなったり、赤くなったり、エンリたちからの不審げな表情で遂に狂ってしまったのだろう。

 

 先のことを考えずに思いを口走っていた。

 

 

「――エンリ、僕は君が好きでした! 村に引っ越してくるから、結婚してください! ネムちゃんと引き離すようなことしないから!」

 

「……? …………っ!?」

 

 

 なお、隠れていた村人たち全てに、大胆な告白を聞かれたと知ったのは、暫く先のことである。

 

★ ★ ★

 

 現在アインズは執務室に普段は姿を隠しているパンドラといる。

 

 アルベドが出ていくのを渋っていたが、「一人で熟考する」と言って報告書だけを提出させ追い出していた。

 

 もちろん理由はある。報告書や組織作りに付いて分からない事だらけの自分に、パンドラから教えを請うためである。

 

 パンドラズ・アクターの教え方は実に上手で、詳しく聞くこともできる。父親失格と思ったことは数えきれない。もし仮に誰からも助言を得られないまま、ナザリックの進むべき道を判断しなければならない時がきていたとしたら……あの時パンドラズ・アクターに全てを打ち明けていなければ、必ずどこかで致命的なミスを起こしていた。その可能性があったことに恐怖した。

 

 ――余談だが、パンドラズ・アクターの設定の一部は今でも、否、今だからこそ致命的なミスだと思う――

 

 当初の予定ではアインズが冒険者としてエ・ランテルに旅立ち、ンフィーレアと接触。ありとあらゆる情報を収集しながら、アインズ・ウール・ゴウンの名を世に知らしめるために名声を得る予定であった。しかし、パンドラズ・アクターから諫言されたのだ。

 

「確かに、ンフィーレアという者には接触を図る必要があるでしょう。プレイヤーの情報を探る必要もございます……しかし現状では、より気にするべき事があります……リアルの世界と、ユグドラシルの世界、今我々が存在する世界には明確な差異が存在します。そのため、父上がナザリックから、遠く離れるのは避けるべきです。……父上に何かあれば彼らも苦しむ事になります。全ては外に出る者達を信頼して任せるべきです」

 

 ……確かにその通りであった。自らが拙速であったことを悟ったのだ。今は、足元を固めるべき時期なのだ。もしかしたら、誰かがイタズラ感覚で何かを仕込んでいても可笑しくはない。

 

 最大の敵は内部に存在したとしても可笑しくはないのだ。

 

(実際、悪戯で何かを仕込んでいる可能性はあるからな……るし★ふぁーさんとか)

 

 アインズが思い出すのはかつて……いや今でも仲間だと思っている一人、るし★ふぁーだ。だが、るし★ふぁーと言う男は、ギルメンに深い友情を持っているアインズでさえ、苦手としてしまう程の問題児であったのだ……むしろ、何かを仕掛けていて当然と考えるべきである。

 

 昔ならまだ、笑い話にできたかもしれないが、現状を考えれば致命的なデス・トラップに変化している可能性だってある。もっとも、るし★ふぁーなら、単純なデス・トラップよりひどい物を作成していても可笑しくない。

 

 恐怖を隠し切れない。

 

 

 まぁ、アインズにとって最強のトラップは今目の前にいる、パンドラズ・アクターのオーバーなアクションだろうが。

 

 

 

 ……話がずれた。NPCたちの期待に応えるためにも、早急に支配者として完成しなければならない。腕の良い家庭教師もいるのだから、怖い物はない。不満も一つしかない。

 

 不満は動作だ。心を抉る時があるのだ。特に支配者の演技の練習の時間。地獄だ。

 

(パンドラズ・アクター。時々、思い出したように出るオーバーな動きは、本気で止めてくれ……真面目モードの時はいいんだが)

 

 なおアインズが気付いてない(目を逸らしている)だけで、パンドラズ・アクターは常に真面目モードである。

 

 

 モモンガの心からの願いは完全な形では、まだ成されていないのだ。とはいえ、出る数も少なく沈静化がなくとも耐える事は可能――慣れたともいえる――な程度だ。逆に、延々と自分に見せて、何かを探っているようにも見える時があるが気のせいだろう。気のせいに決まっている。

 

 閑話休題。

 

 現在パンドラズ・アクターに任せている任務は多種多様である。自分が分からない事を教えること。息抜きもかねて、ユグドラシルやリアルのことを詳しく話し合ったり、パンドラズ・アクターが所持している知識から接近戦のいろは教えてもらったり、実戦経験の代わりに二人で模擬戦を行ったりしている。

 

 他の任務として現実になったNPC達がどのように動き、どのような考えを持ち、どのような知識を持ち、どのような会話をするか、ユグドラシルの頃の記憶をどんな形で保持しているかなどを、秘密裏に収集及び分析をさせている。

 

 またできる限り知られない方が、任務の都合上やりやすいと言われたため、現時点ではあるが、彼の存在や正体は誰にも明かしてはいない。

 

(正直、プライバシーに当たりそうで嫌だが、俺が支配者を演じるなら必要になるからな……俺をどんなふうに彼ら(子ども達)が見ているのか……何となく、想像付くけど)

 

 階層守護者たちの自分への間違った認識を思えば、ある程度の想像はつく。だが、確証は必要だ。それに、もしかしたら、奇跡的に胃が痛くならない程度の認識をしてくれている存在も……いるのだろうか?

 

 ……最後に任せてる任務だがエイトエッジアサシン、シャドウデーモンや自分が呼び出した傭兵モンスターの中で情報収集に優秀と思われる者たちの、指揮を任せて外部の情報収集を任せている。

 

 ちなみにエイトエッジアサシン達は、自分に護衛がいなくなるのを危惧していたようだが、パンドラズ・アクターが自分が護衛するから問題ないと言って、部屋からも追い出していた。

 

 パンドラズ・アクター自身も部屋を辞去している時も多いため、アインズからすればプライベートな時間が残るので喜ばしい事だ。

 

 恐らくただの一般人であった鈴木悟に対するパンドラズ・アクター成りの配慮なのだろう。

 

 エイトエッジアサシン達を別の任務に付けた事を知ったアルベドが煩かったが命令する事で従わせた。納得はしてなかったが……正直命令するのは嫌だが彼らの主に相応しくなるのに必要な事なので、練習のつもりで実行した。

 

 またシャルティアたち、外に出る守護者にも時に何体か付けさせている。問題があれば独自の判断で援護する者達であると、守護者達には伝えている。

 

 付随して時々自分に聞こえない程度の声で、部下とメッセージのやり取りをしているようだ。

 

 シャルティアを初めよく理解していない者もいたが、アインズ(本当はパンドラズ・アクター)直轄という事は理解できたのだろう。

 

 デミウルゴスだけが「……畏まりました。必ず御命令を成し遂げてみせます」と改まって宣言していたが、何があったのか、凡才な身では理解できなかった。

 

 また、デミウルゴスには低位のスクロールの素材集めと、裏の情報収集を任せている。なぜか「全て理解しております」みたいな顔だったが、パンドラズ・アクターが何も言わない以上、特に問題は無いのだろう。

 

(やれやれ、デミウルゴスやアルベドの考えはよく分からないな……詳しくパンドラに聞いてみるか? ……それにしても、これじゃ本当に父親失格だな。……早く一人前にならないとな!)

 

 そんな感じでパンドラから報告や講義を受けていた時に、カルネ村に置いている月光の狼(ムーンウルフ)、コロちゃんから何者かが近づいていると召喚者との繋がりで報告を受けた。アインズは遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)でカルネ村の様子を覗く。

 

 そのため、世にも不思議な告白をしている少年も目撃してしまった。少しだけ哀れだった。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)は声だけは拾ってくれないので声はコロちゃんからの念話によるが……。それをパンドラズ・アクターとも共有する。

 

(……無粋だな、これ以上覗き見するのは)

 

 というより、彼らの会話を総合すると、ネムからエンリを奪う……偽装騎士たちが、カルネ村にしたようなことをすると誤解されたが故に、誤解を解くため多くの観客がいる前で愛を叫ぶことになったのだろう。

 

 

 確かに結婚した場合、妹から姉を奪うという見方も可能だ。彼もそのことに思い至ったから、言葉に詰まったのだろうが……いつか今日の出来事を思い出して恥ずかしい思いをしない事を願おう。

 

 ほんの少し、嫉妬マスクを被って脅かしてやろうと思ったのは内緒だ。

 

(それにしても恋の力か、素晴らしいものだな。そう考えると、アルベドやシャルティアも私に同じような恋をしていることになるのだろうか……いやいや、アルベドはタブラさんの娘で、俺が設定を勝手に書き換えたからだし……シャルティアもぺロロンチーノさんの娘だし……それに、あの二人怖い)

 

 複雑に考えているが、恐らく最後が本音だ。感情が鎮静化される……鎮静化が起きるほど恐怖を与えるのは、女性の常識なのだろうか?

 

 いつか、少年もエンリから同じような恐怖を感じさせられるのかもしれない……そう考えると仲良くなれそうな気がするから不思議だ。

 

 考えてみると、ペロロンチーノもぶくぶく茶釜に怯えていた……女性が怖いという真実を知ったから、エロゲー(二次元)に走ったのだろうか?

 

 当たってたら困る。

 

(……止め止め。それにしても、ネムも前線に立とうとするのはな……危険な行動だが、あれだけの村を守るという意思があれば仕方ないか)

 

 

 村の男達も周囲に隠れて何かあればネム達を庇えるようにしていたようだ。ネムの覚悟を尊重したのだろう。アインズが付けている護衛もいるから、危険はないはずだ。

 

 

 

 少しだけ、ネムと過去の自分を重ねてしまい、自分の過去、鈴木悟に対して幻滅してしまう。

 

(それにしても、今まで俺は何をしていたんだか。あれだけ小さい子でも、あれ程の覚悟を持てるのに……もし俺にあれほどの意思があれば、仲間達は今ここにいてくれただろうか? それに、俺が一言でも母さんに休んでほしいと言っていれば、母さんが死ぬ事も――)

 

 瞬時に抑制される。自分にとってそれだけ、大きな存在なのだ。母に似た人に出会わなければ、思い出すことすらなかったのだろうに。とんだ親不孝者だ。

 

 ……不毛である。別の事を考えるべきだ。

 

(ニニャだったか。絶対に姉を救い出してみせる、か……見事だな。絶対に勝利する事ができないはずの貴族(支配者)を相手にする意思。素晴らしいな……そして彼の仲間達も…………王国の上層部が屑なのもよく理解できた。まるでリアルの世界と同じだな、搾取する者、される者か。ウルベルトさんは今俺が抱いている、遣る瀬無い気持ちを、ずっと持ち続けたんだろうな)

 

 ……首を大きく振る。今の自分は鈴木悟ではなく、ナザリックの支配者、アインズ・ウール・ゴウンであると言い聞かせて。

 

「如何なさいました?」

 

「いや、何でもない……カルネ村を見るのは大体、一週間ぶりか? ゴーレムまで貸した訳だし、ある程度復興できているようだな?」

 

「そのようでございますな。さて、それではカルネ村の無事の確認と、復興具合の確認もできたことですし、講義を再開致しましょう!」

 

「ははっ。スパルタな教師を持ったものだ……よし、では講義の再開を頼む」

 

(慣れてはきたが、やはりパンドラの行動は、込み上げる、ものがあるな。早く慣れないとな……慣れて良いんだよな? 慣れて良いはずだよな? 父親なんだし。間違いじゃない……それに少しずつだけど、減っているのは間違いないんだ。俺はお前を信じてる……今の苦しみが一時的なものだと!)

 

 

 アインズがいつか、パンドラが大げさな動作を完全に止めてくれるのを信じながら、講義が再開される。次々と自分が知識を理解していっているのが理解できる。今の自分ならリアルでもそれなりに出世できるのではないかとも……今更無意味なことだが。

 

「父上、少々お待ちください」

 

 どうやら何か報告が上がったようだ。少し待っていると、アインズにも報告された。エ・ランテルで情報収集をさせていた者たちが、裏の者と思わしき者たちを捕らえたと。

 

 どんな物たちなのか詳しく聞こうとしたが、その考えはすぐに飛んだ。

 

 ドアがノックされたからだ。この部屋に訪れる者はメイド達かアルベドのどちらかと考えながら、パンドラズ・アクターの任務の妨げにならぬように指示を下す。

 

「パンドラズ・アクター、一旦中止だ。姿を隠してくれ」

 

 パンドラズ・アクターが命令に従い仲間の姿を模写し特殊技術(スキル)を使い完全に見つからないようにしてから自分の後ろに立つ……隠れたのを知らなければ自分でも気付けないだろう。魔法を唱える十分な準備期間があれば別だが……つまり十分隠し通せると言う事だ。

 

「入れ」

 

「失礼致します。アルベドにございます」

 

 アルベドが新たな報告書を持って部屋に入ってくる……自分に会えた嬉しさからか、翼が大きく動いている……感情をまったく隠せていないアルベドを見ていると、小さな子どもが頑張って背伸びをしているようにも見える。見えるのだが……シャルティアとのやり取りを見ていると偽装にしか見えない。

 

 二人のケンカを見た身としては、怖い。女性は怖いとしか言えない。本来であるならば、執務を行う時はアルベドと共にする予定ではあったのだ。そして、アンデッドの特性を生かした夜に講義をフルで行う予定であったのだが、アインズ自身が少しでも早く、支配者に相応しくなりたかったのと、二人のケンカを見ていてちょっとした恐怖感を覚えたことで、少し距離を置いておきたかったのだ。

 

 怖くなくなる時まで。

 

「良く持ってきてくれたな。アルベドよ感謝する」

 

「感謝なんて、当然の事をしたまでです!……もし本当に感謝なされているのであれば、私にも報告書を読むのを手伝わせて下さいませ!」

 

「お前には本当に感謝している……しかし一人の方が効率が良いのだ。そちらが目を通した分だ。そのとおりに実行せよ」

 

 

「…………承りました。それでは失礼いたします」

 

 アルベドが非常に残念そうに……挨拶をしながら出ていく。先程まで大きく動いていた翼は力を無くしたかのように、止まっている。やはり、あの翼は感情表現のための物なのだろう?

 

「……悪いことをしたな」

 

 罪悪感はあまりない以上、ほんのちょっとの苦手意識を克服しなければならない。

 

「左様でございますか。ところでモモンガ様。近いうちにカルネ村の者達をお招きになられては如何でしょう?」

 

「……いつか、状況が落ち着いたらな」

 

「いえ、できれば早急にお招きいただきたいのです」

 

 パンドラズ・アクターは何故か分からないが、執拗に食い下がる。アインズが少し戸惑うほどに。

 

「……何故だ?」

 

「情報の集まり具合で変更はありますが、カルネ村の者達と仲良くなる事には多大なメリットがございます。そして、カルネ村とその周辺の出方次第で、今後のナザリックが歩む道が決まります」

 

「……なるほど。お前の中では既に、今後、ナザリックがどう動くべきか決まっているのだな?」

 

 強く敬礼される。肯定の代わり、なのだろう。敬礼は正直止めてほしいが、一週間足らずで、将来像を描いて見せたのだから、さすがナザリック最高の頭脳の一つと言う他がない。

 

 だが、何故カルネ村の出方で決まるのか? 凡才であるモモンガには全く分からないが、パンドラズ・アクターの事は信頼している以上、任せるのが上策だろう。

 

「分かった。お前に任せよう」

 

「畏まりました。では、モモンガ様が最初にお救いになられた姉妹と……村長夫妻をお招き致しましょう」

 

 なぜ彼らを招こうとするのかは分からない。だが、村長夫人に限って言えば分かる。代償行為であるが、リアルではできなかった、親孝行をさせようとしてくれているのかもしれない。

 

 

 それは素直に嬉しくもある……それに彼らを招くことはパンドラズ・アクター的には、大きな意味があるのだろう……だとしても叫びたい。

 

 

 彼女は母に似た別人だ。親しくすることに文句はない。ちょっとだけ、ナザリックを危険にまで晒してしまうような危険をしてしまいそうで不安だが、パンドラズ・アクターが止めてくれるから問題はない。だが……黒歴史を見せるのは無理だ。

 

 覚悟ができない。

 

(パンドラズ・アクターを見られる? 確かに有能だ。家族としても認めている。……それでもっ!)

 

 ――想像して欲しい。母に自分のカッコいいと思った要素全てを詰め込んで作った物を見られる恥ずかしさを……受け取り手に依っては、自家発電の最中を母に見られて、目があってしまったぐらいの気まずさが流れるだろう。

 

 そもそも、それ以前に黒歴史を公開するのを躊躇しない人間……アンデッドもいない――

 

「なぁ、パンドラズ・アクター! 今回は村長夫妻はよそう! 二人は村の中心人物だ。いきなりは不味いだろう! それに、エンリも彼氏がいるんだ! 延期しよう。なっ!?」

 

 逃避したのは当然であり、最終的にネムだけを招く事だけにできたのはきっと良い事だろう。

 

 例え、これが単に先送りに過ぎないと分かっていても……

 

「それでは父上! ここからは、支配者としての演技のお時間でございます!」

 

 この後(考えることを放棄するほどに)めちゃくちゃ練習した。




実は今回、ンフィーレアたちの話し合いはもう少し掘り下げて、
ネム「家族が増えるよ!」
コロちゃん「ガウガウ(やったねネムちゃん!)」

をやりたかったけど、諸々の事情でカットしました(笑)

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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