『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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|ω・`)チラ

遅くなって誠に申し訳ありません。何と言うかスランプに陥ったりしてまして。新たな決意のものここに投下致します


第5話

 アルベドを見送ったモモンガは、アルベドに後ろ髪を引かれながら村人たちの元に戻る。途中召喚者のつながりを通じて、二匹の月光の狼(ムーンウルフ)に自分が戦いの準備をする間、少しでも時間を稼ぐように命令を下しながら……どうやら村人たちは一か所に集まっているようだ。

 

「……アインズ様。アルベド様は?」

 

「アルベドには伏兵になってもらいました。今から私は魔法で戦いの準備をします。女子供たちだけで避難する必要はありません。この村は……あなた方は私が守りましょう」

 

「…………ありがとうございます!」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 村長をはじめ、村人たち全員が感謝の印としてだろう。深々とお辞儀をする。

 

「構いません。それに、私にも目的があります」

 

「……目的、ですか?」

 

「ええ。目的です。生前では叶えることができなかった、願い。かの……あなた達を助ける事で、私は生前の願いを一部ながら叶えることができます……なので、私があなた達を助ける事で気に病む必要は一切ありません」

 

 村長をはじめ村人全員が困惑している。なぜ自分たちを助ける事で、生前の願いをかなえることができるのか不思議なのだろうか?

 

(まぁ、代償行為に過ぎないんだがな……)

 

 自然と視線は一人の女性に吸い込まれていた。仮面があるからはばれてはいないだろう……浮かついている場面ではない。気を引き締めなければ。敗北は許されないのだから。

 

「さぁ、皆さん下がっていてください。今から私は魔法などを使って戦いの準備をします」

 

「……アインズ様。よろしければ、いえ、私たちも共に戦わせてください。アインズ様だけに戦わせるなんて失礼な真似はこれ以上できません。足手まといかもしれませんが、どうか」

 

 確かにそうだ。自分は彼らを守るために戦う。本来なら自身で身を守らなければならない以上、アインズが戦うのは偏に彼らの代理と言う立場ではあるのだろう。

 

 村長は先ほど言った通り、命を懸けても子供たちの未来を守りたいのだろう。もちろん、村長だけでなくほかの村人たちも。これが、これこそが本当の人間だと信じたい。

 

(……人間とは、かくも偉大な者だったのだな……)

 

 それでも、彼らともに戦う訳には行かない。だってこの戦いは自分の我儘でもあるのだから。

 

「共に戦うと言ってくれるのは、嬉しいです。ですが、強力な魔法を使用することになる可能性もあります。なのであなた達は、私の後ろで女性や子供たちを守ってください……あなたたちの真の戦いは、この後です」

 

 そう、彼らはこの後村の復興をしなければならないのだ。それこそが、彼らがすべきことだ。村長達も理解しているはずだ。それに村長が傷つく事は彼女が悲しむ結果になる。それは嫌だ。

 

 

「……感謝いたします」

 

「感謝には及びません……さぁ下がっていてください」

 

 有無を言わさずに下がるように言う。これ以上時間のロスは許容することはできない。村長や村人たちは静かに礼をして後ろに下がる。ただ、夫人は下がらずに前に出た。

 

ありがとうございます(悟、ありがとう)

 

 ただ、その一言だけを述べて下がっていった。何に対しての感謝だったかは分からない……だが、自分の判断は間違っていなかった。ただ、その感情を深く噛みしめながら、敵が近づいている方向に向き直る。

 

 その時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「アインズ様! 無事に帰ってきてくださいね!」

 

 その声の持ち主は自分が最初に助けたネムである。

 

(……守らなければならない物が、たくさんあるな)

 

 今アインズが守らなければならないものは多い。本来ならナザリックだけでよかった。だが、自分に最初に感謝をくれたネム。ネムの存在は大きい。彼女がいなければ、ここまでこの村と仲良くなることもできなかった。もし、ネムが自分に怯えていたら、きっと素顔を晒すことはなく、ずっと自分を偽るしかなかった……きっと母に似た人とも仲良くなることはなかった。

 

 振り返らずに手を上げる事でネムに対する返事として、自分や村人たちに防御の魔法を唱える。MPを考慮して適切に配分しながら。

 

「防御魔法はこれぐらいでいいだろう。後は、前衛か」

 

 元々アインズは前衛無しで戦うつもりであった。アインズ自身には複数の前衛を召喚する能力を持ち合わせているが、今すぐに使える物がなかったからだ。

 

 例えば特殊技術(スキル)で召喚できるアンデッドの副官は経験値を使用して自身が弱体化するため、敵の強大さが分からない現状では使う訳にはいかない。それに今回の件を乗り越えた時のことを考えても、リスクが高すぎるため自ずと却下されてしまう。

 

 また特殊技術(スキル)アンデッド創造を使用すれば、七十レベルまでであるが前衛を召喚できる。敵が自分と同格と考えても、楯の役割ぐらいならこなしてくれるはずだ。とはいえ、アンデッドが生者を憎んでいる事が常識である以上、これ以上アンデッド系のモンスターを召喚する事は却下だ。彼女たちを不安にさせる真似は慎もう。今召喚してしまっている死の騎士(デス・ナイト)は諦めるしかないし、自分ではなく彼女の護衛にするため自分の前衛にはなりえない。

 

(……それに、アンデッド系のモンスターは人間に対して、危険なパッシブスキルを持っている存在も多いしな)

 

 例を挙げればオーバーロードである、モモンガ自身だ。パッシブスキルである、絶望のオーラを解除していなければ、この村の者たちは誰一人生きていない。そしてアンデッド系モンスターは少なからず、自分に近しいパッシブスキルを持っている。召喚した時点でモモンガの望みである、彼女たちを救うという目的の達成は不可能になる。たとえ、敵が強大だったとしても絶対に召喚できない。

 

(ははは……本当に不利な戦いだ、な。オーバーロードの利点を封じて戦わなければならないなんて……)

 

 だが、後悔はない。救うと決めた時から、不利は覚悟はしていたのだ。

 

 次に、位階魔法で前衛を召喚する事も考えたがMPを相応に使用するため、継戦能力が落ちる。アインズのMPなら誤差かもしれないが、MPの回復は時間経過しかない。使用するなら、敗勢濃厚で彼女……村人たちをどこかに逃がす場合だ。

 

 では前衛を呼び出す手段として、超位魔法はどうだろう? ……確かに護衛対象が多いこの場で最適と言えるかもしれない魔法もある。アンデッドである自らに相応しいとは決して言えない超位魔法、天軍降臨(パンテオン)だ。

 

(これなら、護衛の役目も楯の役割……殿もこなしてくれるはず何だが)

 

 ネムは自分を神と間違えていた。あるいは今からでも、アンデッドの姿をした神の演技をしてみてもいいかもしれない。

 

 超位魔法に弱点が存在しなければ、だが。残念ながら超位魔法にも弱点が存在する。発動までに長い詠唱を必要とし、リキャスト時間が長く再使用に時間がかかるのだ。前者は課金アイテムで解除できるが、後者はどのような手段でも解除できない。

 

 何よりも戦術的に超位魔法を先に放つのは愚かの行為でもある。ユグドラシル時代のプレイヤー戦では先に超位魔法を放って勝ったためしがほぼ存在しないことが、先手を打って超位魔法を放つことが下策であると証明している。

 

(それに、超位魔法を一度も実験せずに行使するのは怖い)

 

 威力故に一度も検証せずに使用する事には躊躇いもある……使用しなければどうしようもなくなった場合には、躊躇なく使うつもりだが。

 

 以上の点からアインズは自身の能力で前衛を呼び出すつもりは無かった。しかし、しかしだ。ここにはそれを覆すアイテムが存在する。

 

 そう、『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』だ。アルベドに預けるはずだった、最重要アイテムだ。この武器は召喚魔法では召喚が叶わない、最上位に最も近い精霊を呼び出すことが可能だ。レベルも80代後半である。

 

 アルベドには劣るが十分にアインズの前衛を務める事ができる。スキルで召喚したものと違い、村人たちに悪影響を及ぼすパッシブスキルもない。熱波は危険かもしれないが、十分離れている。それに火に対する防御魔法はかけている。万が一の場合の殿として使い捨てにもできる。一定時間が経過すれば何度でも呼び出せるのだから。

 

 良いことづくめだ。

 

(……この杖が傍にあることに感謝だな……これがあれば、同格の敵がいてもどうにかできる……それにしても、足止めに出した月光の狼(ムーンウルフ)たちも無事だな……敵は弱いのか? いや、弱いモンスターがいる事で逆に警戒しているだけのかもしれない)

 

 アインズは二匹の月光の狼(ムーンウルフ)たちに自分に合流するように命令を下す。3匹とデス・ナイトは彼女たちの護衛に専念させよう。

 

(さて、準備は整った。始めよう)

 

 そして火の宝玉の力を開放し、根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を召喚した。村の中心の空気を燃やしながら炎の渦が走り、やがて人型となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アインズにより召喚された炎の塊を見た村人たちの心はただ一つである。それを代表するかのように幼い一人の少女の声が村中に響いた。

 

「……すごい」

 

★ ★ ★

 

 

 ガゼフ以下戦士達は急いでいた。

 

 ガゼフ以下戦士達には使命がある。無差別に殺戮されている、村人たちを救う事だ。これはガゼフ達にしかできない事だ。

 

 いや、ガゼフを殺すために無関係の村人を殺戮しているのだから村人を救出する事は義務である。

 

 辺境の村では魔物が出ても誰も手を差し伸べてはくれない。金がなければ冒険者を雇うこともままならない。貴族は一部を除き助けてくれない。

 

(だからこそ、村人を救う存在がいる事を絶対に示さなければならない)

 

 間に合ってくれと。これ以上犠牲が出ないようにとガゼフは願う。

 

「戦士長! 次の村が近づいてきました!」

 

「そうか……各員戦闘準備! 必ずこれ以上の殺戮を止めるぞ!!」

 

 ガゼフ直轄の戦士達が同意の返事を力強く返してくる。ただ我武者羅に馬を走らせ村に向かう草原を突っ切る……そして、ガゼフは何かを感じた。感じたままに叫ぶ。

 

「止まれ! 武器を構えろ!」

 

 訓練された部下たちは、自身の言葉に何も疑うことなく命令に従う。全員が草原の真ん中で、警戒する。

 

 ……草原が風で動いたのではない不自然な動きをし、何かが目の端を横切った。

 

「っ!?」

 

 気づいた時ガゼフは剣を振るっていた。大きな狼が飛び掛かっていたのだ。驚いたことに狼の研ぎ澄まされた牙と剣が硬質な音を周囲に響かせた……結果は簡単だ。周辺諸国最強の戦士であるガゼフが攻撃を防ぎ、足場がない空中でガゼフを前に一瞬であるが無防備な状態をさらした。特徴である敏捷を活かせない以上、狼の死亡は明白だ……そう、本来ならそうなるはずであった。第二の攻撃がなければ。

 

 そう、気づいた時にはもう一体の狼が先程と同じようにガゼフに襲い掛かっていた。今のガゼフは一匹目に追撃しようとしていたため虚を突かれる結果になった。受ければ死にはしないが大ダメージを追う。

 

 咄嗟にガゼフは馬から落馬するように爪の一撃をよける。二匹目の大きな爪が空気を裂きながらガゼフは地面に着地……それを待たずに着地を済ませてた一匹目がすでに、馬を回り込むようにして自身に追撃をかけようとしていた。

 

「このっ!」

 

 しかし狼の攻撃はガゼフに届かない。事態に気づいた戦士たちが馬上から各々武器を振るって攻撃を仕掛けていたからだ。だが敵も然るもの。敏捷を活かして武器が振り下ろされた場には既におらず、もう一匹と合流してこちらに唸り声をあげているのだ。

 

 ガゼフに対処を遅らせたあの敏捷なら、部下たちの攻撃を無視して突っ切ることもできたはずだ。しかしそれをしないのは相手も理解しているのだ。ガゼフ相手に一瞬でも隙があれば負けると。

 

「戦士長、御無事ですか!?」

 

「大丈夫だ! それより、あの二匹から目を離すな!」

 

 一瞬でも隙を見せれば、奴らはまた襲い掛かってくる。何より脅威なのは二匹ともガゼフに準ずる力を持っていることだ。一対一なら負けはない。二匹同時に襲い掛かられても、後の事を考えず深手を覚悟すれば確実に勝てる。しかし、部下たちは別だ。この場にガゼフがおらず、戦士たちだけで戦えば全滅の恐れすらある。それほどまでに、あの二匹は危険だ。一匹ずつの難度は六十位だろうか?

 

 単純に難度が六十程度であればガゼフなら簡単に勝てる。しかし、狼たちの特徴である敏捷さと連携を活かされ、長期戦に持ち込まれた場合、ガゼフですら殺しきられる可能性がある。

 

 イヌ科の動物たちは賢い。同じイヌ科の狼たちも同様なはずだ。彼らは集団で人間を襲う。そして襲う方法も恐怖を感じる物だ。数日間、あるいは数週間に亘って付け狙い続けるのだ。自分たちが眠りについた瞬間に彼らは襲いかかり睡眠をとらせずにガゼフの疲弊を待ち、ガゼフが疲弊しきった瞬間に、咽喉元に食らいつくのだ。

 

 馬を利用して撤退した場合、自分の手が回らない方向から少しずつ戦士たちを消していくはずだ。ガゼフが庇うように隙を見せればそこに喰らいつく。

 

 救いがあるとすれば、群れではない事だ。もしあの二匹が多少力が劣る狼たちを連れて群れを形成していたのであれば対処する方法はなかった。少なくとも貴族たちに装備を奪われた今は。 

 

 それに狼たちも分かっているのだ。狼たちの脅威となる存在がガゼフしかいないと。仮に部下たちを守ることを考えて戦う場合、完全武装のガゼフならいざ知らず今のガゼフの武装では荷が重い。この後襲撃を受けた村人たちをエ・ランテルまで護衛をすることまで考えれば絶望的とも言える。

 

(だが、襲撃してきた今なら倒せる。いや、今倒すしかない!)

 

 単純に考えればあの狼の討伐はミスリル級の冒険者なら十分勝算があるだろう。一匹ならば、だ。二匹同時の連携を考慮した戦力で考えた場合、ミスリル級の冒険者でも厳しいと言わざるを得ない。二匹同時に討伐するなら最低でもオリハルコン級冒険者が必要だ。

 

 それも、あちらから襲い掛かってくれればだ。逃げに徹されたら追い付けない可能性が濃厚だ。そして万が一逃げられれば、多くの村人や行商人、ミスリル以下の冒険者が犠牲になる。

 

 またあの二匹は帝国がガゼフを殺すために差し向けた存在……逸脱者が使役しているかもしれないのだ。

 

 故にガゼフは覚悟を決めた。手痛いダメージを追うことになろうとも、必ずこの場で二匹を討伐すると。

 

 暫くの睨み合いを経て、ガゼフが武技を発動して踏み込もうとした瞬間、あの二匹は動いた。自分に向かってではなく、村に向かって。

 

「まずい! お前たち、今すぐに村に向かうぞ!」

 

 ガゼフは馬に乗り全力で駆け出す。途中、部下たちに村人の生き残りを連れて逃げるように命令を下しながら。村人たちが少しでも多く生き残っていてくれと願いながら。途中、莫大な炎の渦が巻き起こった……まだ距離はあるはずなのに、熱波さえ感じられる。

 

 元々、今回の任務はガゼフを殺すための帝国の謀略ではないかとの予想は存在した。なら、あの場にはガゼフを上回る魔法詠唱者(マジック・キャスター)、フールーダ・パラダインがいるはずだ。……もし本当にいるのならば勝ち目は無い。

 

(やはり、逸脱者があの場にいるのか? ……だが、引く訳には行かない)

 

 ガゼフは先程から鳴りやまない、チリチリとした殺気のような何かを意識的に無視する……無視し続ける。だが戦士たちは別だ。誰も彼も表情が強張り呼吸が荒くなっている。この結果だけで、ガゼフが英雄であると暗示していると言える。

 

 村が見えた。村の広場の辺りに来ると、ガゼフは驚愕を隠せなかった。ガゼフが想像していたものと全く違うのだ。

 

 大きな炎の塊がこちらを見下ろしていた……炎は全てを焼き、新しい物を生み出す。また、物語などでは不浄な存在を浄化する役目を担う時もある。それを証明するようにアンデッド系のモンスターは火が弱点なことが多い。また火は救済や信仰の対象にも、恐怖の対象にもなりうる。では、目の前の存在は何か?

 

 きっと、人間が想像しうる全ての概念を兼ねた物なのだろう。暖かくもあり、恐怖を精神に直接語り掛けている。しかし、鍛え抜かれた体は何も言ってくれない。本来なら、あれだけの炎の塊であれば強敵と断言できるはずだ。

 

 ならばある程度の力量なら理解できるはずだ。しかしガゼフは相手の力が分からない……それは非常に歪だ。

 

 自分を含めた戦士たち全てが、心に直接訴えかけるような恐怖からか呆然としてしまう。ただその中でも観察を続けることはできたのは、幾度も死線を越えてきたからだ。

 

 先程ガゼフに襲い掛かってきた、狼二匹も唸り声を上げて警戒を露わにしている。どうやらあの二匹も炎の塊の仲間のようだ。

 

 ……気づいた。先程の攻撃は囮だったのだ。恐らく炎の塊の後ろにいる仮面をした魔法詠唱者(マジックキャスター)が、炎の塊を召喚するための時間稼ぎだったのだ。そう、ガゼフに準ずる力を持つ二匹の狼たちはただの、時間稼ぎでしかなかったのだ。

 

 よく目を凝らせば、後ろにいる村人たちの近くには死の姿を象ったと言える、アンデッドの騎士の姿すら見える。……それにガゼフたちに襲い掛かってきた狼と同種がもう一匹。

 

(……まずい!)

 

 本能が告げている。今すぐにこの場から逃げだせ、と。

 

 ガゼフが見たところアンデッドの騎士は自分と同格と捉えるしかない。それを使役する魔法詠唱者(マジック・キャスター)も逸脱者と同格か、それ以上と捉えるべきだ。いや、炎の塊を使役している点からも、間違いなく逸脱者よりも上だ。

 

 それに、アンデッドの騎士の強さはある程度理解できたのだ。力量差が分からないように、何らかの魔法をかけられた訳ではないのだろう。つまり、炎の塊はガゼフが力量差を把握できないほどの絶対的な差があると考えるしかない。それなら、本能がこの場から逃げろと言っているのも良く分かる。

 

 ……完全装備のガゼフでさえ、逸脱者には勝てるか分からない。なのに、逸脱者以上の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が自身と比べて桁外れの前衛を呼び出し、ガゼフと互角のアンデッドの騎士を使役し、ガゼフに準ずる三匹の狼を使役している。

 

 ガゼフでは魔法詠唱者(マジック・キャスター)が使役している中で一番弱いはずの狼三匹の連携にすら絶対に勝てると断言できない。死の騎士とは一対一で立ち会ったとしても、完全武装でなければ勝ち目は低い。炎の塊と魔法詠唱者(マジック・キャスター)に関しては戦いになるかすら分からない。

 

 戦力差は絶望的であり、ここは死地だ。しかし引く訳にはいかない。何故か? もし仮に卑怯にも逃げ出したとしても、数歩も行かないうちに追いつかれ殺されるからだ。逃げる事は意味がないのだ。

 

 さらに言えば、彼らと敵対することは愚かだからだ。たとえ王国の全戦力を以てしても、彼らには敵わない。ガゼフはそう直感してしまう。

 

 ――ガゼフの考えは当たっている。もし仮に『アインズ・ウール・ゴウン』を打倒しようとした場合、法国、評議国、八欲王の戦いに参戦しなかった竜王たち……現地の全戦力が集結しなければ敵わないのだから―

 

 救いがあるとすれば、魔法詠唱者(マジックキャスター)は村人たちを庇うように立っていることだ。村人たちが一切恐れた表情を出してない事からも間違いがないはずだ。

 

 なら、交渉の余地はあり敵対しない方法も、友好関係を築くことも不可能ではないはずだ。

 

 ガゼフの後ろで驚愕と恐怖を滲ませた戦士達が立ち直る前に、ガゼフは身分を明かす。分かりあえると信じて。友好関係を気付くことが、自分を引き上げてくれた王の恩義に報いる結果になると信じて。

 

「私はリ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフである! 王命により近隣を荒らす騎士たちの討伐のために村々を回っている……我々は君達の敵ではない! どうか、話を聞いてもらいたい!」

 

★ ★ ★

 

 王国戦士長の声を聞き周りではざわめきが起こる。アインズは村長に聞いた話の中に王国戦士長の話があった事を思い出す。王直轄の精鋭を指揮する戦士らしい。

 

(しかしなぜ戦士長が来たのか……名を騙ってる人物ではないか?)

 

 上層部に属する者が助けに来るのは信じられない。アインズは後ろにいる村長に聞こえるように、大声を上げる。本物かどうかの確認のためだ。

 

「目の前の人物は本物ですか?」

 

「……申し訳ありません。噂でしか聞いたことがありませんので……誰か、知ってるか?」

 

 村長の質問に村人全てが首を横に振る……つまり彼らはグレーな存在だ。敵とも敵でないとも断言できない。

 

 しかし一つだけ言えることがある……警戒が滲みでる空気を無視して大声を張り上げて自らの名前を名乗った……本物の戦士長かは判断しかねるが、根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を無視できるのだから……大物ではあるのだろう。

 

 事実、彼以外は驚愕の姿勢から立ち直れず恐怖の表情から立ち直れていない。彼が、ほかの者たちと違う事を証明している。

 

 そう、自らに匹敵する強者の可能性だ。

 

「…………あなたは一体何者ですか?」

 

「……私はアインズ・ウール・ゴウン。この村を騎士たちから救った者です」

 

 その返事を聞きガゼフは馬から降りて、自らに近づいてくる。何をするつもりか分からないが、もし根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を避けて自分や村人たちに接近しようとした場合、即座に攻撃を下す必要がある。しかしその必要はなかった。

 

 なぜなら王国戦士長と名乗った者は、根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)の前で立ち止まって頭を下げたからだ。

 

「この村を救って頂き、心から感謝する!」

 

 一瞬の静粛の後、後方の村人たちからも動揺が起こる。当然だろう、特権階級と思われる者が身分不明の者に頭を下げるのだから。

 

「……みなさん、恐らくですが王国戦士長と言うのに偽りはないでしょう。……しかし欺くための罠という事も考えられます。警戒は怠らないでください」

 

 後方の村人たちに指示をしながらどうするかを考える。一番は敵の強さを調べる事だが、残念なことにモモンガは敵の強さを調べる魔法を所持していない。なので奇妙な繋がりを通して彼の足止めを行った月光の狼(ムーンウルフ)に確認してみると、月光の狼(ムーンウルフ)を少し上回っている程度であり、3匹同時でかかれば勝ち目は大きくなり、死の騎士(デス・ナイト)ならほぼ勝てるとの返事が奇妙な繋がりを通して返された。

 

 つまり、根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)が前衛としているアインズにとって万が一にも負けはない敵だ。

 

(……偽物か? 王直轄の精鋭を指揮する人物がその程度とは考えられない。いや、力を隠している可能性もあるか? もしかしたら強力な生まれ持った異能(タレント)を保有しているからこその戦士長なのか?)

 

 警戒は続けるべきと結論付けたアインズは、戦士長に話しかけ少しでも多くの情報を集めることにした。

 

「……失礼な話をしているのですが、何も言わないのですね?」

 

「この村は騎士に襲われている。警戒があっても仕方がない。……それにしても村人達はゴウン殿を信頼しているな……」

 

 後方の村人達から声が上がった「アインズ様は私達を騎士から助けてくださった!」「死にかけている者にポーションを振る舞い、救助活動も手伝ってくださった!」

 

 村人から声が飛んでくる。それを聞いたガゼフは驚愕を露わにする。

 

「……そこまでしてくださったのか……本来は我々がすべきことだが……ゴウン殿。我々の代わりにそこまでして頂き感謝する。掛かった費用を教えてくだされば用意しよう」

 

「それには及びませんよ……報酬は既に村人達から頂いている」

 

「報酬? ……すると冒険者なのかな? 私は寡聞にしてゴウン殿のような偉大な魔法詠唱者(マジック・キャスター)の名前を存じないが……」

 

「旅の途中でしてね? 名前は売れてないでしょう」

 

 予想していた質問なので上手に、誤魔化して強い情報の流出を避けることができた。まぁ、これから少しずつ名前を売るつもりではあるが。

 

「……旅の途中か。ゴウン殿のような仁徳ある方の時間を奪うのは心苦しいが、時間を頂いても?」

 

「構いませんよ。騎士達の事等説明も必要でしょう? 大半はそこの死の騎士(デス・ナイト)に命を奪わせましたが」

 

「なるほど、ではそちらの狼もゴウン殿が召喚したのかな?」

 

「えぇ。そこの月光の狼(ムーンウルフ)は鼻が利くので敵の警戒に召喚しました。中々優秀でしてね?」

 

「……では、この炎の塊もゴウン殿が?」

 

「……ああ。根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)の事ですか。ええ。そうですよ。その精霊は私が召喚しました」

 

「精霊……ですか」

 

 戦士長は根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)を見上げながら少し考え込む。まるで何かを迷っているかのように……

 

「……それでは、もう一つだけ聞かせて頂きたい……その仮面は?」

 

「敵になる可能性がある人物に、顔を見せるのは危険ですから……呪術の中には顔が分かれば呪いをかける物もあるかもしれませんし。名前を教えたのはかなりの譲歩ですよ?」

 

「……なるほど」

 

 つまりまだ自分達はお前を疑っていると伝えると、深く悩み始める……相手が疑いを晴らす方法を考えている間に話を進める。そう、これだけは確認しておかなければならない。

 

「ところで戦士長殿。私が召喚したシモベが見つけた集団は二つ。一つがあなた達で、もう一つの集団がいます」

 

 戦士長の顔は変わらない。しかし確かに空気が変わった。まるで新たな危険を感じたかのように。

 

「単刀直入に聞きます。あなた達は本当に村人の味方ですか? もう一つの集団が村の味方ですか?……それともどちらも敵ですか?」

 

 アインズの言葉で死の騎士(デス・ナイト)月光の狼(ムーン・ウルフ)達が警戒心から敵意を露わにし臨戦態勢に入り、根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)が呻き声を上げ体から火花が散り真下にいたガゼフに降りかかる。

 

 根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)に威圧されたのか後ろの戦士団は表情に恐怖を表しながらが武器を手にかける。

 

 それに応じるようにアインズもスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを構える。……火花が散ってくるのを腕で庇っていた戦士長は部下たちを咎める大声が響いた。

 

「お前達、今すぐ武器を下ろせ! 我々は本当にあなた方の敵ではない! 信じてくれ!」

 

「…………では、その集団は王国戦士長を殺すための集団ですかな? 多少この村を見たところ、なぜ虐殺されたのか理解できない。……しかしあなた達をおびき寄せるために虐殺したのなら理解はできる」

 

「……なぜそれを?」

 

 非常に小さく喘ぐような声だったがアインズは聞き逃さなかった。……これで彼らに対する行動が決定した。

 

「なるほど。この考えは正しかったか……では戦士長殿、すぐにこの村を立ち去って頂きたい……あなた個人はとても素晴らしい人物だ……身分不詳な私に対しても頭を下げるほどのね。もし出会いが違えば、友になるのを願ったかもしれない」

 

 出会い方が違えばそれこそ共に冒険だってしてみたかったかもしれない。だが、彼らはカルネ村が襲われることになった原因でもある。……アインズの怒りを現すかのように、仮面の下の目は赤い光を増していた。

 

「しかしだ……お前達はこの村に政治的な争いを持ちこんだ。彼らは一日一日を懸命に生きているだけなのに。政治の都合で村は虐殺された……彼らは戦争にも出てない。何も悪い事もしていないだろう? もしかしたら大勢の為という視点なら正しいのかもしれない。多数の為にと言いながら少数を切り捨てる事はよくある事だ。お前がこの村の味方になろうとして、本当に村を救おうと行動しているのなら、今すぐこの村を去れ! ……これ以上政治の都合を、この村に持ち込むな!」

 

 

 怒りのままに根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)に命令を下したい。だがそれはしない。ある意味彼らは自分にとっての恩人でもあるからだ。カルネ村が襲われていなければ彼女と出会うこともなかったからだ。最も許すつもりは一切ないが。理不尽ではあるかもしれないが、アインズは我儘である以上仕方がない。

 

 戦士長は頭を伏せて沈黙している。少し経つと何も言わずに馬の下に戻る。後悔を滲ませながら村人たちに向かって頭を下げた。

 

「……行くぞ」

 

 ガゼフ達は何も言わずに村を立ち去ろうとした。しかし一歩遅かった。一人の戦士が戦々恐々しながら近づいてきたからだ。

 

「戦士長! 周囲に複数の人影が、この村を囲む形に接近しております」

 

「……どうやら警告を出すのが遅かったな……」

 

 アインズはぽつりと呟く。村人達から視線でどうすればいいかと問われながらアインズは考える。何が最善か、を。

 

★ ★ ★

 

 その後アインズは一先ず村人に村長の家の周辺に集まるように指示する。

 

 緊急事態なので戦士長達もそばにいる。村長も近くにいる。何かあった時にすぐに村人達に指示するためだ。根源の火精霊(プライマル・ファイヤーエレメンタル)が近くにいるため自分の安全も確保できている。村人たちの安全も同様だ。

 

「……なぜ、スレイン法国の特殊工作部隊群の六色聖典たちが」

 

「知っているので?」

 

「詳しくは知らないが……貴族共を動かし、武装をはぎ取り何の罪もない村人を殺してまで、私を殺そうとするとは……彼らは人類の守護者を自認しているはずだが……なぜこのような事を!」

 

 戦士長が強い怒りを滲ませる。アインズは鼻で笑いながら話す。この男は確かに良い人間なんだろう。見知らぬ民草のために怒っているのだから。しかし、村人が虐殺された要因の一つであるこの男に怒る資格はあるのだろうか?

 

「それが政治では? 無辜の民少数を犠牲にして何かを掴もうとする……それに人類の守護者? 表の顔でしょう?」

 

 つまりアインズは法国もどこにでもある利益を追求する国と断じているのだ。実際人類の守護者を名乗る者たちが、なぜ無辜の民を殺すのかアインズには理解できない。

 

 ―――これはアインズは知らない事だが……王国には罪がある。王や貴族、戦士長のみならず、無辜の民にさえ存在するものだ。

 

 人類は法国がいなければ確実に滅んでいる。これは避けようのない事実である……実際に竜王国という国はいつ滅んだとしてもおかしくない程にぼろぼろだ……法国の秘密裏の支援がなければ確実に全ての人間が、生きたままビーストマンに食べられるという地獄を味わっただろう。現に、手が届かない場所では生きながら食われる人間が続出しているのだ。

 

 そして王国の罪は重い。王国の隣にある帝国は腐敗を乗り越えて正常な国家への道のりを歩み出している。帝国が人類の国を滅ぼそうとするのが、正しいかは判断が分かれる所ではあるが……。

 

 しかし王国の腐敗は、帝国が王国を滅ぼす事を法国に容認させてしまったのだ。貴族や王族は政争に明け暮れ、どれだけの民が飢えて死のうとも相手派閥が弱れば解決できると現状を容認してしまっている。一部の貴族や国王を始めとした勢力が必死に立て直そうとしているが、ただ滅びの時の時間を延ばしているだけに過ぎない。

 

 麻薬を裏の産業にまで発展させ周辺国家に輸出しているのだ。

 

 たとえ法国が全力を出し切ったとしても、人類の滅びを回避できるかは分からない。そんな現状を理解せずに同じ人間同士で争い麻薬を作り、犯罪組織が政治の世界にまで勢力を伸ばしている。

 

「ふざけるな!!」

 

 法国が怒りのままに叫んでも許されるだろう。

 

 そして王国の上級階級に君臨する者たちにはより許されない罪がある。なぜならガゼフ自身も認めているのだ。『冒険者』がいなくなれば、王国は滅びる事になると。だから王国は冒険者に無理難題を強いれない。彼はここまで理解しているのだ。

 

 これは六大貴族と呼ばれる者達も理解しているのだ……国が常に滅びの可能性を占めている事に対して自分達の手で身を守れず、所詮傭兵という要素が強く王国を去ろうと思えば去れる者達に国防の一つを任せきりにしている。

 

 確かに冒険者がいるから何も手を打つ必要はない。住み分けは大事という考えもあるかもしれない。

 

 しかしだ。ガゼフは……平民出身であるガゼフだけは本当に理解する事ができたかもしれないのだ。冒険者がいても王国がいつ滅んでもおかしくない事を。

 

 辺境の村では魔物が来て、冒険者を雇えなければ、頭を低くして通り過ぎる事を願うしかできないのだ。

 

 冒険者は適正な報酬が無ければ動く事はできない。それが冒険者のルールである。これは冒険者の実力を考慮して実力に見合った敵と戦わせる、冒険者を守るという点で正しいと言えるだろう。

 

 それが何十年も続いたらどうなるだろう?

 

 王国は税金がかなり高額であり、100の内60は税収として持っていかれる。残った物では生きていく事がギリギリできるかどうかだ……そんな現状で魔物が来て、辺境の村々が払う報酬があるだろうか? そもそも依頼を出すためには、冒険者組合がある街に依頼をしに行かなければならないが、そんな時間的余裕はあるのだろうか? 依頼を出しに行く途中で、村は滅びるのではないだろうか?

 

 塵も積もれば山となり、少しずつ村はなくなり王国は領土と税を納める平民たちを失うのだ。

 

 ほとんどの貴族が村人を助けない。税金は払え、労役につけ。この現状が続けば王国の民が住める場所は減少する。帝国ではなく、魔物によって。依頼が無ければ不幸な遭遇戦以外冒険者は動いてはいけないのだから。大都市では黄金の姫(怪物)の政策により多少改善傾向にあるが……もしかしたら黄金の姫(怪物)はこのことにまで気付いていたのかもしれない。だとすれば、どれだけ性根が悍ましい物であろうとも、王国に貢献しているのは怪物である。

 

 しかし、いくら王国の問題を改善させようとも、焼け石に水だ。つまり王国は帝国ではなく、魔物に滅ぼされる可能性すらある。

 

 万が一王国が滅びた場合、周辺諸国はどんな状況に陥るだろう? 法国は裏切り者であるエルフとの戦線を抱えている。また、竜王国にも支援をしなければならない。今ですらギリギリ保っているはずの平和が崩れる危険性すらあるのだ。

 

 また人類の切り札と言われる、通常のアダマンタイト級冒険者は難度にして九十前後。そしてこの世界には、アダマンタイト級冒険者を鼻で笑える強者が数えきれないほどいるのだ。そんな化物を相手に法国は単独で抗い続けている。

 

 スレイン法国からすれば、そんな現状で何も行動をしない、民も民だろう。現状を容認してしまっているのだから。もし誰かが立ち上がれば現状を好転させる事が可能だったかもしれないのに……確かに不可能に近いだろう。不可能と断言してもいいかもしれない。そんな事をするのは後先考えない愚か者だけで、実際に行動すれば馬鹿にされすぐに鎮圧されるだろう。

 

 しかし法国だけはそれを馬鹿にはしないし、それを不可能と断じないだろう。スレイン法国は人類を救ってくれた六大神亡き後、人類滅亡という確定事項を覆し続けているのだから……

 

 

 

 

 こんなふざけた、現状を打開するために法国は動いた。この事を責める事ができる者がどれだけいるだろう? 王国や人類の惨状を考慮すると、法国が少数(王国)を切り捨て(人類)を救うと決断したのを責める事はできない。切り捨てられる側(王国)も批難する事は許されない。そんな行動をしなければならない程、法国を追い詰めたのは他ならない王国なのだから。

 

 全てを知れば、まともな人間ならば、法国とともに行動するしかないだろう。――少数を切り捨てるという感情面を排除すればだが――人間の観点でみればスレイン法国は正しいのだから。

 

 しかし、残念な事にアインズは法国の行動を理解する情報を持たなかった。

 

 もしもこの時点で人間の光をみたアインズと対話する事ができれば、手引き者と上層部の犠牲だけで法国と手を取り合い人類すべてが黄金の時代を掴みとる事も不可能ではなかったかもしれない。カルネ村はアインズに人の光を見せた。

 

 そして法国も人類の光を見せる事は可能だった。常に人類の生存競争の最前線に立ち続け、後方では政治的腐敗を無くして前線をサポートできるように動く彼らを見れば。

 

 アインズはまだ知らない事が多すぎる。

 

 この時点で陽光聖典がアインズと手を取り合えない事で法国の将来は確定しているのだ。何より彼らは、知らない内にモモンガの逆鱗の一つに触れてしまった。故に人類を懸命に救おうとした者達は、カルネ村に光を……母の面影を見たアンデッドに滅ぼされるのだ―――

 

 

 

 

 

 その後ガゼフ達は自分達のせいで村が虐殺された責任を負うために、アインズに村人を頼むと言い特殊部隊に戦いを挑んだ。結末は決まっている。装備を剥ぎ取られたガゼフではこの戦力差を覆す事は出来ない。

 

 ——また仮に武装が剥ぎ取られていなかったとしても、陽光聖典に魔神を単独で打倒した存在であり、人間ではたどり着けないとされる第7位階を使える切り札を召喚されれば、ガゼフたちに勝ち目は100%なかった。たとえ英雄に片足を突っ込んでいるガゼフであっても覆せない高みを陽光聖典は所持しているのだ——

 

 しかし、カルネ村には圧倒的戦力差を覆せる人物が存在する。

 

 ガゼフは敗北を覚悟した時、視界が変わりそばには農具を持った村長がいた。話を聞くと入れ替わるようにアインズの姿が消えたらしい。ガゼフは力を抜く。この村の滅びは回避されたと思いながら。

 

 だが、この時のガゼフは知らなかった。

 

 確かにカルネ村は救われたが、この出来事が、ガゼフ自身の心を大きく切り付け、リ・エスティーゼ王国滅亡への第一歩となることを……

 

★ ★ ★ 今日の守護者統括

 

「あれ、モモンガ様の護衛はどうしたのアルベド?」

 

「……後でモモンガ様からも伝えられるでしょうけど、先に伝えておくわね。モモンガ様は、至高の御方々がナザリックに帰還なされるその日まで、『アインズ・ウール・ゴウン』とお名乗りになられます」

 

 アルベドの目の前にいる後詰の部隊の指揮官である、双子が目を見開いている。だが微妙に納得の表情も見受けられる。確かに、『アインズ・ウール・ゴウン』の名前は愛する人にしか相応しくない。

 

「それと、私がこの場にいる理由だったわね……アインズ様に伏兵として行動せよと命令されたからよ」

 

「伏兵? でも、アインズ様の護衛がいないのは……問題じゃない?」

 

 アウラの顔が不満げに歪む。マーレは表情こそは変わっていないがやはり不満げの様子が見受けられる。当然だ。自分がアウラの立場だったとしても、同じように不満を持つだろう。たった一人残られた慈悲深い御方を危険に晒すなんて、と。

 

「そのとおりね……でもそれがアインズ様の御命令なの……これでも多少御命令に逆らったのよ? ……それは良いわ。とりあえず、私たちがどう動くべきかの計画を立案します。異論は?」

 

 質問をしているがこれはただの確認にすぎない。確かに彼らは今回の部隊の指揮官であるのだろうが、自分の方が上位者であり、モモンガの思いを聞いてこちらに来ているのだから、自分が指揮官になるべきだ。

 

 二人も思うはずだ。守護者統括が護衛の任を解かれ後詰の部隊と合流する。普通に考えれば、アルベドに指揮権が移る命令が下されたもの、と。モモンガにはただ合流しろと言われただけだが、これぐらいの拡大解釈なら問題ないはずだ。

 

(……戦闘指揮官としては、不安は残るけど)

 

 アルベドはナザリックで比類なき智者である。上回るのはモモンガだけである。自分に匹敵する智者はデミウルゴス及びまだ見ぬ財政面の責任者だけである。しかしそんなアルベドにも弱点はある。専門は組織の運営管理であり軍事面には不安がある。だからこそ戦争時にはデミウルゴスが指揮官になるのだ。

 

 だとしても、アウラたちよりは効率よく指揮できるはずだ。それに、モモンガの心情を一番理解できているのは自分との自負もある。モモンガの思いを汲んで行動するためにも、アルベドが指揮権を握る必要がある。

 

「無いよ」

 

「え、えっと。だ、大丈夫です」

 

 二人が返事を返すのを聞きながら、二人にモモンガの思いを告げるべきか一瞬思案するが、二人に告げるには少し不安が残る。特にマーレに関しては、ナザリック以外はどうでもいいとの思いが顕著だからだ。

 

 本来はそれが正しかったはずだが、今からは違う。意識改革には時間がかかる以上自分から話すことはない。何より、モモンガの秘密を自分だけが知っている状況。必要なら崩してもいいが、進んで崩す気にはなれない。

 

「では、あなた達に命令を下します」




今更ながらこの作品はモモンガ様×ネムなんです……早く第一章へ……持っていかなければ。

本編開始まで後多目に見て8話? ぐらいです。 第1章 美幼女とアンデッド(美女と野獣)(仮)まで今しばらくお待ちください!

次回没予告

「モモンガ様はこの村に何をご覧になられたのでしょうか?」

「……私が唯一愛した女性……その人によく似た人を見つけてしまってな……振り払ったはずだったんだがな……」

没にした理由
お察し下さい。

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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