『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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第4話

 ふと気が付くとアインズやアルベドたちの周りを、気まずい空気が覆っていた。もちろん、自分が怒鳴ったせいであり、アルベドに責任はない。しかし、アルベドは自分のせいだと発言した。故に否定の言葉を発する必要がある。元はと言えば、セバスがしっかりと命令を伝えていなかったせいで……

 

 自分がセバスにした発言を唐突に思い出す。話の流れで分かると思ったが、確かに村を助けるとは一言も明言していないのだ。そしてさらに言えば、配下のミスは上司のミスでもある。つまり、今回の出来事全ての責任を持つのは最初からただ一人しかいないのだ。

 

(……俺の、せいか)

 

 この事態を招いたのは偏に、アインズ自身の采配ミスのせいである。もし一言でも助けると明言していれば、この事態は避ける事ができたのだろう。

  

「アルベド。今回の事は全て私の命令ミスだ。すまなかった」

 

「そのようなことはありません! アインズ様の御考えを理解しなかった我々が悪いのでございます!」

 

 アルベドが大きく頭を下げている。このままでは埒が明かないと考えて……感情を大きくぶつけてしまったシモベに話を振る事にした。それにしても、このシモベにも悪いことをした。

 

「……その話は後にしよう、アルベド。八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)、お前たちの指揮官は誰だ?」

 

「はっ。アウラ様と、マーレ様です」

 

「そうか。ならアウラとマーレ、八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)たちのみ周辺で待機し、他の者たちは帰還させろ……それと、怒鳴ってすまなかったな」

 

「至高の御方が、我々に謝られる必要はございません!」

 

「それでも、だ。アウラたちへの命令の伝達を頼む」

 

 納得はしていなかったようだが、命令に従うように静かに頷き八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)が下がる。そして、何かを言いたそうにしているアルベドに向き直る。

 

「ここで死者蘇生の実験をするのは如何でしょうか?」

 

 アインズは思わずアルベドを見つめた。予想だにしない事だったからだ。だが、嫌ではなかった。

 

「ユグドラシルから転移した事により、様々な点で実験が必要になっております。そのため、この村の人間はアインズ様に感謝の念を示しておられますので、確実に裏切らないように恩で縛っては?」

 

(確かに何れはしないといけない事だがなぜ今進言してくる? アルベドなら情報が足りていない段階での死者蘇生は危険だと気付けるはずだが……いや私の考えを汲んでくれたのか?)

 

 アインズは嬉しくなると同時に……自分を恥じた。ナザリックのために私情は殺すべきだ。情報がない現状では、特にだ。

 

(仲間の子ども達に俺は何を言わせている。俺がしっかりしなくてどうする!)

 

 自分にはNPCたちが思うような能力はない。しかし名ばかりではあろうとも、彼らの上に立つのだ。方針に責任ぐらい持つ必要がある。だから、カルネ村の事は割り切らなければならない。

 

「アルベド。私の意を汲んでくれた事、感謝する。実行すれば、この村との友好関係はより強固になり、これからも利用できるだろう。しかし、だ。現状では蘇生を行う危険性の方が高い。今回はやめておこう。すまんな、迷惑をかけて」

 

「迷惑だなんて! 私たちはアインズ様に従うために存在しているのです! 迷惑などではありません!」

 

「ありがとう。なら、今回は死者蘇生の実験は行わない。命令だ」

 

「……畏まりました」

 

「ところでだ、アルベドよ、人間は嫌いか?」

 

「……アインズ様がお助けするのをみて申し上げるのは失礼ですが、あまり好きではありません…………でした

 

 何か裏がありそうに、声が小さくなっていく……深入りして聞きたいが、この場では止めるべきだろう。万が一の場合を考えて、玉座の近くで、自分が身を守れる周辺で聞くべきだ。今までの自分の言動を顧みれば忠誠心が揺らいでいたとしても可笑しくない。そこまで行かずとも、ナザリックの主に相応しいか疑問に思っているだろう。

 

 

 そう考えれば、先程の人間を蘇生させるべきとの発言も別の視点が浮かび上がる。つまり、自分がナザリックの主に相応しいか、テストしているのかもしれない。先程、断ったのは正解なのだろう。

 

 現状では、アルベドがナザリックのナンバー2だ。自分がトップに相応しくないと判断されれば、弾劾される可能性も0ではない。

 

「そうか……しかし演技は大切だぞ……アルベド。ここではできる限り、やさしく頼むぞ」

 

 アルベドに言いながら、自分にも演技の重要性を言い聞かせる。どんな理由であれ子ども(NPC)たちに対して偽るのだ。むしろ、自分にこそ演技は大切だ。

 

 ……アルベドが小さく頷くのを見て思考に没頭する事にする。何かあれば、アルベドが気付いてくれるだろう。そして何より、思考を一度リセットする必要がある。このままでは、最低限の演技すらできなくなる。……アルベドがこの場で自身を支配者の器ではないと断じて、敵に回る可能性を無意識の内に除外しながら。

 

(それにしても不思議だ……なぜ死の騎士(デス・ナイト)一体は消えていないのだ。死体を使えばずっと消えないのか? これも要検証だな。月光の狼(ムーン・ウルフ)の方は神器級(ゴッズアーティファクト)を用いた特別な召喚だから帰還させない限り残るのは分かるんだが……もう暫く出しておくとしよう)

 

 

★ ★ ★

 

 葬儀が終わった後引き続き、村長宅で続きの話をする。ある程度の常識を学び終える頃には夕陽が浮かんでいた。その夕日はあの時見たキラキラと輝いていた夜空とは趣が異なる。それでありながら、モモンガの心を引き付けていた。

 

 だがそれ程美しい風景でも、モモンガの心を完全に埋めてはくれなかった。ぽっかりと、心に穴が開いているのだ。

 

(美しいな……夕陽というものは。みんなと一緒に見たかったな)

 

 もし、仲間たちと一緒に見る事ができれば、どれだけ嬉しい事だろう。この幻想的でありながら、力強くもある夕焼けを見れば、普段は仲の悪い組み合わせの人々(たっち・みーやウルベルド、ぶくぶく茶釜やペロロンチーノの組み合わせである)でも魅了されただろう。ブルー・プラネットに至っては自分たちの制止を振り切って、太陽に向かって飛んで行ったかもしれない。

 

 若しくは、この場に母がいれば……思考がまた可笑しくなっている。先程から思考がずれる。もちろん原因は分かっている。彼女のせい……違う。偏に自分のせいだ。全ては彼女を亡き母と重ねていることが、過ちなのだ。

 

(やれやれ。本格的にナザリックの支配者失格、かな? アルベドにギルド長から引きずり降ろされたほうが、ナザリックのためかもな)

 

 愚かなことを思い浮かべてしまう。しかし、モモンガの能力を考慮すれば、ナザリックの長には相応しくないのも必然だ。なぜならギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は多数決を重んじていたからだ。

 

 仲間たちがともにあった時でも、自分の仕事は仲間たちとの連絡や精々、まとめ役である。つまり、本来なら率先してリーダーとして振舞うべき役割を経験したことは少ないのだ。またギルド長としての特権すらほとんど使用していない。

 

 だとしても、自らの意志でギルド長を降りる事はできない。それは逃げだ。ナザリック全体への背信だ。モモンガがすべきことはただ一つ。ナザリックの主に相応しくなるように努めることだけである。だからこそ、鈴木悟の私情は捨てなければならない。

 

(……この村で学べる事はもうないだろう。より情報を手に入れるためにも、早急にナザリックに帰還して情報を共有するべきだ)

 

「この村でするべき事は終了した。アルベド、ナザリックに帰還するぞ」

 

 アルベドは自分の命令に従ってか柔らかい雰囲気を出している……それこそ本当に、自分の妻になって欲しいと願いたくなるほどの……そんな事はしないが。

 

「承知しました」

 

(アルベドの柔らかい雰囲気は、私が命令したから浮かべているのだろうな……もし自発的にしてくれているなら、あるいはこの村とも……)

 

 そこで考えを切る。人間を敵視するナザリックの支配者が浮かべてはいけない物なのだから。何よりも、今のモモンガの考えは、ナザリックのためではない。自らのために思った事柄だ。

 

(これ以上、ナザリックの支配者に相応しくない事を考えるべきじゃない。NPC達に失望される可能性がある事は避けるべきだ)

 

 もっとも、アルベドに関しては手遅れかもしれないが。カルネ村に降り立ってから、何度も無様な姿を見せ続けているのだから。

 

 とはいえ、カルネ村は情報源として大変有用でもあり、初めて友好関係を築くことができた村だ。自分の正体を知っていることもあるので、継続して情報のやり取りをすることも可能なはずだ。多少甘い顔をしても許してくれると信じよう。後は、自分が鈴木悟の感情に区切りをつけて、彼女に母を重ねなければ、全て上手くいってくれるはずだ。

 

 アインズは村長たちに別れを告げるために探し出す。途中でネムを見つける。ネムもこちらに気づいたのか近づいてくる。月光の狼(ムーン・ウルフ)も一緒だ。

 

(ずいぶん仲良くなったように見えるな)

 

 一人と一匹は笑顔でじゃれ付いているようにも見える。何となくペロロンチーノが幼女(ロり)が好きだったのも分かる気がする。幼女(ロり)が天真爛漫な姿でいるのは心が温かくなる。ロリコンになるつもりは一切ないが。

 

「ネム、私たちはそろそろナザリックに帰ろうと思う」

 

 ネムが目を見開き驚きを表現している……アインズが帰るのが寂しい。まるで帰らないで欲しいかのように。ネムの子供らしい率直な感情表現を見ていると、荒んでいた心が落ち着いた。ネムはモモンガの感情にとって癒しのようだ。……ロリコンではないが、ただ見て癒されるぐらいはセーフだろう。そう、ちょうど小動物を見ているような感覚だ。だから、俺は決して道を踏み外していない。

 

(この思考も、今までの失敗からくる逃避なのかも、な)

 

「……もう帰られるんですか?」

 

「あぁ……私がここでできる事は終わったからな……後はネムたちがすべきことだ」

 

 ネムがより寂しそうにしている……月光の狼(ムーン・ウルフ)と別れるのも辛いのだろうか? 自分からみても仲良くなっているようにも見える。……ンフィーレアの事もある。ネムとも仲良くしていても、アルベドも特に問題はしないだろう。

 

「ネム……そう寂しそうな顔をするな。また会える。それと月光の狼(ムーン・ウルフ)、私がいない間しっかりネムに仕えて、この村を守るんだぞ?」

 

「……良いんですか? ありがとうございます、アインズ様!」

 

「構わない。ところでネム、村長たちはどちらかな?」

 

「はい、こっちです!」

 

 ネムが大きな声で話しながら、月光の狼(ムーン・ウルフ)と一緒に小走りで駆け出す。アインズ達も後ろから歩いて追いかける。歩幅の違いでネムが小走りでも、周りを観察するぐらいの余裕はあるぐらいだ。そのとき警戒に出していた月光の狼(ムーン・ウルフ)から二つの集団がこちらに近づいてきたとの報告がきた。

 

(また敵か……この村を滅ぼすつもりか……)

 

 周りを見ると村人たちはアインズに感謝を述べながらも、全力で様々な作業に取り組んでいる。その眼には虐殺をされたとは思えないほどの、強さを感じた。

 

(なぜ、この村を滅ぼそうとするんだ……彼らはその日その日を、全力で生きているだけだろう!……なぜ彼らを苦しめるんだ!)

 

 アインズは、彼らに命の輝きを見た。鈴木悟のころには無かった人間の光を……掛け替えのないものを。だとしても彼らを救うことはできない。もし、ナザリックが存在せず、この世界に来たのが自分ただ一人であるなら、命を懸けて救ってもよかった。しかし、自分にとっての宝物が存在しているのだ。

 

 

(……俺は、ナザリックの支配者だ。仲間たちが見つかるまで、これは不変だ。……確かに彼らには十分以上の報酬は頂いたが、これ以上ナザリックに危険を招きかねない行動は慎むべきだ……そうだ。彼女は母じゃない。ただ似ているだけの他人なんだ。彼女と母をこれ以上重ねるな。……優先順位を間違えるな、『アインズ・ウール・ゴウン』!)

 

 何度も心の中で繰り返す。自分はアインズ・ウール・ゴウンであると……そして村長の下に辿り着く。何人かの村人達と真剣に話し合っている。もしかしたら危険が迫っている事に気付いたのかもしれない。

 

「何かありましたか、村長?」

 

「おお、アインズ様。実は戦士風の者達が近づいているらしいのです。」

 

 村長達は少し遠慮がちに伝えてくる。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないという感情が伝わる。しかし手を借りなければ生き残れないのも分かっているのだろう。村長が意を決して話しかけてくる。

 

「アインズ様! ご無礼は重々承知です! 何度も手を借りるのは間違ってるのも分かっております。ですがお願いです! ……女と子ども達を逃がしては頂けないでしょうか?」

 

 ……意表を突かれた。村の助けを求めるとばかり考えていた。村人たちも何か覚悟を決めた眼をしている。

 

「なぜ私に助けを求めないのです?そこの死の騎士(デス・ナイト)を使えば、おそらくあなた方全員を救えるはずです」

 

「我々は、アインズ様に返しても返しきれないほどの恩を受けました!これ以上ご迷惑をおかけしたくありません!……それなのに女子供を助けてくださいと願うのは間違いなのは承知しています! ですがどうかお願いします!」

 

「「お願いします!アインズ様!」」

 

 村人たちも村長に続きお願いをしてくる。何故だろう? 彼らの姿は輝いているように見える。全員が死を覚悟しているからだろうか?

 

(……この村人たちを、見捨てる? 女子供を救うために、命を捨てる覚悟をしている者たちを? 私にこれ以上迷惑をかけずに、解決しようとしている者達を?)

 

 ネムが前から少し不安そうに見上げてくる……一瞬だがその目に、悔しさを見る……自分が何もできない事に対して。仲間たちを失った日……母を失った日、自分もそうだったのではないか?

 

 そして、彼女も……母に似た人も自分を見つめている。

 

 止めてくれ。俺にこれ以上、過去を思い出させないでくれ。母を思い出させないでくれ。俺を、鈴木悟に戻そうとしないでくれ。俺は、アインズ・ウール・ゴウンなんだ。ナザリックの安全を最優先で考えるべきなんだ。だからあなたたちを見捨てるしかないんだ。

 

「アインズ様。私からもお願いします。どうか子どもたちだけでも、お救い下さい」

 

 止めろ。俺を母に似たその瞳で見るな……そうだ。1日にこんな辺鄙な村が何度も襲われるんだ。確実に危険だ。自分達がどれほどの強者か分からないんだ。ナザリックを危険に晒していいはずがない。

 

 たとえ、自分に人間の輝きを見せてくれた彼らが虐殺されるのだとしても。ナザリックのためなら我慢できる。

 

 たとえ、アンデッドになった自分を最初に受け入れてくれたネムが面白おかしく玩具にされたとしても、ナザリックのためになら、辛くとも許容してみせよう。

 

 たとえ、母に似た人が切り刻まれ、誰かを庇って殺されたとしても。残虐な拷問をされて殺されるのだとしても許容して……

 

 ――『悟』――

 

 …………駄目だ。ナザリックのためだとしても、許容できない。ほかの者たちを見捨てる事は、ナザリックのためなら、どんなに辛くとも許容してみせよう。だが、彼女だけは見殺しにできない。ナザリックの安全のためだとしても許容できない。

 

 彼女が母ではなく、ただの赤の他人だとは分かっている。だとしても見捨てられない。もし仮に、彼女を見捨てれば永遠に後悔する。だって、自分は彼女を母と重ねているのだ。彼女を見捨てる事は間接的に母を見捨てる事になってしまう。

 

 それは、それだけは、絶対に許容できない。

 

 それでも見捨てれば、アンデッドの特性すら凌駕して、きっと心が壊れる。ナザリックの支配者に必要な演技すらできなくなる。

 

 ……故に救おう。彼女たちを。だが、これは『アインズ・ウール・ゴウン』の支配者に必要な感情ではない。モモンガ、否、鈴木悟の個人的な感情だ。

 

「……少し待っていて……いや、村人たちを一か所に集めていてください。アルベド付いてこい」

 

「畏まりました」

 

 少し歩く。村人たちから遠すぎず、内緒話ができる程度の距離だ。アルベドも自分が内緒話をしたいと感づいているのだろう。質問をしてくる。

 

「……如何なさいますか、アインズ様? 御命令さえあれば、この村に近づく者たちは、私が排除いたしますが?」

 

「それには及ばない。私の手で救おう」

 

「畏まりました。僭越ながら前衛を――」

 

「いや、それにも及ばない。アルベド、今すぐこの場を離れ、アウラたちと合流せよ」

 

「なっ! 危険です! 誰がアインズ様を護衛するのですか!」

 

「護衛は、いらん。これは『俺』の個人的な感情だ。私情でお前たちを危険に晒すわけにはいかん……アウラたちと合流次第、ナザリックに帰還せよ」

 

「いけません! アインズ様が何をお考えかは私には理解できません! しかしアインズ様を危険に晒す命令を受け入れる事なんて――」

 

「お前が……お前たちが本当に、私に対して忠誠を誓ってくれているなら、今だけは命令に従ってくれ」

 

 アルベドの絶句した表情が目に浮かぶ。それと同時に、絶対に受け入れないという意志を感じる。だが、『鈴木悟』も引く訳には行かない。彼らは仲間たちとの思い出の結晶だ。ナザリックに何一つ関係がない、自らの私情で彼らを危険に晒すわけにはいかない。支配者として失格と思われたとしても。

 

「これは『アインズ・ウール・ゴウン』としてではなく、ただのモモンガとしての感情だ。ナザリック全体を危険に晒すわけにはいかん」

 

「……モモンガ様の御意思こそ、ナザリック全体の御意思で御座います!」

 

「……すまない。一つ誤解をさせた。これは、モモンガになる前の(鈴木悟)の感情だ。故に、何一つナザリックは関係がない。仲間たちの遺産でもある、お前たちを危険に晒すことはできない」

 

 アルベドの表情から光が抜け落ちていくのがわかる。やはり、ナザリックの支配者として、相応しくないと考えられただろうか? だとしても、もう後には引けない。賽は投げられたのだ。 

 

「モモンガ様がこの村に何を見られたかは、私ごときには理解できません。ですがモモンガ様に、万が一の事があれば我々は生きていけません! モモンガ様を危険に晒すぐらいなら、どうか私を使い潰してくださいますよう、お願い致します」

 

 ……これは説得に時間がかかる。下手をすれば、説得すらできない可能性がある。彼らを危険に晒したくはなかったが、妥協しよう。

 

「ならば、だ。アウラたちの下に向かえ。敵が強敵だった場合、伏兵として行動せよ。それと、これを持っていって護衛せよ」

 

 これなら、自分の願いとアルベドの思い、どちらの思いもくみ取ったものだ。どちらの立場でもベストではないが、ベターにすることができる。後は『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』をアルベドに預けて、護衛してもらえばいい。ギルド武器が失われるリスクを考えれば、ナザリック最高の楯ともいえる、アルベドに護衛してもらうのがベターなはずだ。たとえ、自分に不慮の事態が起きたとしても、ナザリックの滅亡と言う、忌避すべき最悪の事態は避けられる。

 

 本来なら、この村を見捨てて帰還するのが最善なのは分かっている。若しくは、彼らを全員連れて逃げ出すかだ。とはいえ、どこに逃がすかが問題になる。一番はナザリックの第6階層かもしれないが……それこそ、人間に対する悪感情で何かが起きる可能性もある以上、除外するしかない。

 

 だからこそ、自分がすべきことは、彼女たちを守りたいという『鈴木悟』の私情を成し遂げる事、『アインズ・ウール・ゴウン』としてナザリックを危険に晒さないことだ。同時に実行しようとする以上、ギルド武器がない事で起きる、ステータスの低下と、前衛がいない事のリスクを許容しよう。自らのステータス低下等にによる敗北のリスクより、『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』が破壊されることのリスクの方が高い。それに、ギルド武器は、ギルド長より価値がある。

 

 ユグドラシルではギルド長が死んだとしても、プレイヤーである以上レベルダウンだけで蘇生できた。しかし、ギルド武器は一度破壊されれば、それで終わりである。『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』が破壊されることはナザリックの滅亡と同義だ。それに対してギルド長の死亡のリスクは軽い。たとえ、この世界で蘇生ができるかは分からず、一度死んでしまえば終わりだとしても、だ。

 

「………前者は了解いたしました……しかし、その杖をお預かりすることはできません。それは、モモンガ様だけがお持ちになるべき物で御座います」

 

 違う。この武器は仲間たちとの思い出の結晶でもある。危険に晒すことはできない。だが、時間が惜しい。早く動かなければならない。マジックキャスターである自分には戦いのためには準備が必要である。それが整う前に敵が到着してしまえば、より不利な戦いになってしまう。

 

(皆さん……すいません。俺はナザリックを危険に晒します。間違いだってことは分かってます。それでも、この村が滅ぼされることは見過ごせないんです。たっちさんが……皆さんが私を救ってくれたみたいに、救いたいんです。だから、この村を救います!)

 

 頭の中で大切な仲間達に村を救うと宣言する。きっと誰もが仕方ないと言ってくれると信じて。

 

 そして、母に似た人を救おう。

 

「分かった。ならば、行動を開始せよ……敵が我々を打倒できる存在だった場合、私よりギルド武器を守れ。私は死んでも蘇生できるが、この杖は別だ」

 

「なっ! そのような事――」

 

「時間は有限だ。行動を開始せよ……文句は後で聞こう」

 

 アルベドが一瞬陰のある表情を作ったように見えるが、静かに礼をして、アウラたちのもとに向かう。やはり、ナザリックの主失格と思われただろうか? 当然なのかもしれない。もし仮に、アルベドがナザリックの主失格と言うのであれば、大人しく弾劾を受け入れよう。アルベドがそれでも自分が主に相応しいというのであれば、少しでも彼らが言う絶対の支配者に近づく努力をしてみせよう。

 

 だから、この場だけは、自分の私情の下に動こう。モモンガは自分から離れ行くアルベドをもう一度眺めて、村人たちの元に戻る。

 

 ナザリックの主であるアインズ・ウール・ゴウンやモモンガとしてではなく、ただの鈴木悟として。その背中には絶対にこの村を守る覚悟があった。

 

 

★ ★ ★ 今日の守護者統括

 

 アインズは何も答えない。だが、一つだけはっきりしたことがある。この村には何かがある。モモンガの大切な物が、だ。それが何かは分からない。どちらにせよ、アルベドにとって嬉しい話ではない。恋敵になる可能性がある者がいると判断できるのだから。だがそれに対する嫉妬心が今は浮かび上がらない。

 

 だって、今のモモンガは壊れそうなのだ。

 

 感情がただ揺さぶられたでは済まない。本来ならアンデッドの特性で、すぐに沈静化しているはずだ。しかし沈静化が追い付いていないのだろう。沈静化が追い付かないほどのモモンガの何かを抉ったのだ。

 

 それを思うと、ただ命令されただけのシモベをこの手で八つ裂きにしたいほどだ。だが、本来の罪人は別にいる。

 

(セバス! なぜ、モモンガ様のご命令をちゃんと伝えないの!)

 

 ……後で、叱責すべきことだが、今考える事ではない。考えるべきことは他にある。モモンガは「私からこれ以上奪わないでくれ」と明言した。

 

 つまり、だ。モモンガ以外のギルドメンバーは何者かに奪われた可能性が浮上した。自分たちやモモンガを捨てたわけじゃない可能性が、だ。

 

 仮にこの考えが事実なら、アルベドの恨みを向ける対象は変更される。モモンガからギルドメンバーを奪い去った者たちにだ。

 

 それとも、感謝すべきなのだろうか? 彼らがいないことで、自らがモモンガの一番になれる可能性が上昇したのだから……今のモモンガを見ていなければ、そう思ったかもしれない。

 

(私は……どうすれば、モモンガ様の御心をお救いできるの?)

 

 分からない。何があったのか分からない以上、自分に判断することはできない。仮に彼らがいれば、救えただろうか? モモンガを救った、たっち・みーなら救えるのだろう。だが、彼らが今いない上に、モモンガを捨てた可能性も現時点では完全には排除できないのだ。

 

 それに、アルベドにはもう一つ疑問がある。モモンガの怒りは、ギルドメンバーを奪われたことではなく、何かもっと根源的な物に思えた。

 

 その証明として、名乗るといわれた『アインズ・ウール・ゴウン』としてでも、モモンガとしてでもなく、それ以前の名前でこの村を救うと仰ったのだ。

 

 だからこそ、アインズ・ウール・ゴウンの一部である、私たちに帰還するように命令されたのだ。ギルドの象徴を持って。万が一の場合、死ぬのはモモンガだけでいいと判断されて……もっとも、それは絶対に許容できないため、一部は撤回させたが。

 

 

(……アウラたちと合流して伏兵として動く準備を整えないと。エイトエッジアサシンたちは……村人の護衛? 私たちがモモンガ様の護衛として動けばいいのかしら?)

 

 そして、モモンガが別れ際に発した一言を考える。自分よりもギルド武器を守れ。論理的に捉えるとしたら、正解なのかもしれない。プレイヤーは蘇生できることは知っている。しかし、ギルド武器である『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』は『ナザリック』その物ともいえる。

 

 仮に破壊されれば、ナザリックの全てが崩壊するかもしれないのだから。だが、それでもモモンガの死亡は絶対に許容できない。他のNPCたちも同じなはずだ。

 

 それに本当に蘇生できるかもわからないのだから。

 

 万が一の場合は、アウラたちにギルド武器を持って、ナザリックに救援を呼びに逃げ帰ってもらうしかない。そして、自分がモモンガの楯になる。現状で考えられるのはこれだけだ。

 




二人はすれ違い中。

でも、アルベドの危険な思考の一つ、ギルメン殺しに迷いを抱かせられました。

それと、遅くなりました。なぜ、こんなにスロー投稿になってしまってるんだろう?

本編に入るまでスロー投稿が続きますが、お付き合いいただけると幸いです。

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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