『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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第2話

 帝国の一室に4騎士及び最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)フールーダ・パラダインがいた。いや違うと皇帝は思う。実際に自分達を呼び集めたのはフールーダ・パラダインであり、自分達はそれに応じただけだ。何故集めたかは分からないが、緊急事態が起きたと、呼ばれた以上何かあるのだろう。それは皇帝だけではなく4騎士を集めたことからも分かる。

 

「それで帝国4騎士を一堂に集めさせて、私まで呼んだのはどういう訳かな、じい?」

 

「はい、実は陛下にご紹介したい御方がいらっしゃいまして」

 

 自分に紹介する? それが緊急事態? どういうことだ。疑問を口にしようとした時だった。何らかの青い門が急に現れ何者かが出てきた。

 

 そしてここにいる一同を見渡すと口を開いた。

 

「――お初にお目にかかります!! 私、パンドラズ・アクターと申します。以後お見知りおきを!」

 

 そこから出てきたのは二重の影(ドッペルゲンガー)だった。

 

 4騎士全員が武器を向けて皇帝である自分を守ろうとする。一人だけ状況が不利なのを認識して逃げようとしているようだが。そう言う契約だから仕方がない。逃げれるかは別として。

 

「いらっしゃいませ、我が神よ!」

 

「じい。これは一体どういうことだ?」

 

「頭が高いですぞ陛下。この御方は第十位階の魔法詠唱者(マジックキャスター)。私の師だ」

 

 成程、フールーダは裏切ったのか。いや違うフールーダは自分より強大な魔法使いにあえば帝国を売るというのは前から分かっていたことだ。それが人間でなく異形のものであったとしても……。フールーダは悪くない。いつかこんな日が来るかもしれないとは頭の片隅ではわかっていたのだから。

 

 だから、ここからは自分の出番だ。会わせたい人がいる……。そこから推測すれば問答無用で殺そうとするわけではないだろう。震えを必死に抑える。目の前にいる人物はフールーダ・パラダインを超越した、魔法詠唱者(マジックキャスター)。おそらく帝国の4騎士でも今すぐに殺されてもおかしくはない程力量は離れているのだろう。

 

 その恐怖心を皇帝としての誇りで、矜持で抑え込む。

 

「お初にお目にかかる。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスという。気楽にジルとでも呼んでくれ」

 

「これはこれは、ご丁寧なあいさつありがとうございます! もう一度名乗りましょう、私パンドラズ・アクターと申します!」

 

 まるで吟遊詩人の様な大振りな動作だ。何を考えているかはのっぺらぼうな顔からは読み取れない。だからこそ身振り手振りで真意がどこにあるか探らなければならない。よく見れば服装も豪華で規則性が読み取れるが見たことは無い。

 

 やりにくいと、ジルは思う。

 

「では、ジル殿お願いしたい事があるのですが?」

 

「なんだろうか、パンドラズ・アクター殿、私のできることであれば可能な限り協力するが?」

 

 フールーダ・パラダインを含め4騎士は全員背景に徹している。いや一人だけ、もしかしたらこの侵入者に協力すれば呪いを解除できるのではないかと期待を持っているようだが。思わずばれない程度に苦笑してしまう。そんな簡単なことではないだろうにと。

 

「王国を滅ぼすのに協力してほしいのです」

 

 その言葉は予想していなかった。

 

★ ★ ★

 

 アインズが待っているドアの外では修羅場になっていた、シャルティアがアルベドを睨んでいるのだ。何故だ? デミウルゴスには心当たりがなかった。

 

「持っている物で勝負しましょうだったでありんしょうか? なら今のアルベドの姿は何でありんすか?」

 

 確かにアルベドは変わった。パンドラズ・アクターから貰った……いや奪い取った、ミニマムの指輪を装備することで小さい姿になっている。

 

「私はアインズ様が望まれている姿を取っているにすぎないわ。そう。だって、アインズ様はロリコンでマザコンなんだから!」

 

「はっ?」

 

 聞き間違いだろうか。この色ボケサキュバスは何と言った。

 

 いや、確かにそうかもしれないと、デミウルゴスは一旦思考を保留にすることにした。彼女たちの話を聞いてから結論を出したほうがいいだろう。以前パンドラズ・アクターに言われた通り、常に冷静でいるべきだ。アルベドがダメな以上自分しかいないのだから。

 

 どうしてこうなったのだろう? 何を間違えたのだろうか。

 

「私は勘違いしていたの、アインズ様はお義母様のことで村長夫人を重ねていらっしゃるわ。でも手を出したのは私とネム・エモットだけ。つまりアインズ様はロリコンで胸のある幼女が好みなのよ!」

 

「――その理屈はおかしくない? だってネムは胸は無いわよ?」

 

 聞き役に徹していると、驚いたことにアウラが参戦していった。その顔には純粋な嫉妬が見えた。自分もお手付きになりたいと考えているのかもしれない。シャルティアとしても胸が無いほうが好きでなければ困るのだろう。頷いている。良い傾向だ。

 

 だが、ネム・エモットがお手付きになった。ナザリックとしてはいい方向である。何れは子どもが生まれるのだろうから。早くお仕えしたい物である。だがそれが分からないのものが二人いる。

 

 

「とにかく、アインズ様はロリコンでマザコンなのは確定よ! だから私もミニマムになる指輪を装備して小さくなっただけ、ただアインズ様が望む姿になっただけよ」

 

「――以前と言っていることが違うだろうが、おい」

 

「昔のことは忘れたわ。私は未来しか見ないの」

 

「この大口ゴリラ!?」

 

「なによヤツメウナギ!?」

 

 二人の罵りあいを見守る守護者たち。いやアウラは参戦しようか悩んでいるようだ。そして知恵熱が出たように真っ赤になってダウンしている。これは本当にアインズはロリコンでマザコンなのだろうか? それとも我々の勘違いなのだろうか? 忠義に揺らぎはないが……幼女は出来る限り捕獲いや保護するべきなのかもしれない。マザコンは……村長夫人に頼もう。後でパンドラズ・アクターと相談しよう。今彼は帝国への仕込みに入っているから、ひと段落してからだが。

 

 そして、ここは自分が止めるしかないだろう。セバスは泰然としているしマーレはおろおろしているし、コキュートスは何かを考えているようだ。二人の戯れを気にする余裕がないかのように。

 

「お二人とも、戯れはその辺にしておいてください。我々の扉の先にはアインズ様がおられるのですよ。女の嫉妬を見せつける気ですか? 見苦しいですよ?」

 

「「ああん!?」」

 

 思いっきり溜息を吐いていた。元々デミウルゴスは御方の子どもが欲しいと考えていた。そして妻の候補となるのが今目の前で争っている二人である。しかしこれではナザリック外から奥方が迎えられても仕方ないかと思ってしまう。どちらにせよ外から妃を迎えられても一向にかまわないのだが。

 

「とにかく、落ち着いてください。我々は今からアインズ様に拝謁するんですから」

 

 問題なのは二人ともわかっていたのだろう。しぶしぶとだがお互いに口をつぐんだ、だがいつ再発するか分からない。早めにアインズとあわせるのが良いだろう。

 

 さすがにアインズの前で女の嫉妬バリバリで争うことは無いだろう。無いと思う。そう思っているとアルベドが大きく深呼吸をした。どうにか冷静になってくれたようだ。シャルティアも不機嫌そうではあるが矛を収めている。この状態ならアインズに拝謁しても問題ないだろう。そう思った。だが、アルベドの一言が大きく守護者たちを騒がした。

 

「これだけ言っておくわ。シャルティア。残念だけれどアインズ様の孤独を癒すことは我々にはできなかったわ。ネム・エモットに先を越されてしまった」

 

「――それは一体どういうことでありんすか?」

 

 別の意味で般若が生まれた。だが孤独? 一体何のことだ? デミウルゴスには分からなかった。マーレも訳が分からないようにしている。アウラの顔には……納得、だろうか? そんな表情が浮かんでいる。セバスは不可解な表情をしている。コキュートスは静かに佇むのみ。

 

「いい、みんなよく聞きなさい。私たちはネム・エモットに敗れたわ。アインズ様、いえモモンガ様は孤独だったの。その隙間を埋めたのは私たちじゃない……ネム・エモットなのよ……」

 

「待ってください、アルベド。アインズ様が孤独にあったとはどういうことですか?」

 

 アウラを除く守護者全員が不可解な顔をした。アルベドの言っていることが分からない。絶対の支配者が孤独に襲われていた? 我々がいるのに?

 

「そのままの意味よ。モモンガ様は孤独だったの。お義母様を亡くされて……そして御親友であられた、たっち・みー様たちがお亡くなりになって」

 

「――お待ちください。アルベド!? たっち・みー様がお亡くなりになっているとはどういうことですか!?」

 

 セバスが大声で叫ぶ。当然だろう。自分の創造主が亡くなっていると聞かされて冷静でいられるNPCはいない。個人的に気に入らないが、同情する。だが――

 

「事実よ。それにモモンガ様を除くすべての至高の御方々がお亡くなりになっているわ」

 

「――待ってくださいアルベド!? 全ての至高の御方々が亡くなっていると、今、言ったのですか?」

 

 自分もセバスと同じ感想を感じるとは思っていなかった。思わず唇は震える。いや自分だけではない。守護者たちが全員泣きそうに震えそうになっている。

 

「事実よ。私は至高の御方々を恨んでいたわ。モモンガ様をお捨てになったと。でも事実は違う。パンドラズ・アクターがはっきり私に言いきったわ、モモンガ様を除く至高の御方々はお亡くなりになっていると」

 

 耐えられなかった。思わず膝をついてしまった。アウラやマーレは自分の創造主の名前を呼びながら泣いている。シャルティアも同様だ。セバスはあまりの事態に呆然としている。耐えているのは武人コキュートスのみだ。

 

 本当はアルベドの言葉に怒らなければならない。至高の御方々を恨んでいるなんて許されざる大罪だ。だがその言葉は出てこない。

 

(ウルベルト・アレイン・オードル様。そんな、お亡くなりになっていらっしゃったなんて)

 

 今の自分にあるのは絶望だけだ。自分の創造主が亡くなっていると聞かされて冷静でいられるNPCはいない。

 

「……では世界征服は無意味と?」

 

 思わず震えながらアルベドに問いかけていた。自分の勘違いから生まれた、世界征服。至高の御方々を見つける。それは全て無意味だったのだろうか。では何故、主は至高の御方々を探しておられるのか?

 

「――そんなこと無いです! 至高の御方々は生きられています! だってパンドラズ・アクターさんも見つけるために世界征服するって言ってたじゃないですか!?」

 

 自分の感情をマーレが泣きながら代弁した。いや全守護者たちがそう思っているはずだ。パンドラズ・アクターは確かに至高の御方々を探していると言っていた。アルベドの言葉と矛盾している。

 

「――これもパンドラズ・アクターから聞いた話よ。この世界に転移した時、本来ならモモンガ様もお亡くなりになるはずだったのよ」

 

「なっ!?」

 

「なんと!?」

 

「えっ!?」

 

「うそ!?」

 

「うそよ!?」

 

「アリエヌ!?」

 

 異口同音で全員が叫ぶ。それが事実だったとしたら……、至高の御方々が全員亡くなられていた……目から熱い物が溢れた。

 

「モモンガ様は奇跡が起きて生き延びられたとパンドラズ・アクターに言ったらしいわ。そしてこの奇跡は自分だけにおきるものだろうかとも……つまり、至高の御方々が生き延びられている可能性をモモンガ様はお信じになられているの」

 

 生き延びられている可能性。それだけあれば十分だ。自分はまだ立ちあがれる。冷静に徹さなければならない。何か訳があるはずだ。この場でアルベドがこの事を言った事は。他の守護者たちはまだ事態を飲み込めていないのか静かに顔を泣きはらしながら、アルベドを見ている。

 

「――アルベド一つだけ聞かせてほしい……なぜこの場でその事を話したのかね? アインズ様と会う直前に話すとは。何か意味があるのでしょう?」

 

「――簡単よ。私たちはこれ以上モモンガ様の重しになってはならないからよ。この事を聞いたら多くの者がモモンガ様に依存するはずよ。でもそれじゃダメなのよ。私たちはこれ以上モモンガ様に依存してはいけないの。家族になって孤独を癒さなければならないの。尤も……ネム・エモットにその役目を奪われた私が言えたことではないけどね……」

 

 アルベドが悔しそうな、泣きそうな、自嘲しているような表情をしている。至高の御方々がお亡くなりになっている。ああ孤独だろう。自分達だって一人でこの世界に転移していれば絶望感から自殺したかもしれない。捨てられたかもしれないと思って……。

 

 そうか、主は孤独だったのか。だから外部とのつながりを重視した。あるいは母親を感じたことが孤独を増大させたのかもしれない。

 

 自分は無力だ。デミウルゴスはそう思う。何がナザリック一の智者だ。聞いてあきれる。真実に気付けないなんて……。自分勝手な夢を押し付けようとして。至高の御方々がお亡くなりになっている可能性から目を背けて……ただモモンガに依存した。

 

 アルベドがこの場で話したのも我々がこれ以上モモンガに依存しないようにであろう。後は……正々堂々側室としてモモンガの孤独を埋めていくと宣言しているのだ。そしてシャルティアとアウラにはこう問いかけているのだ。あなたたちは私と同じことができるのかと。それができないのであれば側室になることを認めないと。二人が気付くかどうかは……アウラはいずれ理解しそうだが……。シャルティアには後で助言したほうがいいかもしれない。

 

 一回深呼吸をする。そして自分が何をすべきか考える。結論だけは分かっている。家族になるのだ。家族にならなければならない。だが結果だけしかわからない。

 

(家族ですか……難しいものですね)

 

 過程が分からない。家族へのなり方が。どうすればなれるのか。何よりもアルベドたちと違い自分は男だ。妻や側室になることは出来ない。

 

 

 そう言った方面からモモンガの孤独を埋めることもできない。どうしようもなかった。ただ力なく首を横に振るしかなかった……。あるいは『アインズ様』と呼ばれること自体、苦痛だったのかもしれないモモンガは。

 

 首を横に振る。とにかく今は至高の主を待たせている……この主という言い方も孤独を深めているのかもしれないと思いながら、デミウルゴスは床に膝をついている守護者たちに優しく言葉をかける。

 

 

「――皆、アルベドの言葉に思うところはあるだろうが、とにかく今はアインズ様をお待たせしている。先に進もう」

 

「は、はい」

 

「……分かりんした」 

 

「……分かった」

 

「……その通りですね」

 

 他の小さく3人は頷く。

 

 最後にアルベドが言った。

 

「行きましょう」

 

 全員がハンカチを使い涙をぬぐう。そしてその顔は全員決意と困惑が現れていた。尤もコキュートスだけは心ここにあらずの様な雰囲気をしていたが。

 

 アルベドが最前列に並び自分達は少しだけその後ろに立つ。その時もコキュートスは何も語らず静かに頷いただけだった。

 

★ ★ ★

 

 

 アインズは少しだけ緊張していた。今日は階層守護者たちとセバスを交えての食事会である。自分が人間に変身できるようになったことを知らしめる場でもある。シャルティアを筆頭に人間を嫌っている者たちが多い。なので人間の姿でいて問題がないかの実験でもある。後はアンデッドの姿の時の精神抑制がない中でどれだけ守護者たちと話すことができるかの実験の場でもある。補助してくれるパンドラズ・アクターもいない。厳しい試練だ。

 

 発案者はネムである。食事でNPCたちとコミュニケーションを取ればいいと勧めてくれたのだ。

 

 既にアルベドを筆頭に守護者たちはドアの向こうまで来ている。会議室を借り切っての作戦でありミスをしたときのフォロー役であるパンドラズ・アクターがいない中、自分がどれだけできるか試すことができるいい機会である。

 

 ドアがノックされる。恐らくアルベドだろう。

 

「入れ」

 

 その言葉に従いドアが開かれる。ここからが本番である。気づかれないように一回だけ深呼吸をして覚悟を決める。

 

「アインズ様、第4階層守護者及び第8階層守護者を除きまして守護者各位が集まりましてございます。またセバスも同席しております」

 

「うむ、入れ」

 

 ドアの外からアルベドを筆頭に、セバス、デミウルゴス、コキュートス、アウラ、マーレ、シャルティアが入ってくる。よく見るとアウラの顔は真っ赤である。自分もあの時のことを少しだけ思い出してしまい、気まずく思う。いやよく見ると全守護者の顔に泣いた後が見れるような気がする。何かあったのだろうか?

 

 それは気になるが、とにかく今は話を先に進めよう。

 

「皆よく集まってくれた。座ってくれ」

 

「はっ、畏まりました」

 

 アルベドが代表して返事をする。そしてセバスを除く全員が椅子に座るのを見届けるセバスだけは給仕をするため自分の隣に立っている。それを見届けた後、今日集めた趣旨を話し始める。

 

「――今日集まって貰ったのは他でもない。私も星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター) のおかげで任意に人間の姿になれるようになったのでな。一緒に食事会をしてみたいと思ったのだよ。構わないか?」

 

 全員が異口同音で賛成を表す。いや嬉しそうにしている。良かった。今回のことはいい方向に向かったようだ。だからこそ、もう一つ聞かなければならない事がある。本当に言っていいのかと悩んでいるが……ナザリックと人間の関係性を変えるためにも必要なことである。でないとカルネ村も危険である。そして可能性は限りなく低いが仲間たちが帰ってきたときのことも考えて、言葉を発した。

 

「それともう一つ聞きたい事がある。私は昔……人間だった。その事に対して不満はあるか?」

 

 空白が生まれる。守護者たちが全員が目を合わせて会話している。そして少しだけ時間がたつと代表するかのようにアルベドが口を開いた。

 

「いいえ、ございません。アインズ様は我々の……支配者であります。それは何があろうとも変わりません」

 

 そしてデミウルゴスもアルベドの意見を補足するように口を開いた。

 

「もちろんでございます。我々の心はその程度で揺らいだりは致しません」

 

 安心した。この言葉は真実だろう。他のNPCたちも同様に頷いている。これなら限りなく低い可能性だが、親友たちが見つかっても悪い方向には向かわないだろう。

 

「そうか。では食事会を始めるとしよう」

 

 

 食事会が行われる。まず前菜がメイドたちによって運び込まれる。そうしてフルコースを堪能する。美味しい。いつまでも食べられると思うと、嬉しい限りだ。だが母に食べさせてあげられないのが無念だ。ああ食事は美味しいが罪悪感を感じてしまう。今までは別のことが気になっていたから気付かなかった、いや目から逸らしていた。母さんに親孝行をしたかった。ただその思いだけが積もった。

 

 そして宴もたけなわになった頃だった。コキュートスがいきなり椅子から立ち上がり、床に膝をついた。自分やほかのNPCたちが声をかける前にコキュートスは話し出した。

 

「アインズ様ニオ願イシタイ儀ガゴザイマス」

 

 膝をついて土下座をして願う。今までのNPCだったらあり得ない行動だった。だからこそアインズ自身も気になった。

 

「言ってみるがいい、コキュートス。絶対の保証は与えられないが、可能な限りお前の願いを聞こう」

 

 自分が話した後、場には沈黙が舞い降りた。コキュートスは口を開き口を閉じるを繰り返している。本当に何を願う気なのだろうか? 訳が分からない。

 

「――伯父上トオ呼ヨビシテヨロシイデショウカ?」

 

 モモンガは呆然とした。周囲にいる者たちは怒りを隠せていない。いや期待だろうか? 分からない、分からないが――

 

★ ★ ★

 

 デミウルゴスには分かっていた。ここが分水嶺であることを。

 

 コキュートスが今まで黙っていたのは、この事を言うべきか言わざるべきかを悩んでいたのだ。至高の御方を家族と認識して伯父上と呼ぶ。大変な不敬だ。だが、家族が欲しいと願っている……。この言葉を聞けば自分たちの方が間違っているのではないかと思ってしまう。自分たちの在り方が、孤独を増加させていたのなら……コキュートスの言は正しい。

 

 後は至高の御方がどう判断するかだ。顔を見る。呆然としていた。その顔には怒りはない。

 

 周りを見てみる。アルベドを除き全員が呆然としていた。それだけNPCとして、配下として考えれば信じられないことをコキュートスは行ったのだ。料理を下げていたメイドたちも茫然としている。それだけのことをコキュートスは行ったのだ。全員の視線がモモンガとコキュートスと行ったり来たりしている。

 

「御不快ニサセテ申シ訳ゴザイマセン。コノ命ヲ持ッテ謝罪イタシマス!」

 

「――アハハハハハハハ!」

 

 気づけばモモンガは思いっきり笑っていた。その顔は嬉しさを隠せていないような顔つきだった。

 

 そしてひとしきり笑った後、モモンガはコキュートスに答えた。

 

 

「――構わない、構わないともコキュートス。私にとってお前たちは親友たちが残していった子どもたちだ」

 

 コキュートスがモモンガの反応に答える。

 

「感謝イタシマス。伯父上」

 

 NPC全員が息をのんだ。アルベドの言が肯定されたのだ。至高の御方によって。この御方は何よりも家族を欲しているのだ。

 

 その事にここにいるNPC全員が気付いた。

 

 アウラとマーレが泣き出していた。子どもとして創造されたからだろう。その幼さゆえに今の場でできる感情の表し方が泣くことだけだったのだろう。

 

 アルベドとて平然とはしていない。コキュートスが伯父上と呼ぶことが予測できなかったのだろう。自分とて同様だ。セバスは呆然とモモンガを見つめている。メイドたちも同様だ。

 

 だがここで何をすべきか、正解かはデミウルゴスには分かっている。コキュートスが道を開いてくれたのだ。家族へのなり方を。

 

「お、おい。どうしたんだアウラにマーレ、何か私は泣かせるようなことを言ったか?」

 

「ち、違うんです。嬉し涙なんです。ねっマーレ」

 

「そ、そうだねお姉ちゃん」

 

 泣く気持ちも分かる。パンドラズ・アクター風に言えば本当に家族として愛してくれていたのだ。それを我々が知らないとはいえ、主と配下という関係に落としていたのだ……。嬉しさと申し訳なさが同居している。

 

 だがデミウルゴスはコキュートスの後に続くと決めたのだ。たとえその先に何があろうとも。

 

 

「――不躾ながら私もアインズ様にお願いがございます」

 

「なんだ、デミウルゴス。言ってみると言い。今の私は非常に機嫌がいい。大抵の願いなら叶えよう」

 

 アウラとマーレが泣いているのには困惑しておいでのようだが、機嫌が良いのは本当だろう。実際今まで見てきた中で一番の笑顔を浮かべている気がする。ああ、我々は知らない内にこの御方を苦しめていたのだ。

 

「私も、伯父上とお呼びしてよろしいでしょうか?」

 

 その言葉に伯父上は優しそうに、嬉しそうに笑った。そして私に返答を返した。

 

「構わない、構わないとも、デミウルゴス。私にとってお前はウルベルトさんが残していった息子だ。血のつながりはないが親友の息子だ。叔父上と呼ばれるのは……率直に言えば嬉しい」

 

「感謝いたします。伯父上」

 

 デミウルゴスの次に動いたのは、セバスだった。彼は執事としての誇りがあるのだろう。それを超えて僕としてではなく、ただのセバスとして。家族になるために。

 

「アインズ様……私もお願いがございます」

 

「セバスもか。構わないとも、言ってみると言い」

 

「私も伯父上とお呼びしてよろしいでしょうか?」

 

「もちろんだとも、セバス!」

 

 次に動いたのはアウラとマーレの姉弟だった。二人とも顔を泣きはらしながらも嬉しそうに伯父上に駆け寄る。

 

「アインズ様! 私も、私たちも伯父さんって呼んでいいですか?」

 

「えっとお願いします、お、伯父さん。」

 

「もちろんだとも、アウラ、マーレ」

 

 優しい笑顔だった。どちらも喜んでいるのが分かる。次に動いたのはシャルティアであった。アウラを無理矢理押しのけた。

 

「アインズ様、私も、伯父上とお呼びしたいでありんす!!」

 

「何するのよシャルティア!!」

 

「二人とも喧嘩は良さないか? そしてシャルティア、構わないとも。私たちは家族だ」

 

 そして最後に動いたのはアルベドだった。満を持して動いたと言えるだろう。

 

「モモンガ様!! 私もお願いがあります!」

 

「言ってみると言い、アルベド」

 

 そしてアルベドは悩んでいることを伯父上に話した。

 

「私はモモンガ様のことを何てお呼びすればいいでしょうか? 私は側室です。やはり旦那様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか? それとも何か別の呼び方をした方がいいでしょうか?」

 

「ふむ……そうだな。何だったら呼び捨てにしてみるか?」

 

 その言葉にこの場にいる全員が息をのんだ。至高の御方を呼び捨てにする。例え許しがあったとしても難しい事だ。だがアルベドは違った。

 

「ではモモンガとお呼びいたします!! キャッ」

 

 嬉しそうに笑い声を挙げながらアルベドは笑った。それをシャルティアとアウラが面白くなさそうに見ている。

 

 なるほど、二人とも側室を目指しているのだろう。だから先行したアルベドに対して敵対心を持っているのだ。だが伯父上はその事には気づかない。ただ嬉しそうに笑うだけだ。

 

 だがその笑顔を見れたこと。真実の素顔を見れた、自分達は運がいいのだろう。その素顔を見れていない者たちもいるのだから。メイドたちはメイドたち同士で話し合って情報が伝達できるだろうが……その他のNPCには自分とアルベドたちで伝えておく必要があるだろう。

 

 これから先、伯父上の顔が曇らないように。

 

★ ★ ★

 

 

「ふぅ」

 

 ネムの発案で行われた、食事会が無事に終わった。

 

 成果はあった。いや想像以上だろう。コキュートスが自分のことを叔父上と呼んでくれるとは驚いた。だが親友の子どもたちに叔父上と呼ばれるのは嬉しい。

 

 そしてリビングで待っているとネムが入ってきた。

 

「サトルーただいま~」

 

「ああ、お帰りネム」

 

 ネムが今日も自分の部屋に帰ってきた。場合によっては帰ってくるのを待ってくれている時もある。帰るべき場所がある。待ってくれてくれる人がいる。これほど嬉しいことは無い。

 

「食事会はどうなったの?」

 

「ああ、大成功だった。ありがとう、ネム。おかげで俺はNPCたちと家族になることができた」

 

「そっか……力になれてよかった!」

 

「ネムはいつも俺の力になってくれているさ。そうだな、話は変わるがそろそろ夜ご飯にするか」

 

「はーい」

 

 メッセージの魔法を使い、メイドたちにリビングに食事を運ぶように命令する。この豪華な食事を家族と一緒に食べられるというのは嬉しい事だ。リアルにいては得られない物だった。

 

「どうしたの、サトル? 少し悲しそうだよ?」

 

 気づかれた。そうだな。ネムは自分の妻だ。自分の苦しみを吐き出しても受け止めてくれるだろう。こんな子どもにそんな役目を押し付けていると考えると、自分自身情けなくなるが。だがNPCには自分が弱いところを見せる訳にはいかない。見栄になるだろうが。かっこよく見せて信頼してもらわなければならないのだから。パンドラズ・アクターにもこれ以上負担をかける訳にはいけない。彼は色々と着々と仕込みをしているのだから。

 

「なぁ、ネム。頭から消えないんだ。母さんは俺の好物を作ろうとして台所で冷たくなっていた。それから俺は食事をとることを忌避してきた。だからアンデッドになったんだと思う。俺に好物が無ければ、母さんが無理をして食事を作ろうとしなかったはずだ。それを考えると今の自分が罪深く思えてしまうんだ」

 

 ネムがこちらを見ている。そして何かを考えてくれているようだ。暫く待っているとネムはいきなり自分を抱きしめた。

 

「サトル……悲しかったね。お義母様が亡くなったのはサトルのせいじゃないよ。それにお義母様だって喜んでサトルの好物を作ろうとしてくれたと思う。だってそんなに疲れてたのにサトルの好物を作ろうとしてくれたんだから」

 

 気づけば目から涙が溢れた。ああ母さん。ごめん、ごめんよ。何も返してあげられなくて。俺がもっと家事を手伝っていれば……死ぬこともなかったはずだ。生きてくれていたはずだ。

 

「サトル……お義母様はそんなに悲しんだサトルを見たくないはずだよ。笑顔でいなくちゃ!!」

 

「そう、かな?」

 

「そうだよ!」

 

 自分が泣いているところをメイドたちに見せないためにメッセージを送る。食事はリビングに置いていてくれと。そして自分を抱きしめてくれているネムを抱える。

 

「わ!」

 

 急に持ち上げられて驚いたようなネムを無視して寝室に向かう。今はただただ彼女と繋がっていたい。悟はそう思った。

 




本当は19月の07時21分に投下したかったけど、19月っていつだよって自分で突っ込みを入れてしまいました(´・ω・`)

感想くれると嬉しいです(^_-)-☆

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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