『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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遅くなりましたが今年の初投稿です。

一部本作の重大なネタバレがあるため伏字にしております。

気になる方はメモ帳などにコピーしてみてくださいm(__)m


第2章 始まりの終わり、終わりの始まり
第1話


 帝国の最高峰の頭脳の持ち主であり最強の魔法詠唱者(マジックキャスター)は自室にいた。しわくちゃな体でありながら覇気を感じた。老いてなお彼は最強なのである。彼以上の魔法詠唱者(マジックキャスター)はまず存在しないだろう。

 

 そんな、フールーダ・パラダインは苛立っていた。なぜなら、実験が全然進まずにいるからだ。いったいどれほどの時間を費やしただろうか。いったいどれだけの時間をドブに捨ててしまっただろうか。

 

 それにもかかわらず、自分は未だに死の騎士(デス・ナイト)すら支配できないでいる。それがどれほどの苦痛か、誰が想像できるだろうか。想像できるものなどいるはずがない。自分だけが感じている恐怖である。

 

 自分は魔法の深淵を覗きたい。ただそう願っていた。願い続けて、そのために人生を捧げてきた。だがこのままでは魔法の深淵に届かずに寿命を迎えてしまうのではないかと、恐怖を抱え、焦燥感を常に感じている。今だってそうだ。何故焦燥感を感じるのか。

 

 先導者がいないからだ。自分は常に先頭を走り続けている。先達がいないゆえに、常に自分で道を切り開かなければならない。弟子たちが羨ましいと思うこともある。自分の進んだ道を最短距離で進むことができるのだから。楽をして強くなれるのだ。妬ましいにも程がある。

 

 今だってそうだ。必死に実験を繰り返していた。ただ一心に。

 

 そんな中だった。後ろから声がかかったのだ。余りの出来事に驚愕を覚えた。

 

「随分、大変そうですね?」

 

「——誰じゃ!?」

 

 この自分の執務室は幾重にも魔法でガードしている。何よりフールータ・パラダインは、逸脱者である。帝国全軍に匹敵する個人である。その自分に気付かせないように、ここまで侵入し自分の後ろを取る。普通ならありえないことが起きている。

 

 即座に意識を研究者ではなく戦闘者の自分に入れ替える。自身はただの理論家ではない。実戦もできる魔法詠唱者(マジックキャスター)である。

 

 まず距離を取りつつ相手を観察する。のっぺらぼうの姿から見るに……二重の影(ドッペルゲンガー)かその上位種。つまり、ここまで弟子の誰かに化けて潜入してきたのだろう。だがそれでも不思議である。下の階層までならそれで潜入できるかもしれないが、この階は自分しか立ち入れない階層である。探知の魔法は使っている以上何らかの警報が鳴ってもおかしくはない。いやならなければおかしい。だがなっていない以上……相手をもう一度よく見る。フールーダにはタレントがある。魔力系魔法詠唱者の行使可能な魔法の位階をオーラで見抜くことが可能なタレントである。

 

 それに反応がない以上、何らかのマジックアイテムを所持している可能性が高い。つまりこの二重の影(ドッペルゲンガー)を退治してしまえば、自分はそのアイテムを入手できより強くなることができる。あるいは、逸脱者である自分の魔法をすり抜けることが可能なアイテムを所持している以上、死の騎士(デス・ナイト)すら支配可能になるかもしれない。

 

 だがそれは行動に出ることは無かった。いや出来なかった。二重の影(ドッペルゲンガー)が何者かに変身したからである。その姿はエルダーリッチに似ていた。だが強さが異なると直感がささやいていた。そしてそれ以上に。

 

「——おお……!!」

 

 思わず涙が自分の目から流れていた。自分のタレントの効果が表れた。初めて見る魔力の暴力である。この魔力の力を見るに、第7位階、第8位階、いやこれはもしやと、失礼かもしれないがおもわず問いかけていた。

 

「貴方様は、第10位階の魔法行使が可能なのでしょうか?」

 

「ええ、私は第10位階の魔法の行使が可能です」

 

 ――神が現れた。ずっとずっと望んでいた、自分の先達をついに発見できた。感動である。その感情を表すように思わず土下座をする。靴も舐めようと考えたが……嫌がられては不味いと冷静な部分の自身がささやいていたので土下座だけで通した。そして彼から言葉がかかるのを待つ。返事は永遠のようであり、一瞬でもあった。

 

「貴方に頼みたい事があるのですが、ご協力頂けますか?」

 

「勿論でございます! 私の全てをあなたに捧げます!」

 

 躊躇はない。全てを捧げよう。その代わり……。願いは一つ。きっと通じるはずだ。

 

「見返りとしてあなたが魔法の深淵を覗けるように助力いたしましょう。そう、10位階までの行使ができるように魔導書などで支援いたしましょう」

 

「感謝いたします、我が神よ!」

 

 捧げるのは当然である。自分は魔法の深淵を覗きたいのだから。そのためなら孫のように感じているジルクニフでも生贄に捧げてみよう。

 

「では、まず手始めに――」

 

「――了解いたしました、すぐに準備を始めます」

 

 心の中で一度だけジルクニフに謝罪する。これから先、どうなるか分からない孫のような存在に対して。もしかしたら死ぬかもしれない可愛い孫に。

 

(すまんなジル。私は魔法の深淵を覗きたいのだ)

 

 

★ ★ ★

 

 アルベドは現在モモンガの執務室で共に仕事をこなしていた。パンドラズ・アクターが裏方……帝国などへの工作を行うことになり、アルベドがモモンガの執務の補助を担当していた。守護者統括として考えれば、正常な状態にようやく戻ったと言えるだろう。今までパンドラズ・アクターが補助を担当していたのが可笑しかったのだから。

 

 愛する御方の心は少しは理解している。不愉快になりそうな仕事は事前にパンドラズ・アクター、デミウルゴスが除いており、最終段階でアルベドが確認していた。自分はこの御方に愛されている。それが理解できているからこそ行える不正である。正妻であるかどうかは問わない。この御方の心を締め付けようとしていたのだから。だが、今の自分はモモンガの役に立っていると自負ができた。偽ることに対してパンドラズ・アクターが言っていたような、正妻になるなら綺麗でいなければならないなどの言葉も乗り越えている。正妻の座は一時的に譲っても良いと考えている。100年後から独占できれば十分である。

 

 腹立たしい事ではあるが、現在のアルベドは愛されているが、それは至高の41人の影があるおかげである。自分自身の力で寵愛を得たネム・エモットには及ばないと思っている。

 

 悔しいが今は良い。先程考えたように100年後には自分が1位になれるはずなのだから。いや、100年後には自分が1位になるように努力する。

 

 だからこそ執務の時間は唯一二人きりになれる時間ともいえる。多くの時間を主はネム・エモットと過ごしているようだから。腹立たしい。だがそれで良いのだ。それも今だけなのだから。もしかしたら魔法を使って延命させるかもしれないが……その時はその時、真正面から打ち勝つだけである。

 

 自分ならそれができると信じている。

 

「あーアルベドよ」

 

「はい! 何でしょうか、モモンガ様!!」

 

「……いや、何でもない」

 

 そしてモモンガの上に座りながらアルベドはモモンガと共に今日行うべき執務を行っていた。どうせなら夜の分も今してくれればいいのにと思いながら。というより最初に手を出されて以来何もないのが少し寂しい。

 

 そして夜の相手をしてくれないのが少々……否、かなり不満であった。それもこれもあの小娘、ネム・エモットのせいだ。愛する方を独占しようとするとは許されざる行為である。だがその日々もいつか終わりが来るとアルベドは信じている。

 

 その時が来るまでモモンガの膝上で執務を続けよう。

 

 少しでもいいから興奮して人間形態になって押し倒してくれればいいのに。

 

★ ★ ★

 

 それは本当に突然だった、ブレインにとって。夜半村人たちに迷惑をかけないように村の外れで鍛錬をしている時だった。なお、森の賢者はブレインを少し離れたところで見ている。自分を訓練馬鹿とか言っているが疲労しない以上訓練を続けるべきだろう、そんなときである、目の前にとある存在が現れた。4本の腕を持ち4つの武器を装備した青色の存在である。そして尋常じゃない寒さを運んでくる相手である。武者震いではない。この寒さから逃げろと直感がささやいている。まるでシャルティアが現れたかのように。

 

 恐らくではあるが、彼がパンドラズ・アクターが言っていた、裏の護衛なのだろう。確実にその強さはシャルティア級だと推察できる。今の自分では逆立ちしても勝てない存在である。森の賢者は名前の通り目の前の相手の強さを理解しているのか、即座に腹を出して服従のポーズをとっていた。森の賢者らしい正しい判断だ。自分も武器を手放し土下座することが正しいと思う。だが違うのだ。ブレインにとって、いつかは辿り着くべき頂きなのだから。多少震えながらも視線を必死に逸らさずに見つめ続ける。すると声をかけられる。

 

 

「何故、オ前ハ強クナロウトスル?」

 

 問が投げかけられた。返答はきまっている。簡単なことじゃないか――

 

「――頂きを見た、故に頂きを目指し続ける」

 

 そうだ、たとえどれほど遠くとも、諦めはない。パンドラズ・アクターの主は自分達より弱かったのだ。なら不可能ではないはずだ。まだだ。自分の限界はここではない。否、不可能と言う言葉は言い訳に過ぎない。いつか必ず頂に到達するのだ。ガゼフにも勝つ。それも重要な目的ではある。だがそれは今の自分にとって通過点に過ぎない。今の自分は何時かシャルティアに傷を付ける。それこそが人生をかけて成すべき目標だと考えているからである。

 

 ブレインは剣に人生を捧げているのだから。ブレインに仲間や恋人は不要だ。それで力を手に入れている人物を知っている。だが自分にとって……唯一の相棒は刀なのだ。

 

 自分は求道者だ。間違えるな。自分より強大な奴らはいる。だがそこで甘えるな……それこそが剣に生きるということなのだから。

 

「良イ返答ダ――至高ノ御方、アインズ様ニオ仕エスル第5階層守護者コキュートス」

 

 その言葉にブレインは少し前の出来事を思い出す。具体的に言えばシャルティアと戦ったときのことだ。あの時コキュートスなら名乗りにすぐに気づいただろうと言っていた。そしてそんな存在に先に名乗られた。

 

 恐怖からの震えではない。武者震いが起きた。今のブレインはパンドラズ・アクターの訓練の方針に従って、ようやく指が一本届いたかどうか。そんな格下相手にわざわざ名乗ってくれた。感謝しかない。

 

(これもパンドラズ・アクターのおかげか。感謝だな)

 

 あの時無理矢理立ち直らせてくれていなかったら、こんな奇跡は無かったはずだ。今はただその奇跡に感謝する。

 

 一度ブレインは背筋を正し、軽くコキュートスに対して頭を下げる。弟子が師匠に対して礼を取るように。

 

「――ブレイン・アングラウス。頂きを目指し続ける者だっ!!」

 

 咆哮を上げ目の前の存在を睨みつける。そうでなければ竦んだ体が思うように動いてくれそうにないからだ。村への防音など関係ない。今はただ稽古をつけてくれるコキュートスに感謝である。戦士として対峙してくれる相手に感謝である。シャルティアとは違うと思った。この男も武人なのだろう。

 

 そして稽古が何度も行われた。この一撃ならガゼフを倒せると確信する一撃を以て、コキュートスに斬撃を送り出す。だが、まるで何の抵抗もないかのように自分の刀は滑らせられる。そして、体勢を戻そうとしたときには首に一皮だけ傷つける繊細な技を突き付けられる。

 

 ここまでできるようになるのだと。いつかこの頂に到達するのだと。まだた、まだいける、そう心に誓いながら。

 

「未熟、重心ガ下ニイキスギテイル」

 

 反論はしない。そんな余裕は自分にはない。首筋に置かれていた刀が戻されるのを皮切りに稽古が再開される。夜が明ける直前まで。

 

 その後、疲労無効の指輪をしていながら恐怖感からか息も絶え絶えになっていた。だが確実に強くなれたと思う。最低でもシャルティア級に会っても恐怖から目を逸らすことはない程度の胆力は付いた。尤も恐怖で竦まなかったとしても一瞬で殺されてしまいそうであるが。そんなブレインにコキュートスから言葉がかかる。予想もしていないことで。

 

「一ツ。物ヲ尋ネタイ」

 

「……俺に答えられることならな」

 

 その言葉を皮切りに先程のように沈黙が闇を支配する。どう説明しようか悩んでいるかのように。沈黙が痛い。何をそこまで悩んでいるのだろうか。

 

「私ハ、アインズ様ヲ筆頭二至高ノ41人ニ忠誠ヲ捧ゲテイル」

 

 その言葉を皮切りにコキュートスから悩んでいることを相談される。曰く自分は今までアインズに忠誠を捧げられれば良かった。だが主が望むのは家族になってくれる存在ということを知ってしまったと。どうすれば主が望むような家族になれるのかと。

 

 ……それは相談する相手を間違えているような気がする。自分は求道者だ。刀に命を捧げている。一般的なことには疎いのだ。

 

(いや、こいつらよりは詳しいのか?)

 

 パンドラズ・アクターを含めてNPCと言ったか、彼らはどこかチグハグである。それに気付けたのは何度もNPCたちと接しているからだろう。例えば時々村に来て目にするユリ・アルファ。自分よりは強いが……不自然な強さだ。

 

 何よりシャルティアの創造されたと言う言葉。元から完成した姿で作成された。どんな理かは知らないが、非常に恐ろしい事である。このコキュートス並みの存在を作り出せるのだから。だがそのせいか彼らが必要とする場面以外、つまり必要のないと考えられていた場面では精神が安定していないように見える。

 

 コキュートスはこと戦闘面では絶対の強さを持っている。精神もそうだろう。だが戦闘以外の面と聞かれると……自分に家族のなり方を求めるぐらい、精神が未熟である。

 

 これは自分が答えても良い事なのだろうか。というより応えられることなのだろうか。普通に考えて村長や村長夫人、エンリの嬢ちゃん達あたりに聞くべき事柄だと思うのだが。

 

 だが稽古をつけてくれた相手に対して何も返せないのではまずい。恐らくこれを聞きたいから稽古をつけてくれた相手に対して、答えられないのは不味い。これ以降の稽古が無くなるのは……格上に指導をしてもらえる機会を逃すのはまずいのだから。自分の目標のために。

 

 ブレインは必死に回答を絞り出す。

 

「そうだな、確かパンドラズ・アクターに聞いた話だと、親友の息子と思われてるらしいから、義叔父上とでも呼んでやれば喜んでくれるんじゃないか?」

 

「……ナルホド。試シテミル価値ハアルナ。感謝スル」

 

 それで今日の稽古と会話は終了して……まるで霞のように目の前の人物の存在感が消え去った。影に戻ったようである、

 

 それを少しだけ見ながら空を見る。太陽がそろそろ出てくる時間、つまり村人たちが起きてくる時間だ。それを思いながらブレインは、またしても鍛錬に戻る。頂きに到達して見せると信じ続けて。

 

 それを呆れたように見ている森の賢者を尻目にしながら。 

 

★ ★ ★

 

『聞こえているか、セバス?』

 

『はっ聞こえております、アインズ様』

 

 それは王国の首都に辿り着いて暫くたった後のことだった。アインズ様と言う言葉が聞こえた時点で近くにいたシモベやNPCであるソリュシャン・イプシロンが敬意を表すべく頭を下げているのが見える。もちろん自分も敬意を示すように礼をする。

 

 そして、話を聞く準備を終える。

 

『今からだが、私の代理人がお前たちの下に向かう。その者の指示に従って行動を開始してくれ』

 

『ご命令、拝承致しました』

 

 そしてメッセージの魔法が切られる。代理人とはだれのことであろうか? 考えられるのはデミウルゴスだろうか? ……少しだけ悪感情を持っている同僚を思い出しながら自然とだれが代理人になるかを考えていた。いやそもそも、代理人というのが可笑しいのだ。NPC同士なら全員知っているのだから名指しするはずである。つまり可能性が高いのはアインズが生み出したシモベであろうか。それならばわざわざ代理人と言った言葉に納得がいく。だが自分の中で何か違うとの疑念が生じる。

 

 そうこう考えていると、5分とかからずにゲートが開かれる。出てきたのは、知らない顔であった。だがシモベではない。同じNPCであると理解できる。

 

「お初にお目にかかります。私、宝物殿領域守護者を拝命しておりますパンドラズ・アクターと申します。よろしくお願い致します!」

 

 パンドラズ・アクター。その名前はナザリックにおいて有名である。ナザリックの智者アルベドとデミウルゴスに匹敵する智者として。そしてアインズが生み出したNPCとして。だがそれ以上のことをセバスは知らない。

 

「あなたが、パンドラズ・アクター様ですか、こちらこそよろしくお願いします。して我々への指示とは?」

 

 ソリュシャンが少しだけ驚愕の表情をしているのが分かる。彼女はプレアデスとの話し合いで事前に少し彼のことを知っているのだろう。だが自分から見て思うのは彼が不自然なほど情報が知らされていない存在ということだ。だが表には出さない。何より彼を疑う事は、主の意向を疑うことにつながるからだ。

 

「セバス殿、あなた方にお願いしたい事があるのですが?」

 

「お聞きいたしましょう」

 

 お願いと言っているが、実質の命令である。パンドラズ・アクターは至高の御方の代理人である。そんな人物の頼みを断るのは主の意向を無視することにつながる。セバスには元から断るという選択肢は無かった。後はどんな命令が下されるか待つだけである。

 

「あなた方に頼みたい事というのは他でもありません。この王国で死にかけており苦しんでいる者たちを一人でも多く助けてもらいカルネ村に送ってもらいたいのです」

 

「……理由をお尋ねしても?」

 

 セバスにとってこの命令は渡りに船である。セバスにとって困っている人を助けるのは当たり前という自身の創造主の願いだろうか? その思いがある以上嬉しい命令である。しかしソリュシャンは違う。ここで理由を聞くことで疑問を解消させなければふとした拍子に暴発するかもしれないからだ。いや違う暴発ではなくて趣味を持ち込むかもしれないからだ。至高の御方の命令を無視するとは思ってはいない。しかしシャルティアの例もある。彼女のようにふとした拍子で命令違反を起こしてしまうかもしれないのだ。慎重になって当然である。

 

「もちろんです! では最初からお話しいたします。まずセバス殿は気づいておられるようですが、始まりはシャルティア殿の命令違反です」

 

 気づいていることに気付かれた。いや、やはりそこが一番の問題なのだろう。アインズが創造した宝物殿領域守護者が命令を伝達しに来ている。命令違反を無くさせるためであろうと推察は出来る。実際シャルティアのことを聞いてからソリュシャンの態度に変化が現れた。今までも聞く体勢でいたが、少しだけ慢心があったように感じる。その慢心が無くなっているからだ。

 

「シャルティア嬢の命令違反は許されない物ですが、結果としては我々を打倒できる存在のあぶり出しに成功しております。実質的な彼女の成果と言えるでしょう。そこでアルベド殿、デミウルゴス殿そしてアインズ様と話し合って世界征服の方法を変更しようと考えています」

 

 世界征服の変更。大きな方針の転換である。自分でも驚いてしまう。だが納得もしてしまう。ナザリックの智者3人の話し合いが行われたなら。そこに3人を上回る智者である主の意向が加わればそれは間違いなく正しい方向である。

 

「そこで先ほど言った、王国で苦しんでいる者たちを助けてもらうという話に戻ります。あなた方には多くの苦しんでいる者たちを救い、カルネ村に送っていただきたいのです。そして増えた人口に従って革命を起こさせます」

 

 革命を起こさせる。なるほど、王国を合法的に支配するために間接的統治をするのだろう。自分たちが救った者たちの心を救われたという気持ちで縛って。

 

 ソリュシャンの顔には驚愕が浮かんでいる。元々世界征服は主の望みであった。その方法を変更することに驚いているのだろう。セバスとて少なからず驚いているのだから。

 

 だが我々を打倒できる存在を考えれば妥当ともいえる。何よりあまり好きではなく繰り返すことになるが、ナザリック一の智者デミウルゴス、それに匹敵するアルベドと目の前にいるパンドラズ・アクター。さらに言えばその3人を超える至高の御方の決定に逆らうつもりは無い。

 

「了解いたしました。王国にて地獄を見ている者を救い、カルネ村に送りましょう」

 

「よろしくお願いします。カルネ村への転移門(ゲート)はシャルティア殿が開く手筈となっておりますので、救出したものは出来る限り早くカルネ村へお願いします。救った者のメンタルケアは我々とカルネ村の者たちで行いますので」

 

「了解いたしました」

 

★ ★ ★

 

「ふぅ」

 

 今日も仕事が終わった。

 

 執務室からリビングへ向かう。食事をネムと一緒に取るためだ。最近では朝から夕方までアルベドと共に執務を行うのが日課になっていた。その後ネムと一緒に夕食を取るのだ。時々はアルベドも一緒である。なおずっとアルベドは小さい状態である。しかも執務の時はずっと膝上に腰かけている。そうするとどうしても彼女のにおいや僅かに触れるは肌などから興奮してしまう。アンデッドの精神が無ければ即座に押し倒していただろう。

 

 どうしてこうなったと嘆きたい。

 

 やり直してもきっと同じ結果になるだろうと思いながら。ご飯が美味しい。ただの現実逃避である。そこで横に座るネムのことを目にする。

 

 隣にいるネムを見る。可愛い。ナザリックにいる女性たちと比べれば月とスッポンかもしれないが、自分の身の丈に合っている純朴さがある。正直アルベドのおかげでムラムラしているので手を出したい気持ちはある。しかし今は食事中である。我慢するべきであろう。

 

 できればアルベドにはこれ以上手を出したくない。タブラ・スマラグディナ、親友の娘に手を出すのが心情的に嫌なのだ。なら代わりにネムに手を出しても良いのか? 答えは簡単である。駄目だろう。確実にたっち・みーに逮捕されると思う。だがそれを指し置いても禁断の果実に手を出してしまった以上、引きさがることは出来ない。ただ彼女を幸せにすることだけを考えよう。

 

 ネムが覚えたての食事マナーを使いながら食事をして頬を美味しそうに膨らませていた。何と言うか和む。可愛い。だが自分は食事をとっていいのか少し疑問に思うが目を逸らす。

 

 そういえば結婚式はやったほうが良いのだろうか? 要検討である。その場合アルベドをどうするかも考えなければならないのも辛いところだが……。後でパンドラズ・アクターに相談しよう。

 

 それと直近の課題である、自分はどうすれば守護者やNPC達と仲良くなれれるだろうか?

 

 純粋なネムに聞いてみることにした。何かのきっかけになるかもしれないと思いながら。

 

「ところでネム? NPC……部下たちと仲良くしたいんだがどうすれば良いと思う?」

 

 すると食べ物を咀嚼し終わり飲み込んだ後コテリと首を傾げた。可愛い。

 

「うーん……そうだ! みんなと一緒にお食事すると良いと思うよ! あと、一緒にお風呂に入るのもいいと思う!」

 

 そして帰ってきた返事はなるほどと悟に思わせた。確かに宴会等上司が開く場合もある。そこで横の繋がりを確立していくのだ。ナザリックに普通の宴会が必要かどうかは分からないが、一定程度宴会を開くことには合理性がある。

 

 また、お風呂に関しても、同性の守護者たちとならお風呂に入るのはとてもいいことだと思う。いいアイデアだ。

 

「ありがとう、ネム。少しだがこの先どうすればいいか道が見えた気がする」

 

「そうなんだ。良かった。力になれて!」

 

 そうして二人で談笑しながら食事を続ける。アルベドとのことをいつ告げるか悩みながら。いや今言うべきだろう。それで怒られても自業自得である。

 

「ああ、それとネム」

 

「何、サトル?」

 

 純朴の精神を持つネムである。思わず悟は土下座を慣行していた。

 

「どうしたの、サトル!?」

 

 急に驚かせてしまったようだ。だが謝罪しなければならない。恋人がいたのに別の人物に手を出してしまった事を。

 

「本当にすまない。アルベドに手を出してしまった」

 

「手を出した?」

 

 ああ。その言葉じゃ伝わらないのか……自分は本当に幼い子どもに手を出してしまったと自分を恥じる。とは言えもう引き返せない。幸せにするだけだ。

 

「ああ、そのだな。ネムとするエッチなことをアルベドにもしてしまった」

 

「ふーん」

 

 少しだけネムの表情が変わった。拗ねているような表情だ。頭をもう一度しっかり下げて謝る。

 

「すまなかった! 決してネムに魅力がないとかそんな理由じゃないんだ。親友の娘に迫られて断れなかっただけなんだ!」

 

 自分で言っていて最低である。普通親友の娘に手を出すなんてことはしないと思う。タブラ・スマラグディナに怒られそうだ。というか怒鳴られたほうが心が楽になる気がする。

 

 そうしているとネムがかつかつと足音を立てて自分の隣にまでくる。怒られる覚悟を決める。すると――

 

「てい」

 

 手をつねられていた。痛みは無かった。

 

「これで許してあげる!」

 

 思ったよりも簡単に許されて茫然としてしまった。

 

「アルベドさんも寂しかったんだと思う。それに仲間外れは可哀そうだよ!! でもずっと一緒にいてね」

 

 仲間外れは可哀そう……やっぱりこの子はまだ子供なのだ。そんな子に手を出した。自分に嫌悪感を感じる。だがらこそ責任を取る。それが鈴木悟がすべきことだ。

 

「ありがとう、ネム」

 

「ううん。構わないよサトル! それよりもそんな話してたら私も……」

 

 誘われた。手を出さなくちゃ。今はこの時を楽しもう。

 

★ ★ ★

 

カツカツと宝物殿で足音が響く。パンドラズ・アクターが歩く足音である。そしてリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを箱に大事にしまい棚においてから、霊廟に入る。

 

 そして周りを見渡す。そこにいるのはモモンガの仲間たちの不格好な姿である。それを見回しながら大きく叫んだ。

 

「——なぜ皆様は捨ててしまわれたのですか!!」

 

 それは糾弾の声だった。まるで泣いているかのように。

 

「——リアルが忙しい。真実を知った私なら理由は分かります。理解もできます、ですが、モモンガ様を、父上を独りぼっちにする程度の友情しかなかったのですか?」

 

「そんな訳がない! それでも言わせてください!!」

 

「ほんの少しだけでも父上との友情を優先することは出来なかったのですか!!」

 

 はぁはぁと肩で息をしながら彼は叫ぶ。霊廟で似つかわしくない叫び声が泣き声がこだまする。

 

「——父上の願いはきっと皆さまと再会することなのでしょう。ですがそれは表面的な物でしかありません。きっと心の奥底では――」

 

「そのために私は流れ星の指輪(シューティングスター)を――のために使わせていただきます。何より、この指輪一つでも皆様を蘇生……いえ、転移になるのでしょうか? どちらにせよ難しいと判断いたしますから」

 

これはパンドラズ・アクターにとって儀式でしかない。至高の40人に対する謝罪でしかない。その謝罪も形だけであろう。何故ならパンドラズ・アクターはモモンガの本当の願いを知っているのだから。そしてその願いを叶えるためには……。

 

 

「生贄……いえ、触媒が必要ですね……カルネ村、表にこの世界最高峰の腕の持ち主を護衛にして裏にコキュートス殿を護衛にしている点で、安全は確保できているでしょうが……この世界にアインズ・ウール・ゴウン都市国家ができる道筋ができる頃には、成し遂げなければ」

 

 その眼が怪しく光った。まるでモモンガの骸骨の姿のように。




次話は8月10日の1919分に投下します。

なおこの場合の野獣はモモンガ様とする(´・ω・`)襲われるのはネムです(´・ω・`)

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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