『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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前回のあらすじ

事案発生!!


事案9

 妹がおかしい。エンリ・エモットはそう感じていた。毎日寝る時間になると、ナザリックという場所で寝起きしているのだ。何故自宅で眠らないのか。何かがおかしく感じた、エンリ・エモットは村の母親役である村長夫人に助言を頼み、3人で話すことになった。ここに自分の母親がいてくれればと思う。そうすれば村長夫人の手を煩わせずに解決できたのにと考えてしまう。

 

「ネムちゃん? 私の言う事に正直に答えて?」

 

「はーい!」

 

 変わらない妹の元気な声が家の中に響く。最近いつもより元気な気がするのは気のせいだろうか。いや元気な気がする。間違いない。

 

「毎日あの宮殿で寝泊まりしているらしいけど、一体何をしているの?」

 

 ネムはコロちゃんに顔を預けてモフモフを堪能しながらだろう。そうしながら答えた。

 

「お姉ちゃんやンフィー君の邪魔にならないように、サトル……間違えちゃったアインズ様のお部屋で寝泊まりしています!」

 

「ネム!」

 

 思わず声を荒げていた羞恥心からだろうか。確かにネムがいない事で毎日その、恋人の営みをしてきたが……。気を遣わせていたのだろうか……。というより分かって言ってるのだろうか?

 

「ネムちゃん? それだけじゃないでしょう」

 

 その言葉に、視線を少しだけ下げてネムは応えた。エンリには想像できない言葉で。

 

「……実はお姉ちゃんたちがしていることと、同じことをアインズとしています」

 

 目を見開いた。アンデッドと性的なことをしている。どうやって、いやそもそも、アンデッドに性欲はあるのか、なぜそのような事になったのか。何故呼び捨てにできるほど親しくなっているのか。エンリは不思議であった。というよりこれはもう自分が解決できる事態を大幅に超えている。思わず村長夫人に縋ってしまう。年の功で何とか問題点を解決してほしいと考えて。村長夫人も頭を痛そうにしているのが目に入った。希望は無いのだろうか。

 

「……どうやってそう言う事をしているの?」

 

「えっと、アインズ様が人間に変身して悲しそうに泣いてて、慰めているうちにお姉ちゃんたちがやってることをすれば、サトルが救われるかなと思って」

 

「そう……人間の時のお名前はサトルっていうのね? ひどいことはされてない?」

 

「うん! とっても優しくしてくれてるよ!」

 

 村長夫人が大きく息を吐いた。自分も同じく溜息を吐きたい。

 

「ナザリックの人たちより先にあなたが、アインズさんの家族になるとは思っていなかったわ……でも酷いことをされていないなら望むべき縁談かもしれないわね」

 

 村長夫人がいう。確かにアインズと結婚すればネムは幸せになるだろう。あれだけの財力を所持していて、とても強い魔法詠唱者(マジック・キャスター)なのだから。

 

 村長夫人のおかげで一つ謎が解けた、解けた謎は大きすぎる問題があるが、ネムが幸せになれるなら良いだろう。そう思う程度には達観できていた。だけど不思議に思うのは何故、私とンフィーレアの営みをネムは知ったのだろうか?

 

 確かに農村では動物のそういうところや、祭りの時に茂みに行く男女がいるのは確かだ。だがこの年齢の時に正しい知識をエンリは持っていただろうか。いや、持っていなかったと思う。

 

「ネム、その知識をどうやって知ったの?」

 

「えっと、以前泊らせて頂いた時にどうやって、私たちを見つけてくれたのかネムが聞いてみたの。それでその、気持ちよさそうにしているお姉ちゃんたちを見ちゃったの。ちょっとだけしか見せてくれなかったけど」

 

 エンリは救世主に営みを見られたことに羞恥心が込み上げて来ていた。あんまりである。一度救世主は恥ずかしい目に遭えばいいのに。そう、感じてしまった。

 

★ ★ ★

 

 

 今日も起きると横にはネムがいた。その事にアインズは安堵していた。自分は一人ではないと。アンデッドではなく人間に変身できるようになったことで、気づいた。人を殺してしまった事に対する恐怖を。いやそれ以上に人を殺したと知った時のギルドメンバーたちの自分を見る目を思ってしまった。人殺しと罵られて嫌われてしまうかもしれないと。

 

 それをネムは大きな優しさで包み込んでくれた。それが無ければ、ギルドメンバーに見捨てられるという悲惨な想像から立ち直ることは出来なかっただろう。

 

 ネムは既にアインズにとっていや鈴木悟にとって家族といえた。ナザリックの者とどちらを優先するかといえば、苦渋の決断の後、ナザリックの者を選ぶ程度には家族であった。いやその時が来れば、もしかしたらネムを選んでしまうかもしれないが。

 

 そんな究極の選択をしないで済むように行動するのが今のアインズの中の鈴木悟の目的となっていた。

 

 最近はネムは毎日ナザリックに泊り……いや自分の部屋に住んでいるというのが正しいのだろうか? 毎日自分の部屋に来ている以上……泊りに来るという表現は正しくない。帰ってきてるのだから。ネムにとっても悟の部屋はもう一つの家となっているだろう。そう信じたい。

 

 そのための方法として転移門の鏡(ミラー・オブ・ゲート)を利用してナザリックの自分の居室とネムの住むエモット家を直接つなげるようにしている。エンリは既に恋仲となったンフィーレアと一緒に眠るためにネムたちの両親の居室で寝泊まりしているため、エンリとネムの部屋はネムの一人用になっていた。

 

 問題は防備性であるが、ネムが自分の居室に来るときは常に月光の狼(ムーンウルフ)が居座る事で迷い込まれないようにしていた、カルネ村じたいもコキュートスが滞在しているため、ある程度以上の防備が確保されているため、カルネ村とナザリックを常に繋ぎ続けるようにしていた。

 

 あと、たっち・みーに逮捕されることについては自身の中で決着が付いていた。端的に言えば吹っ切れたのである。事情を説明すればきっと執行猶予にしてくれると信じて。

 

 土下座あるのみである。それでワンチャン許してくれると信じている。許してくれるといいな。どちらにせよ後には引けないが。

 

 

 あれから暫く日数は経つが悟は毎日のようにネムに手を出していた。性的に。ナザリックは性的欲求を刺激してくる存在が多いのだ。アルベドやシャルティアはもちろんだが、一般メイドだってその美しさから性的欲求を擡げさせる。

 

 今、悟は誓っていた。親友の娘にだけは死んでも手を出さないと。それだけは絶対に許されないと考えていた。だが、ネムの数段以上、美しくて性的欲求を発生させる美女や美少女たち……彼女たちがいる限り、いつ自分自身の欲望のはけ口にしてしまうか分からない恐怖がある。故に夜、愛してくれているネムと一緒に欲望を発散しているのだ。最低である。

 

 ネムは早熟だったためか痛みをあまり感じていないのが救いである。いや2回目以降、PvPの経験からか最低限気持ち良くさせることは出来ていると思うが。何となくネムの体の弱い部分は分かってきているのだ。ペロロンチーノを超えた変態である。

 

 だがその関係も何れ断ち切らないといけないと思っていた。疲れて眠りながら泣いているネムを見てしまった。「お父さん、お母さん」と呟いているネムを。電流が走った思いだった。ネムは自分を孤独から救ってくれた。だがネムの孤独は癒されていなかったのだ。考えてみれば10歳である。両親を求めるのが普通であり、今の悟とネムの関係の方が異常である。それを理解したからこそ、考えを改めた。自分の欲望は我慢できるものであり我慢しなければならない物である。だからこのネムと今の自分の歪な関係に終止符を打とうと。

 

 

★ ★ ★

 

 アインズはカルネ村にいつも連れ立っているユリ・アルファではなく、今回は初めてペストーニャを連れ立って来ていた。そしてそれを村中の人々が出迎えてくれた。もちろんネムも。ネムはペストーニャを見ても、会ったことがあるから驚かないのは分かるが。他の村人たちも驚いていない。恐らくなれたのだろう。人間以外に訪れる者のことを。

 

「ようこそおいでくださいました、アインズさん? 今日はどういったご用件で?」

 

「いらっしゃいませ、さ、アインズ様!?」

 

 ネムが悟とアインズの言い方を間違えかけているのに少しだけ内面で笑ってしまう。だがここで事件が起きた。そうンフィーレア・バレアレである。彼は自分がアンデッドであることを知らなかったからだ。

 

「エンリ、ネムちゃん下がって!?」

 

 だがそれは村人中から誤解であり、自分達を救ってくれた人であるということで恐々としながらも納得してくれたのだろう。最終的には、「誤解して申し訳ありません、村の皆を、エンリを助けて頂いて本当に感謝しますありがとうございました」と深々と頭を下げてきたからだ。

 

 ……前回の話し合いの結果か村長も自分を様付けすることを止めてくれていた。仲良くなった証拠といえるだろう。嬉しい事である。畏まられすぎるのは、肩がこる。NPCたちももう少し砕けた態度を取ってくれると嬉しいのだが……最近アウラやマーレは砕けた態度をとることが多くなってくれたのが救いである。お風呂での惨劇からは目を逸らすが。

 

 そしてネムは先程まで一緒にいたためか間違えて名前を言い直している可愛いと思う。今から手放すと思うと、アンデッド状態でも胸が締め付けられ沈静化が発動する。だがそれが一番いいのだ。ネムのためにも、これから支配者としてナザリックに君臨するためにも。

 

「今回は一つ実験を行うためにこの村に訪れさせて頂きました」

 

「実験ですか?」

 

「はい、実験です。本当はもう少し早く行うべきだったのですが……まず謝罪させて頂きます」

 

 アインズは大きく頭を下げる。誠意を見せるために。それに慌てるのは村人たちである。救世主に頭を下げさせるなんて許される事ではないからだろう。ネムも驚いている。そしてペストーニャは自分に追従するように頭を下げている。事前の打ち合わせ通りである。

 

「そんな、どうか頭をお上げください!? 我々はアインズさんに助けられてばかりで何も返せていないのですから」

 

「いいえ、充分報酬を頂きました……押し問答が続きそうですので、本題に入らせて頂きますね」

 

 一度言葉を切る。ここからが本題だ。

 

「こちらは、ペストーニャ・S・ワンコという私の家族の一人です。そして蘇生魔法の使い手です」

 

「ペストーニャ・S・ワンコと申します……わん」

 

「そせい、まほう?」 

 

「そせい、まほうとはあの?」

 

 村長と村長夫人が呆然と呟く。いやネムや村人全員が今のアインズの言葉に驚いている。この世界において蘇生魔法が貴重な物ではあるが存在していることは、パンドラズ・アクターたちの尽力で入手出来ている。もちろん下位の蘇生魔法である以上、現地の蘇生魔法での蘇生は不可能だろう。

 

 自分達が関与しなければ。蘇生は不可能なはずである。だがもう自分は迷わない。母と似た人を喜ばせたいという気持ちもある。そして恋人となったネムの心を守りたい。そう思ったからこそ、パンドラズ・アクターと相談の結果で蘇生させるのだ。

 

 パンドラズ・アクターからは容易に許可が下りた。死者蘇生させることで人口を元に戻し、王国への革命のための人口を増やすためにという当然の考えと、ここでアインズ・ウール・ゴウンの伝説を作る事により、他の友人たちの目印にするために行うべきとの許可を得ている。故に後は彼らの同意を得るだけである。

 

「あなた達の許可が得られれば、帝国の兵士に偽装した法国の者たちに殺された者たちを、全員蘇生させようと考えております。今まで蘇生魔法があったのに黙っていて申し訳ありません。私には覚悟が無かったため遅れてしまいました」

 

 村人たちは呆然としている。そんな中、意外にも早く復帰したのは村長ではなく村長夫人だった。

 

「アインズさん。ありがとうございます。ですがなぜ、そこまでの厚遇を我々に与えてくださるのですか? もちろん友人たちを蘇生して頂けるのは嬉しいです。ですが理由をお聞きしたいのです」

 

 母と似た人が喜ぶからという理由、恋人の心を守りたい。など理由はたくさんあるが。それは言わない。それは内に占めておくべき感情である。実際この実験には色々とした利益がナザリックにあるのだから。

 

「私があなたたちを、気に入っているというのもあります。ですが我々にも利益があります。私の知っている蘇生魔法ではいくつかパターンがあるのです」

 

 蘇生した場合どこで蘇生されるのか? 一つ目が死んだ場所での蘇生。二つ目がダンジョンなどの入り口での復活。付近の安全な場所での蘇生。本拠地での蘇生。

 

「私が知る限り死者蘇生はこの4つのどこかで蘇生されます。どこで蘇生されるのか? それを確認するのが今回の実験です」

 

 村人たちが多少理解しているように感じる。いや理解できないのが理解できたという雰囲気だろうか。とにかくにも自分にも利益があることは理解してくれただろう。

 

「ただし、死者を蘇生させるためには金貨や宝石など価値のあるものの利用が不可欠となります。これをあなた達は用意することができますか?」

 

 村人たち全員が顔を見合わせる。先程まであった喜びの感情は薄くなり、絶望的表情である。当然であるアインズが知る限り、この村に60人近くを蘇生させるための宝石などが用意できるとは思えない。いやンフィーレア・バレアレなら一人か二人までなら蘇生させるための金銭があるかもしれないが、それでは周りからにらまれて蘇生しても蘇生されなかった者もいるので不幸な事になるだろう。それが分かっているからかンフィーレ・バレアレは無言を保っている。ネムは呆然と「もう一度お父さんたちに会えるの」と呟きが聞こえてきたがあえて無視した。無視しないと、耐えられそうにないからだ。

 

「村長、革命の件は村人たちに話していますか?」

 

「はい、多少は説明しており全員の了承を得ております」

 

「……分かりました。私はあなたたちを信頼しています。宝石などは一旦私が立て替えます」

 

 その言葉に村中がざわつく。喜びだからであろう。確かに大金であるが、村人を蘇生させる程度なら、パンドラズ・アクターの配下で働いてくれている人間のおかげで、財政面ではプラスの収支になっているからだ。

 

「おお」

 

「ですが何年かかっても構いません必ず返却してください。信頼していますよ? 村長、奥様、村人の人たち」

 

「勿論です、アインズ様」

 

「では少々実験の準備をするのでお待ちください。パンドラズ・アクター! 宝石類を持ってこい!」

 

 その言葉に呼応するように、ゲートからたくさんの宝石類を所持しているパンドラズ・アクターが出てきた。打ち合わせ通りである。

 

「お持ち致しました、アインズ様!」

 

「村長それに奥様、私はこのままアンデッドの姿で彼らの蘇生に立ち会おうと思います。彼らが混乱した場合なだめる作業をお任せしてよろしいでしょうか?」

 

「勿論でございます。アインズさん」

 

「……村人たちをたしなめるのはお任せください、アインズさん」

 

 2人だけでなく、全ての村人が頷いてるのをアインズは見守る。

 

(ああ、やはりここに住む村人たちは良い人ばかりだ……憧れるよ。リアルで出会えれば何か変わったかもな)

 

「ではペストーニャ、実験を頼む」

 

「畏まりました、わん」

 

 そしてペストーニャが蘇生魔法の行使を始めた。一人目の村人がよみがえった。村の中で行ったが、墓地ではなくて村で蘇生された……これは、自分の本拠地で蘇生されるということだろうか。それとも殺された場所がここだったのだろうか……。体はとてもだるそうであり、混乱から抜け切れていない。そしてアインズを見て恐怖心を露にしているが、村人たちが事情を説明すると一人目の村人はアインズに対して土下座するように畏まった。

 

 それが何度も繰り返される。そして遂にエンリとネムの両親の蘇生の番が来たのだろう。二人が泣きながら事情を説明しながら抱き着いている。村人がペストーニャの蘇生魔法に従い徐々に蘇生されていく。みんな混乱から中々立ち直れていないようだが、少しづつ落ち付いてきているように見える。そんな時だった村長夫人が目の前に来たのは。

 

「ありがとうございます、アインズさん。みんなを蘇生させてもらって」

 

「いいえ、構いません。私にもメリットがある事ですので」

 

「それと、ネムの事よろしくお願いしますね? 不幸にしたら許しませんから」

 

 少し虚をつかれた。思わずまじまじと村長夫人を見てしまう。何故自分たちの間柄が知られることになったのか不思議で。そう不思議そうに思った事が分かったのだろう。さらに言葉を投げかけられていた。

 

「エンリが疑問に思って、私に相談してきたので3人で話し合ったんです。その時色々と聞かせて頂きました。本当なら小さい子に手を出してと、怒るべきなのかもしれませんが……私はネムとあなたを応援します。ただ、ナザリックにいる人たちのことも気を配ってあげてくださいね? 特にアルベドさんはあなたの妻になる事を心から望んでいるように感じましたから」

 

 確かにアルベドは自分の妃になる事を望むだろう。だがそれは自分が書き換えてしまった故に生み出されてしまった感情だと思う。最近シャルティアや恥ずかし気にしているアウラを見ていると少しだけ、素で自分を愛しているのかなと思う時もあるが。だとしても自分から見ると彼女は親友の娘なのだ。より小さい子に手出しているが、親友の娘に手を出すよりはましだと信じている。

 

 そんなことを思っていると、思いがけない言葉が村長夫人から満面の笑みで言われた。

 

「それと、皆を蘇生させてくれて私たちを幸せにしてくれて、本当にありがとう、サトル」

 

 その言葉に思わず沈静化が発動する。何故知っているのかということを。悟という名前はネムから聞いたのだろう。さっきも言い間違えかけていたから、2人に問い詰められた時にぽろっと話してしまうのは分かる。

 

 だが何故その名前で呼んだのか。聞こうとしたときにはすでに村長夫人は、今蘇生されて困惑している女性に服をかけながら事情を説明している。その女性も事情を聴き終わると自分に土下座している。もちろんペストーニャにも。

 

 それを見ながら不思議に思う。なぜ私のことを悟と呼んだのか。いや若しかしたら……自分が母と重ねていたことを知っていたのだろうか? では何故知っているのか。傍にいるパンドラズ・アクターに問いかけていた。ある確信を持ちながら。

 

「パンドラズ・アクター」

 

「お呼びですか? アインズ様!?」

 

 いつものように変わらない大振りな動作と、大きな声で帰ってきた。本当にいつも通りのパンドラズアクターである。もう慣れた。

 

「彼女に話したか? 私が自分の母と重ねていることを」

 

 だが今必要なのはそのパンドラズ・アクターではない。今必要なのは宝物殿で話した時のようなパンドラズ・アクターが必要なのだ。声は若干責めるようになったかもしれない。

 

「はい、それとナザリックの人間軽視を改めるためにナザリック全体にも周知いたしました」

 

「……そうか」

 

 パンドラズ・アクターに言いたい事は色々ある。勝手に自分の個人情報を話しやがってとか。母に重ねているなんて、恥ずかしいことを当人に伝えるとか。しかもナザリック全体に周知するとか、普通ないだろうとか。

 

「現在ナザリックが少しざわついているのは、それが理由か?」

 

 今現在ナザリックはアインズにも分かる程度には混乱しているように見える。このことが原因だったのだろう。

 

「お気づきでしたか? 多少それもあります。ですが、悪い方向には動いてないのでご安心を。むしろ良い方向に動いていると考えてよいかと」

 

「そうか……お前がそう言うなら、問題ないというならそうなんだろうな」

 

 思うところがないわけではない。だが、だからこそ村長夫人はあれだけ自分に親身になってくれたのだろう。となるとパンドラズ・アクターを責めることは出来ない。

 

 いや最後に悟と呼ばれたこと……それを考えればパンドラズ・アクターに言う言葉はきまっている。

 

「ありがとう、パンドラズ・アクター。俺が心の底で望んでいた本当の名前で読んで貰うという願いが叶った……お礼と言ってはなんだがお前にはこれを渡して置こう」

 

 そう言いながら流れ星の指輪(シューティングスター)の指輪を取り出す。パンドラズ・アクターはアイテムが大好きである。既に2回使っていて自分には必要のない物だ。この辺りで功を報いてやらねばならないだろう。

 

「おお! この指輪はっ!?」

 

「今までの感謝を込めてお前にやろう、パンドラなら変身して使うことも可能だからな。いや変身せずとも使えるのだったかな。まぁどっちでもいい。自由に扱うと言い」

 

「感謝いたします、アインズ様!」

 

「構わん。だがやはり、名前で呼ばれるのは嬉しいが……物足りなく感じてしまうな」

 

 あの日、母が死んでいなければこんな気持ちにもならなかったのだろう……やはり似ている人に呼ばれるだけでは物足りなく感じてしまった。

 

 

 そして近づかずにアインズは眺めていた……ネムが自分から離れてしまうだろうなと思いながら……。自分以外に抱き着いている姿を見ると両親と知っていても嫉妬してしまいそうである。

 

 そしてエンリの両親たちがある程度落ちついてからだろう。エンリの恋人であるンフィーレア・バレアレが村中に聞こえるように叫んでいた。

 

「お義父さん、娘さんを僕に下さい!」

 

 そう彼は叫んでいた。そして顔が真っ赤になっているエンリと何故か、最初茫然としていながらニコニコとこっちを見ているネムの姿が目についた。

 

 えっ?

 

★ ★ ★

 

 アルベドは気づいていた。ネム・エモットと愛しの君がただならぬ関係になっていることに。だがなぜそうなったかは分からなかった。だが毎日アインズの部屋に訪れているとの状況証拠とサキュバスとしての勘が間違いではないと囁いていた。

 

 やはり村長夫人と最初から仲が良いというアドバンテージが大きかったのだろうか。

 

 だがそれ以上に……何か救われたような表情をする主に泣きたくなっていた。私たちが、私が本当なら癒すべきだったはずなのに、だが怒りは感じない。自分が悪いのだ。孤独という物に怯えていたモモンガに気付くことができなかった……。外部にいる村長夫人に言われてはじめて気づいたのだから。

 

 だがこれ以上負けることを看過することは出来ないでいた。しかしどう行動すれば家族になれるのか……ナザリックにいる者全てが分かっていなかった。あの日ナザリック全体にモモンガの母親に似た人物がいるという情報はナザリック全体に激震を走らせた。そして似ている村長夫人が言った言葉、家族を求めて我々の変革を求めているのではないかとの言葉でもう一度激震が走ったからだ。特にあの場にいたNPCたちの動揺はすさまじい。その動揺がナザリック全体に伝播しているのだ。一度は家族になって見せようと考えたが、どうすれば家族になれるか誰もが分からなかったからである。

 

 現時点で普段通りの業務を行えているNPCは少ない。補給と外担当のデミウルゴス、王国革命計画そしてナザリック内担当のパンドラズ・アクター、カルネ村の連絡役のユリ・アルファと裏の護衛役コキュートスと数えられる人物しかいない。

 

 その中で後者二人が動けているのは単に自分の役目がモモンガの命よりも大切な物と理解しているからである。他の者たちは何とか惰性で任務をこなしているに過ぎない。作業効率の低下は著しい物がある。

 

 アルベドとて同様だ。もしパンドラズ・アクターがいなければナザリックは致命的な機能不全に陥っていただろう。

 

 家族になりたい。だがなり方が分からない。ネム・エモットの真似をすれば家族になれるだろうか。いいや違うはずだ。家族のなり方は他にもあるはずである。やはり、以前村長夫人に言われた通り、モモンガが悲しんでいることを見つけて癒すしかないのだろうか。だがその方法は恐らくネム・エモットに使われてしまった……。となるとやはり同じ方法になるのだろうか? 駄目だ思考が堂々巡りを起こしている。

 

 格下と侮っていた人間の方がモモンガの傷を癒す。我々は何をしていたのだろう。

 

 なぜ誰も気づくことができなかったのだろう。モモンガの孤独を。私だけは気づくべきだった。愛することをモモンガに許された時点で。それだけで、モモンガは孤独の渦にあることを気付くべきだった。それを村長夫人に教えられるまで気づかないなんてどうかしている。

 

 いやパンドラズ・アクターだけは、あるいは自身と同様に知っていた可能性もあるかもしれないが。彼だけはモモンガに創造されたNPCなのだから。いや後で聞いた話だが村長夫人に部下の様に振舞いながら家族と言う言葉を強調していたとユリ・アルファから聞いたことを勘案するに……つまり村長夫人がその事に気付くように誘導したのかもしれない。なぜ直接言わないのか……。その理由もアルベドは察している。創造主に置いて行かれていないからだろう。我々は多かれ少なかれ、彼に嫉妬しているはずだから。置いて行かれたものとして、置いて行かれなかった者に。

 

 どうやって家族になるべきか。これは自分で答えを導くべきだと本能が言っていた。しかし理性はパンドラズ・アクターに聞くべきだと言っていた。彼は聞けば答えてくれるだろうという確信があった。

 

 いや本当は家族になる方法は気付いている。子どものように甘えればいいのだ。アウラのように。アウラは既に一歩踏み出している。甘えるという行動を取ったことで(私がその行動を台無しにしてやったが)。

 

 元々、御方々の子どもとみなされている以上、実際に子どもである、アウラとマーレは主従関係が薄いはずだからである。

 

 しかし、アルベドは無理矢理小さくなったまがい物にしか過ぎない。どうすればいいのかアルベドは全く分からなかった。それにアルベドは子どもとして家族になりたいのではないのだ。妻として愛する方を支えたいのだ。どうすれば妻として家族になれるか見当がつかないでいた。

 

 だが止まるわけにはいかなかった……既にネムにリードを許してしまったのだ。このままでは独走態勢に入られて手が付けられなくなるかもしれないからだ。

 

(この際第2妃でも構わない。何とか妻として食い込まないと……でもそのためには妻として家族にならないといけない……どうすればいいのよ)

 

 アルベドは情けなく涙目になっていた。それで思った。このままでは勝てないと。そこで一つ疑問に思った事をパンドラズ・アクターに問いかけるために探していた。見つけた。意外と簡単に見つかった。私やほかのNPCの代わりをしていて大変だろうが付き合って貰おう。

 

「パンドラズ・アクター、一つ聞かせて?」

 

「何なりと。ただ手短にして頂けると幸いです!」

 

「分かったわ。なら単刀直入に聞くわ。モモンガ様のお母様の蘇生は、本当に不可能なのかしら?」

 

 今からでも本当のお母様を蘇生させることができれば巻き返しができるのではないか、私の発案で蘇生すればモモンガが喜ばれるのではないか、そしてその御方と私が仲良くなれば、妃として推してくれるのではないかと。そう考えてパンドラズ・アクターに問いかけていた。

 

「……リアルとこの世界では既存の法則が異なっております。故に不可能であると断じましょう」

 

「そう、分かったわ」

 

 アルベドは去っていった。元々無理だとは思って、他の方法を考えなければならないと考えていたからだ。可能であればモモンガが既に実行に移しているだろうから。だからパンドラズ・アクターの最後のつぶやきを聞き逃していた。

 

「そう、第10位階の蘇生魔法では届かなかった。しかし世界級(ワールド)いえ、超位魔法ならあるいは……憶測にすぎませんがね」

 

★ ★ ★

 

「死者の蘇生ね……ある程度の力があれば復活自体は可能だが……ただの村人を蘇生させる部下がいるね……」

 

 思わずため息を吐いていた。成程、魔法詠唱者(マジック・キャスター)で俺を遙かに超えているのはよく理解できた。だがそんな奴も以前は弱かったということをパンドラズ・アクターから聞いているし、変に人間味もあるから事実なのだろう。

 

 今見たのは完成された姿だ。ならば俺は剣士としてあいつに迫らなければならない。ガゼフやシャルティアに勝利するためにも。

 

 頂きの高さは再確認できた。これは村人蘇生を行い混乱している村人たちを宥めたりして混乱から解き放ちアンデッドの姿でも友好関係を結ぶための時間だ、なら俺には関係がない。俺は求道者だ。ただ頂きを目指すために、シャルティアを仮想敵にしてもう一度、鍛錬に戻った。仮想敵のシャルティアに何度も小指の爪ではじき返されるのを繰り返す。どうやっても届かない。そんな言い訳を彼方に追いやりながら。

 

 

 

 

 そしてそれを見ている男がいた。村人たちが行っていることを見ながら、離れながら透明化のマジックアイテムで姿が映らないようにして、邪魔にならぬように護衛をしている男だ。コキュートスである。強くなることに命をかけている、ブレインを眺めていた。自分と比べれば弱すぎる。しかし、何かがあるように見えた。

 

 武人としてこの男が高みに上るのを応援したいという気持ちも芽生えていた。

 

 コキュートス自身現在のナザリックが転換期にあるのを気付いていた。アインズの真の望み、家族を作るということを聞いて、動揺していた。自分は御方の剣であろうとしていたからだ。だがそれではいけないと気づいてしまったからだ。何がどういけないのかは漠然としか分かっていなかったが。

 

 そのためどうすればいいのかは分からなかった。どうすれば家族になれるかを……。その隙間を縫うように今のコキュートスにはある願望が生まれていた。この男を徹底的に鍛えてやりたい。まるでシャルティアを仮想敵にしているように動くこの男を。

 

(アルイハコノ男ト親シクナレバ、家族トハ何カ聞キ出セルカモシレナイ)

 

 そんな思いでコキュートスは夜半村の者が寝静まった頃に護衛の邪魔にならない程度で修行を付けてやろうと決めていた。




第1章のラスボス登場。(全体のラスボスはアルベド)

モモンガ様はエモット父(ラスボス)を打倒できるのか! 次話お待ちください!

いつも誤字報告感謝です!

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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