『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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遂に更新です!

今回はちょっと違和感強いかもしれないけど許して!


事案8

 今アインズは人生の岐路に立たされている気がする。アウラたちに流されて一緒にお風呂に入ることになりそうだから。このままではまずい。このワードだけで非常にまずいということは分かってくれると思う。誰か助けて。

 

 どう回避すればいいかが分からない。今いる場所は脱衣所である。ここが最後の回避地点だと思う。アウラは先程から顔を赤くしている。ネムは平然として服を脱ぎにかかっているが……やはり年齢の違いだろうか……アウラの方が大人で羞恥心があるのだろう。

 

 多分二人で会話している時に、ネムが一緒にお風呂に入ったことをふとした拍子に言ってしまったのだと思う。それでアウラは恥ずかしくなりながらも自分も入りたいと思ったのであろう。なぜ羞恥心も強いはずなのに一緒に入ろうと言い出したのか……。

 

「アウラよ私と無理に入る必要はないのだぞ? ネムと二人で入浴したほうがゆっくりできるのではないか?」

 

 2人で入るなら村長夫人も一緒に入れるはずであるし、あれだけアウラがなついて見せたのだから、自分よりも3人いやアルベドも含めて4人で入ったほうがいいような気がする。

 

「いえ、大丈夫ですっ。あのえっとその少しだけ目を、瞑っていただけませんかアインズ様」

 

「う、うむ分かったそうしよう」

 

 アウラに言われた通り目を瞑る。すると意を決したのか衣がすれる音がし始めた。恐らく服を脱ぎ始めたのだろう。何故そこでベストを尽くしてしまうのか……。

 

「え、えっとはい! 準備完了しました!」

 

 ゆっくりと目を開けるとそこにはバスタオルで胸まで隠したアウラがいた。これならセーフである。セーフだといいな。アインズは遠い目をしながらはやくこの状況を終わらせようとアウラたちを促した……諦めた気持ちで。あとネムよりも少女らしい体形だとかそんなことは絶対考えていない。

 

「うむ、ではお風呂に行くとしよう。あとネムも前を隠すように」

 

「はーい」

 

 

 今まで平然と裸を見せていたがこの娘はまだ羞恥心が育っていないのだろうか? 若しくは自分が骸骨のアンデッドだから羞恥心を感じないのだろうか……多分両方だろう。いや、おもらしの事件を考えると羞恥心はある。つまり自分がアンデッドだから羞恥心を感じていないのだろう。

 

 自分だけ意識している。逆に変態に思えてしまうので、この思考は断ち切ろう。早めに入浴を終わらせて、村長夫妻と合流しよう。

 

 がらっと音を出しながらスパリゾートのドアを開く。アウラの顔は真っ赤である。何かいけないことをするかのように……。自分は何もしない。アウラにも何も起こらない。だから問題ないはずだ。

 

 3人でモモンガ、アウラ、ネムの順番で横並びになりながら、シャワーを浴びる。できる限り横を見ない様にしながら。目には決して入っていない。

 

 適当に自分たちで体を洗い、アウラたちの体を見ない様にしながら入浴して、見ないように上がる。困難な任務であるが、成し遂げて見せよう。そう思っていた。しかし事情が一瞬で変わった。しまっていたドアがガラガラと一気に開けられ、何者かが飛び込んできたのだ。裸で。

 

「アインズ様! アルベドが小さく、小さくなって参りました! ロリペドでございます! これで私も一緒にご入浴できますよね!?」

 

 入ってきたものの正体は小さくなったロリべド?アルベドであった。一瞬で沈静化が発動して茫然としてしまった。

 

「ちょ、それはおかしいんじゃないアルベド」

 

「あら、アウラったらアインズ様にお願いして一緒に入浴させて頂いてるのに、前を隠してるなんて失礼に当たるんじゃないのかしら」

 

 アルベドがやってきた……どうしてこうなったのだろう。そこには小さくなっているアルベドの姿があった。開いた口が塞がらなかった。そしてアウラを煽っている。なおネムは前回の件もあるせいか、アルベドの一言で前を隠すのを止めていた……勘弁してほしいのが本音である。これではまるで自分が変態みたいに思われるではないか。

 

 ネムは慣れてるからまだいいが。いや実際リアルで考えたらネムも美少女であるが、ナザリックのNPCと比べたら数段劣るのが現実である。そのためか普通に子どもと入ってるだけと自分に言い訳ができた。

 

 アウラは父性を求めているのだろう。アウラは完全に美少女である。アインズの薄くなった好奇心を刺激してしまうような。だが、まだ耐えられた、親友の子どもと頭の中で何度も念仏のようにつぶやくことによって。

 

 しかしアルベドはアウトである。確かに小さくなっているが胸はそれなりの大きさを誇っている。たわわに実った果実を隠すことなく、いや見せびらかすかのようにしている。

 

「あ、あ、あ、アルベドよ! 私はアウラやネムが子どもだから一緒に入浴することになったのであって、アルベドお前は大人だろう? なっ?」

 

 思わず懇願するかのように問いかけてしまった。懇願を聞いてはくれなかったが。

 

「いいえ!? 今の私はロリべドでございます。つまり子どもです。先程のアインズ様たちの会話を総合すれば、一緒に入浴しても何の問題もないと愚考いたします!」

 

 アルベドが胸をはるように言った。そしてその拍子に胸がプルンと震えるのが見えて、沈静化が発動した。揺れるのか……。

 

「アインズ様」

 

 少し横を見るとバスタオルと腕で胸を隠していたアウラがジト目の表情になってからこういった。

 

「何だか変態さんみたいですよ」

 

「すっすまん」

 

 思わず平謝りしてしまった。実際反応した自分が悪いのだろう。何故気づかれたかは分からない。だが考えてほしい。童貞である自分に、この状況をどうすれば打開できるというのだ。

 

「いいえ、アインズ様どうぞご覧ください! 私はそこにいる小娘と違って一緒にご入浴するという栄誉を与えられながら、胸を隠すような真似何ていたしません! おさわりになられても結構ですよ?」

 

「ま、待つのだアルベド、それは教育上悪いだろう」

 

「いえいえ、むしろ性教育を行いましょう二人に対して、今ここで! 私たちで!」

 

 アルベドがやばい。どう止めればいいのかが全く分からなかった。そしてネムが小さく「性教育?」と呟いている。アウラは顔が真っ赤である。とにかく何とかしないといけないとの思いでこんな言葉が口から出ていた。

 

「せ、背中を洗って貰っていいか? アルベド?」

 

「――ええ、もちろんです、アインズ様ッ!」

 

 アルベドが体を洗う事を了承した。これで最悪の性教育は避けれるはずである。確かに背中など洗いにくい場所もあるため……ちょっと危険だと思ったが洗ってもらうことにしたのだ。するとアルベドは自分の体に石鹸を塗りたくり始めた。予想外である。

 

「アルベドよ。一応聞いておくが何をするつもりなのだ?」

 

「もちろんアインズ様のお背中を流させて頂きます。体を使って!」

 

 息が止まった。まさかそんな真似をして体を洗おうとするとは……。

 

「ちょちょっとアインズ様が困られてるじゃん!?」

 

 よく言ってくれたアウラ。何とかアルベドの暴走を止めてくれ。今はアウラだけが頼りだ。

 

「あら、あなたも一緒にアインズ様を洗えば良いんじゃない?」

 

「えっ私も?」

 

「ネム、折角だからあなたも一緒に体を使ってアインズ様をお洗いする?」

 

「はい! 楽しそうなのでお手伝いします」

 

 そう言い出すとネムも体中に石鹸を塗り手繰り始めた。どうやらアルベドの真似をするらしい……。どうしてこうなった。

 

(たっちさん助けて!? このままじゃ俺たっちさんに逮捕されちゃいますよ!? 友人が逮捕されるんですよ!? それで良いんですか!?)

 

 思わず今はいない仲間に助けを求めてしまった。もちろん願いが届くことは無かったが。

 

 そうこう現実逃避していると、遂にアルベドとネムが近づいてきた。そしてネムの手が腕にアルベドの胸が背中に当たり上下に動き出した。

 

「あ、アルベドよさすがにそれは――」

 

「良いネム? 殿方の体を洗う時は胸を使うのよこういう風に。分かった?」

 

「うん! 胸を使って体を洗うんですね?」

 

 そういうと今まで手で洗ってたはずのネムが胸を使ってアインズの手を洗い始めた。先程から沈静化が発動して発動して発動して、休む暇もなく沈静化している。

 

「アインズ様? いかがですか? あらアウラまだいたの? 一緒に洗わなくていいのかしら?」

 

 軽くうなずくだけで返事とする。というよりそれ以上の行動が沈静化で取れないのが現実である。そして少し俯いてプルプルしていたアウラがついに叫んだ。

 

「上等! 受けて立つわアルベド!?」

 

 そういうとアウラはバスタオルを脱ぎ捨てると、アルベドやネムのように体中に石鹸を付けてネムとは反対側の腕に近づき洗い出した。胸を使って。

 

 右側からはほとんど胸の無い、しかし柔らかいネムの胸がアインズの右腕を洗っている。左側では少女から大人になりかけの美少女であるアウラが必死に実りかけの果実を使って、アインズの左手を洗っている。

 

 そして最後に背中側をアルベドが小さくなっても大きな胸を使って洗っている。更に頭に息を吹きかけてくる。

 

「あと股を使って、しっかりとアインズ様の腕を洗うのよ? もちろん私もお洗い致しますわ、アインズ様!」

 

 沈静化が止まらない。股を使って洗うなんて、ちょっと待て3人とも待つ――

 

 

 

キング・クリムゾン

 

★ ★ ★

 

 アルベドが去った後、村長夫妻はパンドラズ・アクターと3人で会談していた。最初に敬称は不要と仰ってメイドたちを下がらせてだ。何か重要な話があるのだろう。ただのしがない村長夫妻に。いや恐らく疑似的母親である私に。

 

「アルベド殿なのですが……少女の姿になれば一緒にお風呂に入っても良いという図式が、何故か頭の中でできたようです。それでアウラたちと共に一緒に入浴しているようです」

 

 沈黙が下りる。どうしてその図式になったのか不思議である。

 

「御止めにならなくて良かったのですが?」

 

 主人が問うていた。変なことにはならないだろうが。不安が残る。いやアルベドという方は少し暴走すると思う。別れる時の表情を見るに。あの必死の表情を思い出すと。

 

「主の望みは恐らく、ナザリックの者たちが家族になっていることだと思います。少々不安ではありますが、我儘を言っているので、いいのではないかと思いまして、見過ごしました」

 

「あの、それが分かってるならなぜあなたが動かないのですか?」

 

 この方は全てを見透かしているように思える。ならばなぜ働き掛けないのだろうか。疑問である。

 

「ナザリックにいる者たちは、至高の御方々……アインズ様の御友人に創造されしものです。そして一人の例外を除いて創造主は残られていないのです」

 

 

 友たちがいなくなる。とても寂しくて、悲しい事である。そして気づいた。恐らく……。

 

「私の創造主こそ、アインズ様であらせられます。私がむやみに動きすぎると、却って主従関係を取り払う障害物になりかねません」

 

 置いて行かれた者と、置いて行かれなかった者。置いて行った者と、置いて行かなかった者。とても難しいかじ取りが必要だろう。確かに置いて行かれなかった者がむやみに動くと、何が起きるか分からない怖さがある。だから間接的に動いているのだろう。

 

「……あの時私が母に似ていると言って、家族と言う言葉を強調していたのはわざと何ですね?」

 

 確信があった。この人は狂言回しのように大袈裟な動作を取っているが、私に家族になる必要性をとかせるように誘導したのだろう。疑似的に母親とみなしている者が、家族になるべきといえば何かが変わると思って。実際これから変化はありそうな気がする。あのメイドたち、アルベドやアウラの姿を見ているとそう思う。

 

「申し訳ありません……ですが私は事実しか語っておりません。どうかお許しください、奥様」

 

「許すも何も、あなたは間違っていないと思います。ここに住む人たちは家族ではなく、仕えるということに縋っているようにも見えましたし」

 

 ……ああ。そうか。ここにいる者たちは全員精神年齢が幼いのだ。アインズを含めて何人かの例外を除くとちゃんと成長できていない……それに精神的に不安定なのだろう。家族になりたいとの気持ちに気付かないはずである。創造主……親がいないから。いやアインズだって若しかしたら精神年齢は、ネムぐらいと考えても間違いではないのではないだろうか。幼いころに母親を亡くし、そこで成長が止まってしまったのかもしれない。そう考えるのが自然である。

 

 そして恐らくではあるが、精神の安定さでいえばナザリックに住む者と比べた場合、ネムの方が上かもしれない。

 

 多分このナザリックという場所は、アインズが離れたらどうなるか分からないと思う恐怖感がある。それ程までに部下たちはアインズに依存しているのだろう。ここから家族に戻すのは難しいといえる……いや違う。若しかしたら共依存しているのかもしれない。アインズは部下たちに対して、部下たちはアインズに対して……確かに共依存のような家族が存在するのは事実であるが、これは歪すぎる。

 

 その点ネムはよく気にいられて普通に馴染めたと思う。私のような例外的事項が無くて仲良くなっているのだから、コミュニケーション能力は確実に上だろう。

 

「話は変わりますが、できますれば本日はこのナザリックにお泊り頂ければ幸いです」

 

 主人を見る。私が主であったが、これは主人の決定に従うべきだろう。主人もとうの昔に腹は括っているのだろう。拒否はしなかった。

 

「このような宮殿に泊まらせていただくのは恐縮ですが、よろしいのであればよろしくお願い致します」

 

「食事はお2人……いえ、できますればアルベド殿を含めて3人でお願いしてよろしいでしょうか? あの方は部下の中では一番階級は上なのですが、精神的に多少、不安な箇所がありますので……疑似的な母親関係であるあなたと過ごせば変化のきっかけになると思われますので」

 

「……実は少し怖いですが。分かりました協力しましょう。できる限り彼女が精神的に安定するように」

 

「ありがとうございます奥様。それと村長ご相談があるのですが」

 

「何でしょうか、パンドラズ・アクターさん」

 

 

 ここからは村の今後に関わる事であると念押しされる。つまり今まではアインズの私事の話から公の話になるのだ。ここからは私の出番ではなくて主人の出番だろう。

 

「まず村に関してなのですが、何れ王国戦士長の報告の仕方次第でですが、口封じをされる危険性があります」

 

 思わず二人とも息を呑んだ。そして思う。この王国ならそれをする可能性が高いとも。実際に自分達は生贄にされかけたのだから。

 

「お二人やカルネ村の者たちをこれ以上殺させる真似は決してさせません。ご存知だと思いますが、現在もブレインという表の護衛が一人、そしてコキュートスというアインズ様の部下が一人カルネ村の護衛についておりますのでご安心を。何があっても、お守りいたしますので」

 

 ですが、と前置きされる。

 

「疑似的な母君であらせられる貴方に何かあれば……王国は滅ぼされるでしょう。それは避けたいというのが本音です。なのでこちらから先制して立ち向かうことをご提案させて頂きます。つまり、革命です」

 

 私たちには話が大きすぎるが、何とか聞きに回る。いや、最初に母君の話が無ければついていけなかったかもしれないが。その話を聞いている以上安心して聞ける。そっちの話の方が大きく感じるからだ。

 

「……私たちに王国への忠誠心はありません。革命を起こすことも辞さない程度には怒りがあります。ですが村長として勝算の無い博打を打つ訳にはいきません」

 

「当然です。今私が考えている手段は帝国を利用して戦争の時期に革命を支援してもらうことです」

 

「帝国ですか?それは……」

 

「ああ、ご安心をというのは変ですか、前回の虐殺を行ったのは帝国兵に偽装した法国です。何れ落とし前は付けさせます」

 

「……ですが、村人の人口が足りません」

 

 主人が寂し気に首を横に振る。120人いた村が一気に半分近くに減ってしまったのだ。責任を感じているのだろう。私とて同じだ。私や旦那にとっては村人全員が子どものような物だったのだから。

 

 それに実際120人いたところで焼け石に水で革命は、頓挫するだろう。

 

「その点に関しては別口で王国によって地獄を見せられていて尚且つ、現在のカルネ村の人間たちと共存できる人間やエルフたちを集めて行こうと考えております」

 

 なるほど、我々と同じように王国に絶望している者たちを集めて行くのか。確かにそれなら同じ被害者として手を取り合って仲良くしていけると思う。問題は誰が革命の指揮を執るかだ。同じ疑問を持っていたのだろう。主人が問うていた。

 

「……革命の指揮は? 私は軍事などほとんど分かりません」

 

 軍事何てほぼ経験していないのだ。村長が持っていない以上、何度か徴兵経験がある者が指揮を執るべきかもしれないが……脆弱な知識しかないと思われる以上、不安が残る。

 

「もちろん村長であるあなたに前線に立てとは言いません。今考えているプランではンフィーレア・バレアレを革命軍の指揮官に考えています」

 

 ンフィーレア・バレアレ。確かに彼なら頭もよく恐らくエンリの夫になるであろう人物だ。村人以外に対して排斥機運が高まっている中、村人の彼に対する信頼は厚い。恐らく以前から足しげく通っていたことと、あの村人全員に見られながらの大胆な告白が利いているのだろう。本人たちにとっては恥ずかしい事であるが、いい方向に向かっているようで良かった限りである。

 

 そして我々と違い、街に住んでいたのと魔法詠唱者(マジック・キャスター)としての経験があれば村長や村人に比べれば上手に村人の革命を指揮できるだろう。

 

 またンフィーレアだけで指揮をとることも無いだろう。恐らくパンドラズ・アクターやアインズの部下の誰かが後援してくれるのだろう。

 

 ここまで後押しされている以上、返事も決まってくる。

 

「パンドラズ・アクターさんの中ではすでに革命の図案ができているんですね……私たちとしても座して死を選ぶ気はありません。あなたにお任せします」

 

「村長殿、あなたの英断に心から感謝いたします」

 

★ ★ ★

 

 お風呂の喜劇? 惨劇が終わった後、アウラはこっちを真っ赤な顔で見ながら速やかに仕事があると言って、自分の階層に戻っていった。アルベドとネムが元気だったのが救いである……ただの現実逃避だが。

 

 あの後アルベドは小さくなった姿で、アウラがされていたように村長夫人に頭を優しく撫でられていた。ただ少しだけ村長夫人の顔が強張っていたからアルベドが怖いのかもしれない。以前あった時に怒気いや、殺気を出してしまった以上仕方ないだろう。そこは自分で解決してくれとしかアインズには言えなかった。3人で食事をとるらしいのでその時に誤解が解けて仲良くなってくれることを願うだけである。

 

 ネム・エモットと村長夫妻はナザリックに宿泊することが決まった。ネムは2回続けてである。ここで自分が以前感じた何かを、ネムから知りたい限りである。

 

「アインズ様はどうやって私たちを見つけてくださったんですか?」

 

「うん? ああ、あの時か。遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモート・オブ・ビューイング)というアイテムがあってだな」

 

 そう言ってアインズは遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモート・オブ・ビューイング)を取り出す。使い方を少しだけ教えながら実際に使ってみる。

 

「わー綺麗に見える!? 凄いアイテムですね!」

 

「まぁそうだな確かにいいアイテムであるな。お陰でネムと出会うこともできた」

 

 その言葉に少しだけネムが心なしか、顔を締め付けられているように感じる

 

(……俺、馬鹿だろう。両親を失った出来事のおかげで出会えたなんて喜ぶはずがないだろう)

 

 頭で反省しながら、ネムの頭をゆっくりと撫でる。

 

「すまなかったな。他意は無かったのだ。許してくれ」

 

「はい……でも私もアインズ様と出会えて本当に嬉しいです」

 

「そう言ってくれるだけで、嬉しいよネム」

 

 少しの間奇妙な沈黙が下りるが、いつの間にかネムは立ち直ったようだ元気に問いかけてきた。

 

「アインズ様! 村やお姉ちゃんの様子を見て見たいです!」

 

「分かった。動かしてみようじゃないか」

 

 そして村全体を見るが見つけることができなかった。というよりこの時間になると村人たちは眠っている時間のかもしれない。そこでネムが家の中を見たいと言ってきたので、アイテムを使い家の中を覗き込んだ。

 

 すると男女二人が裸で乱れている姿が目に入ってきた。片方はエンリ・エモット、ネム・エモットの姉である。もう一人はンフィーレア・バレアレという大胆な告白を実行したものであった。

 

 その二人は抱き合っていた。頭を近づけて、軽く触れるようなキスをしたり、何かを語り掛けるように口を開いたり。舌と舌を絡めるようなキスをしたり……エンリはまるでンフィーレアを逃がさないと言わんばかりにそう、確かぶくぶく茶釜が出演しているエロゲーで似たような展開があった気がする。そう、だいしゅきホールドだ。

 

「わぁ……お姉ちゃんもンフィー君も気持ちよさそう」

 

 アインズは沈静化が止まらずにいた。だが隣で喰いつくように二人の乱れ姿を覗き見ているネムの姿を見ることで何とか冷静に戻り、即座に遠隔視の鏡(ミラーオブ・リモート・オブ・ビューイング)を片づける。これ以上ネムに性的な知識を教える訳にはいかない。何れお風呂場でした行為もしてはいけないことと、教えなければならないだろう。なぜ自分が教える羽目になったのだろう……アルベドのせいか。

 

「ネムにはまだ早い」

 

「えーそうですか? 村では皆何となく知ってますよ? 子どもを作る行為ですよね?」

 

「……だとしてもだ」

 

 農村の常識を一つ知った気がする。確かに狭い家である。若しかしたら夜、両親が合体しているのを見かけることもあったのかもしれない。

 

 そして暫くすると料理が二人分運ばれてきた。そう、ネムとアインズの分である。アインズは今回前々から思っていたことを実行しようと思っていた。

 

 そして料理を並べさせた後、メイドたちを下がらせた。不測の事態に備えさせるためにパンドラズ・アクターだけを残した。

 

「あれ、今日はアインズ様も食べられるんですか? 2人分だと思うんですけど? それともパンドラズ・アクター様が一緒に食事をとられるんですか」

 

「ああ。今日は私も一緒に食べようと思う。そのため私も一つ試してみようと思ってな。少し待っていてくれ」

 

 そう言うとアインズは流れ星の指輪(シューティングスター)を取り出した。一度シャルティアで使用しているので、後2回しか使えない貴重な物である。最後まで悩んだ。いや今でも悩んでいる。ただ人間に変身できるようにするためにこの指輪を使うことに対して。だが、これを使えば一度人間に戻れば大事なことが分かる気がするのだ。故に躊躇は捨てよう。

 

「ネム、今から私が知る中での最高峰の魔法を一つ見せてやろう。よく見ていると言い」

 

「はい! 見させていただきます!」

 

 そして流れ星の指輪(シューティングスター)を使い星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)を発動させる。

 

「指輪よ私は願う(I WISH)

 

以前使ったときのような多幸感をアインズに感じさせる。この魔法なら私が今しようとしていることが確実に叶うと信じて。

 

「私を人間の頃の姿に、任意で変身できるようにしろ!」

 

 その言葉で大きな力がアインズ全体にまとわりつき。自分が変わっていくのが分かる。そして――

 

★ ★ ★

 

 勝った。間違いなく。胸の大きさで完勝しているのだ。ネム・エモットは論外として、アウラもアルベドにかなわないと愛しの君は知っただろう。胸の大きさも懐の深さも。

 

 恐らく静かなのは沈静化が続いているからだろう。そうじゃなくても困惑はしていても本気で嫌がって無かったはずだ。本気で嫌がっていれば、命令してきただろうから。本気で命令されれば従うしかない。いや、家族になるのなら、本気の命令でも逆らう方が良いのだろうか? 要検討である。

 

 体を洗い終わった後も完璧だったはずだ。ネムという少女を利用して一緒に抱き着いてみたり、それを見ているアウラを鼻で笑うと同じようにアインズに抱き着いてみたりするのを見る限り、やはりアウラもどこかで妃になる事を望んでいる。それが分かったのは今回の大きな収穫であろう。そして恥ずかしすぎて、一人で自分の階層に仕事をするために逃げ込んだ以上、これ以上村長夫人と仲良くなることは不可能である。

 

 勝つのは私だ。正妃の座は絶対に譲れない。第2妃や第3妃なら認めてやるが……。そのためにはやはり村長夫人の協力が必要である。何とか今日でよりよい関係を作りたい。そのためにはこのネム・エモットという少女を利用するのもいいかもしれないと思っていた。実際体を洗う時役立ってくれたのだから。

 

 いやそれ以上にパンドラズ・アクターに感謝だ。村長夫妻と3人で夕食を取ることができる。ここできっと気に入られてみせる。残念なのはネム・エモットはアインズ様と一緒にご飯を食べる?ことだ。観察されながら食べるということだろうか。

 

 それとも人間種か何かに変身して、ご飯を一緒に食べるということだろうか? 確か以前、一緒に食べてみたいと言ってたと部下たちから聞いた気がするから、もしかしたら、人間種か何かに変身されているのかもしれない。性交ができる体になってくれていれば万々歳である。

 

 ネム・エモットは確かに小娘にしては気が利く。ナザリックのことを大変褒めているとメイドたちからも声が上がっている。きっと気に入っているのだろう。ペットみたいに。アルベドもペットという立場に憧れはするが、正妃になるのを優先する。ならば問題はないはずだ。

 

 将を射んとする者はまず馬を射よという。モモンガの正妃になるためには疑似的母親である村長夫人が大きな力になるのは明白である。必ず信頼を勝ち取る。アウラは普段の業務に戻った以上……先程取られたアドバンテージ以上を獲得して見せよう。

 

 実際今だって頭を撫でられているのだ。(顔は強張っているが)

 

 必ず勝って見せる。そんな意気込みで食事を共にした。

 

 

「アルベドさんは本当にアインズさんがお好きなんですね……その、お姿を変えられるほどに」

 

「はいっ! アインズ様が望めばどんな姿にでもなります!」

 

 一緒にお風呂に入るためなら子どもの姿にでもなって見せよう。そこまで深く愛しているのだから。

 

「アルベドさん。あなたがしないといけないことは何だと思います?」

 

 以前のアルベドなら仕えて尽くすことだと答えただろう。だが今は村長夫人の話でそれが正解か分からなくなっている。

 

「多分ですけど、アインズ様が欲しているのは、抱きしめてくれる誰かだと思います。もちろん自分の心の傷か何かを理解したうえで」

 

 なるほど、確かにそうかもしれない。だがどうすれば理解することができるのだろうか?

 

「ただゆっくりと話すだけで私は良いと思いますよ。そしてお辛そうに、困っていたら抱きしめてあげる。それがあなたの目的の最短距離だと私は思います」

 

「ですがアインズ様はお辛そうにしている姿が……いえ、我々の在り方がお辛い気持ちにさせていたのですね……ですが困った姿などおみせになられませんが」

 

「アインズさんは私を本当のお母様と重ねられています。これはきっとお辛い事があってその傷が癒えていないからでは? アインズ様自身も気づいておられないかもしれませんし」

 

 アインズ自身が気付いていない。それは確かにありそうだ。となるとやはりこの方とアインズが話しているのを観察して、揺らぎを感じ取って、どこが傷となっているか探すべきかもしれない。そしてその傷をいやすために行動する。それが最短距離だと思う。やはりこの方と仲良くならなければ。

 

 アルベドは改めてそう思った。

 

★ ★ ★

 

 ――変身は成功した。だが……ある感情がアインズ否モモンガ否、鈴木悟の心を支配していた。自分は人を殺した。心臓掌握(グラスプ・ハート)で人を殺した、心臓を潰した感覚が残っていた。

 

 恐怖を感じた。自分は人を殺していながら何も感じていなかったのだ。そしてそれ以上に友人たちに嫌われるのではないかとの恐怖が心の奥から次々と出てくる。

 

 人間になっているため沈静化は始まらない。よって当然の帰結として、ここに誰がいるかを忘れて、悟は絶叫していた。――

 

 

 

 

 

 ネムの目の前では大きな光が降り注ぎ、一瞬とはいえ目を閉じてしまっていた。そして目を見開くと見知らぬ男性が立っていた。

 

 恐らくあれがアインズの生前?の姿なのだろう。これで一緒にご飯を食べれるとネムは喜んでいた。しかし、変化はすぐに起きた。

 

 

「あああああああっ! 俺はなんてことを人を手にかけるなんて、違うんだ、たっちさん、ウルベルトさん、ヘロヘロさん、皆許してください嫌わないで置いて行かないで――」

 

 恐らく友人たちの名前を呟きながら人を殺したことを謝っていた。多分自分たちを助けた時のことだろう。自分だって同じ人間を殺したらこうなるかもしれない。そう考えるとアインズが今まで罪悪感に締め付けられなかった方が可笑しいと思う。アンデッドではなくなったから、人を殺した感覚があるのかもしれない。

 

 気づけばネムは泣いているアインズを抱きしめていた。いつも母が自分にしてくれていたように。

 

「アインズ様は何にも悪くないよ――アインズ様は私たちを助けてくれたんだから、お友達の方も許してくれるよ、絶対に」

 

「――ネム……消えないんだ。あの兵士の心臓を握りつぶした感覚が……残ってるんだ」

 

 アインズはネムの胸に顔を蹲せる。蹲せながらその目からとめどなく涙を流し、ただネムに縋りつく。

 

「頼む、今だけは、人間の間はアインズじゃなくて、本当の名前である悟と呼んでくれ」

 

「分かったよ、サトル。いい子いい子」

 

 自分の胸に縋りつくサトルを優しく撫でる。母が自分にしてくれていたように。こうしていると大きいのに自分と同じぐらいの子どもに見えて、不思議である。

 

 

 気が付いた時パンドラズ・アクターもいなくなって二人きりになっていた。そこで慰めながら今まで経験したことを思い出していた。

 

「皆ここを去って行ってしまった。事情があるのは分かってる。でも寂しいんだ孤独なんだ!」

 

 泣きながらサトルが話すのを聞きながら思う。どうすれば自分はこの方を癒してあげることができるだろうかと。

 

 思い浮かぶのは先程まで姉とンフィーレアがしていたことである。とても気持ちよさそうで幸せそうであった。それにネムも朧気ながら今日入浴した時にしたことが普通ではないと理解していた。恐らくではあるが、エンリとンフィーレアがしている子どもを作るような事の延長線であると察している。

 

 思う。今この救世主を癒せるのは私だけではないかと。アインズという名前でなく、本当の、生前の名前を名乗られて、自分に縋りつくように泣いているサトルを癒せるのは。

 

 それに、みんな去ってしまって独りぼっちになってしまったサトル。私が癒してあげたいと思った。

 

 好きか嫌いかでいえば、サトルのことを好きだろう。自分や姉を助けてくれた。素晴らしい物を見せてくれた。それにあの時視線を合わせて話してくれた。一緒にお風呂に入った。嫌いだったら一緒にお風呂に入る、そんなことしない。できない。

 

 多分自分もンフィーレアとエンリほどではないが、この方に恋をしているのかもしれないと思う。それはお風呂での行動による気持ち良かったことによる錯覚かもしれない。それに今自分に縋りついて泣いてる方に対して、自分は不釣り合いかもしれない。いや不釣り合いだろう。あれだけ綺麗な人がいる以上、普通に考えたらああいった美少女がサトルを癒すべきだと思う。でも今まで心が強いと、偽って我慢していたサトル。可哀そうだと思うし、凄いと思う。

 

 これが本当に恋かは分からない。でもそんなサトルのことが好きだと思うし癒してあげたいと思う。

 

 ここの人たちは私でも分かるぐらい、家族ではなく部下であろうとしているのだから。アウラだって娘と言われて嬉しそうにしていたが、部下であることを止めていなかった。自分でもわかる。部下として接していたんじゃ癒すことは出来ない。時間をかければ彼らも家族になっているかもしれないが、今は違うのだ。

 

 私が恋人に相応しいかは分からないが。しかし、今そんなサトルの隣にいるのは私なのだ。彼女達ではなく。いや、恋人になることを考えるのではなくただ癒してあげたい。そう考えれば、どういった行動を取るかは決まってくる。姉がンフィーレアにしていたことやお風呂場でしたことをしてあげようと。

 

 

 そんなことを考えながらネムはただサトルを慰める。少しだけ泣く頻度が落ちてきたので水分補給としてグラスに入っていた飲み物を一口飲む。その後反対側でサトルに飲み物を飲ませる。サトルは逆らわずにコップの中の物を飲みほす。

 

 飲み干したグラスを短い手で必死に机に戻し。何故かはわからないが少しだけ思考能力が落ちて来ていた。それを無視して。ネムは縋りついてまだ泣いているサトルの顔に両手を持っていき挟み込む。そして泣きながら不思議そうにしているサトルにキスをした。そのキスに呆然としているサトルのことをかわいいとネムは思った。

 

「私はサトルのことが好きだと思う。あの日私たちを助けてくれたサトルが大好き、私に視線を合わせて、家族を大切にするように言ってくれたサトルが大好き。コロちゃんを私のペットにしてくれたサトルが大好き、カルネ村のことを気にかけてくれるサトルが大好き。ゴブリンさんたちを召喚させるアイテムをくれたサトルが大好き。ナザリックを楽しそうにして案内してくれるサトルのことが大好き……だから何にも怖くないよ、私はずっとそばにいるよ」

 

 言いながら思う。自分はサトルのことが本当に好きなんだと思う。呆然としているサトルが少しだけ我に返ってこんな言葉を返してくれる。

 

「俺は……俺もネムのことが好きだと思う。助けた時にアンデッドなのに受け入れてくれたことも、助けたことでたっちさんに近づけたと思わせてくれたことも、俺に恩を返そうとしてくれていることも、俺と気負わず話してくれることも、ナザリックのことを話して喜んでくれるネムのことを、あの日抱きしめて眠った時に感じていた人の暖かさもネムに貰った……私もネムのことを好きだと思う……前回一緒に眠った時に何か大事そうなことが分かりそうだった……そんなネムのことが好きだと思う。だけど俺はネムを一番に愛せない。俺は、俺にとって一番はナザリックだから……だからキスされる資格なんてない」

 

「一番じゃなくていいよ。多分そんなサトルを含めて私は、サトルのことが好きだと思うから」

 

「ネム……」

 

「だから、お姉ちゃんやンフィー君たちがしているようなことしよう。きっと素晴らしい事だと思うから」

 

 そしてネムとサトルの距離がもう一度短くなり――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 頭が痛い……多分眠る前に泣いてネムが差し出してきたグラスに入ってるお酒を飲みほしたからだろう。そして周りを見るとシーツや布団に血がついてあって、隣では自分に抱き着くようにネムが眠っていた。そして眠る前にした行為を思い出す。事案のことを思い出してしまう。

 

「俺はなんてことを……なんてことを―!!」

 

 ネムを起こさないように小声で叫ぶという器用な真似をアインズはしていた。

 

 だが後悔は無かった。鈴木悟はずっと孤独だったのだ。友人たちができたおかげで孤独は一度消えた。しかし得た友人をまた失ってしまったのだ。喪失感は大きかった。だから孤独を癒してくれる、自分をただ抱きしめてくれる誰かを待ち望んでいたということをようやく理解したからだ。そして抱きしめてくれる人を手に入れることができたのだから。

 

 今度は絶対に手放したくないと思った。

 




モモンガ様とネムの話は本当は後1,2回挟んでから事案にしようと思ってたのでちょっと強引になったかも。

でもこの日に更新したかったのと、冗長すぎる感じになったのでここでゴールイン(迫真)一応伏線ぽいのは張ってたし……許してm(__)m

次話は近いうちの19:19時間か07:21時間に挙げます。

二人は幸せなキスをして――

たっち・みー「約束された勝利の逮捕」

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

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