『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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今回は3話続けて投下してますので、ご注意ください。

ちなみにこの話は、作者が今後どんな話になるかの答えが描かれてるよ! もう少し後で知りたい方はブラウザバックをお願いしますm(__)m





外伝

デミウルゴスはアルベドと共にBARでパンドラズ・アクターを待っていた……副料理長はアルベド()がこの場所にいる事に少し不満げであったが、彼女の様子(静かな怒り)を見て何も言わないでいた。

 

(さて、どのようなお話でしょうかね? 他の階層守護者を除いて私とアルベドだけでの会話……一応、副料理長がいますが、彼は例外でしょうし、アルベドは怒り心頭な様子。恐らく自分の立場を奪われたと思っているのでしょう……しかし)

 

 思い出すのは、パンドラズ・アクターの姿……彼はナザリックにおいて双璧をなす頭脳の持ち主である、デミウルゴスとアルベドに匹敵しているだろう……彼の発言などから得られた情報から推測するに……アルベドが怒り狂うほどに役割を奪ったのは訳があるのだろう。

 

 そうするしかなかった事情が。それが何かは、まだ明確ではないが。アルベドがああだからこそ、自分が確実に見極める必要がある。

 

 これからのためにも。

 

(……現状で分かっていることは、彼の過剰な演技はそちらに目を行かせて、自身の真意を推測させないようにしていることですか……そして、演技を止めて言うことで、重要な話を印象付けようとしていますか)

 

 あの演技に惑わされてはならない。彼と読み合いを行う以上、本質を見極めなければ本当に必要な情報を得ることは叶わない。少しでも惑わされれば、読み合いに敗北する。

 

 

 ……デミウルゴスの脳内で高度な思考は複数展開される。モモンガが知ればさすがはナザリック一番の智者と褒めたたえたろう。そして、デミウルゴスはその頭脳に相応しくあることを思いつく。

 

 我々は、パンドラズ・アクターの情報を表面的にしか知らないのだ。確かにデミウルゴスも詳しく知らない者たちは他にもいる。

 

 だが、彼に限って言えば、余りにも情報がすくなすぎる。本来なら同じ仲間として、連携ができる程度には情報が知らされていてもいいはずだ。

 

 階層守護者と同格の強さなら猶更だ。

 

 余りにも、不自然すぎる。

 

(……我々が知ることができないように、意図的に隔離されている? ……アインズ様にとって、彼が切り札なのと、我々を信用しきれていないからでしょうか?)

 

 とはいえ後者はパンドラズ・アクターの言うとおりなら、無いはずだ。アインズの慈悲は山より高く、海よりも深い。その点を考慮するに、彼は切り札なのだろう。

 

(……もっとも、シャルティアの命令違反で、我々がアインズ様の御命令に従わない可能性があることが、周知されてしまいましたが)

 

 結果的には、良かったのだろう。二十と思わしき、世界級(ワールド)を使われなかっただけ。もし、油断していなければ、より悲惨な結果に終わったのだろうから。

 

 多少、シャルティアに対しても不快な気持ちは残るが。

 

(……少しずれてしまいましたが、彼が切り札であることに間違いはないのでしょう。これ以上は情報が足りません。可能なら、アルベドの意見も伺いたいところですが)

 

 デミウルゴスは少し離れた所に座るアルベドに視線を向けるが……酒を勢いよく飲み干しながら、副料理長に絡んでいた。

 

(やれやれ、先程よりも酷くなっていますね……アルベドに意見を聞くのは諦めましょう)

 

 デミウルゴスは静かにカクテルを飲む……本来BARではこのような飲み方が正しいはずだが、アルベドのせいで雰囲気が壊れているのは御愛嬌だろう。

 

 

 さらに30分程経っただろうか……アルベドの飲み方に対して、副料理長の怒りが暴発しそうになる頃になって、パンドラズ・アクターが到着する。

 

 今までと何も変わらない、大振りな動作を伴って。

 

「遅くなり申し訳ありません! デミウルゴス殿! アルベド殿!」

 

「構いませんよ。アインズ様を優先するのは当然です……それと先程は申し訳ありませんね」

 

 先程怒りのまま胸倉を掴んでしまったことを謝罪する。どんな話になるにせよ筋目は通さなければならない。

 

「問題ありません、そして感謝致します! さて副料理長、私にも何かカクテルを!」

 

「……畏まりました」

 

 副料理長が少し大声と過剰な演技で嫌そうな顔をする……アルベドを見てまだましだと判断した顔でカクテルを作り始めている。副料理長はどうやら、パンドラズ・アクターの演技に乗せられてしまったようだ。

 

 

 

 ……パンドラズ・アクターが席を一つ空けて自分の右隣に座る。その座り方は間に自分を挿んでアルベドとパンドラズ・アクターを隔てているかのように……アルベドは先程から嵐の前の静けさのように佇んでいる。

 

(……いけませんね……この空気は。まるでアルベドが今すぐにでも殺し合いを始めそうです)

 

「……アルベド。今からパンドラズ・アクターから大事な話を聞かされるのです。気持ちは分かりますが、少しは冷静になれませんか?」

 

「……冷静に? ……アインズ様に私をのけものにさせた相手に対して冷静に? さっきは緊急事態だったから……後に回したわ……でも今は別よ!」

 

 完全に頭に血が上っている状況だ……自分がいなければ、話をする暇もなく戦端が開かれたかもしれない。そうではなくとも、彼を排除する手段を構築しようとしただろう……だがここには自分がいる。

 

 NPC同士の内乱何てさせる訳がない。

 

「落ち着きなさい! 彼の行動には何かの考えがあるはずだ。怒りを解放するのも良いですが、まず理由を聞いてからでも良いのではありませんか、アルベド?」

 

「……アルベド殿。あなたの職務を理不尽に侵した事は謝罪しましょう……ですが、まずは話を聞いて頂きたい……私があなたの代わりを務めなければならなかった理由があるのです」

 

 無言を貫いていたパンドラズ・アクターもアルベドに頭を下げる……丁度そこに副料理長が場の雰囲気を察したのか急いで三人分のカクテルを差し出していた。

 

「ありがとう……申し訳ないが副料理長は一旦外に出てもらって構わないかな……コキュートスに万が一の場合は突入するように伝えてくれないかい?

 

「……畏まりました。では皆さま、一旦失礼致します」

 

 副料理長を外に出て行くように促す。最後の部分は二人に聞こえないように小声で伝えた。建前の理由だが……真実になる可能性もある。もっとも我らの主の気持ちを考えれば、絶対に回避しなければならない。

 

 とはいえ、ここらでアルベドのガス抜きはした方が無難と言える。貧乏くじを引くことになったが、文句はない。

 

 

「では乾杯しましょう。そうですね……共に働ける事に」

 

 デミウルゴスとパンドラズ・アクターがグラスをぶつけて乾杯をする。お互いアルベドとも乾杯しようとするが、彼女は無視して酒をがぶ飲みほしていたため、自分達も酒を口に含む。

 

「……それで、私をアインズ様から遠ざけた理由を早く教えてくれないかしら?」

 

 アルベドがパンドラズ・アクターを睨みつけながら口を開いた。片腕にはいつの間にかバルディッシュが握りしめられていた。

 

 ミシリと嫌な音が響いた。

 

 パンドラズ・アクターの受け答え方次第で、血が流れる結果になる。さすがにデミウルゴスは今すぐには割って入れない。理由を聞かなければ、フォローのしようもないからだ。

 

「分かりました……私はアインズ様からカルネ村で起きた出来事を聞かされました……はっきり言いましょう。アインズ様はあなたに嫌われるのが怖くて、顔を合わせるのを避けておられる……そしてあなたを変えてしまった事に対して罪悪感を抱かられている……私もフォローしているのですがね……それも理由の一つです」

 

「……私はモモンガ様を嫌わないわ! 罪悪感を抱かられる必要もない!」

 

 デミウルゴスは二人の言葉を聞きながら、できる限り詳しい状況を推察する。

 

 二人の会話を総合すれば、モモンガがアルベドに対して何かをしてしまい、気を病まれているのだろう。

 

「……パンドラズ・アクター。私にもカルネ村で何があったかを聞かせてくれないかな? 二人での会話だけでは私も判断をしかねるからね?」

 

「畏まりました……そうですね、一言で言いましょう。モモンガ様はカルネ村にて、自分が人間を愛していたと理解されたのです」

 

 ……衝撃であった。アインズが人間を愛している……瞬時に信じられる事ではなかった……だが真実なのだろう。アルベドの態度。彼が自分達NPCを遠ざけようとした理由。アインズが自分達に嫌われるのを恐れている……今まで得た情報から真実とデミウルゴスは判断した。

 

「……なるほど……確かに我々は人間に対して『悪』であるか、食料としてしか見ていない者がほとんどだからね……。だが侮らないで欲しい。その程度の事でアインズ様への忠誠は揺らぎはしない……そんな理由でアルベドをアインズ様から遠ざけたのですか? ……さすがに越権行為が過ぎるのでは?」

 

「……本当にそうでしょうか?」

 

「……何が言いたいのかね?」

 

 先程から二人の仲裁役であったデミウルゴスもパンドラズ・アクターに怒りを示す。パンドラズ・アクターの言い分は自分達の忠誠を否定する物なのだ……。だが、恐ろしいほどに嫌な予感がする。

 

 直感が告げている。この先をパンドラズ・アクターに話させてはならない。だが、意思の力でそれを捻じ伏せる。

 

 

 

「――デミウルゴス殿。例えばです。『悪』に括られたウルべルト様が、モモンガ様を『殺せ』と命令した場合、あなたはどうなされますか?」

 

「………………それは」

 

 今度はデミウルゴスが言い淀む番だった。

 

 そして、言い淀んだのが答えだ。モモンガに恩義を感じている。自分達を捨てないでいてくれた事に対して……だとしても、自分の創造主(ウルべルト)に命令されればきっと創造主に従うだろう、と。

 

「私とて、あなたと同じです。モモンガ様にご命令されれば、ウルベルト様に危害を加えましょう。もっとも、ありえないことでしょうが、ね……私があなた達をモモンガ様から遠ざけるように行動している訳の一つです……それにもう一つ」

 

「……モモンガ様は、カルネ村で私にたっち・みー様に救われたと仰られたわ……カルネ村を救われた時自分がたっち・みー様に近づけたみたいで嬉しかったとも仰せだったわ……」

 

 沈黙を保つデミウルゴスの代わりに、アルベドが会話に参加する。先程とは打って変わり、パンドラズ・アクターに対して理解の表情を見せているように見える……遠ざけた事に対して怒りが完全に消えた訳ではないようだが。

 

 ああ。デミウルゴスもパンドラズ・アクターの行動を示せた。当て嵌めて見ればわかる事だ。モモンガは情が深い。だからこそ、万が一の場合に備えて、少しでも心に傷か残らないようにしようとしていたのだ。

 

 それでも少しだけ釈然としないものが残るが。

 

 

「その通りです……ですがモモンガ様はあなた達の創造理由を考えてデミウルゴス殿のように人間に対して悪であろうとする者達を容認される。それが、ナザリックの総意であると理解なさっておられるから……そのため私はあなた達の報告書を意図的に改竄、モモンガ様に報告が挙がらないように動いています……少しでもモモンガ様の御心をお守りするために」

 

「……あなたの言い分は分かったわ……でもそれなら私でも良かったのではなくて? 必要があれば幾らでも報告書の偽造ぐらいこなしましょう」

 

「……残念ながら私はあなたの考えを今まで知らなかった。知っていればその選択肢もあったかもしれませんが。それにモモンガ様の妃を目指されるのでしょう? そんな方が汚れ仕事をする必要はないでしょう……妃になる方は汚れ一つなく、モモンガ様のお傍に仕えるのが良いでしょうから」

 

 そこで意味有り気に視線がデミウルゴスに向く……その意味をデミウルゴスは理解した。なぜこの話をアルベドだけではなく自分にもしたのかを悟ったのだ。

 

「…………分かりました。アインズ様の御気分を害すような仕事は、全て我々二人で握りつぶすのですね?」

 

「私が内で、あなたが外で、ですね……万が一の場合には、全て私の責任にしてくれて結構でございます」

 

「……分かったよ。しかしアインズ様は我々を超える英知の持ち主……隠し通せるのですか?」

 

「アインズ様は、我々に絶大な信頼を向けていらっしゃる……内部の者が行う分には、ばれる心配もないでしょう」

 

 アインズが自分達にそれほどの信頼を向けてくれている……パンドラズ・アクター風に言えば愛して下さってるのだろう……そんな方を悲しませたくない。

 

 心苦しいが情報の改竄に手を貸そう。

 

「分かりました。モモンガ様の御心を教えてくださったこと感謝いたします。ですが、そうなると……実験も一部変更しなければなりませんね」

 

「構いませんよ。王国以外ではあなたの好きなようになさるとよろしい。先程も言いましたが、アインズ様にとってウルべルト様の子どもである、あなたの思いの方が人間よりも優先されます」

 

「……分かりました。確かに補給は必要ですからね」

 

「外部の事はよろしくお願いします……王国は手出し不要で……ああ、そうそう。もう一つ尋ねる事がありました……なぜ、世界征服をすることになっているのですか?」

 

「……ふむ? 妙な事を聞くね? アインズ様が世界を手に入れる事をお望みだからですよ?」

 

「モモンガ様は、現時点で世界征服を望んでいない」

 

「……確かに情報収集ができていない現状で世界征服をするのは難しいでしょう。しかし主の真意を受け止めて準備を行うのは当然でしょう?」

 

「……待って、パンドラズ・アクター」

 

 今まで複雑そうな顔で自分達の話しを聞いていたアルベドが動く。恐らく、パンドラズ・アクターに対する蟠りに心の中で一応の決着を見せたのだろう。最低でもこの場では見せない程度には……ただそれにしては、顔が青白い。

 

 怒りを爆発させようとしていたアルベドとは違いすぎて違和感を感じる程度に。

 

「あなたの言う『世界征服を望んでいない』は……真実なの? デミウルゴスがモモンガ様から聞いたと言われる話は間違いなの?」

 

「……その通りです。モモンガ様は真実、世界征服を望んでいらっしゃらない……あなた達がいつの間にか暴走していたのです」

 

「……馬鹿な! モモンガ様は確かに『世界征服なんて面白いかもしれないな』と仰られました!」

 

 頭の中を直接殴られたようだ……そしてその言葉が真実であるなら、アルベドを含めたNPCを遠ざけようとしたことも深く納得してしまう。彼が自分達の監視を担う役割についていた事も……だとしても、即座に認める事はできなかった。だってそれは……。

 

「……事実です。私がモモンガ様から直接お聞きして、世界征服は望んでいないと言われております……その言葉は冗談のような物なのです……」

 

「……私は何て愚かな……モモンガ様のご意思を捏造するなんて……許される事ではない!」

 

「私があなた達を遠ざけようとしたもう一つの理由です……はっきり言いましょう。私はモモンガ様と違い、あなた達NPCを信頼も信用もしていない。モモンガ様がお望みでない事をモモンガ様のお望みと押し付けようとしているのだから。そしてモモンガ様はあなた達の願いなら、自身の心を御偽りになられるでしょう」

 

 デミウルゴスは理解した。理解してしまった。自分はシャルティア以上の大罪人だと……パンドラズ・アクターが隠れていたのも全て自分の責任と理解してしまったのだから……先程までのアルベドの様子ではパンドラズ・アクターを殺すために何でも仕出かしかねなかった。全て自分が原因だ。主の命令を捏造していなければ、パンドラズ・アクターがNPCを敵に回しかねなかった行動はしなかっただろうと理解する。

 

 何より、今まで上げた発言は全て建前に過ぎなかった。自分の不注意が、パンドラズ・アクターの行動をとらせてしまったのだ。

 

 静かな、BARに相応しいかもしれない沈黙がようやく訪れたのだ。ただそれにしては空気に怒りが込められていたかもしれない。

 

★ ★ ★

 

 アルベドはパンドラズ・アクターに怒りを抱いていた。自分と愛しい人の会える機会を奪ったのだから。しかし、彼の行動の意味を理解する事で彼に共感を抱いた。完全に怒りが消えた訳ではないが。

 

 パンドラズ・アクターの行動を正当な物と理解できた。彼が自分達を遠ざけようとすることも、信頼を抱けない事も、全て一人で成そうとした事も。

 

「アルベド殿が気付かれなかった場合……少しずつ内部の意識改革を行い中止に誘導するつもりでした……しかしです。真実をお話した以上、あなた達には協力してもらいますよ?」

 

「……構わないわ」

 

「……当然です……世界征服にナザリックが動き出したのは私の責任なのですから」

 

 アルベドを遠ざけた理由はほとんどが建前に過ぎない。最後の、モモンガの心を押しつぶす事に加担していた事……それだけが理由なのだろう。特に、モモンガの人間に対するスタンスを目の前で見続けてきたのだから。

 

 自分自身に怒りが沸騰する。気付けたはずだ。モモンガの行動を注意深く考えていれば、デミウルゴスの勘違いに。自分がモモンガの御役に立ちたいと、心が浮かれていなければ。シャルティアと嫉妬が混じったケンカをしていなければ……モモンガの部屋にいられる時間が少なくなった時に見つめなおしていれば。気付くタイミングが幾らでもあったはずだ。

 

 だからこそ、ここから挽回する。

 

「宜しくお願いします! では世界征服に変わり『アインズ・ウール・ゴウン』の名を世界に轟かせるか私の考えを話します……何か修正点があれば遠慮なく教えて頂けると幸いです」

 

 パンドラズ・アクターがどうやってアインズ・ウール・ゴウンの名を世界に広めるか、語り出す。自分たちが予想も付かない方法を……いや、そもそも端からそんな意思はなかっただろう。

 

「まず、世界級(ワールド)所持の敵対者がいる以上、我々の存在は絶対に知られるべきでないと、思案致します」

 

「……確かにその手もあるかもしれないが、表にでなければ後手に回る結果にならないですか? 絶対に表に出さないのは、不利益が大きすぎるのは無いでしょうか?」

 

「ええ。その通りです。そのため、モモンガ様が御助けになられた村を利用しようと考えています」

 

「……アインズ様がお気に入りの村を利用するのは……駄目なんじゃないかしら?」

 

 今まで、デミウルゴスたちの会話を聞くに徹していたアルベドが口を挟む。

 

 モモンガのお気に入りの村だ。それに、愛する人の素晴らしい笑顔を見せてくれた村でもある。許すことはできない。

 

「ですが、分かっているでしょう? あの村は近い将来、王国に滅ぼされる」

 

 国において、上位の権力者を暗殺するためにコマにされた村。確かに、存在されたら困る者たちが大勢いるだろう。

 

 どんな屁理屈をこねるかは分からないが、皆殺しにする事だけは確実だ。

 

「それに、アンデッドであるモモンガ様に感謝を示した者達です。確実に守る必要がある……ところで話は変わりますが、彼らは政治の都合で虐殺をされました。十分、復讐の大義名分になると思うのですが? 如何でしょう?」

 

「……あの村に物資などを支援して、革命を起こさせるつもり? 私達はカルネ村以外の者たちと接触しないと言うこと?」

 

 つまり、カルネ村をナザリックの意思を代弁する代理人に据えるのだ。いや、もしかしたらカルネ村をアインズ・ウール・ゴウンを信仰する宗教国家にまで発展させるつもりかもしれない。

 

 デミウルゴスも同じ思考に辿り着いたのだろう。理解の色が浮かんでいる。

 

 

「アインズ様たちを賛美する国家……素晴らしいですね。ですが、カルネ村の人員は少ないと聞いているのですが、その点は?」

 

 問題点はただ一つ。村人の人口が百名以下の点だ。 国を建国するためには人口が少なすぎる。

 

「その点は、セバス殿に王国によって地獄を見ている者達を救って、カルネ村に移住させようかと考えております……そしてカルネ村が建国する時の名は『アインズ・ウール・ゴウン』」

 

「人間達が作る国に偉大な名前を付けると……さすがにやりすぎでは?」

 

「いいえ! モモンガ様のお望みは至高の方々を見つける事。であるならばアインズ・ウール・ゴウンの名を名乗る国が必要です……付随して、至高の御方々が分かるような、目印を用意して……それと万が一の囮のためにも……その場合にはカルネ村の者たちは避難させればいいでしょうし」

 

 デミウルゴスが静かに頷いていた。納得して見せたのだろう。カルネ村が建国する国名は『アインズ・ウール・ゴウン』。

 

 間違いない、パンドラズ・アクターはカルネ村を宗教国家に変えようとしている……モモンガへの恩があれだけあり、国家への恨みが骨髄にまで沁み込んでいる以上、可能とアルベドも判断できた。

 

「私は構わないわ。でも指導者は誰にするつもり?」

 

「ふむ? もう少し、抵抗があられるかと思いましたが……指導者はまだ決まっておりません。ただ、革命軍の象徴に相応しい人物は決まっております。……が、少々見極める時間を頂きたい。それと今回の話はまだ、御内密に。まだ、情報を収集し終わっていない現状では、変更の可能性もありますので……では、もう少しカクテルを飲みましょう。副料理長を呼んできましょう」

 

「いえ、私が呼んで来ましょう」

 

 デミウルゴスが席を立ちBARを出る。きっと、今回の話を自分の中でまとめたいのだろう。自分の大きなミスについて、心を整理したいのだろう。

 

 何より、パンドラズ・アクターと二人きりになれたのは都合がいい。

 

「ごめんなさいね、パンドラズ・アクター。全てあなたに押し付けてしまって」

 

「仕方がないでしょう、あなたはどうにも、感情的になり過ぎる場合がございますから……特にシャルティア殿が絡むと」

 

「…………自分が恥ずかしいわ」

 

「とはいえ、独断であなたの地位を奪ったことは謝罪致しましょう」

 

 パンドラズ・アクターが深々と頭を下げて謝罪した。ここまで理解して、謝罪を受け取らないのは恥知らずだ。

 

「もう良いわ。納得しましたから。でも、これだけは伝えておきます」

 

「……何でしょう?」

 

「もし、タブラ様がモモンガ様を殺せと言えば、私の手でタブラ様を殺しましょう。モモンガ様がタブラ様を殺せと言えば、モモンガ様の御命令に従いましょう」

 

 ……空気が変わった。パンドラズ・アクターは今までの申し訳なさを嘘のように消し飛ばして、ただアルベドの瞳を覗きこんでいる。何かを探るように……

 

「その言葉、嘘偽りはありませんね?」

 

「愛する方に誓って! この言葉が危険なのはあなただって分かるでしょう? これが、私がモモンガ様を裏切らない証よ」

 

「……分かりました。モモンガ様に進言して、私は影となりましょう。……ですが、その言葉二度と口に為されぬが身のためかと。至高の御方々を鞭打つ(・・・)と言うのであれば、私にも少々、考えがございます」

 

 鞭打つ……。この言葉にアルベドは、強い違和感を感じた。なぜ、その言葉なのか。それではまるで……。聞くしかない。パンドラズ・アクターなら、確実に何かを知っているはずだ。

 

「一つだけ聞かせて。タブラ・スマラグディナ様たちは、私たちを、お捨てに、なったの?」

 

 唇が震える。所々、口がつかえる。アルベド自身は捨てたと思っている。だが、それが勘違いだとしたら?

 

「――アルベド殿、その認識には誤りがございます……モモンガ様の代わりにはっきり申しましょう。至高の御方々のほとんどはお亡くなりになられておられます。モモンガ様ご自身も否定なされていますがね」

 

「……そ、う。亡くなって、おられるのね? 私たちを、モモンガ様をお捨てになったわけでは、ないのね?」

 

 パンドラズ・アクターが頷いていた。

 

 その言葉を聞いて、何故かは理解できない。だが、はっきりとアルベドの目から涙が零れていた。何のためのナミダかは分からない。

 

 だが、胸のつっかえがなくなった気分でもある。

 

「もっとも、モモンガ様の生存を信じられたいお気持ちも、ご理解できますがね」

 

「どう言うこと?」

 

「簡単ですよ。この世界に降り立った日、モモンガ様もお亡くなりになられるはずだった。他の方々と同じように」

 

「――え?」

 

 信じられない言葉が、パンドラズ・アクターから聞こえた。いや、信じたくないのだ。アルベドの顔は涙を未だに流しながらも、凍り付いていた。

 

「あの日から暫く、モモンガ様は混乱していたはずです。あなたにも、心当たりがあるのでは?」

 

 ……ある。確かにある。とても混乱されていた。普段は訪れ無かったはずの玉座へ、セバス達を連れて参られたうえで、普段は持ち歩かない、ギルド武器を所持していた。

 

 今思い返せば、モモンガの表情は憂鬱にも、怒りすら滲ませていたように見えた。

 

「モモンガ様は、何の因果か死の定めを乗り越えになられた。そして、他の方々にも同じような奇跡があっても良いと、信じられておられます」

 

★ ★ ★

 

 

 あの後アルベドは過度な情報を渡されすぎたため、混乱の極みにあった。

 

 目からは涙を流し、口からは言葉にならない、呻き声のような物が漏れ出していた。

 

 できるならこのまま飲み会を流して、今すぐに部屋に戻り眠りたかった。だが、そういう訳にも行かない。毒を喰らわば皿まで……。ここまで混乱したのだ。徹底的に、聞きたいことを聞き出す事にしたのだ。

 

 

 

 そして何とかデミウルゴスと副料理長が戻って来るまでに一応再起動ができたので、三人でカクテルを飲み交わす事になった。親交を深める。下手なすれ違いを無くすために。

 

 最初は普通の雑談を行っていた。普段はどうしているのか。趣味は何なのか。そんなどうでもいいことを。

だが頃合いを見計らったアルベドの一言で、和やかな雰囲気が大きく変化していた。

 

 なお、副料理長はいつの間にか逃げ出していた。

 

「ところで、パンドラズ・アクター……あなたは私達の知らないモモンガ様を知っているのではなくて?」

 

「確かに私も気になるね。差し支えなければ聞かせて頂きたいのですが?」

 

「……それでしたら、カルネ村を救われたもう一つの理由は如何でしょう?」

 

 面白そうではあるが、気乗りはしない。どうせ聞くのであれば、モモンガの過去の女性遍歴を聞きたい。

 

「ねぇ……何か他にないのかしら……そうね、モモンガ様がどんな女性がタイプなのか……とか……必要があればモモンガ様の妃になるために幾らでもイメチェンするわよ?」

 

 モモンガは、初対面のあの少女にとても優しかった。つまりロリコンの可能性もあるのだ。仮に自分の考えが真実でモモンガがロリコンであるなら、どんな手段を使ってでもモモンガに相応しい体型に変えて見せよう。

 

「アルベド、御自身の創造主に不敬ではないですか? モモンガ様の御命令で変えるのであれば、問題はないかと思いますが……」

 

 デミウルゴスが苦言を呈する……命令なく創造主に定められた事を放棄するのがデミウルゴスからすれば許せないのだろう……だがそれが何なのだ。

 

 アルベドにとって、自分の創造主よりもモモンガの方が上なのだ。何故、遠慮しなければならないのだ。

 

「話は最後まで聞いてから判断して欲しいのですが……話の過程で、モモンガ様が深く愛された女性の話をする事に――」

 

「今すぐ聞かせて頂戴」

 

 文句を言っていた人物とは思えない程の一瞬の早業である……なお、アルベドの頭には強敵の存在が浮かんでいた……モモンガに抱きついていた少女だ。アルベドには予感があった。あの小娘はきっと、自分の強敵に成りうると言う確信が。

 

(あの小娘が……いえ問題ないわ。懐かしきと言っているから過去の女よ……でもまさか似ていたり……そうよ。でなければ、あそこまで優しくなんてする訳ないわ)

 

「何を考えているかは知りませんが……あまりに不穏な空気をだされるのであれば、止めますよ?」

 

「大丈夫よ? だからすぐに話して頂戴」

 

 パンドラズ・アクターが口籠りデミウルゴスに視線を飛ばしている。視線で何か話し合った後、溜息をついて話しだす。

 

 失礼な、何か問題を起こすとでも思っているのだろうか。ただ、モモンガの知らないところで不幸が起きれば良いのにと思っただけだ。

 

「……それでは! それは大昔……リアルでの世界での事です! 語り部は私、パンドラズ・アクターが務めさせて頂きます!」

 

 これにアルベドは驚いた……リアルでの世界の事に関連することを聞けるとは考えていなかったのだ。

 

「……予想以上ですね。まさかリアルの世界の話を聞けるとは……腰を折ってしまい申し訳ない。どうぞ続けて下さい」

 

 パンドラズ・アクターが席から立ちあがり、アルベドとデミウルゴスの中間に仰々しい動作を伴い立った。演目の開演だ。

 

「それでは……物語を始めましょう! 語り部は私、パンドラズ・アクターでございます! モモンガ様がお若い頃、とある女性と共に暮らされていた……その女性とモモンガ様は共に深く愛しあわれておられた! ……しかし不幸な事にその女性はモモンガ様を置いて行かれてしまうのです……モモンガ様はそれはとてもとても深く嘆かれ、ご自身をお責めになられた」

 

「……モモンガ様の御寵愛を頂きながら、お捨てになるなんて。その女、殺すべきね……パンドラズ・アクター……リアル世界への行き方を知らないかしら? 私が今からモモンガ様を捨てた事を後悔させて、殺害してくるわ」

 

(私以外の女! 絶対に許さない……それもモモンガ様をお捨てになられた? 必ず殺してやる)

 

 デミウルゴスも同意を示すかのように頷く……シャルティアやアウラ、その他のNPCに至る全てが賛同するはずだ。

 

 だが、パンドラズ・アクターから帰ってきた言葉は怒りだ。

 

「アルベド殿。そしてデミウルゴス殿……今の言葉をモモンガ様に仰られた場合、あなた方は十中八九殺されますよ? ……仮にその女性を侮辱すれば、至高の御方々でさえ、お許しになられないでしょう……下手をすれば、ナザリックは崩壊致しますよ? その女性は、モモンガ様にとって唯一、至高の御方々よりも優先順位が高い女性なのですから」

 

 二人に戦慄が走る……まさか、それ程までの女がいるなんて思わなかった。だが、信じられるものか。モモンガにとって一番は創造主たちだ。

 

 何よりも、そんな女絶対に認められない。

 

 

「……でも、モモンガ様をお捨てになるなんて! 許せない!」

 

「最後までお聞きなさい! 確かに私の言い方が悪かったかもしれませんが……冷静にお聞きください! 続けますよ?」

 

 パンドラズ・アクターがグラスを手に取り、口を湿らせて話しだす……それが切欠でさらに口がなめらかになったかのように……しかし語り口は先ほどよりも重い。

 

「……その女性はモモンガ様を、守られるために既に亡くなられているのです……絶対に蘇生もできない…ね」

 

「ふーん。モモンガ様を守って、ね? 本当かしら……お優しいモモンガ様をお騙しになられているのではないかしら?」

 

「……さすがに、アルベドの考えは尖り過ぎかと思いますが……確かにモモンガ様が守られる必要があるとは思えませんね……あなたにモモンガ様が嘘をおっしゃっていられるのでは?」

 

 そうだ。シャルティアとの戦いを見れば、守られる必要なんてないはずだ……それはそれで口惜しいが……不敬な考えだが、もう少し弱く在られても良かったのだ。

 

「……信じる信じないはあなた達しだいです……何の話……そうでした、何故カルネ村を守ったかでしたね……一言で言えば、その女性に雰囲気の似た女性がおられたそうなのです……アインズ様も『ただの感傷だ』と仰られていましたが、やはり思うところがあったのでしょう。お辛そうでしたからね……アルベド殿も、記憶にあられるのでは?」

 

「……どこのどいつかしら……まさかあの小娘……ごめんなさい。少し用事ができたわ」

 

 立ち上がる。その顔は嫉妬に満ち満ちていた。千年の恋も冷めるレベルである。

 

「……はぁ。やっぱり、こうなりますか……アルベド殿? 確かに少し誤解させるような表現をしましたが……その女性は、モモンガ様の奥方ではない……恋人同士でもない」

 

 足が止まる……訳が分からない事を聞いたからだ……デミウルゴスも同じだろう。

 

「……なら、モモンガ様とその女の関係は何かしら?」

 

「……そうですね……我々の立場からすれば……恩人……いえ、最低でも至高の御方々と同程度に捉える必要がある御方ですね」

 

「至高の御方々と同じ? それは……言いすぎでは?」

 

 パンドラズ・アクターの言いたい事が理解できない……一体何者なのかが全く読めない。

 

「モモンガ様との関係性を一言で表せば……母君です。モモンガ様がアンデッドになられる以前の生命体であられた頃……モモンガ様をお守りになり、御落命されております」

 

 何を言ってるのか理解ができない……二人とも呆然とするしかない……デミウルゴスは比較的早く再起動したが……より深く暴言を吐いたアルベドは別だ。

 

 

(……母君? 亡くなられた? モモンガ様を守って?)

 

 だってもしそれが真実だとしたら、アルベドの暴言は全て、モモンガに対して言っていたも同然だ。いつの間にか、病的なほどに顔が白くなっていた。

 

「……失礼しました。確かに、至高の御方々と同程度に捉える必要があるお方ですね」

 

「……その通りです。仮に母君様がモモンガ様をお守りになられなければ……この場におられなかったかもしれません」

 

 3人の間に暗い空気が漂う……特にアルベドは。

 

「……私は、何て失礼な事を……モモンガ様をお守りになられた母君を……私のお義母様を……」

 

「……まぁ、私が誤解させる言い方をしましたし……しかしアルベド殿。あなたは常に冷静であるべきだ……もし冷静でいれば、もしかしたら義母になる方にそこまでの失言をする事はなかったはずだ……先程も冷静でいるべきと進言したでしょうに……デミウルゴス殿も思考を柔軟に働かせるべきです」

 

「……そうするわ」

「……気を付けましょう」

 

「まぁ、それもカルネ村を救った一つの理由と言うことです……というより、これが真実でしょうね。あの村を救われた最初の理由はアルベド殿の言うとおり、たっち・みー様に恩を少しでも返したかったから……後半は目の前でお母様に重ねて見てしまった御方を殺されたくなかったからでしょう……」

 

 これを以て、パンドラズ・アクターの語りは終わり、同時に飲み会もお開きとなった。

 

 アルベドもデミウルゴスもこれ以上話す気になれなかったからだ。何よりも、得すぎた情報を整理したかったからだ。

 

 

★ ★ ★

 

 アルベドが歩く足音が主寝室に響き渡る。心なしか足は速い。そして神速の勢いで服を脱ぎ去り、ベッドに潜り込む。そして、今までの情報を整理して……。

 

「くふー!」

 

 思わず、笑い声が漏れてしまった。

 

 非常に有意義な時間だった。今でも、パンドラズ・アクターに対する、隔たりは多少ある。機会があれば仕返ししてもいいかな、そう思う程度には。

 

 だが、そんな気持ちすら、パンドラズ・アクターから齎された情報で全てお釣りが来る。

 

 アルベドはほんの少しだが、モモンガが小さいほうが好きなのではないかと、不安を覚えていた。あの幼女にしがみつかせたりしていて不安だった。

 

 いつか手を出すのではないかと。

 

 しかし、モモンガはロリコンではなかった。

 

 

 

 

 マザコンであったのだ! そして自分の体はどうだ? 母性豊かな体だ。

 

(タブラ・スマラグディナ様、私をこのように創造頂き、心から感謝申し上げます!)

 

 何より一番の収穫だったのは……。

 

 アルベドは今まで、絶対に認められない事があった。自分たちを捨てて行ったと思っていた者たちが、自分よりもモモンガに愛されていたことだ。

 

 だがアルベドの思いは誤っていた。自分たちを捨てて行ったと思い悩んでいた存在たちが、亡くなっていたのだ。

 

 自分たちを捨てた訳ではない以上、アルベドの心から蟠りはほぼ無くなっていた。勘違いをして申し訳なかったと思う程度には謝罪の気持ちもある。

 

 そして今だからこそ言えることがある。アルベドにとって、ナザリックを捨てた者たちが、アルベドよりもモモンガの心を占めているのが嫌だった。モモンガの一番に成れないと分かっていたから、殺すほどに憎んでいたのだ。そしてそれはたとえ、彼らがナザリックを捨てた訳じゃないとしても、機会があれば……アルベドからモモンガを奪おうとすれば、やはり実行に移していたのだろう。

 

 彼らが一番であり、自分が一番に成れないのであれば。

 

 

 だが、違ったのだ。

 

 モモンガの心を常に一番占めていたのは、創造主たちではなかった! モモンガが親友と言っている者たちは、所詮二番手以降に過ぎなかったのだ!

 

 

 あいつらが入るから自分が一番に成れないと言う前提条件が崩れたのだ。

 

 

 

 そして、常にモモンガに一番に愛されていた、お母様を恨む必要は一つもない。自分が愛するモモンガをこの世に生み出してくれたのだ。命を擲って愛する方を守ってくださったのだ。アルベドがモモンガの妃になる事も祝福してくださるだろう。

 

 可能なら直接会って、馬鹿な嫉妬は謝罪したいが……不可能な以上、心の中で謝罪していれば十分だろう。

 

 

 だからこそ、今のアルベドにとって他の至高の御方が帰還したとしても、――自分からモモンガを引き離そうとしない限り――問題はない。

 

(とはいえ、私たちがモモンガ様の心を占める割合も、実はより少なかったわけだけど)

 

 非常に残念であるが、今のところ自分達はモモンガにとって御方々の子ども……創造主の影を重ねられてしかと見られていないのだろう。

 

 

 もし打開策が何もなければ、アルベドは非常に苛ついていただろう。自分一人ではどうやっても創造主の幻影を断ち切ることは不可能なのだ。

 

 そして、たとえこの手で創造主たちを殺したとしても同じだ。根本的な解決にはならないのだ。どうやっても、どれだけ勘違いから恨んだとしても、塗り替えることはできないはずだった。

 

 

 だがここに道はできた。

 

 カルネ村で会った、あのどこにでもいる凡俗としか見ていない、村長夫人。モモンガに対して無礼としか考えていなかったただの人間。

 

 

 

 彼女は鬼札だ。アンデッドであるモモンガがあれだけ固まり、一時的にでもナザリックよりも優先しようとした。……そう思うと少しだけ苛つくが、それだけ本物のお母様に似ておられるのだろう。そしてこれからも、親交は深めるに決まっている。

 

 パンドラズ・アクターの考えるプランからしても、そうなるのは間違いない。

 

 

 推測になるが、彼女は現状で四十人しか登れなかった壁を、やり方次第では越えることも可能なはずだ。最後の本当のお母様の壁は越えられないだろうが、それで十分だ。彼女が四十人より親しくなればいいのだ。

 

 

(そう、私があの御方と仲良くなって、雰囲気を学び……モモンガ様の妃に相応しいのはアルベドだと彼女の口から言って貰えればっ!)

 

 マザコンであるモモンガに対して、お母様と彼女を重ねて見てもらい……モモンガの好感度ランキング第二位になってもらう。そしてアルベドを、三位に引き上げてもらうのだ。

 

 何より、母親の言葉なら従うはずだ! アルベドと結婚すべきと言われれば、マザコンであるモモンガなら従うはずだ!

 

 そうすれば、アルベドの王妃の座は安泰だ。たとえ、創造主たちが帰って来ようとも覆すことはできない。

 

 

 そして、そうなってからも、モモンガともアルベドともさらに親しくして頂き……彼女が寿命でなくなる時が、アルベドが実質的にモモンガの一番に成る日だ。

 

 きっと嘆き悲しまれるだろう。そこを慰める。その時までに学んだ雰囲気と……アルベドの体で包み込むのだ。

 

 

 もしモモンガが何らかの魔法で延命しても構わない。どちらにせよ、役割が全く違うのだし、彼女とアルベドが仲良くしている限り、何の問題もない。

 

 彼女に夫がいる以上、アルベドの敵ではない。

 

 

 

 アルベドにお母様を重ねて見てもらい、創造主も重ねて見てもらう。単純な足し算だ。最終的には自分の持つ魅力も使い、魅了する。

 

 

(ごめんなさいね、シャルティア。モモンガ様はあなたようなロリが好きなロリコンじゃなくて、私のような女性らしさを持った女性がお好きなのよ!)

 

 かなりまな板であり、合法ロリのシャルティア……青い果実に負ける要素は一つもない。肉付も良くない。恨むなら、自分の創造主を恨むことだ。ロリコン御用達として創造された自分を恨めばいいのだ。

 

(そう、どちらかと言えば、プレアデスやメイドたちを警戒すべきね……)

 

 シャルティアは既にアルベドの眼中になかった。

 

 プレアデスたちの多くは自分に協力してくれているが……油断は禁物だ。特にユリ・アルファ。メロンのように胸が大きい。充分、母性があると言えるだろう。

 

 

 ……非常に業腹ではあるが、今はNPCはモモンガにとって横並びだろう。つまり、現状ではモモンガと一番親しくなれる村長夫人を味方に付けた者が王妃争いにて大きく先んじる……決定するのだ。

 

 ギリギリまで……。絶対にギリギリまで、モモンガのお母様の件は伏せなければならない。まかり間違って、自分と同じようなこと考える者を出させないために。アドバンテージを握り続けるべきだ。

 

 ばれるとしても、アルベドが正式にモモンガの妃になった時でなければならない。

 

 だが、女性型のNPCでこの、ナザリック全体を引っ繰り返せる情報を握っているのはアルベドだけ。デミウルゴスは、恐らく大丈夫だ。

 

 モモンガの許可なく広めるとは思えない。パンドラズ・アクターに関しても同じなはずだ。一本気な馬鹿が彼女を傷つけようとしない限り、黙っているはずだ。

 

「つまり、このまま何事もなくいけば、私の勝利よ!」 

 

★ ★ ★ おまけ

 

「ところでパンドラズ・アクター? 君のその身振りに何か意味はあるのですか?」

 

「モモンガ様がカッコイイと思われる姿でございます!」

 

 衝撃が走った。アルベドの頭に。確かに言われてみれば、モモンガに似ている。正直アルベドは変な物を見ている気分だった。だが、モモンガが好きならば……。

 

「パンドラズ・アクター。私にも教えて頂戴」

 

「アルベド、さすがに無理が過ぎますよ? パンドラズ・アクターはモモンガ様に定められている。それを教えてもらうなんて……」

 

「構いませんよ! 私はモモンガ様に創造理由を超えて見せろと言われております。今は手始めに、配下の者たちに教えて、どう磨き上げるか考えている最中ですので! 一人増えたところで、何の問題もございません……折角ですので、デミウルゴス殿も如何ですか?」

 

「……君が構わないなら、ぜひ頼むよ」

 

 やはりデミウルゴスも挑戦するのだ。当然ともいえる。上手くいけば、モモンガ様がお喜びになり、今以上に仲良くなれる可能性もあるのだから……。

 




誤字報告いつもありがとうございます。

今回は急いで投下したので誤字脱字多いかもしれませんが、お許しください。

なお、活動報告にprologueの後書きを投下します! 興味がある方は見てね!

p.s
作者は最近寝ぼけていたせいで、アンデッドをアンデットに修正してしまった箇所があります。見つけたら教えて頂けたら幸いです。

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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