『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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第10話

 演技の練習という、アインズにとっての絶望空間が展開されて、どれぐらいの時間が経過しただろう? ちなみにパンドラズ・アクターは水を得た魚のようであった。

 

 それは、本当に突然だった。今まで生き生きとしていたパンドラズ・アクターが急に停止したのだ。

 

「どうした? パンドラズ・アクター?」

 

「…………配下の者から、連絡が御座いました。シャルティア殿が、何らかのアイテムを使用されて、無力化……端的に言えば、現地勢力に敗北した、とのことでございます」

 

「――」

 

 一瞬、パンドラズ・アクターが何を言っているのか頭に入ってこなかった。徐々に脳に沁み込むように理解が追い付いてくる。沸々と心に怒りが沸き上がる。仲間の子どもが害された。事実なら許せることではない。

 

「な、に」

 

「父上。今すぐにニグレド殿に魔法の発動の御命令を! 今すぐに現状を把握すべきです! ……私も現場に急行致そうと思います!」

 

「…………待て! ニグレドの件は了解したが、なぜお前が向かう必要がある! シャルティアが敗北したのであれば動くべきではない! いや、外に出ている守護者たち全てをナザリックに帰還させて、シモベたちにさせるべきだ!」

 

 ……信じたくはない。だが、そんな願望で頭を止めるのは愚かだ。何より、守護者最強のシャルティアが敗北したのであれば、他の守護者たちが敗北したとしても可笑しくはない。情報収集に向かっている全てのNPCたちをナザリックに撤退させて、傭兵モンスターたちに情報を収集させるのが上策のはずであり、復讐はそれからだ。

 

 確かに対応力と言う点では、パンドラズ・アクターに勝てる者はナザリックには存在しない。能力は落ちるが、ギルドメンバー全てに変身することができる、パンドラズ・アクターに対応できない状況はないだろう。

 

 しかし、真っ向からの対決では弱い。それこそ、仲間たちの武器をフルで使い捨てにさせるつもりで、事前準備を整えれば、百レベルのプレイヤーにさえ勝てるだろう。しかし、そんなことアインズがさせるはずがない。

 

 つまり、パンドラズ・アクターは万能ではあるが、強さはそれなりとしか言えない。シャルティアが敗北したのであれば、パンドラズ・アクターに勝ち目はない。

 

「真っ向から戦って敗北したのであれば、父上の言う通りでございます。しかし敗北した理由は異なります」

 

「なんだと?」

 

「シャルティア殿の敗北は父上の命令を守らず、油断し、血の狂乱を発動させたことでございます。そこを突かれ、アイテムを使用され、無力化されました!」

 

 ……それが、事実だとすればシャルティアの敗北は慢心していたからなのだろう。意識を引き締める必要がある。同じことを冒さないために。

 

「分かった。お前に任せる。私も動こう」

 

「感謝いたします。今から他のシモベを囮にして捕虜とともに生き延びるように命じた者と合流し、より詳細の情報を得るように行動いたします!」

 

 ……パンドラズ・アクターは行動を開始した。ここからはアインズにとっても正念場である。今すぐに行動を起こす必要がある。

 

 何よりも、ペロロンチーノの子供に手を上げた存在に復讐しなければ。そんな思いを抱きながらアインズはニグレドの下に向かった。

 

 

 

 ギリギリギリギリ。アルベドの歯ぎしりが廊下に響き渡っていた。

 

 愛する人が自分を追い出して、一人で何かをしている。いや、時々だが、人の気配を感じる。

 

(……何故、私を追い出されるの?)

 

 そしてアルベドが追い出された時期から前後して、変わったことがある。何故かは知らないが、身振り手振りが増えているのだ。

 

 

 

 

 まさか、身振りの練習でもしているのだろうか? ……そんな訳がない。恐らく、アルベドでは計り知れない、何かを思案されているのだろう。

 

 だが、何故自分を頼ってくれないのか。何故自分以外の誰かが、あの場にいる形跡があるのか。やきもちを抑えること何てできなかった。

 

 尤も、次の瞬間には守護者統括に相応しい存在に戻ったが。

 

「アルベド!? どこにいる!?」

 

「――こちらでございます、アインズ様」

 

 アルベドは声の方向に急いで向かう。そして同時にアインズもアルベドの声の方向に向かっていたのだろう。すぐに、合流できた。しかしアインズは余りも焦燥して、取り乱しているように見える。

 

 見方によれば、支配者としての威厳が吹き飛ぶほどに。

 

「アインズ様、出歩かれるさいは、供をお付けになるようにお願い致します」

 

「そんなことはどうでもいい! シャルティアが現地勢力に無力化……敗北を喫した」

 

 アインズに苦言を呈したアルベドも一時的にだが、思考が停止した。それほどまでに考えられない事だったからだ。誰が、階層守護者の敗北の可能性を予見していただろう。

 

 そして、驚愕から立ち直る前に、命令は下された。

 

「今すぐに外に出ている全階層守護者をナザリックに帰還させるように命令を下せ! セバス達にはより多くの護衛を出せ! いいな!? そして、いつでも追撃を行えるようにシモベたちの準備せよ」

 

「はっ! 今すぐに行動を開始致します!」

 

 

★ ★ ★

 

 漆黒聖典を率いる立場にある隊長は焦っていた。

 

 現在の状況は最悪と言っていい。護衛対象であるカイレが重体、カイレを庇った隊員と吸血鬼を捕縛しようとした隊員の死亡。

 

 吸血鬼を捨て置き、撤退を開始したその瞬間、伏兵が現れた。神人である隊長なら、問題ではない。しかし中には他の漆黒聖典の隊員に匹敵する敵もいたのだ。

 

 幸いにも隊長の獅子奮迅の活躍により、重軽傷者は出たが死者は出なかった。とはいえ、時間が掛かってしまったのは事実。

 

 急いで法国に帰還しなければ、カイレは助からない。カイレが助からないことは、法国にとって、否、人類にとって損失が大きすぎる。絶対に死なせる訳には行かない。災厄の竜王の復活が予測されている現状では。

 

 そして……部下の一人が息絶え絶えになりながらも、恐怖故に独り言を発していた。法国の、否、人間と言う括りで見ても、精鋭中の精鋭であり、切り札である漆黒聖典の生き延びた者たちは恐怖を隠しきれていなかった。

 

「あいつらは、一体何なんだ……」

 

 恐らくと言う注釈はつくが、吸血鬼の仲間なのだろう。だが、疑問点もある。

 

 何故、最初から共に襲ってこなかったかだ。もし仮に共に襲い掛かってきた場合、十中八九負けていた。あのモンスターたちに容易に勝てるのは、自分だけだ。そして、自分では吸血鬼には勝てない。

 

 吸血鬼が、自分を嬲っている間に、モンスターたちが部下たちを襲う。これだけで、漆黒聖典は秘中の秘である番外席次を除き全滅していた。

 

 何故、そうしなかったのかが、疑問なのだ。

 

 考えられるとすれば、吸血鬼とモンスターたちが別勢力の可能性なのだが……それでは何故自分たちを強襲してきたかが分からない。何らかの目的があったのは間違いないだろうが。

 

(……余計なことを考える余裕はないな)

 

 最終的な判断するのは神官長たちだ。自分はあった出来事をまとめて報告すればいい。

 

 そのために少しでも早く、法国に帰還するだけだ。そう、隊長が思い至り、周辺の気配を探った時、何かが動いた気がした。

 

 すぐさま、後ろを振り返れば、最後尾を守っていた者が、何らかの異形種に殺された瞬間だった。ある意味、理想的な奇襲だ。

 

「――後ろだ!」

 

 叫びに呼応して異常に気付いた他の者たちも振り返り、傷ついた体に鞭を打ちながら武器を構える。が、その瞬間には敵は森のどこかに潜んだ。

 

 危なかった……もし、自分が気付いていなければ、最低でも後数人、下手をすれば漆黒聖典は全滅していた。

 

 敵が現れた方向を睨み続け、五分近くの間、警戒だけが続く中、隊長は思う。損害が大きすぎた。漆黒聖典が部隊として機能できるのは暫く先になるだろう。カイレが重体。漆黒聖典から戦死者が三名。怪我を負っていない者はほぼいない状況なのだから。

 

 

 戦力の一角である、陽光聖典の未帰還。巫女姫の死亡。破滅の竜王の復活。そこに漆黒聖典の行動不能が加わる。

 

 現在の法国は危地に立たされている。もし、覆すことが可能だとしたら……。

 

 ――大きく息を吸い込み、命を擲つ覚悟を決めた。いや、それは間違いだ。漆黒聖典に所属する者は多かれ少なかれ、人類のために命を擲つ覚悟を決めている。

 

 

 だがそれでも、新たな決意をする必要があるほどに恐ろしいのだ。

 

 そう、漆黒聖典の隊長であり神人、法国の番外席次を除いた切り札である彼は、六大神が残されたもう一つの秘宝である、己が持つ槍の真価を発動させる覚悟を決めた。

 

 吸血鬼だけなら、自分と番外席次や法国の者たちが協力すれば間違いなく打倒できる。

 

 しかし、あの異形種も吸血鬼に匹敵する強さを持っていた……。彼らが仲間同士であった場合……そして、漆黒聖典級のモンスターたちが連携した場合……まず間違いなく、人類は滅びる。

 

 それを避ける方ために必ず一人、格上の存在を自分一人で殺す。

 

 圧倒的強者が一人減れば、番外席次と法国の総力を以てすれば、間違いなく打倒できるはずだ。

 

(口伝の通り、命を捨てることになろうとも、必ず)

 

★ ★ ★

 

 アルベドと別れたアインズはコンソールを確認していた。そして、シャルティアに何かがあったのは間違いがないことも自身で確認できた。

 

 そう、ユグドラシルとの時と同じなら、精神支配により一時的に敵対行動を取ったものの名前の変化だった。

 

 シャルティアは何者かに精神支配をされたのだ。

 

(誰が、シャルティアを精神支配した! どうやって、精神支配した!)

 

 

 シャルティアは吸血鬼であるため、精神への作用は無効のはずだ。可能性があるとすれば、現地特有の何かになるだろうが、特定は難しい。

 

 だが、確定していることはある。下手人を見つけて必ず殺す。

 

 

 そこに、シャルティアを監視させていたニグレドから報告が上がった。シャルティアが何者かに襲撃された、と。

 

 最終的に襲撃者は鎧に大きな穴を開けられ撤退したことを。

 

 ……追撃をして下手人を殺すことが難しくなった。ナザリックを叩ける存在が複数存在する可能性が出て来てしまった故に。鎧の存在が何者か分からない以上、迂闊に動くことはできない。

 

 情報を共有する必要がある。どう行動するにしても、パンドラズ・アクターと自身が得た情報を互いに共有しなければ、どうすべきかもわからない。

 

 メッセージの魔法を発動する。

 

『パンドラズ・アクター! 無事か!?』

 

『無事に御座います。父上! 今は一時的にナザリックに帰還を開始しております! 今すぐにナザリックの総力を以て追撃を仕掛けて、奴らを殺すべきで御座います!』

 

 パンドラズ・アクターに本当に感謝している。もし、彼から授業を受けていなければ、無様を晒していただろう。

 

『……私もそうしたい。が、それは難しい』

 

『何故でございますか!? 敵は一人を除いて重軽傷を負っております! それに――』

 

『あの後、シャルティアが何者かに二度目の襲撃を受けた』

 

 パンドラズ・アクターが止まった。想定していなかったのだろう。アインズとて同じだ。

 

 敵対勢力が複数の可能性がある以上、隙を晒すわけにはいかない。

 

『……成程、確かにナザリックの総力で追撃をかけるのは止めるべきで御座いますね』

 

『その通りだ。非常に業腹だがな……それで、先程は何を言いかけていたのだ?』

 

『父上と別れた後、部下と合流し捕虜をナザリックに連れ帰るように命令を下し、敵対集団に威力偵察を行いました』

 

 何となく、想像はついていた。パンドラズ・アクターが危険を承知で敵に奇襲をかけることは。自らのために情報を集めるために。

 

 きっとパンドラズ・アクターの中では、自分の責任と思っているのだろう。アインズが同じ立場だとしても、自責の念に駆られる。

 

 やはり親子なのだろう。

 

『まず、敵対者は法国の方角に向かって退却しておりました……恐らくは、法国の手の者かと思われます』

 

『……そうか。カルネ村だけに飽き足らず、ナザリックにまで手をだした、か……屑共がぁ! まだ私を怒らせたりなかったのか! 絶対だ、絶対に滅ぼしてやる!』

 

 助かった。……沈静化されなければ、きっと不毛な時間を使ってしまっていただろう。

 

 時間は有限なのだ。

 

 

『そして敵対者は、世界級(ワールド)並のアイテムを二つ、また神器級(ゴッズ)を複数所持しているようでございます……今まで集めた情報と比較しますと、異常です』

 

 今度は沈静化が起きた訳ではない。しかし、アインズは固まった。世界級(ワールド)の極悪さは良く知っている。というより本来なら複数世界級(ワールド)を所持していること自体、異常だ。

 

 ナザリックは、世界級(ワールド)を二桁近く維持できているが、それはナザリックが最高のプレイヤーたちで構成されていたからに過ぎない。

 

 

 そしてそれなら、シャルティアが敗北したのも、精神支配されたことも納得できてしまう。

 

 腹が立った。 

 

 ユグドラシル産のアイテムやモンスターが存在しているのに、現地勢力が世界級(ワールド)を所持している危険性を見逃していた自分に腹が立つ。

 

 気づけたはずだ。パンドラズ・アクター(NPC)が見逃してしまったのは仕方がない。だが、プレイヤーであった自分が見逃してしまった事に腹が立つ。

 

 だが、今は自分を責めている余裕はない。

 

『続けてくれ』

 

『一つはチャイナドレス風のマジックアイテムでございます。ご存じでございますか?』

 

『……知らないな』

 

『左様でございますか。それと、使用者と目される存在が致命傷を負っていながら、アイテムだけでなく使用者も連れ帰っているところを見ますと、あのアイテムは使用者を選ぶ可能性が高いと思われます……過信は禁物でございますが』

 

 確かに過信は禁物だ。もしかしたら、使用者を選ばないのに選ぶように見せかけている可能性だってあるのだ。尤も一人を除いて重傷をほとんどの者が負っていたなら、そこまでする余裕があったかは分からないが。

 

『……そうなると、シャルティアにアイテムを使用したのは、その存在か?』

 

『その通りかと。また、それ以外の死亡者も擲たずに帰還しているところを見ると、替えの利かない存在かもしれません』

 

 世界級(ワールド)所持者と相打ち。それはある意味で、大金星なのかもしれない。

 

 そう思いながら次の報告を聞く。それによれば、ガゼフ級の者と判断してよい者たちが敵対者にはほとんどであり、楽に殺せる可能性が高いとも。

 

 つまり、ガゼフ級の者たちがこの世界では替えが利かないほどの存在と考えてよいのだろうか?

 

 ……弱すぎる。なのに世界級(ワールド)を所持している。歪にも程がある。

 

『そして、恐らく隊長格と思われるものは、ソリュシャン以上の存在と考えてよいかと』

 

『ほう』

 

 確かに強いと言っていいかもしれない。だが分からないこともある。何故、パンドラズ・アクターは焦ったように追撃をかけるべきと言ったのか……確かに、現地の戦力と比較すれば強力だが、ナザリックならば簡単であるはずだ。

 

 それでもプレイヤーと比較すれば十分弱者だ。

 

(いや、世界級(ワールド)が複数あった以上、可能なら追撃をかけるべきなのは当然か)

 

 そう思いなおし。続きを聞く。

 

『最後になりますが、もう一つの世界級(ワールド)は敵の隊長格が所持している、一見すれば何の力もなく見える、みすぼらしい槍でございましたが、世界級(ワールド)の力を持っていたかと』

 

 沈静化が起こり、思考が止まった。みすぼらしい槍……そして、世界級(ワールド)。もし、自分の考えが当たっているのだとしたら……間違いない。

 

 なぜ、そんな弱い存在にアレを装備させていたのかの疑問も氷解した。チャイナドレスは囮だったのだ。

 

 だが、アレなら弱者に装備させたほうが良いだろう。レベル差があろうとも、それを覆し打倒できるのだから……ある意味で、とことん効率的だ。

 

 いや、チャイナドレスで精神支配を図り、失敗すればアレを使用する。

 

 

 つまりナザリックは、恐ろしい存在にケンカを売り、売られたことになる。()()()()()の槍を所持している存在……法国に。

 

『パンドラズ・アクター! 続きは後だ! 今すぐ……今すぐに、ナザリックに帰還しろ!? そのアイテムは危険すぎるッ!』

 

『――承りました』

 

 ……本当に、愚かだ。下手をしたらシャルティアは消滅していた可能性があるのだ。 

 

 世界級(ワールド)世界級(ワールド)でしか防げない。プレイヤーならごく常識的なことだ。もしシャルティアに使用されていたら……パンドラズ・アクターにあれを使用されていたら……これから外に出る者たちには世界級(ワールド)を所持させるのが最良だ。

 

 しかし、疑問に思う。本当に防げるのか? 実際にユグドラシル時代も、世界級での効果を世界級を所持していたのに防ぐことはできなかった。あの出来事は例外として扱ってもいいのかもしれないが……油断はできない。

 

 つまり、世界級(ワールド)を所持していたとしても、殺される可能性がある。検証もする訳には行かない。なら、世界級(ワールド)を防ぐことは叶わないと思い、細心の注意を払い、絶対に使わせてはならない。

 

 アインズはもっと早く思いつかなかった自身の迂闊さを呪い、下手人を血を吐く勢いで恨んだ。

 

(必ずだ。必ず、代償は支払わせてやるっ)

 

★ ★ ★

 

 アルベドは、非常に苛立っていた。階層守護者が失敗をしたなら、自分達守護者が不始末を拭うべきだ。なのに、自身一人で解決すると言うのだ。

 

 確かに、アインズは以前と比べてどこか、覚悟を決めた様子がある。それは認める。

 

 必ずこの場に戻ると玉座の間にて約束してくださった。だが、何故一人で向かわれるのか。確かにシャルティアは強いが、守護者総出で掛かれば可能だ。シモベから何人か護衛は連れていかれたようだが……楯の役割は自分のはずだ。

 

 何より、何故一人で向かわれるの聞いても、「私の罪だからだ」としか言われない。詳しい事は部下に聞けとしか言われない。

 

 イライラは収まらない。

 

「少シハ落チ着ケ」

 

「……ええ。その通りね」

 

 深呼吸を繰り返す。怒りも不安も今は呑み込むしかないのだ。そしてデミウルゴスが到着したようだ。デミウルゴスもイライラを一つも隠そうとせずに、椅子に座った。

 

「――それで、何故アインズ様をお一人で行かせたのですか?」

 

「厳密には一人ではないわ。シモベから何人か連れて行かれたもの」

 

「私が言っているのは、そう言うことではない! 御命令に背いてでも、我々が動きお守りすべきでしょう!」

 

「私だって知りたいわ。何故、お一人で行かれたのか説明してくれる存在がいるらしいわ……居るんでしょう?」

 

「何を言って……ッ!?」

 

 今までこの部屋には間違いなく、三人しかいなかった。だが、何者かが現れた。コキュートスは静かに武器を構える。

 

 その姿はナーベラル・ガンマの本当の姿に似ている……ドッペルゲンガーだ。

 

「御初に御目にかかります! パンドラズ・アクターと申します! この地に残られた唯一の御方である、モモンガ様に創造された、宝物殿領域守護者でございます! 以後、お見知りおきを!」

 

 パンドラズ・アクターは大袈裟な身振り手振りを交えて、まるでこの場が舞台上とでも言うように、名乗りを上げた。

 

 モモンガ様に創造された……妬ましい。

 

 そして、自分がアインズの下から引き離されていたのは、間違いない、コイツのせいだ。そう考えると今すぐこの手で殺したい……が、今は緊急事態。横に置いておき、後で恨みをぶつけることにする。 

 

 デミウルゴスが怒りをぶつけるのを止めるつもりはないが。

 

「……何故、モモンガ様をお引止めなさらなかった!? たとえ。私達には無理だとしても、あなたなら……モモンガ様に創造されたあなたなら、できたはずだっ!?」

 

 一番モモンガ様に近いあなたなら……そう、デミウルゴスの心の叫びが聞こえた。認めたくはないが、そうなのだろう。でなければ、モモンガが自分を遠ざけることは無かったはずだ。

 

 何より、先程のオーバーアクションは確かにモモンガに似ていた。

 

 デミウルゴスはパンドラズ・アクターの胸倉を掴む。

 

「……あなたの気持ちもごもっとも……しかし、モモンガ様は自身一人で向かわれるのが最善と判断なされました。そして、私は反論はできなかった」

 

「何故だ! モモンガ様は我々が仕えることができる、最後の御方なのですよ!?」

 

「私はシャルティア殿が敗北した相手に威力偵察を、行いました。そして、敵対者は世界級(ワールド)を複数所持しておりました。一つはシャルティア殿を洗脳した、アイテム。もう一つは……二十の一つ。聖者殺しの槍(ロンギヌスの槍)。使用者と対象者を完全に消滅させる、世界級(ワールド)アイテムです」

 

 デミウルゴスが、コキュートスが、そしてアルベドが息を呑んだ。世界級が一つではなく複数所持している勢力が敵対している、由々しき事態だ。

 

「そんな危険な物があると分かっていて、何故外に!?」

 

「ご安心を、世界級(ワールド)世界級(ワールド)を所持していれば防ぐことは可能です……原則は、ですが」

 

 世界級を防ぐことは可能と少し安心した矢先に、爆弾が放り込まれた。 

 

「本来ならば、世界級は世界級で防げる……しかし、モモンガ様によれば防げなかった事例もある、とのことでございます」

 

「……はっ?」

 

 もしそれが事実だとしたら……洗脳系のアイテムはまだ、後者と比較すれば許容出きる。だが、後者はダメだ。もし、所持者とモモンガが遭遇したら……ナザリックにモモンガはいない。一番安全な場所にモモンガはいない。堪らず守護者統括としての威厳を捨ててアルベドも叫んでいた。

 

「だったらどうして!? もし私がそのことを知っていたら、モモンガ様をシャルティアの下に何て行かせたり何てしなかったわ!」

 

「簡単ですよ。我々がモモンガ様の足手まといだからですよ」

 

「私たちが、足手まとい? なら何で、シモベ風情がモモンガ様について行っているの?」

 

 聞き捨てならないセリフだ。確かに、自分達がモモンガに劣るのは当然だ。我々が足かせになりうるのも理解できなくはない。

 

 では何故、至高の御方々に創造されていないただのシモベたちはNPCよりも、有用だとでもいうのか。

 

 

 今、デミウルゴスもコキュートスも、そしてアルベドも切っ掛けさえあれば、この場でパンドラズ・アクターを殺し、モモンガの下に馳せ参じるだろう。その後、殺されたとしても。

 

「――シャルティア殿の敗北は、格下と侮った人間に一瞬の隙を突かれた故に起きたことでございます……ここで質問です。あなた達は人間をゴミのような弱者と侮ってはおられませんか? 無意識レベルで、見下してはおられませんか?」

 

 ……思い当たる物は、残念ながらある。確かに人間を弱者と侮っている。見下してもいる。

 

「シャルティア殿に限って言えば、敵を侮っていて正解だったのでしょう。もし侮っていなければ間違いなく、洗脳系ではなく、消滅させるアイテムを使用されていたでしょうから……ですが、もし奴らとモモンガ様を含めた我々で集団戦をした場合、あなた方の一瞬の隙を突かれ……ここまで言えば分かりますね?」

 

 力なく、デミウルゴスがパンドラズ・アクターから手を放していた……コキュートスも、自分も力が抜けたように、座り込んでしまっていた。

 

 自分たちの感情故に、モモンガを危険に晒そうとしていた。取り返しのつかない方法で。

 

 NPCだけで挑みかかったとしても、損失がでるだけと、判断されたのだろう。

 

「万が一、億が一を考えれば、お一人で赴かれたほうが安全でしょう……そして何故シモベたちを連れて行かれたかと言えば、世界級アイテムの攻撃を受けるためのデコイにするためです」

 

 ああ。確かにその点では、シモベの方が有益だろう。自分達には感情があるせいで失敗するかもしれない。だが、シモベたちなら何の疑問も持たずに、行動できるだろう。

 

「勘違いしないで頂きたいのは、あなたたちに感情があることを、モモンガ様は喜んでおられる。それに今までの意見は全て私の意見です……モモンガ様が赴かれたのは別の理由からです。曰く、ケジメとのこと」

 

「自分が世界級に対して、まったく警戒をしていなかったから……警戒していれば、シャルティア殿を傷つかせることも無かった……何より、至高の御方々が残された子供のような存在に争って貰いたくない、消滅させるような目にあわせたくない……これが、モモンガ様の思いです」

 

 自然とデミウルゴスやコキュートスの目から涙が流れていた。

 

 そして、アルベドも。それだけ、自分達はモモンガに愛されているのだ。それが至高の御方々の因果を受け継いでいることを、恨んでいるアルベドなら余計恨みを募らせても仕方なかった。

 

 だが、何故か至高の御方々を憎めなかった。

 

「それにモモンガ様は常にご自身を抑えられて生きてこられた……抑えるように進言何て、できませんよ……何より、今のナザリックでは私が一番モモンガ様を知っているのですから」

 

 最後の一言で、アルベドの遣る瀬無い気持ちは全てパンドラズ・アクターに向かったのは、当然である。

 

「――どうやら、始まるようです……勝利を祈りましょう」




誤字脱字が多かったらすいません。

あと、シャルティア戦は省略しましたが、ほぼ原作通りと考えて頂けると幸いです。

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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