『完結』家族ができるよ! やったねモモンガ様!   作:万歳!

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なお家族にするやり方を間違えたのが、育成計画です。

序盤の大筋はリメイク前とあまり変わりません。ここにお詫び致します。


Prologue 鈴木悟はマザコンである
第1話


 ネム・エモットはあの日の出来事を忘れはしない。帝国の騎士たちに平穏を奪われたあの日を。

 

 父がいて、母がいて、姉がいた。農村での暮らしはけして豊かとは言えない。でもネムにとって、とても大切な日常を。

 

 でも日常は奪われた。父は逃げる時間を稼ぐために死んだ。母も同じだ。姉と二人で逃げた。姉も私を必死に守ろうとしてくれた。

 

 騎士から必死に二人で逃げているときネムは転倒してしまった。姉が助け起こそうとした時に、絶望がやってきた。大切な(日常)を奪った(悪魔)たちは嘲笑気味に言った。

 

「無駄な抵抗をするな」

 

 その目は語っていた。お前たちが死ぬ運命は変えられない。余計な手間をかけさせるな……と。

 

 なんで、私には家族を守る力がないんだろう。

 

 騎士(悪魔)は二人に近づいてくる。ゆっくりと剣を持ち上げる。まるで恐怖心を煽るかのように。

 

(どうしてこんな目に遭うの。家族で平和に暮らしていただけなのに……)

 

 結末は決まっている。姉と共に二人で殺される。それはネムにとって覆えしようのない事実だった。しかし姉は違った。

 

「なめないでよねっ!」

 

「ぐがっ!」

 

 騎士(悪魔)が装備する兜を思いっきり殴ったのだ。いったいどこからそれだけの力を出しているのかネムには分からなかった。

 

「はやく!」

 

 私は姉に連れられ逃げ出そうとする。

 

 しかし騎士(悪魔)は逃がしてくれなかった。

 

「―――っく!」

 

「貴様らぁぁ!!」

 

 姉が騎士(悪魔)に斬られていた。自分を庇うかのように。

 

「お姉ちゃん!」

 

 どうしてネムの大切な物を悪魔(騎士)は奪おうとするんだろう……

 

 ネムは何もできない。当然だ。ただの子どもが悪魔(騎士)に勝てるはずがない。

 

 初めから殺される運命は決まっていたのだ。彼らに標的にされた時点で。

 

(せめて二人で死ぬ事ができますように……)

 

 ネムは、何も助けてくれない神にそう祈った。

 

 本心では誰でもいいから、私たちを助けてくださいと……私の大切な物を奪わないで下さいと願いながら。

 

 視線だけは騎士から目を逸らさずに――それがせめてもの抵抗のように――そして奇跡は起きた。悪魔が止まったのだ。悪魔はただ一ヵ所に視線を留めている。何が起きたのか分からず、ネムも悪魔たちが見ている方向に視線を向けた。

 

 漆黒色の絶望が存在した。何かの扉のように見える。

 

 そして扉から死が現れた。

 

 悪魔よりも怖い死がこちらを見ていた。まるで私たちを迎えに来たように。

 

 形を作った死は呪文のような物を唱えていた。

 

心臓掌握(グラスプ・ハート)

 

 ネムは一瞬殺されると思い目を閉じた。しかし気づけば自分たちの後ろで何かが崩れる音が聞こえた。怖がりながら振り返ると悪魔が倒れていた。

 

 一体何が起きているのか分からない。

 

(なんでネム達を連れて行か(殺さ)なかったんだろう?)

 

 考えを読んだのか死はこちらに近づいてきた。今度はネム達を殺すために。

 

 しかし、その考えは外れていた。死はネム達を通り過ぎた。理解ができない。

 

 そしてネム達を庇うかのように二人の前に立った。近くにいたもう一人の悪魔は怯えるように後退した。

 

「……女子供は追い回せるのに毛色が違う相手は無理か?」

 

 ネムは理解した。あの御方は私の願いを叶えてくださる方なんだと……ネムは無意識的に呟いた。

 

「神……様?」

 

 その後神様はもう一人の悪魔を簡単に倒して、何かを作りだす。思わず姉共々、悲鳴を上げてしまう。

 

 神様が作り出した物に命令を下す。

 

この村を襲っている騎士を殺せ(村の人間を助けてやれ)

 

 作りだされた存在は、命令に応えるように、咆哮を上げる。

 

「オオオァァ!」

 

 そして村の方へ駆けだした。

 

 神様は本当にネム達を助けに来てくれたんだと理解した。

 

 ネムは姉から手を離し、神様に向かって歩き出す。お礼を言うために。

 

「ネム!? 行っちゃ駄目!!」

 

 なぜかお姉ちゃんは焦った声で神様に近づくのを止めるが無視する。――途中また黒い靄のような物から何かが現れビクっと驚くが――そして自分からお礼を言う前に神様が話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

 ネムは頭を下げながら答えた。願いを叶えてくれた事に。

 

「神様……ネムを、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

 

 ネム・エモットはこの日両親を殺された。決してその事を忘れる事はできない……

 

 同時にアインズに救われた事も忘れないだろう。

 

★ ★ ★

 

 モモンガは困惑していた。助けに来たのは一目瞭然であるはずなのに、まるで変な行動をしているかのように、戸惑いを見せている少女たちに。ただ姉の少女は剣で切られているため疑問を晴らす時間がない。そのため二人の少女を自らの背に隠し、現れた騎士に対して言葉をかける。

 

「……女子供は追い回せるのに毛色が違う相手は無理か?」

 

 後ろから「神……様」との声が聞こえて。少し疑問が晴れた。死にかけているときに助けに来たのだから錯乱しているのだろうと。

 

 実験も兼ねて騎士を殺し、死の騎士(デスナイト)を召喚する時、黒い靄が騎士に纏わりついて召喚される。姉妹も悲鳴を上げるがモモンガも悲鳴を上げたいほど驚いた。ユグドラシルではありえないからだ。そして自分が人間を殺して何も感じない事に、人間を止めたのだと理解した。悲しみはなかった。

 

 また召喚者の近くしか行動できないはずのユグドラシルとの違いを見せつけられ驚愕していた時、後ろから妹と思われる少女の方が近づいてきた。

 

 近づくときに姉の方が近づいちゃだめと叫んでいたが、助けに来たはずなのに、なぜそんな事を叫ぶのだろう……と困惑したが、血が足りず錯乱しているのだろうと思う事にした。少女が近づく合間にもう一体死の騎士(デスナイト)を媒体がなくても召喚できるかの実験と護衛のため召喚しておく。

 

(どうやら媒体がなくとも召喚は可能のようだ……さらに実験が必要だな)

 

 そして近づいてきた少女は比較的錯乱していないように見える。

 

「どうした?」

 

 自分の言葉に反応したのか、深々と少女は頭を下げる。

 

「神様……ネムを、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

 

 モモンガは一瞬驚いた。とはいえ、お礼を言ってきたのは素直に嬉しい。

 

(……そうだよな! 助けに来たんだから、これが正しい反応だよな! しかし神だと……俺の事だよな、これは訂正しとくべきだよな)

 

 そしてモモンガは片腕を顎に当てながら誤解の解き方を考える。

 

「ふむ……何か勘違いしているようだな私は神ではない。私はモモン――」

 

 名乗ろうとして止めた。今の自分はモモンガと名乗るべきではない。俺、いや、私はただ一人ナザリックに残った最後のプレイヤーなのだ……少女が首を傾げている。途中で名乗りを止めたからだろう。

 

「少女よ、我が名を知るがいい、我こそが、アインズ・ウール・ゴウンである」

 

「アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「アインズで良い……ところでだ、私は確かにお前たちを助けに来たがお前の姉はまだ助かっていないぞ?」

 

 目の前の少女と姉が同時に「「え」」と呟いた。背中を切られているのに助かったと思っていたのだろうか?

 

「お前の姉は剣で斬られて血を流している以上治療をしないと助からないぞ?」

 

 目の前の少女が悲しそうに目を伏せるのを見ながら下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)を取出し姉の方に近づく。

 

 姉の少女は何が起きているのか分からないかのように困惑した顔を浮かべている。早くポーションを使わないとまずいだろう。

 

「お願いします。私なら、何でもします! だから、お姉ちゃんを助けてください!」

 

「ああ。助けよう」

 

 錯乱している少女に近づき、薬を突き出す。

 

「飲め」

 

 姉は何が何だか分からないような顔を浮かべ硬直している。

 

(物事を認識する事も難しいくらい血を失ったか……当然と言えば当然だが……どうする? 私が直接口に流しこむのはまずいだろう……下手したらセクハラになるかもしれないし)

 

 決してまともに女性と触れ合った事がないからへたれた訳ではないと誰かに言い訳しながら――自分の部下にセクハラ(パイタッチ)をしている事を頭の隅に追いやりながら――

 

「ネムだったか? 姉を助けたいならこの薬を飲ませろ。すでに物事を認識できないほど血を失ってるらしい」

 

「わかりました!」

 

 よほど慌てたのか転びそうになりながら傍にまでくる。薬を渡すとすぐに受け取り姉の口に薬のビンを持っていく。姉は困惑したようにネムを止めようと叫んでいたみたいだが、叫んで開いた口に薬を飲ませた。姉は口の中に無理やり瓶を突っ込まれたため、少し苦しそうにしていたがある程度飲み干したようだ。

 

 それにしても、嫌がっている姉に無理やり、液体を口に突っ込んで飲ませる妹。何か背徳的な雰囲気を感じる。そしてネムの立場に自分を当てはめてみる。自分が飲ませていたら間違いなく、たっち・みーが本業をすることになった。

 

(……うん。ここにペロロンチーノさんがいたら、間違いなく喜んでいたな。やっぱり俺が飲ませなくてよかった)

 

 さらに口から流れるように零れ落ちて、服が濡れていることも変な想像を加速させる。……どうやら効果が出たようだ。姉の少女が目を見開いている。

 

「うそ……」

 

 呟きながら自らの背中の感触を確かめていた。ネムという少女もとても嬉しそうに涙を滲ませながら喜んでいる。何となく、心温まる光景だ。

 

 丁度そこに転移門からアルベドが現れた。

 

 アルベドは普段と違い完全装備だ。命令は伝わっているようだな……などと考えると転移門が消えアルベドが話しかけてくる。

 

「遅くなり申し訳ありません」

 

「構わない」

 

「ありがとうございます。そこの下等生物はどう致しますか? よろしければ私が処分いたしますが?」

 

 どうやら命令は途中までしか伝わっていなかったようだ。自分が上位者と意識しながら問い質す。幼い少女とは友好関係を構築できているのだ。このままいけば、姉の方やほかの村人たちとも友好関係を構築して情報収集ができそうなところで、ぶち壊しにされたら困る。

 

「セバスにはこの村を助けると伝えるよう命令したはずだが……何を聞いた?」

 

「申し訳ありません!」

 

「……まぁ、ここでしっかりと認識してくれれば構わない。とりあえずの敵はそこの騎士だ。村人に敵意を向けるな」

 

 そこには無邪気に喜んでいる少女と今のアルベドの発言からか怯えながらネムを庇おうとしている少女がいる。

 

(確かに、恐ろしい事を言っているが、私が助けたのは理解できているはずなんだがな~ネムの方はしっかり理解しているみたいだし)

 

 まあいいかと考え、姉妹の周りに防御の魔法をかける。対魔法用の魔法はどうするかと考え一応唱えておく。

 

「防御の魔法をかけておいた。そこにいれば大抵は安全だ――後は……そうだな」

 

 スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの力を解放し、月光の狼(ムーン・ウルフ)を召喚する。

 

「二匹は周辺を警戒せよ。一匹はこの少女達の近くで護衛せよ」

 

 命令に従い二匹が散る。一匹は待機している。二匹は発見器としての狙いもある。先程の騎士は弱く死の騎士(デス・ナイト)も現状倒されていないが拮抗しているか圧倒しているかの判断材料にはなる。倒されればレベル20以上の敵が周辺に存在する事になるだろう。ナザリックに所属する者から見れば弱いが、多少の判別には使えるだろう。それに失っても特に惜しくは無い。

 

 さらにモモンガ改めアインズは最初姉の方に渡そうかと考えたが今までの反応からネムに近づき、膝を突く。目線を合わせ、二つのみすぼらしい角笛を手渡す。

 

 アインズはできる限り優しく語りかける。

 

「その角笛を吹けば小鬼(ゴブリン)――小さいモンスターがネムに従うために召喚されるはずだ。それで自分と姉の身を守るといい。一応月光の狼(ムーン・ウルフ)一匹は護衛にしておく」

 

「アインズ様、ありがとうございます!」

 

「アインズ様? 何を言ってるのかしら。その御方は――」

 

 ややこしくなりそうだったのでアルベドに仕草で後で説明すると伝え、ネムに向き直る。

 

「それとだネム。お前は魔法詠唱者(マジック・キャスター)を知っているか?」

 

 これは聞いておく必要がある。もしいなければ、対応を考えなければならない。下手をすればこの少女たちの口を封じる必要が出てくる――できるなら避けたい――しかしそうはならなかった。

 

魔法詠唱者(マジック・キャスター)? ンフィー君もそうです! アインズ様は違うんですか?」

 

 少し首を傾げながら返答される。何故だろう。小動物のようでかわいい。

 

(確かにあれだけ魔法を使えばそう思うか……いや大事なのは使用する人間が近くに存在する事だな。しかし幼いな。信じても良いのか?)

 

 もしかしたら手品を魔法と勘違いしている可能性も0ではない。

 

(しかし姉の方に聞くにしてもさっきまでの反応を見ると信用しかねるな……ここは信じよう)

 

 万が一の場合の口封じ方法を考える……そもそもこの少女の口を封じる必要はないのだ。村人たちは別に対応は考えなければならないかもしれないが、二人だけならナザリックに連れて帰って見てもいいのだ。

 

「あぁ私も魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。これから村の人達を助けに行ってくる。じっとしてるんだぞ?」

 

 その言葉を聞き現状を思い出したのか、ネムは少し泣き出しながらお願いをしてくる。何となくお願いの内容は想像がついた。

 

「お願いします、お父さんたちも助けてください! 私はどうなっても――」

 

「それ以上言う必要はない。生き延びているなら必ず助け出そう。アインズ・ウール・ゴウンの名に誓って」

 

 それを最後に立ち上がり村に向かい歩き出す。途中からアルベド達も追従する。その時、後ろからおそらく正気を取り戻したのだろう少女の声が聞こえる。

 

「助けて頂いてありがとうございます! 図々しいと思いますが家族を助けてください!」

 

 手をヒラヒラと振る事で返答として村の方向に向かう。

 

(正気に戻ったなら、戻って魔法詠唱者(マジック・キャスター)の存在を確かめるべきだったか? ……確実に正気かどうかも分からない以上、これ以上の時間の浪費は避けるべきだな――それとたっちさん……俺は恩を少しでも返せましたか? たっちさんに少しでも近づけましたか?)

 

 傍にいないはずの友に語りかける。想像の中の友はしっかりと首を縦に振ってくれていた。

 

(ふ……これはただの願望だな……だが悪くは無いな)

 

 その背中はとても喜びに満ちていた。

 

 

 

 

 少し歩いた後、機嫌が良さそうなアインズをアルベドが何かあったかと質問した。

 

「モモン……失礼いたしました。アインズ・ウール・ゴウン様」

 

「アインズで良いぞ、アルベド」

 

 アインズの答えを受けアルベドは混乱を表すかのように動く。

 

「しっ至高のお方の名前を略すなどは、ふ、不敬でしゅ!」

 

 構わないと思うのだが……それこそウルベルトさんがこの場にいて、毎回フルネームで呼ぼうとしたら、いつか舌を噛みそうだ。本人だってこそばゆいだろう。

 

「それだけ、この名を尊い物と思ってくれて嬉しいぞアルベド。私は仲間たちが戻る日までこの名を名乗る。お前や他の者に思うことは無いか? もし不快にさせるのであれば止めるぞ?」

 

 そしてアルベドは動きすぎだと思う。顔が見えないから奇妙だ。

 

「とんでもない! ただ、」

 

「ただ? 何だ?」

 

 アルベドが居住まいを正す。今までの動きがなくなり、しっかりと自分を見据えている。

 

「アインズ様を不快にさせれば自害を命じてください。他の至高の方々がモモンガ様を差し置いて名乗った場合思う所はあるかもしれません。しかしモモンガ様なら喜びだけです!」

 

「……そうか。そうだな。感謝するぞ、アルベド」

 

「あぁ♡ アインズ様に感謝するぞと言っていただけるなんて幸せでございます! っは! もしかして私だけ特別だから名前を略させて頂けるのでしょうか!!」

 

 アルベドがさらに喜びを表すように体をくねらせている。喜ばれるのは嬉しいが誤解は解く必要はある。

 

「長い名前で呼ばれるのがこそばゆいだけだ。全員私の呼び方は統一するぞ? というよりさっきの少女(ネム)にアインズと呼ばせていただろう?」

 

 アルベドの動きが一瞬にして止まる。

 

 何故アルベドが止まったのか分からずアインズも立ち止まる。

 

「どうした」

 

 返事がない。ただの石像のようだ。

 

(何か問題が起こったか? そんな気配はないが? いや前衛職のアルベドが返事を返せないくらい固まっている以上何かあったと考えるべきか?)

 

 考えに従い配下に命令を下す。

 

死の騎士(デス・ナイト)アルベドが何かを感じたらしい、警戒を密にせよ」

 

 無事に命令を受諾したようだ。一応、村の方の死の騎士(デス・ナイト)にも命令を下す。

 

(しかし、この返答の感覚は謎だな……救援に行かせた死の騎士(デス・ナイト)も無事なようだし、村の方にも強い敵はいなかったようだが)

 

 村に送った死の騎士(デス・ナイト)からも受諾の意思が返る。こちらに戻さないのはおとりにするためだ。死ねばすぐに帰還するしかないだろう。あの少女との約束を破る事になるのは残念だが……一応偵察にだした月光の狼(ムーン・ウルフ)にも強者を探せと命令する。

 

 少し語尾を強めながらアルベドに尋ねる。

 

「アルベドよ…どうしたのだ。強者が存在するのか? お前をして固まるような存在が!」

 

「違います! アインズ様!」

 

 アルベドの叫び声が返ってくる。その姿は悲しんでいるようにも怒り狂っているようにも見える。下手をすれば。自分に襲い掛かりそうだ……何か地雷を踏んだのだろうか? この距離は不味い。この距離でアルベドに襲い掛かられたらほぼ勝ち目がない。そのため死の騎士(デス・ナイト)に自分とアルベドの間に入れと命令しようとするが、どうやら間に合わなかったようだ。

 

「なぜあの小娘に優しくするのですか! まさかアインズ様はあのような小娘を妃にするつもりですか!!」

 

 アルベドの怒りに満ちた大声が村に向かう道に響き渡る。途中から怒りではなく悲しみが満ちた声で泣きそうになりながら。最初アインズはアルベドが何を言っているのか理解できなかった。意味を咀嚼すると感情が鎮静化される。つまりそれほど大きく感情が動いたのだ。

 

「アアアルベドよ一体何を言っているのだ!」

「だってアインズ様は膝まで突いてやさしいお言葉をかけておられたではありませんかっ!」

「誤解だ! アルベドよ私にはそんな気持ちはなかった! あのとき優しくしたのは昔を思い出していたからだ!」

 

 それにたいしてアルベドは訝しそうに発言する。どうやら信じていないようだ……アルベドには私がロリコンにでも見えているのだろうか? ロリコンはペロロンチーノだけ(もっとも、彼はロリコンだけではなかったが)で十分だと思う。

 

「私はな……昔、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』ができる前だ。その時PK()されかけたのだ、いや何もなければ確実にPK()んでいた」

 

 一瞬の空白の後、アルベドが憤怒の感情を表す。はっきり言って自分でも怖い。

 

「わ、わたしの大好きな――」

 

「続けるぞ。あのとき死んでいれば私は完全に死んで今この時お前たちと一緒にいる事もなかっただろう。しかしだ。私はたっちさんに救われたのだ……あれがあったからこそ今の私がある」

 

 アルベドが驚いた感情を露にする。フルプレートのせいで顔は見えないが間違いないだろう。

 

「私はな、あの姉妹を救った時にたっちさんに少しだが近づけた、恩を返せた、そんな気がしたのだよ。アルベドよ。だからあの少女に恋愛感情はない。あるのはたっちさんに近づく事ができた、恩を返す事ができたと思える事に対する感謝だよ」

 

 無言のまま時間が経過する。暫くすると意味を理解できたのだろう。

 

「失礼致しました。アインズ様」

 

「良い。ではアルベドよ何も問題がないのであれば村を助けに行くぞ……それとだ、恥ずかしいから他のNPC達には内緒だぞ? それに俺は必要があればどんなことでもするつもりだからな。純粋にたっちさんと同じ事をするつもりはないからな?」

 

(実際たっちさんみたいになりたいと考えているのをNPC(子どもたち)に知られるのは何かが辛い。それに下手をすると不和を撒き散らす事になりそうだからな。……ウルべルトさんは悪に括ってた訳だし)

 

 そしてアルベド達を伴いアインズ達は村に近づいていった。

 

★ ★ ★

 

 法国の偽装工作の兵士たちは絶望を感じていた。仲間が次々と死に、現在生きているのは四人だ。しかも実力で生き延びた訳ではない。我々に死を撒き散らした騎士が急に止まったのだ。まるで何かを警戒するかのように。この隙に逃げられるのであれば良いが足がすくんで動かない。だだ恐怖の混じった息遣いだけが聞こえる。仲間だけでなく村人も同じようだ。

 

 早く終わってくれと願っていると死の騎士より恐ろしい存在(超越者)が近づいてきた。よく見れば死の騎士が後一体いる。早く悪夢が終わる事を騎士たちは祈った。

 

 

「はじめまして、村に死を撒き散らした騎士たちよ。私はアインズ・ウール・ゴウンという。お前たちが降伏するなら命を助けよう。戦いたいのなら――」

 

 言葉は続かなかった。なぜなら全員がすぐに武器を捨てたからだ。

 

「……ずいぶんお疲れのご様子だな。しかしだ、そこにいる死の騎士(デス・ナイト)の主人に頭を下げないのはどうかな?」

 

 すぐさま騎士たちは頭をたれる。はたから彼らを見れば死刑を待つ死刑囚のようだ。

 

「騎士の諸君。この辺で二度と虐殺をせぬよう上に伝えよ。さて、それでは逃げてくれて構わないよ……死の騎士(デス・ナイト)途中までお見送りしてやれ」

 

 騎士たちは戸惑うが死の騎士(デス・ナイト)が走り出そうとするのを見て逃げ出す。後ろから死の騎士(デス・ナイト)が追いかける。

 

(多少離れたら、戻ってこい)

 

 それを見送り村人に近づく……しかし村人たちは近づくたびに怯えの色を大きくする。

 

(助けたはずなのになぜこいつらは怯えているんだ? まともな反応を返したのはネムだけだぞ?)

 

 疑問に思いながら近づく。彼らはより怯える。助けているのになぜ、こんな対応なのだろう?

 

「さて、君たちはもう安全だ。安心すると良い」

 

 そう言葉を発すると、村人たちは絶句したように眼を見開いた。

 

(なぜそれほど驚愕するんだ? 助けに来たと言っているのに……まともな対応をするのはネムだけか?)

 

 疑問はすぐに解決した。なぜなら村人の代表と思われる者が怯えながら口を開いたからだ。

 

「あ、あな、あなた様はせ、生命を憎み死をま、撒き散らす、アン、アンデッドではないのでしょうか?」

 

(…………はぁ!! 死を撒き散らすって…鎮静化した。この世界じゃアンデッドはそう思われてるのか。だったらさっきの姉の方の対応も当たり前か。死を撒き散らす物って考えられているなら……ネムの方はなぜ私に感謝したのだ? むしろネムの方が錯乱していたのか? しかしこれは失態だな。何とか誤魔化さないと……)

 

 アインズが考え込むと村人たちの不安は増す。さらにアルベドがアインズが黙り込んだことを怒りと感じて動き出したのだろう。村人達の恐怖はさらに上昇したようだ。

 

「助けて頂いておりながら、感謝の言葉すら表さないとは……その罪万死に値する!」

 

 アルベドが武器(バルディッシュ)を持ち上げた。村人を殺すため殺気を撒き散らしながら……ここで村人の何人かは倒れたようだ――モモンガは自分達の力が村人達から見れば完全に異質な物とようやく理解できた――

 

「止めよ! アルベド! 私は村人を助けると命令したぞ!!」

 

 アルベドが何かを言いかけるが、無視する。情報収集のためにもアルベドの身勝手を許す訳にはいかないのだから。

 

「部下がすまない。確かに私はアンデッドだが、死を撒き散らそうとは思わない。今回は君たちが殺されているのを見かけたから助けに来たのだ。見過ごせなくてね……しかしだ、アンデッドがこの辺りでは死を撒き散らすのが当たり前なら、こちらのルールに従った方が良いのかな?」

 

 少し冗談を交えて言葉(ボール)を投げる。後は相手の反応を待つだけだ……少し待つと理解ができたのかなぜかより大きい混乱が生じる。

 

「とんでもない! こちらこそ助けていただいた方に失礼を致しました! どうかお許しください! 殺さないでください!」

 

 土下座しながら話してきた。それに付随して他の村人たちも土下座を始め意識がある者たちは泣きながら命乞いをし始めている。

 

 アインズは思う。

 

(どうしてこうなった)

 




「小さな幼女に「何でもします!」と言わせた上に、嫌がる姉の口に無理やり突っ込んで液体を飲ませるように仕向けた、だと(ゴクリ)」

「弟、黙れ」



 何とか、15日までに投下できました。遅くなったのには理由があります。作者はギリギリまでタイトルを悩んでいました。

「家族ができるよ! やったね、モモンガ様!」

「家族が増えるよ! やったね、ネムちゃん!」

 この二つで最後まで悩んでいました。あらすじを考える事すら放棄して悩み続けました。決まったのが9日です。そしてタイトルが定まった後、タイトルによりふさわしくしようと修正作業をしていました。

クリスマスとクリスマスイブ、どっちが最終話に相応しいですか?

  • クリスマス
  • クリスマスイブ

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