東方転猫録   作:グイド

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こんにちはグイドです。


猫成分を入れるんだ...今のままだとどっちか言ったら犬だ...


ではどうぞ


第9話 猫、はメガンテを唱えた

 

 

 

翌日からは忙しかった。俺と諏訪子は来るべき戦争に向けての最終調整に追われていたのだ。向こうの軍隊は神。何時何処にいきなり出現するかは分からないのだ。

 

 

諏訪の大将である諏訪子はミシャグジ達の配置、そして能力を使って国の周囲へ深い谷を創造したりといった防衛措置を施していた。

 

 

そして俺はというとミシャグジ達の鱗の鋼鉄化、そしてちょっとした兵器の準備を行っていた。

 

 

石を変質させ、マグネシウムに変える。それをナイフの刃で勢いよく擦ると大きい火花が飛び散り、枯れ草に火がつく。

 

 

「よし、メタルマッチできた。」

 

 

この時代において、戦争というのは剣や槍、そして戦斧。そして神ともなれば神力弾などによって行われる。しかし今回の場合、幾数もの国をそれらの武器を使った集団戦術により勝ち取ってきた大和の神軍に比べると、こちらの主な戦闘手段はミシャグジの身体能力のみである。

 

 

それに加えて、神というのは戦いで死んだとしても、信仰が失われるか御神体が破壊されない限り自分の社で復活できるらしい。しかも今回、戦う神の殆どが諏訪の国の隣国に社を移したらしい。よってミシャグジがいくら強く、ミシャグジ自体も生き返るとしても、何百万という神の無限の軍勢にはいつか押し負けてしまうそうなのだ。

 

この状況を打破して対等、もしくはそれ以上の優勢で戦うには、少し汚いがこの時代にはないもの。つまり火器を使う他ないのだ。

 

だが今回我々にはそれを使う堂々たる権利がある。いくら全国を統一するためとはいえ、軍事的に自分達より劣る国に対して圧倒的軍事力で攻め込むというのは卑劣な行為である。

 

よって、こちらも少々卑怯かもしれないが、ミシャグジが相手をする頭数を少しでも減らすため、相手の全軍隊を爆殺しようぜということになったのだ。

 

 

まあそれでも上位の神々は生き残るし、死んだ神も復活して戦場に戻ってくる。だが相手方の出鼻をくじき、恐怖を植え付ければ自然と身体は鈍くなり、ミシャグジ達が楽に戦える様になるだろう。

 

 

既にミシャグジ達は城の周囲を警戒し、軍隊が現れたら神力を解放し、それを感じ取った俺がすぐにそこへ向かうという手筈が整っている。

 

 

「諏訪子、爆発させる前に俺の妖力を全部解放するから。それを合図に全てのミシャグジを撤退させてくれ。」

 

 

「うん、わかった...。あ、あのね京助...」

 

 

諏訪子がそれを了承しつつ、顔を赤くして上目遣いで俺を見てくる。なにこれ可愛いんだけど

 

 

「ん、なんだ?」

 

 

「え、えっと...こ、この戦争が終わったらさ...言いたいことがあるんだけど...聞いてくれる?」

 

そう言う諏訪子の顔は真っ赤であり、目は若干潤んでいる。だがこの戦争では恐らく諏訪子自身戦うことになる。心残りがある状況で戦いなどしたら、それが気掛かりとなって一瞬の隙を突かれるかもしれない。俺は前世で見た戦争映画でそう言って結局爆撃された兵士を見たことがある。

 

 

「諏訪子、戦争の最中にそれが気掛かりになって死んだ奴を俺は見たことがあるんだ。だから言いたいことがあるなら今言ってくれないか?」

 

 

そう言うと諏訪子は俯き、数秒間考えてから、顔をバッと上げて俺の目を見据えて話し始めた。

 

「..私は、京助のことが_____っ!!!京助!」

 

 

諏訪子が話し始めた瞬間、東の方角でミシャグジの強大で禍々しく、波打つような神力が俺と諏訪子に敵の出現を知らせた。

 

 

「話は後でな!よし、行ってくる!!」

 

 

この作戦は時間との勝負だ。敵の場所が分かった以上、一刻も早く行かなければいけない。諏訪子がなにか言いたいことがあるようだったが、この作戦が失敗した場合のリスクには替えられないのだ。

 

 

俺は猫の姿に戻り、身体強化をMAXにし、東へ向かって風のように走った。

 

 

国の端に着き、諏訪子が創った深さ50mはあろうかという深い谷にかかる橋を渡り、東の待機場所へと走る。

 

 

待機場所へ着くと、そこには1匹のミシャグジが、蜷局を巻いて地平を見据えていた。俺が人化して近づいていくとミシャグジは俺に気付くなり擦り寄ってきて甘えてくる。そして「向こうを見てくれ」と言わんばかりに俺を引っ張った。

 

 

俺が目を凝らして地平を見ると、うっすらと大和の軍旗が見える。見た感じとにかく数が多い。

 

 

「うわぁ〜..ほんとに多いな...まぁいいや、やるか」

 

 

そう言ってお手製のメタルマッチを取り出し、あらかじめ待機場所に置いていた木屑に向かって擦る。そして火がついたら枯れ草を乗せ、火を大きくする。次に用意しておいた松明に着火する。

 

 

「さて、準備は整った。じゃあ君、ご苦労さま。敵陣吹っ飛ばしてくるからまた後でな。」

 

 

俺はそうミシャグジに語りかけ、妖力を全て解放する。すると諏訪子に伝わったのか、ミシャグジが地面に消えていく。

 

 

「さあ、行こうか」

 

 

 

 

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八坂神奈子side

 

 

 

 

 

私は今諏訪の国から数キロ離れたところに構えてある本陣の総大将の席に座っていた。

 

ここに本陣を構えた時、諏訪の国の方で禍々しい神力が放出されたのを確認した。あれは恐らくミシャグジとかいう蛇のものだろう。まあ、なかなかに強大だが数で押せば問題ない。今までもそうやって勝ってきた。

 

 

すると今度はミシャグジと大体同じ位置から妖力が放出された。大妖怪クラスではあるが、所詮は妖怪。神の前には無力だろう。そう思っていると兵士が入ってきた。

 

 

「ご報告致します。諏訪の国より松明を持った1匹の妖怪が近づいてきました。只今兵士達に囲わせておりますが、一言も喋らないため使者というわけでもなさそうですが、洩矢の者であることは明らか。つきましては殺害の許可を。」

 

 

使者なら話を聞く必要があるが、そうでないのならその必要はない。私は深く考えずに許可を出した。

 

 

「よかろう。殺せ。」

 

 

「はっ。」

 

 

まぁ戦争の場合、使者には必ず人間を使うということになっている。例えその妖怪が使者だとしても法的には殺して問題ない。

 

 

などと考えて安心していると、一瞬息が出来なくなった。

 

 

「カハッ...?!!」

 

 

私や、その他の上位の者達は反射的に神力で自分に結界を張る。

 

その瞬間、目の前が共に激しく光り、轟音と共に炎が私達の陣営を破壊した。

 

 

 

 

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敵陣の前に着くなり、俺は敵の兵士に囲まれた。

 

 

「貴様!妖怪の分際で我等の前に立つとは!」

 

 

「洩矢の者か?!殺してくれる!」

 

 

「......」

 

 

俺は質問に答えず、静かに能力を使い、自分の身体と服を硬化させ、対爆仕様にする。松明は...よし、ちゃんと燃えているな。

 

 

しばらくすると、上官らしき男がやってきた。

 

 

「上からお前の殺害許可が降りた。我等の侵攻を邪魔するというのならば消えてもらう。」

 

 

そこで俺は初めて口を開いた。

 

 

「お前達のやっていることは、全国を統一する等という屁理屈をつけてはいるが、実際は自分達の利益しか考えずに他国の富を踏みにじり支配するただの侵略行為だ。私は洩矢様の式神として、この場で徹底抗戦させて頂く。」

 

 

「貴様!妖怪の分際で生意気な!」

 

 

「許可は降りた!殺せぇ!」

 

 

神の1人が神力を込めた剣で切りかかってきた。だが硬化をかけた俺に弾かれ、その剣は砕け散った。

 

 

「なっ?!」

 

 

相手側から攻めてきたから反撃するという大義名分はこれでそろった。

 

 

「先に手を出したのはお前達だ!よって私はここで防衛と言う名の戦争の開始を宣言する!」

 

 

俺はそう言い放ち、すーーーっと息を吸い込み、燃え盛る松明を上に放り投げてから腹の奥から叫び、何万、何十万という程の大和軍の全体を取り囲む空気を、全て可燃性である天然ガスに変質させる。

 

 

「メガンテじゃああああああああああ!!!!雑魚どもがあああああああ!!!!!!」

 

その瞬間目の前が白く光り、爆炎と共に俺は吹き飛ばされ、意識を失った。

 

 

 

 

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洩矢諏訪子side

 

 

 

__どうして京助はこんなにも私に良くしてくれるんだろう。

 

 

戦地に投入するミシャグジの確認をしていると、改めてそんなことを考えてしまった。

 

 

私の式神になってもらってからというもの、私のことを気遣って家事を進んでやってくれ、私が大和のことで悩んでいると横で励ましてくれたり、相談に乗ってくれたりした。あまつさえ京助は私の修行に、嫌な顔一つせず付き合ってくれた。

 

 

妖怪は本来神に使えたりすることはない。使えるとしても、大和の式神のように力ずくで使役されるのがほとんどである。だがそれにも関わらず、京助は私と一緒にいて、私を助けてくれた。

 

 

諏訪の国の神になってからというもの、私はいつも一人ぼっちだった。祟神という建前上、人は私を恐れて近づかなかった。大和が攻めてくるという話が来た時も、私は誰に相談するのでもなく、1人で悩むしかなかった。

 

 

そんな時京助が現れ、他人に飢えていた私の心を満たしてくれた。そして励まされるままに、気づいたら私は自信を持って大和に抗戦することになっていた。

 

 

京助がいなかったら、ここまではたどり着けなかっただろう。戦争にはなっただろうが、私とミシャグジ達で勝てもしない戦に絶望しながら戦うしかなかっただろう。私は京助がいなかったら......

 

 

京助がいなくなることを考えると、胸がズキズキとした。私はどうやら京助のことを無意識のうちに好いていたのかもしれない。惚れっぽいのかな私は、と思い、思わず笑みがこぼれる。

 

 

....よし。この戦争が終わったら私の気持ちを京助に伝えよう。

 

 

そう思っていると京助が話しかけてきた。

 

 

「諏訪子、爆発させる前に俺の妖力を全部解放するから。それを合図に全てのミシャグジを撤退させてくれ。」

 

 

京助に話しかけられた瞬間、私は胸がドキッとして、徐々に顔が熱くなった。

 

 

__ああもう!意識し始めちゃったから話すだけで顔が......。よし、後で話すきっかけだけでも作っておこう...

 

 

「うん、わかった...。あ、あのね京助...」

 

 

「ん、なんだ?」

 

 

__ああ〜!絶対今私の顔赤くなってるよ.....

 

 

「え、えっと...こ、この戦争が終わったらさ...言いたいことがあるんだけど...聞いてくれる?」

 

すると京助は少し考えてから言った。

 

 

「諏訪子、戦争の最中にそれが気掛かりになって死んだ奴を俺は見たことがあるんだ。だから言いたいことがあるなら今言ってくれないか?」

 

 

私は顔が発火しそうなくらい熱くなった。その絶対真っ赤になっているであろう顔をこれ以上京助に見られることが恥ずかしくなり、帽子を盾に俯いてしまった。

 

 

__...もう、ここで言っちゃおう。たしかにこんな気持ちを抱えたままじゃ戦いに影響しちゃうかもね..。

 

 

私は覚悟を決めて話し始めた。

 

「..私は、京助のことが_____っ!!!京助!」

 

 

だが私が話し始めた瞬間、東の方角でミシャグジの強大で禍々しく、波打つような神力が私と京助に敵の出現を知らせた。

 

 

「話は後でな!よし、行ってくる!!」

 

 

私は神社に一人ポツンと残されてしまった。

 

 

「あーうー....なんか、安心したというか、残念というか...。」

 

 

__まぁいいや。まだ告白する機会はいくらでもあるもんね。

 

 

__よし、先ずは戦争に集中しよう。京助からの合図を待って、私のやるべき事を果たそう。

 

 

「大好きだよ京助...」

 

 

私は京助が走り去った方に向かってそう呟き、京助の合図を聞き逃さないために神経を集中させた。

 

 

 

 

私の名前は洩矢諏訪子。自分の式神に思いを寄せる、年齢秘密の恋する少女である。

 

 

 

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シュルシュルシュルシュル....

 

 

__....ん?...俺今どこにいるんだろ....なんか懐かしい感覚が.....

 

 

意識が戻り、目を開けると俺は何かに運ばれていた。

 

 

__ああ、なんか懐かしいなと思ったらこれか..

 

思わず笑みがこぼれる。俺は今、ミシャグジに首根っこを咥えられて運ばれている最中だったのだ。

 

懐かしい感覚というのは、昔俺がまだ子猫だった時、よく母猫に首根っこを咥えられて運ばれていたからだ。

 

 

__あれ、ということは人化解けちゃったか...

 

 

どうやら俺が想像していたよりも、ものすごい爆発が起きたようである。メガンテとはよく言ったものだな...と笑う。メガンテとは前世にやってたド〇クエに出てくる呪文で、敵全体を爆殺する呪文なのだが、それは唱えた本人も殺してしまう呪文なのだ。

 

俺は対爆仕様のおかげで死にはしなかったが、吹き飛ばされたせいで気絶し、人化が解けてしまった。そこを俺の妖力を検知したミシャグジが拾って、社まで運んでくれているようだ。牙が若干痛いがしっかり甘噛みしてくれているようで安心した。

 

__ああ、なんか心地いいな...社までの間、眠らせてもらおう...俺は頑張った.....ニャン....

 

 

疲れていたこともあってか、俺はまた眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

その後は例によってまた大変なことになった。

爆発の後、ミシャグジ達を戦地へ向かわせた諏訪子の所へ俺が運ばれてきたが、運ばれてきた俺が猫の姿であり、眠っていたためにぐったりしているのを見た諏訪子が俺が死んだと勘違いして発狂し、作戦を忘れて自ら特攻を仕掛けようとした。その時のどす黒いオーラに俺が驚いて目覚め、人化すると諏訪子が安心したのか大泣きし、俺はそれを慰めることに追われてしまった。

 

 




グイド「君、性格的に猫ってより犬じゃね?言われてるよ?」

英「猫はなぁ!惚れ込んだものには尽くすんだよ!」


猫成分を...

ではまた次回

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