風の聖痕 風と水の祝福『凍結』   作:竜羽

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決戦の地へ

「兄様!」

 

部屋に入ってきた和麻に最初に反応したのは煉だった。

立ち上がった煉はまっすぐに和麻の前に向かう。

 

「あの、僕のことを覚えていますか?」

 

「ああ、大きくなったなぁ、煉。10年ぶりくらいか?」

 

「そんなわけないでしょう」

 

少し嫌を含んだ声で煉は返す。

 

「そうだったか?ええっと、お前と最後に会ったのは……いつだ?」

 

「……兄様は僕に何も言わずに出ていきましたからわからないでしょうね」

 

少し拗ねたように、いや実際に拗ねている。

だが、自分に素直に、そして純粋に接してくる煉を、和麻ははやての次くらいに可愛く思った。

 

「はは、悪い悪い」

 

「わっ!やめてください兄様。くすぐったいです」

 

仏頂面から柔らかい笑みを浮かべた和麻は、煉の頭をぐりぐりと撫でる。

雑な撫で方だったが、遠慮のいらないその行為を、反論しながらも煉は素直に受け入れ、うれしそうにする。

六年ぶりの兄弟の再会は部屋の中の重い空気を、幾らか緩和する。

だが、いつまでも続けるわけにはいかない。

 

「遅かったじゃない、和麻君」

 

楯無が声をかけると、和麻は煉の頭から手を離し、ぽんぽんと頭を叩く。

そして、部屋の中に歩みを進め、先に部屋の中に入っていた翠鈴の隣に並ぶ。

その際にちらりと、厳馬が目に入るが何の反応も示さず、むしろ重悟と煉、そして操以外の面々は完全に無視する。

 

「流也君の容体は?」

 

「安定しました。峠は越えたようです」

 

「それは上々ね。さて、一応自己紹介なさいな」

 

「はい」

 

「……めんどくさ」

 

翠鈴は礼儀正しく、和麻は零した言葉の通りめんどくさそうにする。

 

「っていうか、俺は別にいらんだろ。有名だからなあ、え?神凪さんよ」

 

皮肉を込めて和麻はそういう。

確かに神凪において和麻は、悪い意味で(・・・・・)有名だった。

無能者。落ちこぼれ。宗家の恥さらし。

彼を貶す言葉を家のほとんどの者が口にし、普通では考えられないような扱いを受けた。

いまさら自己紹介などするまでもない。

 

「それは神凪和麻(・・・・)が、でしょ?ちゃんと名前を言いなさいな」

 

「……八神和麻だ」

 

楯無の言葉にしぶしぶ今の自分の名前を口にする。

隣の翠鈴がそんな和麻をちらりとみると、今度は自分の番と神凪家の者たちに目を向ける。

和麻とともに現れた翠鈴のことを、先の電話で言葉を交わした重悟やそれを見ていた雅人はすぐにわかったが、それ以外の者たちは、一体この見目麗しい美女は何者なのかと注目する。

 

「八神翠鈴といいます。和麻の妻です」

 

翠鈴の言葉に、厳馬を除く神凪の全員が驚く。

かつて無能物とさげすまれていた和麻の妻が、翠鈴のような美しい美女だと聞き一様に驚く。

 

「あ、あなたが兄様の、お、お嫁さん!?」

 

煉は事前に和麻の妻のことを聞いていたが、翠鈴のようなきれいな人だとは思ってもみなかったため、驚き思わず聞き返す。

翠鈴は煉のそばまで来ると、少し屈んで目線を合わせて話しかける。

 

「ええ。君が和麻の弟の煉君ね。和麻の言うとおり、かわいいわね」

 

「え、あ、ありがとうございます」

 

「よろしくね、煉君。私のことは気軽に義姉さんって呼んでくれていいわ」

 

「じゃ、じゃあ、翠鈴義姉さま」

 

「うん、ありがとう」

 

煉は翠鈴を、今までの12年間生きてきた中で一番美しいと思った。それは純粋に育った彼が、翠鈴の見た目だけの美しさだけでなく、その心の在り様を無意識に感じ取ったためでもあった。

二人のやり取りに、和麻は顔がにやけそうになるのを感じるが、必死で隠す。彼も自分の婚約者と弟が仲良くなって内心うれしいのだが、目の前にいる神凪、特に重悟と雅人以外のその他多数にそんな表情を見せるわけにはいかない。

 

「で、自己紹介も終わったことだし、話を進めるけれど――」

 

楯無が話を再開させる。

 

「翠鈴ちゃん?どういうことなの?協力するって」

 

「そのままの意味です」

 

翠鈴は楯無の目をまっすぐに、その翠色の瞳で見据える。

 

「理由は?」

 

「……厳馬殿を呼び出したからです」

 

その言葉に綾乃、煉、分家の三人が驚き、信吾に至っては翠鈴に食って掛かろうと立ち上がる。

先にも武哉が言ったように、もしも厳馬が神凪邸にいれば兵衛の目的達成に変わりはなかったかもしれないが、ここまで被害が大きくなることはなかった。だからこそ、厳馬を呼び出し不在の原因を作ったといった翠鈴に反応したのはしょうがないことだったが、今回は運が悪かった。

 

「きs」

 

「黙れ」

 

ドガンッと、和麻の大気の拳(エーテル・フィスト)を叩き込まれ、何かをしゃべる前に信吾は強制的に意識を遮断される。

和麻としては、分家のうるさい喚き声など聞きたくない、ましてや自分の愛する翠鈴を怒鳴りつける等、許せるようなものではなかった。

ただ、この時彼は失敗した。

いつもの和麻なら、こんな短気な真似をせず、相手が醜い失態を晒し、恥をかかせたうえで叩き潰すはずだった。だが今の和麻は会いたくもない神凪の、しかも厳馬と同じ空間にいたことで余裕が無く、カリカリしていたのだろう。

和麻が問答無用でこのようなことをすれば、彼女がどういう反応をするのか、わからないわけがなかったのに……。

 

「和麻?」

 

「なんだ翠鈴ってぇッ!?」

 

嫌に平坦な翠鈴の声に疑問を覚えながら彼女のほうへ顔を向けた和麻だが、その直後に顔をその白魚のような白い手で掴まれ、ギリギリと締め上げられる。

片手だというのにその力は凄まじく、和麻の頭蓋骨が悲鳴を上げる。

 

「何をいきなりしているのこれは私の話であって和麻は口を挟まないまして手を出すこともしないのわかった?わかったわよね?いいえわかっていたはずよね?なのに何をしている?速く皆さんに頭を下げてそのあとは何も口出ししないでくださいね?ファイナルアンサー?」

 

「ふぁ、ファイナルアンサー……」

 

一息もつかずに放たれた言葉の数々に和麻は即座に全面降伏。とりあえず、神凪に謝った。後にも先にも、和麻が神凪に頭を下げたのはこの時だけだった。

 

 

 

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

 

 

 

話し合いが再開する。

とはいえ、重悟たち神凪としてはことを急ぐ必要があり、ホテルを出て封印の地である京都の北西、火之迦具土を祀る神凪の聖地へと向かう段取りが進められた。

戦いに赴くのは厳馬、綾乃、煉、雅人。そして、自分から志願した翠鈴と彼女に引っ張られてきた和麻だ。

厳馬はいうに及ばず、炎雷覇を操れる綾乃、炎術の才能が潜在的に高い煉は当然だったが、重悟は義足を破壊され、予備の物も神凪の屋敷と共に失われたため東京で待機。信吾、武哉、操と共に負傷した神凪の術者たちを守ることとなった。

これには実力が宗家に及ばない分家の者たちを、神凪への恨みつらみで文字通りの死兵とかしているかもしれぬ風牙との戦いに連れて行くわけにはいかないためでもあった。その点では雅人も当てはまるのだが、彼はチベットへ単身修行に出た経験があるため、信吾や武哉よりも適切な判断力を持ち、戦いを冷静に組み立てられる。さらに、綾乃と煉のフォローにも慣れていることから、役立つと重悟が判断したのだった。

翠鈴が助太刀に出た理由は、先に言った通り厳馬を呼び出したため、彼を神凪邸から離れさせてしまったことに対する負い目。

 

「っていうのは建前だろ?翠鈴」

 

「あ、やっぱりわかる?」

 

京都に向かう新幹線の中、和麻は更衣室の前で翠鈴に話しかける。

 

「お前の考えていることを、俺がわからないはずがない。大方――流也と兵衛のことだろ?」

 

「うん、そうだよ」

 

一応、和麻と厳馬のこともあるのだが、大部分が流也と兵衛のことだった。

翠鈴は何とかして二人を和解させたかったのだ。

 

「だって、二人とも一族の未来を思っていたのよ。でも、兵衛さんは一族の長だから、今までのことを忘れて流也くんの案に賛成できなかったと思うの。そのせいですれ違いができてしまった。その結果で流也君があんな目にあって、兵衛さんも罪を重ねようとしている。私は、親子がそんな風になるのを黙って見過ごすなんてできない」

 

普段はおしとやかな物腰の翠鈴だが、時折神凪の爆裂猪娘神凪綾乃(和麻の主観)よりも気の強い一面を見せる。その一面は親子が絡むととくに顕著になる。その根幹には、死に別れた両親のことがあり、アーウィン・レスザールを殺し、アルマゲストを壊滅させたことで復讐を果たした今でも、彼女の奥底に刻まれたままなのだ。

だからこそ、親子が離れ離れになることを嫌い、いがみ合うことなど決して許せないのだ。

 

「だから、和麻も協力して。二人を再会させるために」

 

じっと見つめる翠鈴。その目に、和麻は仕方ないとでも溜息を吐く。

もともと和麻には流也をあんな目にあわせた兵衛に、容赦するつもりなんてなかった。

子を持つ親となった和麻には、自分の子供に妖魔の力を与えるなどという非道が、どうしても許せない。それが親友ならなおさらだ。

だが、

 

「そんな泣きそうな顔するなよ」

 

それ以上に翠鈴が悲しむのは、許せないのだった。

 

こうして、役者はそろいつつあった。決戦の地は京都。古より光と影が混在し続けた魔都で、二つの血族の戦いが切って落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ、ハァ……!!」

 

昏い路地裏を息を切らせながら走る。

なぜ?どうしてこうなった!?

走り続けながら、そんな言葉が頭の中に響き渡る。

自分に落ち度などなかった。計画の下準備も順調に進んでいたはずだ。情報が漏れるはずがない。

そんなことを考えていると、ヒュンッという音ともに一陣の風が吹いた。

 

「え?」

 

体が傾く。何が起きたのか理解する前に、その小柄な体は汚い路地裏に倒れ込む。

立ち上がろうと右足を動かす。だが、動かない。いや、そもそも――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――右足が太ももから下が無かった。

 

「あ、あああああああああああああっっ!!!??あ、足が!?ぼ、ぼぼぼ僕の足があああっっ!!?」

 

絶叫を上げ、整った顔をゆがめる。

泥に濡れた金髪を振り乱し、青い目からは襲い掛かる痛みに涙があふれている。

そんな目の前に、追跡者が姿を現す。

二人の少女だった。

黒装束に身を包んだ二人は、無言で痛みにもだえる姿を見下ろし、その手に持った槍と小刀を振り上げる。

 

「おのれ……おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれぇぇぇ!!更識ぃぃ!!」

 

呪詛を吐きながら、痛みにもだえながら、二人が振り下ろした武器によってアルマゲストの生き残り、ミハイル・ハーレイはその生涯を終え、その魂は契約していたスライム状の妖魔により喰われた。

その妖魔も追跡者の二人――更識刀奈と簪の姉妹によって殲滅された。

 

 

 

 

 

「あーやっと終わったわ」

 

「面倒な相手だった」

 

「うんうん。しかも追跡妨害に触手とスライム配置って、どこのエロゲ展開よ。初めてが妖魔とか死ねるわ」

 

「同意。でも、相手いないよね?」

 

「……そうね~」

 

仕事を終えた二人、更識楯無の娘である刀奈と簪の姉妹はとめどない会話をしながら帰路に着く。

髪が外側にはねた刀奈と内側にはねた簪。

性格も髪型のように外向きな刀奈に、内気な簪だが互いの仲は良好で、仕事も姉妹による抜群なコンビネーションでこなす二人は更識でもかなりの実力者だ。

そんな二人にメールが届く。

二人同時に携帯電話を開きその内容にさっと目を通す。

 

『新しいお仕事よ~。詳しくは後ほど。とりあえず、京都に行こう!by楯無ママ』

 

 

 




もう何も言うまい。次回はついに戦闘だ!


PS

最近クロスさせすぎて、訳分からなくなったかなと不安になってきました。ISキャラはこの作品だと、IS関係ない名前だけのオリキャラの扱いなのですけど、それがわけわからなくなっているのかな?

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