風の聖痕 風と水の祝福『凍結』   作:竜羽

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過去の風の聖痕作品を見ながら、果たして私の作品は面白いのだろうかと悩みながらも投稿します。



身から出た錆

部屋に入ってきた楯無は全員に軽く自分の自己紹介をした後、さっそく話を始める。

いきなり入ってきた別組織のトップに重悟以外に全員が驚く中、彼女の口から語られたのは、和麻に話した内容と同じものだった。

かつての風牙衆の実態。神凪、更識との戦い。敗北した風牙の処遇。そして、神凪への復讐を掲げる兵衛と、風牙の未来のため更識への亡命を訴える流也の対立。

全ての話を聞いた神凪の面々は程度の違いこそあれ驚いていた。

武哉、信吾の二人は自分たちが見下していた風牙衆の恐るべき力に目を見開き、綾乃と煉は今まで自分たち神凪のために尽くしてくれていたと思っていた風牙衆が犯人であったことにショックを受け、

 

「なんで?なんで風牙衆がそんなことをするのよ!?神凪は風牙衆の悪行を止めて、しかも家来にして生かしたんじゃない!!感謝されこそすれ、恨まれる覚え何てないわよ!!」

 

思わず立ち上がり力説する綾乃だが、それを見る楯無の目は多大な呆れが浮かんでいる。

 

「感謝、ねえ。じゃあ、あなた『炎術などくだらない下賤な術だ』って言われて感謝するの?」

 

「はあっ!?あんた喧嘩売ってんの!!!」

 

楯無の言葉に綾乃は今にも炎雷覇で斬りかからろうとするかのごとく怒り、信吾と武哉も怒りの形相で楯無をにらむ。

だが、その程度の怒りで恐怖を感じる楯無ではない。

 

「あ~らら、こわいこわい。でもね、日ごろからそれをさんざん言われていたのよ?風牙衆は。ねえ、厳馬さん」

 

楯無の言葉に厳馬は渋い顔をする。そして、絞り出すような声で呟く。

 

「そうだ……私は、兵衛の前で、いつもそう言っていた」

 

「父さま!?」

 

厳馬の独白に煉が驚く。彼としては、まさか自分の父がそんな他人を辱めるようなことを行っていたなどと信じたくないのだ。

 

「術者なら、自分の技を侮辱されて良い気がするわけないわよね。それでもあなたは感謝しろっていうの?」

 

「そ、それは……でも!」

 

「それに、あなたたちは殺されてもおかしくないことをまだまだ風牙衆にしてきたのよ」

 

そう言うと楯無は懐からどこからか一冊のファイルを取り出す。

それを広げ、全員に見えるようにテーブルに置く。

 

「それは殉職した風牙衆のデータよ。今回、私たちにコンタクトを取ってきた流也派の風牙衆が提供してくれたわ」

 

「これがなんだっていうのよ!?」

 

楯無は一度ちらりと重悟のほうを見る。その顔には苦渋が浮かんでおり、どうやらこれがどういう意味を持っているのか理解したようだ。

 

「これはね、全員神凪の所為で殉職した風牙衆なのよ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

その言葉に、綾乃はあっけにとられる。

一体どういうことなのか?

 

「力も碌に制御できない神凪の術者が、妖魔の足止めをしていた風牙衆を巻き添えにしたり、妖魔をおびき寄せるための捨て石にしたり、挙句の果てには神凪の子供たちに炎術の的にされた子供までいるわ」

 

的当てにされた、というのは和麻が風術に目覚め分家の子供たちから逃げるようになったとき、遊び道具と思っていた存在がなくなった子供たちが風牙衆の子供たちに狙いを変えたのだ。

それまで、和麻を炎術の的にして傷をつけたら、宗主である重悟に処断されるため、分家の大人たちは治癒能力のある術者に依頼をして、証拠隠滅のために和麻の傷を癒していた。図らずもそれが和麻を生かしていたのは皮肉だ。

だが、風牙衆の子供にそんなことはなかった。

宗家の嫡子である和麻と違い、風牙衆の子供が重悟の前に出ることなどまずはなく、自分たちの配下の風牙衆ごときに高価な金のかかる治療術者を雇うことなど分家の者たちがするはずがなかった。和麻が流也と出会い、風牙衆と交流を始めたことで、流石に和麻に告げ口をされたらかなわんと思ったのか分家の子供たちは的当てをやめさせられたが、それまでに火傷の所為でファイルに乗っている数人の子供たちが亡くなっている。

妖魔への攻撃に巻き込まれて死んだ風牙衆の死因も、自分たちの失態を隠し、プライドを護るために見て見ぬふりをした結果であり、そうしたことはファイルによると綾乃はおろか、重悟が生まれる前から続いていたようだ。

 

「そんな、そんなのウソよ!!」

 

綾乃は楯無の言葉を否定する。

今まで、神凪は妖魔を力なき人々から護ってきた正義の一族だと思っていた彼女にとって、楯無の話はあまりに信じられず、受け入れられないことだった。

 

「もしもこれが嘘だっていうのなら、更識の本家で保護した流也派の風牙衆を呼ぶけど?」

 

「……いいや、その必要はない」

 

楯無の提案を重悟が断る。

 

「綾乃。これは間違いなく事実だ。更識の情報ならば間違いない」

 

「お父様!?」

 

綾乃だけでなく、あんまりな話の内容に絶句していた煉と雅人に操、そしてほかの三人にも重悟は言葉を投げかける。

 

「神凪は、風牙を都合のいい道具として手に入れた。そのまま300年。私は風牙に対する神凪の扱いをどうにかしようと、宗主になってからずっと考えてきた。だが、すべてはすでに遅かったのだ」

 

「ま、当然の報いよね。力で抑えつけたんだから、別の強い力で反発される。因果応報よ」

 

からからと他人事のように笑う楯無。実際、彼女にとってこれは完全に他人事である。

 

「ま、別にあんたたちが反乱で滅亡しようが、皆殺しにされようがどうでもいいけど、私の話を進めていい?」

 

楯無は沈んだ空気などどこ吹く風とでもいうように話を進める。

 

「うちに逃げてきた風牙衆を保護するから、干渉しないでね」

 

その言葉に、分家で一番切れやすいと評判の信吾が怒りをあらわにする。

 

「なっ!?ふざけんな!!俺達にはむかった風牙を生かしておけるか!さっさと俺達に引き渡せえっ!!!!」

 

両手に炎を顕現させ、楯無を脅すように喚き散らす信吾。それを楯無は冷めた目で見る。

そして、一言呟く。

 

「【黙れ】」

 

その一言で、信吾は口を閉じる。

 

「【這いつくばれ】」

 

バタンッと言う音を立て、勢いよく信吾は床に這いつくばる。全員が目を見張る中、重語だけが、楯無の言霊の力に感心していた。

言霊とは、言葉そのものに呪力を乗せ、事象を操る呪術である。

主に生き物の行動を操る際に用いられるのだが、重悟はここまでの強制力をもつ言霊使いを知らない。

長い付き合いになる楯無だが、未だに彼女の手の内の全てを知ることはできないままだ。

 

「ふざけているのはあなたたちの所為よ。さっきも言ったけれど、私のところに亡命してきたのは神凪に恨みを持ちながらも、その恨みを飲み込み前に進もうと決意した者たちよ。そんな彼らに手を出すなら、更識も神凪に容赦しないわ」

 

その言葉と共に強烈な殺気が楯無から発せられる。

もはやそれは殺気というよりも、衝撃波のようであり煉や綾乃、操などは体を震わせ、大人たち、あの厳馬でさえも寒気が止まらない。

 

「……更識からの、協力はないのでしょうか?」

 

全員が楯無におびえるなか、重悟だけが楯無に話しかける。

 

「ないわね」

 

「理由を聞いても?」

 

「メリットが無い」

 

簡潔に重悟に応える楯無。

 

「流也派の風牙衆の安全を確約させた段階でもう目的は達成できたの。お礼の情報も話したしね。あとはあなたたちが兵衛と好きなだけ殺し合ってくれて構わないわ。神凪が勝ってくれたらそれはそれで何事もないし、兵衛が勝てば、弱ったところを叩く。神凪と共闘するメリットは私たちに全くない」

 

「……」

 

楯無の言葉に、重悟は何も返せない。

今回の戦いは完全に神凪の内輪もめだ。更識が手を貸す必要が無い。

謝礼金を出すといったところで、更識はそこまで資金を必要としているわけではい。また、人材についても同様で、神凪の分家よりも実力のある術者が更識にそろっていることを重悟は知っている。むしろ、協調性のない神凪の術者など邪魔でしかないだろう。

 

「だ、大丈夫です宗主!流也がいないのならもはや風牙には我らに対抗できる術は」

 

それまで黙っていた武哉がそう言うが、重悟は首を横に振る。

 

「……聞いていなかったのか?兵衛は流也に彼らが神と祀り上げる妖魔の力を宿らせたのだ。すでに封印の地を特定している。第二第三の流也が現れないとも限らない。もしも、皆が入院している病院を襲われれば儂ら以外の神凪の戦力は全滅だ」

 

武哉はさっと顔を青くする。が、すぐにそれを振り払おうと、新たな考えを口にする。

 

「で、ですが、厳馬殿がいるのですぞ。神炎使いの厳馬殿ならば――」

 

「物量戦で押し切られたらアウトね」

 

それすらも楯無が否定する。

 

「人間のスタミナは無限じゃない。でも妖魔は違う。流也くんと違って完全に妖魔化した相手が何十体もやってきたら持久戦負けするのは目に見えているわ。それよりもさ――あなた達何そんな先のことを心配しているの?」

 

「どういうことですか?」

 

「流也くんに神の力の一部を宿らせた。流也くんは一流の風術師よ。そんな彼をあそこまで変貌させるだけの妖気が漏れているってことは、もしかしたら封印が解けかかっているのかもしれない」

 

「なっ!?し、しかし伝承通りなら封印は三昧真火(さんまいしんか)の内側、炎そのものが封じているのですぞ。それを解くことなど――」

 

三昧真火とは、一切の不純物のない『火』のエレメントの結晶であり、地上には絶対に存在しない炎である。

触れるものは例外なく焼き尽くされ、灰すら残すことを許さず、その内側に存在する封印までたどり着くことはできない、当時の宗主が考え出した絶対の封印である。それを破るなど……。

 

「あるじゃない。例えそれが三昧真火だろうと、絶対に燃え尽きることなくたどり着くことのできる一族が」

 

「ッ!まさか――!!」

 

楯無の言わんとしていることに気が付いた重悟は驚愕する。

 

「神凪一族の宗家。精霊王の加護を持つあなた達なら封印を解くことができる。確か、あの襲撃で行方不明になった人が何人かいたんじゃない?」

 

確かに、あの襲撃で重悟の父頼通をはじめ、何人かの行方不明者が出ている。

 

「神凪の加護は血統に宿る。なら洗脳するなりなんなりして操っちゃえばいいわけじゃない。多分、今回の襲撃はそれが目的じゃないの?」

 

重悟は否定することができず、考え込む。

楯無の言うことはもっともだった。もしも、あの場に厳馬がいれば流也にここまでの被害は出なかったかもしれない。だが、少なからず騒乱が起き、その隙に宗家の誰かを風術で姿を消して襲い掛かれば簡単に拉致することができる。

そして、封印を解けば――。

 

「…………」

 

この仮説に確証はない。だが、ありえないと否定することもできない。

一度、風牙の神が封じてある地へ向かう必要がある。それにはこの場にいる自分以外の者が向かうのが一番だと重悟は考える。

だが、もしも風牙の神が復活していたら対抗できるのだろうか?

三百年前は分家の力も今ほど落ち込んでおらず、神炎使いも存在していたらしい。それでも更識と同盟を結び、犠牲者を出しながらも神を封じたのだ。

なのに、あまりに戦力が頼りない。

未熟な綾乃、煉に加え、後方支援が担当の操。分家のトップクラスでありながら黄金(きん)を出すこともできない分家の三人。仮に厳馬が炎雷覇を持ったとしても、一人で神に挑むなど無茶だ。

もはや、神凪が生き残るには更識の手を借りるほかない。

重悟は恥も外聞も捨て、楯無の前で土下座する。義足が無いために少々を不格好だが、誠心誠意を込める。

 

「楯無殿。これは神凪の身から出た錆。貴殿に助力を乞うなど恥以外の何物でもない。だが、それを承知で頼む。どうか、我らに力を貸してもらえないだろうかッ」

 

必死に頼み込む重吾の姿。それは神凪の者たちにとってありえない光景であり、全員が目を見開く。

 

「…………」

 

そして、楯無は迷っていた。ここで手を貸せば多額の謝礼金を請求できるほか、神凪を更識の軍門に下らせることもできる。

だが、そんなことをするよりも、神凪が兵衛とつぶし合った後に戦った方が、風牙の神の情報収集や戦力の低下を狙うことができる。

応か否か、どちらを選んでも損はない。むしろ、承諾したら更識の術者が死亡する確率が跳ね上がりそうだ。フレンドリーファイアを狙われないとも限らない。

楯無がその口を開こうとした、その時――

 

「協力します」

 

ドアの方から新たなる第三者の声がした。全員がそちらの方を向く中、声の主は部屋の中に入り、重語の目の前でかがむ。

 

「私が、協力します」

 

「……あなたは?」

 

「初めまして、八神翠鈴(ツォイリン)と言います。あなたたちのお手伝いをさせてください。私と……和麻に」

 

そして、重語の目を見ながら女性――八神翠鈴は鈴の音のような美しい声でにっこりと笑いながら、そう言うとドアの方に目を向ける。

そこには、仏頂面の和麻が佇んでいた。

 

 

 

 

 




ものすごく神凪アンチになってしまいました。大丈夫だよね?
原作を読んで、これくらいやるんじゃないかなと思い勢いに乗って書きました。もしも、納得が出来なければ言ってください。修正します。
次回はついに決戦の火ぶたが切られます。そして、援軍も登場するかも。

活動報告のほうでアンケートをしていますので、そちらもよろしくお願いします。

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