風の聖痕 風と水の祝福『凍結』   作:竜羽

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かつて、風の聖痕がドラゴンエイジにて終了を告げた際、八神和麻は「またな」と言いました。
ですので、私はこう言おうと思います。


待たせたな!


始まりの勝利

崩壊した神凪邸。

そこにたたずむ二人の男――八神和麻と風巻流也。

ともに風を友とし、幼き日には切磋琢磨しあった二人は今敵として向かい合っている。

和麻は父により妖魔を憑りつかされた流也を救うために。

流也は妖魔を経由して送られた父の命令を実行するのに邪魔な和麻を排除するために。

風の精霊がざわめき、その場に生き残っていた全員が二人が放つ威圧感に飲み込まれる。

和麻が右手をゆっくりと体の横に、水平に持ち上げ、流也が両手を大きく広げる。

瓦礫の崩れる音がした。

それを合図に二人はぶつかった。

 

「きゃあっ!?」

 

「うわぁっ!」

 

和麻と流也が放った風の刃。そのぶつかり合いは互いを傷つけることなく相殺しあったが、その余波は周りを吹き飛ばし、ただでさえボロボロだった神凪邸をさらに蹂躙し、破壊する。

見守っていた綾乃たちは悲鳴を上げ、なんとかこらえる。ちなみに、綾乃、重悟、煉、雅人以外の神凪の術者はこらえることができずに吹き飛ばされ、その中には前宗主である頼通の姿もあった。

 

「はっ!」

 

そんな周囲の様子など全く気にかけずに、すかさず追撃を繰り出す和麻。今度は無数の風の刃が流也に向かって全方位から縦横無尽に襲い掛かる。しかも、その速度が桁違いに速く音速に匹敵するほどだ。

並みの炎術師や風術師なら、あと数コンマ秒後には全身をズタズタに斬り裂かれてしまう攻撃を流也は防ぐ。その身に黒き影を纏わせ、自身を中心とした流動する風の結界を展開、和麻の風を飲み込み、無力化する。

 

「まだだ!!」

 

和麻が爆発的な加速で流也に接近する。風を身に纏い、人間の限界を超えた速さで体を後押しする。

そのまま肉弾戦へと持ち込んでいく。

風を鎧のように覆っている和麻の体は、掠るだけでも相手を削り取り、相手に致命傷を与え、さらに相手からの攻撃のベクトルをそらし、身を守る。まさに攻防一体。その拳が流也に振るわれる。

 

「――!」

 

和麻の拳を、流也は同じ黒い風の鎧を纏い、受け止める。

流也はそのまま押し返そうとする。

その前に、和麻の鋭い蹴りが脇腹にぶつかる。黒い風の鎧を貫通し、流也を吹き飛ばす。

空中ですぐに体勢を立て直す流也だが、和麻の追撃が迫る。

それは音速の速さで放たれた拳台の風の塊――昔、和麻と流也の二人で編み出した螺旋烈風丸が砲撃となって流也を撃ち落とす。

着弾と共に、拳台に圧縮されていた莫大な風の力が吹き荒れ神凪邸の上には局所的な暴風域が生まれる。

 

「うわきゃあああああああっっ!!???」

 

それにより、神凪の術者たちがまたまた吹き飛ばされ、綾乃が甲高い悲鳴を上げる。隣の重悟たちは綾乃の声をうるさく感じながらも、必至で炎の結界を展開して防御する。

風が収まった時、地面に流也が落下する。

 

「うう……ああ」

 

うずくまりながら流也が唸る。すると、黒い風が流也の体から吹き出し始める。

 

「ああ……ああああああああああっっ!!!!!!!!!!」

 

黒い風は吹き出す勢いを増し、流也の姿を隠していく。それとともに、流也の唸り声が悲鳴に変わる。

 

「流也!!」

 

「あああああああああああああっっ!!!!」

 

和麻が声を投げかけるが、悲鳴は途切れない。

だが、黒い風が流也の姿を完全に隠すその前に、和麻の耳に風が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『殺してくれ。和麻』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは懇願だった。

これ以上、和麻と闘いたくない。

操られたくない。

傷つけたくない。

壊したくない。

蹂躙したくない。

殺したくない。

消したくない。

斬りたくない。

引き裂きたくない。

吹き飛ばしたくない。

精霊を穢したくない。

汚したくない。

そして――妖魔になりたくない。

そういった流也に残っていた様々な思い、願い、望みが、風の精霊を媒介に和麻に届けられた。

 

「はあ……」

 

それを聞いた和麻はおもむろに懐からタバコの箱を取り出すと、一振りで一本取り出し、咥える。

さらに、ライターまでも取り出し、加えたタバコに火を灯す。

そのまま煙草を一息で根元まで味わう。

肺の奥までニコチンの混ざった煙で満たし、うまそうに吐き出す。

そのままほとんど灰になったタバコを放り投げる。

タバコが地面に落ちたその瞬間、黒い風がはじけ飛んで中から流也が姿を現す。

だが、その姿は先ほどまでの青年のような人型の姿とは違っていた。

獣のように四つん這いになった全身を覆うように縞模様の堅牢な甲冑を纏い、両手足には鋭い爪のようなものが生えている。

更には尻尾まで生えており、ゆらゆらと揺れている。

そのまるで虎のような姿を目にした重悟は、中国に伝わる伝説上の生き物、窮奇(きゅうき)を連想した。

 

「GUOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!」

 

獣そのものになってしまったように雄叫びを上げ、流也は地面を四肢で踏みしめ、黒い風を巻き起こす。

それは先ほどまでの風とは桁違いであり、纏う妖気も歴戦の戦士である重悟でさえも寒気を感じた。

だが、それほどの妖気を受けても和麻は態度を変えない。

 

「なんかさ、流也」

 

一人呟く和麻に構わず、流也は莫大な風を放つ。

それは今まで放たれた二人の全ての風よりも激しく、荒々しく、そして禍々しいものだった。

それにより、なんとか原型を残っていた神凪邸はもう跡形もなくなってしまった。その余波だけでも、広大な敷地内を蹂躙したのだ。

 

「お前、そんな奴じゃなかっただろ」

 

そんな中でも和麻は自分の周りだけに風の結界を展開し、その場に踏みとどまる。

なんか、不特定多数の悲鳴が聞こえたかもしれないが和麻は気にも留めない。

 

「お前はもっと、こう……」

 

流也は姿勢をかがめると、次の瞬間に一気に駆け出す。

暴風を纏い、音速を超える勢いで和麻に突進する。その進行上に存在していた地面や瓦礫は一瞬で吹き飛ばされ、空中で風に斬り刻まれて消滅していく。

そのまま、わずか一秒もしないうちに和麻の目の前まで進み、そのまま彼を風の結界ごと貫き、ぐちゃぐちゃのひき肉のようにしたのち、ミリ単位でバラバラにする――

 

「あきらめ悪かったよな?」

 

――前にドガンッという音を立てて吹き飛ばされる。

 

「妖魔に取りつかれたからって、お前からそんな言葉を聞く何てな。こうなりゃ、全力でお前を〆るか」

 

何が起きたのかわからない流也の目の前に、蒼く輝く風の精霊を従えた和麻が歩み出る。

超高濃度まで集まり、蒼く輝く鎧のように和麻の周りに集う精霊たち。その力は今の流也すらも圧倒するほどの力を宿していた。

重悟たちからは見えないが、今このとき彼の目は蒼く澄んだ輝きを宿していた。そして、その傍らに一人の少女が姿を現す。

少女の名前はシルフィ。

風の妖精シルフィードをもじった名前を付けられた風の眷属でもある少女が、十年前からの相棒である青年に付き従う。

 

「いくぜ、シルフィ。久しぶりの全力解放だ」

 

「解放全開!行きましょうか、カズマ!ハートの全部で!!」

 

「……その言葉どこで覚えた?」

 

「深夜アニメ」

 

緊張感など皆無なやり取りをしながら、風の主従はその力を解放した。

その姿は、何物にもとらわれず、自由気ままに舞う風を体現していた。

次の瞬間、神凪邸を中心に半径約100キロにわたる場所に存在する風の精霊が、その力を解放。和麻たちに力を貸し始めた。

 

「戻ってこい。流也」

 

圧倒的な風の力。それに流也は飲み込まれていく。ぼろぼろとその身を覆う甲冑が消えていき、その身に宿っていた妖気を根こそぎ浄化していく。

 

「解放。風の――聖痕(スティグマ)

 

そして、妖気が完全に抜けきると和麻とシルフィは風の精霊たちの制御を放棄する。霧散していく精霊たちは、流也――正確には流也に憑りついていた風牙の神の残滓を浄化しながら、再び世界に広がっていった。

 

 

 

 

 

こうして、神凪邸を跡形もなく吹き飛ばした戦闘は和麻の圧倒的な力をもって、あっけない幕引きとなった。

だが、これで終わりではない。

神凪と風牙の300年にわたる因縁をめぐる戦いの、始まりにすぎないのだ。

 

 




何か、打ち切り最終回みたいですけど、ちゃんと続きますよ。
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