Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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第6章—かちかん—

 こどもが親に、ずっと秘密にしていた宝物について話すように、鶴野に宣言したシオ。

 だが、言い切った本人はしっかりと、その望みが叶う可能性がかなり低いと考えていた。もとより、シオが掲げたのは()()()()()()()()()である。そう――彼女は、臓硯ですら、救いたいと考えたのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女は、人の善性も、悪性も、それぞれのカタチだと思って、それを受け止める。

 「えらくないこと」はしてはいけない。でも、時には「えらくないこと」もしなくてはならないこと。他の人から見たら「えらくないこと」でも、本人の中にある「えらいこと」に従っている場合もあること。

 ほんの数ヶ月、あの狭い研究室で、そしてほんの数十分、あの人工島で、シオは人とは何か、感情とは何かを、本能的に感じ取っていた。世界には様々なカタチがあり、それらはすべて、シオにとって好ましいものだ。だからこそ、シオは様々なカタチ(ちしき)を知りたいと思い、理解しようとする。好奇心旺盛なのは、アラガミの本能から起因するものでもあったが、それ自体、彼女がカタチを理解したいという心の表れなのだ。

 雁夜が何故あそこまで誰かを憎むのか、鶴野が何故父である臓硯を恐れるのか。桜が何故この家に養子に出されることになったのか、臓硯が何故蟲の体になっていたのか。そこには、関係した人たちなりの正義(カタチ)があるはず。シオはそれを知り、そこから、自分の今一番の望みをかなえる方法を考えようとしていた。

 そんなわけで。と、鶴野と別れた後廊下で鉢合わせた雁夜に話しかける。

「マスター、まじゅつしについて、おしえてくれないか?」

「はぁ?なんで魔術師なんかについて教えなきゃいけないんだよ」

 物凄く嫌です、と言わんばかりの雁夜の態度に、シオはむむむ、と考える。どうやら雁夜は魔術師が苦手らしい。そういえば、鶴野が雁夜は間桐から逃げ出していた、と言っていた。

――なら、なんでマスターはもどってきた?

――サクラをたすけるため

――なんで、サクラをたすけるんだ?

 危険な家だとわかっていて、一度は逃げた家。そこに戻り、あまつさえ命を削っている、自身のマスター。そこには桜という少女が深くかかわっている。だが、彼が少女一人のために命を削る理由――有体にいえば、大切にする理由、切っ掛けが分からない。ここに、彼の今のカタチの根幹があるのだろう。

 だが、それはきっと今聞いても、ちゃんとした言葉として聞けないかもしれない。何より今は、別のカタチを知ることを優先だ。

「サクラがなんで、マトウにきたのか。シオ、それがしりたいんだ」

「はぁ!?」

 シオが話した理由に、雁夜が大声を上げる。あ、これ地雷だったとシオが後悔するより早く、雁夜が激昂する。

「どうせそんなの時臣とジジイのやつが勝手に押し進めたんだ!時臣のやつ、うちの魔術がどんなのかどうせ分かってるだろうにあんな小さい桜ちゃんを、葵さんから引き離してジジイなんかに譲りやがって!おかげで桜ちゃんは蟲蔵に入れられて……!!遠坂めェ……!!」

「……うん、なんかごめんだぞ。マスター、おちつくんだ、どーどー」

 皮膚の下にある血管からぶちぶちと、嫌な音を立てているのを耳にとらえながら、シオは必死に雁夜を宥める。魔術師と、桜の生家の話。今の状態の雁夜にはとんでもない地雷のようだ。特にトキオミという人物については、これほどの感情を向けている相手だ、禁句ともいえるだろう。

 書物より、本人たちから色々な話を聞けたらと思ったのだが、これだとどうしても聞くことはできないな。鶴野は魔術についてはほとんど教わらなかったらしいし、桜はただ蟲蔵に放り込まれるだけ。急ごしらえのマスターとはいえ、それなりに魔術を教わっていたとみられる雁夜ならいけると思ったのだが、無理。

 辛抱強く宥めに宥めて、ようやく雁夜が憎しみの中から戻ってきたのは昼時だった。余計な一言で、大幅な時間を使ってしまったのだ。

 まずは書物から学ぶしかない。そう心に決めたシオであった。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 お昼は体調が今日はいい雁夜が作りたいと言い出し、何か鬱憤を晴らすように料理をし、それを食した後。シオは膨大な量の本が眠る書庫にやってきていた。目的は無論、勉強の為である。

 聖杯戦争については、落ち着いた雁夜から断片的には聞けた。途中で何度かまた激昂しかけたが、頑張って抑えて情報をもらったシオはえらい、ソーマなら褒めてくれるかな。なんて。

 聖杯戦争のマスターはみんな魔術師だ。そして、その参加者の中には、雁夜が憎む遠坂 時臣もいる。説明の最中に吐露していたが、雁夜は聖杯戦争中に時臣を殺し、そして桜を遠坂の家――いや、葵のもとに返すつもりらしい。

 シオは首を傾げた。断片的な情報であったが、時臣は桜の父親と推測される。桜は、父親を憎めるほど、精神が回復しているようには思えない。なら、それは少なくとも今の桜の本意ではない。ならばそれは誰の本意なのか。予想はついているが、こういうのは、自分で気が付かないといけないと思い、シオは敢えて何も言わなかった。

 次に疑問に思ったのは、桜を遠坂の――葵のもとに返すという部分だ。雁夜が葵について話す時だけ、何か瞳に、時臣について話す時とは違う色を宿していた。あれはいったい、なんなんだろう。今のシオには分からなかった。

 雁夜の様子についても疑問は尽きないが、それよりも、養子に出したこどもを元の家に戻して問題がないか、という部分についてがきになった。養子に出すのなら、何かしらの理由があるはず。それを解決しなければ、もし遠坂の家に桜が戻っても、また別の家に出されるだけだろう。

 なら、今知るべきことは一つ。

「まじゅつしのかちかん(カタチ)だ」

 桜の身の上については、養子の手続きの際に色々と関わらざるをえなかった鶴野から、ある程度の話を聞いた。優秀な素質を持ち、遠坂の家で育っていれば、かなりの実力になっていただろうとされるそれ。ここが、魔術師の価値観でどう判断されるのか。それを知らなければ、始まらない。

 書庫の中を散策し、目的に近そうな本を探す。ほとんどが英語や日本語で書かれているので助かった。シオが知っている言語は、日本語と英語、あとは自身の名前の意味を調べるために齧ったフランス語、そしてドイツ語くらいなのだ。

 適当に選んだ書物を読みふけりながら、次にすべきことを考える。目下の問題は、雁夜の体調だ。

 なるべく魔力を雁夜からもらわないよう、現界するのに必要最低限の魔力、そのうちの半分ほどしか供給されないよう調整している。バーサーカーとして召喚されたシオは、それでも普通のサーヴァントより負担は大きい。そこを、食事でなるべく補うよう、努力していた。幸い、臓硯から貰った魔力はまだ残っている。まだ暴走することは無いだろう

 だが、それでもなお雁夜の体調は楽観視できない。蟲蔵での無茶な鍛錬によって、寿命を削りに削った彼。あの状態では、シオも満足に戦えない、守ることもできない。

 解決方法は――一応、ある。だが、それは危険な賭けであり、雁夜を死なせる可能性、最悪、シオが彼を殺さなくてはならなくなる。しかも、もし成功して雁夜の体調がよくなっても、戦争が終わり、シオがいなくなったら、その効力がなくなる可能性がある。もとはシオの一部なのだ、独立してもつながっていた場合は、その可能性も十分にある。だが、他に思いつく方法は、今のシオには無かった。

 夜、寝る前に一応、提案してみようかな。シオはそう考え、書物をあさる作業に集中した。

 魔術の基礎、魔術師としての心構え、魔術師の本懐……、基礎的な書物から、魔術の扱い方、間桐家の魔術の特性まで。読書の要領を得たシオは、だんだんとスピードを速めながら読みふけっていく。

 あっという間にシオの周りに築かれる書物の城。膨大な知識の中から、自分が望む知識のみを記憶していく。

――オラクル細胞

 彼女のスキルとして登録されているそれは、物を喰らい、その情報を分析。その中から自身に最適なものを取捨選択し、成長していくことが特徴の、アラガミを構成する単細胞生物である。

 そしてその特性は喰らう事に留まらず、行動や勉学によるものにも発揮される。物事をスポンジのように覚えていくのだ。

 以前、ある人物に褒められたその学習能力の高さが、今存分に振るわれていた。

 結局、シオが魔術師の勉強をし終わったのは夜ご飯が出来たころ。いつまでたっても現れないシオが気になった雁夜が探しに来るまで続いていたのだった。




シオの価値観ってどちらかというとマーリンやギルガメッシュよりなんじゃないかと常日頃思うんです
ただ言動が幼児っぽいし、観測者や裁定者でいる気はないってだけで

二日目、次で終わったらいいな……


シオの学習能力の高さは博士の折り紙付き

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