Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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三日目のお話が結構長くなるかもしれません
倉庫街に行くまでに何話消費するか賭けでもしてお待ちください


追記:よくよく時系列確認したらこれ三日目じゃなくて二日目や!!


第4章—ヒミツのおはなし—

 鶴野の言葉に、雁夜が固まる。そうだ、桜はもう助かっている。忌々しい臓硯は眠っており、いつ目を覚ますかもわからない。そも、目を覚ましたとしても、あの状態で雁夜達をどうこうできるとも思えない。もう目的は達成できたもの。

――いや、まだだ。まだあいつがいる。遠坂 時臣。あいつがいる限り、桜はあの陽だまりには帰れない。あいつを、あいつを殺さなくては。それを口にしようとしたときだった。

「なー、それ、ヒミツのハナシじゃないのか?」

「!!」

 ばっと振り返ると、いつの間に移動したのか、シオが桜の後ろに立ち、その耳をふさいでいた。桜の方は無抵抗に、その行動を受け入れている。

「ヒミツのハナシ、だろ?そのかお、ハカセたちがしてたのににてる!」

ちゃんと、ヒミツのときはヒミツにしなきゃ!と無邪気な声で咎めてくる。その言葉に我に返ったのか、雁夜はシオに桜と遊んでいるように命令した。昨日の今日であの子の世話を任せるのは不安だが、言動の割に賢そうなサーヴァントだ、桜を傷つけることはないだろう。

雁夜の命令に素直に頷き、シオは桜を抱き上げて居間から出ていった。たんけんだー!と言う声から、屋敷内を連れて回るのだろう。

2人がいなくなったのを確認し、雁夜は鶴野に向き直る。ソファに座り込む兄の顔色は、いつもよりはマシなものの、その表情は暗い。アルコールの禁断症状だろうか、震える手を必死に抑えているのが目に付いた。

「俺の目的は、桜ちゃんを葵さんの元に帰すことだ。その為には、聖杯戦争で時臣を殺す必要がある」

「……そうか。今のお前なら、そう言うだろうと思ったよ」

 そう言って雁夜を見るその目は、何故か呆れと、羨望と、侮蔑、様々なものが見て取れる。ギリ、と震える手を互いに抑える両手に、さらに力が入ったのが見えた。

「なんだ、何か文句あるのかよ」

「さてね。今のお前に言ったって無駄だろうし、何も無いよ」

「なんだよその言い方は」

「そのままの意味だ、ばーか」

「んのクソ兄貴……!」

思わず出そうになる拳をおさえて、雁夜は兄を睨む。今の自分に間違いなんてないというのに、不満げにして、なのにその理由も言わないなんて。

 ここにいると気分が悪くなる。そう考え、雁夜は踵を返し、桜たちのもとへと向かう。鶴野はその後ろ姿に声をかけるわけでもなく、それを見送った。

 1人残った居間で、鶴野は大きくため息を吐く。自分らしくないことをしたとは思う。沈んだ気分をどうにかするために、今すぐにでも酒を飲みたいが、あいにくこの場には酒瓶はない。自室に戻るか、キッチンに取りに行くかの実質二択だ。どうしようか、とまたため息を吐いていると。

「ためいきついていると、しあわせがにげちゃうぞー」

「……お前、いつの間に戻ってきたんだ」

 ひょっこりと顔を出したシオに、鶴野が問い掛ける。見た感じ、雁夜も桜もいない。1人で戻ってきたのだろうか。

 シオはそのまま、鶴野の隣に座り、にっ、と笑いかけてくる。

「シオ、おまえともおはなししたかったんだ!」

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

――数分前

 シオは雁夜に言われた通り、桜とともに屋敷内を探検していた。正確に言えば、桜に案内されて、屋敷内を見て回っているだけなのだが。

 桜を肩車し、あちこちを指さして質問しながら、シオは比較的速足で屋敷内を散策する。少し離れたからか、多少聞きづらくはなったものの、不穏な雰囲気の2人の会話が聞こえてきたのだ。どちらも体調的には万全ではないとはいえ、それでも暴力沙汰を起こさないとも限らない。そんなことになった場合、すぐに駆け付けなくてはならないから、遠いところから屋敷の構造を把握していっているのだ。

 そんな彼女を、桜は不思議だと思いながら質問に答えていた。この屋敷にいい思い出など1つもない桜にしてみたら、なぜここまで楽しそうに走り回れるのか理解できなかったのだ。

 世間一般的な幼児なら、ここでその疑問を相手にぶつけるのだろうが、桜はそれをしない。疑問を言って、それに答えが返ってきたところで、現状は何も変わらないのだから。

 と、シオが立ち止まると、桜を下して目線を合わせてきた。なんだろう、と桜が見つめ返すと、

「なぁ、サクラ。なにかしたいこと、かなえたいこと、って、あるか?」

 したいこと、叶えたいこと?そんなことは、ここ数か月考えたこともなかった、桜はきょとん、とした表情を浮かべたのち、首をかしげる。なぜ彼女はそんなことを自分に聞いてくるのだろう。

 桜のそんな様子をみて、シオは困ったように眉尻を下げる。少々乱暴に桜の頭をなでながら、シオはまた口を開いた。

「サクラのカタチ、そのままだとこわれちゃうぞ。なんで、そんなふうになったか、シオはしらないけど……サクラのこわいの、もういないんじゃないか?」

 ろくにこの家の事情を知らないシオにも、自分が眠りに落とした老人が、この家の禍根の元だとはなんとなく察することができた。じゃなければ、朝食のあの席で鶴野が彼の話題を出したとき、あんな恐れを含んだ声色で話すわけがない。

 シオの問いに、桜は口を閉ざす。たとえ自分を地獄に追いやった祖父がもういない――ほぼ無力化されているとはいえ、それでも桜にとって、現実が好転したわけではない。シオは、周りにそういった人物がいなかったから知らないが、常人は、たとえ最悪の状況から脱したとしても、すぐに立ち直れるわけではないのだ。

 答えを返さない桜に、シオは首をかしげる。本能的に、彼女が望みを持っていることをなんとなく察したために訊ねてみたが、それに対する答えが返ってこないのは予想していなかったのだろう。だが、そこから無理やり聞き出そうとしても、こういった場合は結果は出ないことは知っている。普段の言動は幼児そのものだが、考え方はちゃんと成熟している部分もあるのだ。

「んー、サクラがいいたくないなら、いいぞ?でも、シオにてつだえることだったら、おねがい、かなえたいぞ」

 あっさり引き下がり、たんけんのつづきだ!と桜をまた肩車するシオ。特に気分を害した様子のないシオに、桜が思わず問い掛けた。

「なんで、そこまでするの……?」

「んー?」

 桜の疑問に、シオは笑顔を浮かべて答えを返す。

「サクラのしあわせなえがお、きっととってもきれいだとおもうから!シオ、それがみたいんだ」

「……そう」

 自分の欲の為に、自分に笑顔を取り戻そうとしているのか、この人は。 

 サーヴァントという、桜にとってはよくわからない存在の彼女。その言動も、桜にとっては理解しがたいものだった。

 と、シオが居間の方へと歩き出す。もう探検はいいのだろうか、と桜が思っていると、雁夜がこちらを探しているのが見えた。どうやら、お話は終わったらしい。ずいぶんと早かったから、そこまで難しい話ではなかったのだろうか。

「マスター、こっちだぞー」

 ぱたぱた、と手を振るシオに気づき、雁夜がこちらに近づいてくる。

「案外近いところにいたんだな、バーサーカー。桜ちゃん、こいつに何かされなかったか?」

 シオの肩から降ろされ、雁夜に近づきながら、その疑問に首肯することで答える。

「ひどいぞマスター。シオえらくないことはしないぞ!」

「万が一ってのがあるだろう。バーサーカーと桜ちゃんとじゃ、何から何まで違うんだから」

「むう!いいもーん、シオ、ひとりでたんけんするもん!」

 信用されていないことがショックだったのか――実際、少し疑われていた――、シオは拗ねた様子で駆け出した。雁夜が止める間もなく、どこかへと行ってしまう。

 なんなんだアイツ、とつぶやく雁夜。それを見ていた桜だが、ふと、さっき言われたことを思い出し、口を開いた。

「ねぇ、おじさん」

「なんだい、桜ちゃん」

「私の笑顔って、きれいだった?」

 昔は当たり前のように笑い、幸せというものを甘受していた桜。自分ではそのころのことはもう、擦り切れて思い出せないから、雁夜に訊ねてみたのだ。

 桜からの突然の問いに、雁夜は驚きながらも、穏やかな表情で答える。

「――ああ、きれいだったよ、とても」

 葵と、桜と、凛。3人が揃って遊んでいた、あの空間で浮かべていた笑顔は、とてもきれいだった。

 雁夜の答えにそう、と相槌を打つと、それ以上は何もないというように沈黙する桜。雁夜もなぜそれを聞いたのか、理由を問いはせず、彼女の自室まで送ることにした。

――その間に、シオが兄の鶴野と、重要な話をしているとは知らずに。


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