Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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第41章―おわりとはじまり―

 作戦はまず、市民を逃がすことが優先された。水上や空中での移動手段を持っていないランサーとシオが自衛隊への協力の交渉を行い、その間にセイバーとライダーは被害を抑える為に足止めを行う。その後は全快したセイバーの宝具の開放でもって仕留める。

 そんな大雑把な作戦ではあったが、予想外の出来事によって、市民は無事に避難を開始した。野次馬の中から飛び出して海魔の犠牲になった少女だが、彼女はサーヴァント――恐らくはアサシンだった。それとなくアサシンの生存を感じていた面々は驚きながらも、逃げ出す市民に安堵した。

 さて次は、とシオは海魔を見る。市民は逃げ始めたとはいえ、目の前の脅威は去っていない。セイバーの宝具が使えるまでの時間を稼がなくてはいけない。

 セイバーが宝具の構えになったのを視界の隅で確認し、こちらに向かってくる触手を退けながら、シオはうっかり体を支えている手足に力が入り過ぎないように注意する。

 ランサーに許可をもらって喰らい、不完全ながらも能力を習得した≪必滅の黄薔薇≫は素晴らしく使いづらい。あれは武器についた能力だからこそ便利なのであって、自身に付随させるものではなかったのだ。力が強いシオは、こうして他のものを傷つけないように神経をとがらせる必要が出てしまう。

 これおわったら、もうつかわないことにしないとな。便利そうだと安易に考えた自分を反省しつつ、シオはそう決める。今すぐにでも捨てるべきなのだろうが、戦力を確実に削ぐという意味ではこの能力は役に立っている。その上、この後シオが行う予定の行動にも、この力は必要だった。

「なー!」

 ランサーに目で合図を送り、彼がもう一機の戦闘機から降りたのを確認し、シオは仰木に声をかける。

「ほんのちょっとだけ、あれにちかづいてくれないか?シオがとんだら、すぐにげてくれ」

「逃げるって、君は大丈夫なのかい?」

「もーまんたい、だぞ。シオはつよいからな!」

 自信満々に胸を叩いたシオに、パイロットは仕方ない、と言った様子でじわじわと海魔に接近する。触手の猛攻を耐え切り、なんとか本体近くまで来たところでシオは勢いよく大海魔へと文字通り飛び込んだ。

 周囲にある触手に引きはがされる前に、体ごと突っ込み、本体であるキャスターを探す。≪必滅の黄薔薇≫の能力を全開にしているため、通った後の傷は塞がらない。帰りは楽なはずだ。

 ぐちゅぐちゅと嫌な音の中、僅かに聞こえる声を頼りに掘り進むシオ。同時にスキルを展開していく。その体はもはや外からは見えず、飛び込んだ少女を見送った仰木は気がかりそうに目を細めた。

 

 

 

 

 遥か上空にその金色の船はあった。そこに乗るのは英雄王とその契約者。片や眼下の景色を肴に酒を煽り、片や現状やこの後の処理を思い胃の辺りを抑えている。それすらも愉し気に見つめ、アーチャーは見物に勤しんでいた。

 本来ならば視界に入れるのも、存在していることすら不愉快な大海魔。しかしそれに食らいつく者たちの様は実にいいおつまみになると、彼は思っていた。

 時臣は時臣で、事態の終息を早く行いたいのだが、アーチャーの温情で今生きているような状態で、彼を戦わせようとは到底思えなかった。

 と、時臣の視界に、雁夜達マスター陣が川辺にいるのが映った。アーチャーに動いてもらえないのなら向こうと合流する方がマシだろうと考え、一言断りを入れて、時臣は彼らの元へと飛び降りた。当然、重力操作を行って優雅に着地するのを忘れない。

「……時臣」

「やぁ、昨日ぶりだね雁夜」

 表情はにこやかにしながらも、彼らの間に漂う空気はピリピリしている。だが、今ここでいがみ合う場合ではないのは互いに理解をしている、深呼吸をし、雁夜は口を開いた。

「今、バーサーカーが内部に突入して本体のキャスターを探してる。うまくいけば、あれから引き剥がすか足止めできるはずだ」

「あくまでもキャスターを死なせない、ということかい」

「聖杯がどうなってるか分かんないんだ、そこにあの危険なサーヴァントの魂を突っ込むわけにもいかないだろ」

 うまくいかなかったら、最悪セイバーの宝具で吹き飛ばすことになるが、と雁夜は〆る。あの巨大な海魔のどこにあれがいるか、それを宝具が打てる状態になるまでに見つけられる可能性は低い。サーヴァントでなければもっとうまく見つけられていただろうが、そうなると逆に感応現象が海魔に通用しなかった可能性もある。

 そう――感応現象、これが今のところの本命だ

 雁夜は()()()()()()()()()()を見上げる。直接触れることが大前提のスキル・感応現象だが、今回のように的が大きいとそのデメリットも気にならない。彼女にばかり負担を強いているが、一番確実な足止めがこれだった。

 ライダーは万が一に備えて固有結界を発動できるようその場にとどまり、ランサーは霊体化してキャスターのマスターを捜索しにいっている。セイバーの協力者も捜索しているということだから、すぐに見つかるだろうが……。

 と、その時だった。

――あり、さ?

 意図せず繋げてしまったのか、シオからそんな思念が届いた直後だった。

――いやだ、ダメだアリサもえないであついだろなんでありさがジャンヌがもえなきゃいけないのジャンありさはがんばってみんなをたすけてただけでアリじゃんぬはやだなんでなんでアリサがジャンヌがなんでしなないといけないかみはどこにいるなぜだなんで!

「っぐ、あぁぁぁぁっ!!」

「どうしたんだい雁夜!」

「カリヤさん!?」

 ごちゃごちゃな思考、恨みと悲しみと、別々の意識が混じっているようなそれらが脳内をかき回す。感情がまるで自分のもののように感じられて、呑まれそうになる。

「感応現象の、影響か……っ」

 

――いいか、マスター。シオはかんのうげんしょうでアラガミにめっ!したりできるけど、ふつうはできないんだ

――まぁ、できていたらアラガミ退治は楽に出来てるだろうな

――そだぞ。で、ふつうはふれたあいてのきおくとか、かんじょうとかをこうかんこして、みたりするんだ

――お前は見たことあるのか?

――ん?んー、ないぞ。シオはそれ、コントロールできるからな!

 

 全然コントロールできてないじゃないか。そう毒づきたくなるが、気を抜けばリアルタイムに流れてくるものに自身も呑まれそうになるので何も言えない。

 シオが感応現象で何を見てこうなったのかは分からないが、今は引き離すのが先決だ。

「バーサーカー……っ」

 令呪に意識を向ける。周りで誰かが呼びかけているが無視した。

「戻ってこい――シオ!」

 令呪が消える音――感覚?――と共に、シオが雁夜の腕の中に倒れ込んでくる。それと同時に脳内で響いていた声が止んだ。

「え、何どうしたのさカリヤさん!」

「悪い、説明は後でいいか。先にライダーの宝具で足止めを」

「いや、その必要はなさそうだよ」

 時臣の声に、雁夜は顔を上げる。

「彼女の――セイバーの準備が整ったわ」

 川面に立つセイバー。その剣は今や全容が暴かれ、瞬く光がその刀身に収束していく。眼前に聳え立つ強敵、野望を打ち砕かんと。

 セイバーが剣を振り上げる。様々な葛藤を胸に、しかし今は人々を害さんとするものを打ち破るため、彼女は力を振るう。

 

 

 

――輝けるかの剣こそは、過去現在未来を通じ、戦場に散っていくすべての兵たちが、今際のきわに懐く哀しくも尊きユメ――『栄光』という名の祈りの結晶

――その意志を誇りと掲げ、その信義を貫けと糾し、いま常勝の王は高らかに、手に執る奇跡の真名を謳う

 

 其は――

 

 

 

「《約束されし(エクス)――」

 足を一歩踏み出し――その結晶は、振り下ろされた。

「――勝利の剣(カリバー)》ァァァァッ!!」

 巨大な光の柱が、海魔を飲み込む。様々なユメをもって束ねられたその極光を、何が妨げるというのか。

 あっけなく、海魔が消えていく。

 未だ落ち着かない思考の中、シオはその極光から声を聞いた。気がした。そのどれもは、明確なものではなくて彼女には内容までは分からなかったが、いくつかは判別できた。それすらも、意図は掴めなかったが。

 誰かの行く先を案ずる声。誰かを託す声。誰かの平穏を祈る声。様々な人の願いで束ねられたものだと聞いていたが、初めての経験に、シオは目を細めた。

 その光は、余りにもきれいで、まっすぐで。だからこそ、シオは思う。

「おもく、ないのかな」

「バーサーカー?」

「あんな、きれいなものたくさんもってて、セイバーはおもくないのかな」

「さぁ、な」

 極光が消え、静寂が広がる。何も残らぬそこを、一同は見つめていた。

「――はっ、そうだ!キャスターのマスターは!?」

 いち早く達成感から脱したウェイバーが声を上げる。そう言えば捜索に出ていたランサーはどうした。ケイネスに視線が集中する。

 件のケイネスは、苦々しい表情で口を開いた。

「マスターと思しき人間が銃殺されていたのをランサーが見つけた。恐らくは、貴様の協力者だろう?アインツベルン」

 今度はアイリへと視線が向かう。心当たりがあるのか、アイリは目を伏せた。

「何かしら魔術関連のものを持っていたらたまらんから、ランサーが件の人間を持ってきている。後は教会に任せるとしよう」

「そっか、これ後処理教会持ちなんだっけ……」

 記憶処理とか大変そうだよなぁと呟くウェイバーの横で、雁夜はそっと自衛隊の出費額を計算して脳内で合掌した。出撃記録も消すかどうにかするなら、かなりの額になりそうだ。時臣がなぜかお腹を押さえているのはいい気味なので放っておく。

 戻ってきたランサーが背負ってきたのは青年ともいうべき年齢の男。こんな人間があのキャスターと共謀して幼児誘拐を行っていたとは思えないほど、見た目は普通だった。その死に顔があまりにも安らかで、傷口から今も流れている赤とちぐはぐなのもその印象に拍車をかけているのだろう。そっと青年を下ろしたランサーも、本当に彼が件のマスターだと信じられないらしく、発見した時の状況を説明する。

「私が発見した時には、彼は既に虫の息でした。しかしその時に令呪があったことを確認しています。教会に確認を取れば、この者がキャスターのマスターだったことは明らかになるかと」

「そうか……」

「なら丁度いいわ。キャスター討伐の報告と、あなたが提示した聖杯の調査についての是非を、今から聞きに行くのはどうかしら」

「えっ」

「はっ」

「はぁ……」

 アイリからの提案に、ケイネスに雁夜、時臣が瞠目する。時間帯は深夜、恐らく監督役の璃正は処理に追われている今の状況で訪問するのは如何なものか。いや、キャスターはすでに討伐され、一時休戦の縛りは無くなっている。協力的でないセイバー陣営がいる以上、早めにした方がいいが……。

 今ごろ疲労で死んだような表情をしているであろうご老体の彼にこれ以上追い打ちをかけるべきではないという良心と、早めに事態を進めた方がいいという意思がせめぎあう。

 

 

 

――数秒迷った後、彼らは教会へ赴くことに決めたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

――コトリ、と音がした

「……?」

「どうした、桜」

「……なんでもない」

 今まで動かなかったのだから、気のせいだろうと思い、少女はそれから目を逸らした。

 ほんの少しだけ、“それ”の位置が動いていたのにも気づかずに。




疲労しきったところにさらに追い打ちをかけられる璃正神父に合掌



お待たせしました。終盤に近付いてます
プロットに沿わせようとしたら矛盾が発生して四苦八苦、シオの見せ場が1つ大幅に変わり、代償にライダーの見せ場が潰れるという事態に……ライダーの宝具展開を見たかった方、すいません
シオが混乱した理由は
・アリサ達の中の人繋がり
・ジルが精神汚染持ち
・感応現象でお互いの気持ちが相手に流れ込むと描写されていた為
(アリサ入院中を参照)
以上の偶然が重なり、更に雁夜もまたシオの細胞を取り込んでいた為同調しやすかったという裏設定があります

着地点は書いたのに着地の仕方が変わる事態になったので、また次の更新には日数が空くと思われます、気長にお待ちください

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