Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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残酷なあれそれがあります


第40章—かわべのたたかい—

「くそっ、候補が多すぎる」

 書庫におけるアヴェンジャーの真名推測は難航していた。神話は世界中、探せばいくらでもあり、土着の神々なども合わせたら膨大な量となる。日本にある八百万の神、という言葉が示す通りで、邪神という括りでも数は絞れないのだ。

「他に絞れるような要素は無いのか」

「思いつけたら苦労しませんよ」

 さしものウェイバーも思いつかないらしく、ケイネスが忌々しいとばかりに舌打ちをする。彼自身も調べながら考えてはいるが、一向に考え付かない。

 と、ライダーが書物の整理を手伝いに来たシオに訊ねる。

「のう、バーサーカー。お主が聖杯なら、どのようなものを食べたら反転……悪いものになると考える?」

「ん?んー……」

 ライダーはシオを構成するオラクル細胞を聖杯に見立て、何が吸収されれば悪い方向に変わってしまうのかを推測しようとしたのだ。

 シオはうんうんと顎に手を当てて考える。元よりオラクル細胞は入手した性質を取捨選択し、変化していく。自分に害がある要素を取り込むようなことはほとんどしない。もし、それがあるとすれば。

「シオな、ちゃんともらえたのをせんたくできるんだ。だから、それもできないっていうなら……たぶん」

 その後の答えは、口にできなかった。いや、するよりも重大な事態の発生を感じた、と言った方が正しいだろうか。

「!!」

 異常な魔力反応。魔術の秘匿なんぞ知らんとばかりに発せられる膨大な魔力に、全員が立ち上がる。入り口に一番近かったシオが扉を開け、廊下の窓を開けた。目を凝らし――見えた。

「かわのほう、おっきいのがいる!」

 すでにライダーは戦装束に着替えている。ウェイバーも出立の準備を済ませ、ケイネスも同じく準備を済ませ、そっと自分の令呪を見た。まだ状況の詳細が掴めていないが、恐らくはこれを使うことになるだろうと。

 雁夜と合流し、慌ただしく間桐邸を後にする一行。心配そうに見送る桜の背を、鶴野が撫でていた。

 さすがに今回ばかりは悠長にしていられないということで、雁夜はウェイバー達と共に戦車に乗り、シオは乗員オーバーの為に戦車の縁に乗る形で現場に急行していた。

 目標物に接近したことで、ウェイバー達にもソレの全容が見えてくる。

「うわ、なんだよあれ!」

「海魔だな、分かってたけどキャスターの仕業か」

「彼奴等魔術の秘匿をなんだと思ってェ……!」

「ケイネス、どーどー」

「私は馬ではない!」

 相も変わらず賑やかだが、表情は一様に深刻だ。あまりにも巨大な海魔。シオと雁夜はそれが動き、ゆっくりと陸地に上がろうとしているのが見えたのだ。あれが地上に降り立ち、市民を喰らい始めれば――最悪の結末は言うまでもない。

 勢いよく川べりに到着した彼らが目にしたのは、ショーを見るような感覚で集まったであろう人々と、巨大な海魔だった。幸いまだ射程内ではないらしいが、それも時間の問題だ。

 セイバーは先に到着していたらしい、こちらに駆け寄ってくる。

「ライダー、バーサーカー」

「おうセイバー。この状況だ、共同戦線を張りたいのだが」

「こちらには問題はありません。……アーチャーがいないのは残念ですね、彼の宝具は物量が凄まじいですから」

「どうせどっかで見物しとるだろう。あ奴はそういう王だ」

 サーヴァント達で共同戦線を張ることを決め、作戦を練っている傍らで、ケイネスはロンドンにいるランサーとパスをつないでいた。

――ランサー

――主!どうかなさいましたか

 久方ぶりに聞く声に、反射的に罵倒をくわえたくなるがぐっと我慢。

――緊急事態だ、こちらに戻す。ソラウにも伝えておけ

――はっ

 どこかに行っていなければ、彼はソラウと共に時計塔にいるはず。そこから急にランサーがいなくなるのはよろしくない。

 ランサーからの合図でもって、ケイネスは令呪を発動した。

「来い、ランサー」

 三画あった令呪の一画が消え、ランサーが降り立つ。非常事態だと告げていたからか、すでに宝具を二振りとも開帳している。

「詳しい情報は追って伝える。まずは目の前の海魔を他サーヴァントと協力して討伐する」

「はっ」

 ランサーも四の五の言っていられる状況でないことはすぐに分かったのだろう、すぐに承知する。と、ならばとランサーが1つ、ケイネスに提案した。

「セイバーも協力するならば、その……《必滅の黄薔薇》の破壊許可を」

「……理由は」

 ケイネスはもう聖杯を求めてはいない。だから戦力の減少は特に害はないのだが、念のために理由を訊ねる。

「彼女の剣の腕はかなりのもの。左腕を満足に動かせない状況では、どの力も引き出せず、また真名解放もままならないかと」

「敵に塩を送れと?」

「っそうではありません。私の宝具の1つの犠牲で、サーヴァント1騎が存分に力を振るえる。この場においてはそれが最適だと考えたのです」

 ランサーの意見は筋が通っている。騎士道だのなんだのとは言わず、最適と思われる方法をとったのだという主張は、十分ともいえるものだった。向こうで、彼の何かが変わったのだろうか。ソラウの姿がちらついた。

「許可しよう」

「感謝いたします」

 その言葉と同時に、ランサーが《必滅の黄薔薇》をへし折る。と、シオがランサーに近づき、折られた槍を見つめる。倉庫街以来会っていないランサーは警戒しながら後ずさるが、ケイネスはそれに待ったをかけた。

「バーサーカー陣営とは正式に同盟を組んでいる。問題はない」

「――分かりました」

 何かあったのは明白だが、それを詳しく聞く時間はない。何やら機械音が聞こえてきた空を見上げると、飛行機が飛んでいるのが見える。恐らくは、戦闘機と呼ばれるものだろう。いよいよもって時間が無い。

 と、槍をじっと見つめていたシオが口を開いた。

「ランサー、これおったならいらないよな。たべていいか?」

「……は?」

 

 

 

 

 

 

「ははっ、なんだこれ冗談じゃねぇ」

 市警からの通報を受けて現場に急行した航空自衛隊の小林と仰木は、眼前にある現実離れした光景に瞠目していた。

 靄で全容はよく見えないが、そこにあるのが常識では考えられない代物だということは、2人にも分かった。

「俺たちは光の巨人でも、それを擁する特殊部隊でもないんだぞ……!」

 あまりにも現実離れした光景だから恐怖心が麻痺しているのだろう、眼下の川べりや橋には見物しに来たと思われる市民がいるのが見える。目の前のこれが彼らに害を与えるのは避けなければ。だが、発射する弾丸はすべて飲み込まれ、とても効いている様子はない。

「畜生ォ!」

 通信機から小林の叫びが聞こえた。このどうしようもない状況に、彼も苛立ちを隠せないのだ。

 と、その時だった。

「――は?」

 彼の目の前を、牛が引く戦車が通り過ぎた。雷撃を轟かせ、あろうことかこちらに飛んできていたもの――触手を焼き刻んでいく。

 横切ったそれに気を取られていると、トン、と何かが機体の先端に乗った。体を固定するものもないのに、軽く手を機体に乗せて体勢を低くしただけでバランスを取っている。

 それは、白いドレスを着た、これまた白い少女。現実離れした光景の中で、違う意味で現実離れした容貌の少女は、仰木を見るとにっこりと笑った。

「な、てつだってほしいことがあるんだ!」

――戦闘系の天使、今度はファンタジーだな

 自身に接近してくる触手を、右腕から生えたような武器で刻みながら言う少女を見て、仰木はそう思った。

「なんだい、お嬢ちゃん」

 なーなー、と考えに耽る暇も与えてくれない少女に、仰木はそう訊ねる。機体の兵器は効かない、もう破れかぶれといった心境だ。

「んと、おまえとあっち、みんなをまもるえらいやつなんだよな?」

 相変わらず、少女は不安定な機体の上で、左手を固定しただけで右手の武器で器用に触手を退けながら話す。ふと視界に映った小林の機体にも同じように、誰かが乗っているのが見えた。

「ああ、そうだな」

「なら、おまえのこえなら、みんなひなんしてくれるかな?」

 つまりは、市民の避難誘導をしてほしいと。地上では恐らく市警もそれを行っているだろうが、まだ市民が動いていないのを見るに、結果は芳しくないようだ。

「仰木さん、どうしましょう……」

 小林の困ったような通信を聞くに、恐らく向こうも同じような提案をされたのだろう。彼の他に、ほとんど掠れてはいるが男の声が聞こえた。

 だが、自分たちの攻撃は効かず、彼らの攻撃が効いている現状において、答えは既に出ていた。

「いいだろう、君たちの作戦に従う」

 悔しいが、これはもはや自分たちの領分をはるかに超えている。苦渋の決断だった。

 仰木の答えに少女は笑みを浮かべると、拙い口調で作戦内容を説明し始めた。

 

 

 

 

 

 ある警官は、防波堤からあの巨大物体を見物している市民を避難させようと必死に声を張り上げていた。だが、それに対する市民の反応は鈍い。現実離れした光景に、感覚が麻痺しているのだ。

 それでもなお、警官は必死に声を張り上げる。彼の勘が、あれの危険性を訴えていた為に。

「あれは危険です!急ぎ避難をお願いします!」

 空を自衛隊が飛び、ミサイルを発射しているのが聞こえている。だが、全く効いていない様子からさらに焦りが積もる。が、逆に市民は自衛隊が来たことでより熱を上げていた。そうじゃない、自衛隊が出動する事態と言うのはとても危険なんだ!と警官は叫ぶが、誰も心をこちらに向けてくれない。

 と、その時だった。

「――こちら航空自衛隊、仰木一等空尉。市民の皆さん、急ぎ避難をお願いします!」

 響き渡った声は、空からのもの。聞こえるように、見えるように上空から降りてきたその機体には、白い少女が乗っているように見えたが、きっと気のせいだろう。

 活躍しているように見える自衛隊の声に、漸く市民に動揺が見え始める。だが、これだけでは足りない。あともう一個、決定的なもの、これが現実であり危険な状況なのだと、知らしめるものが。

 考えている彼の脇を、小さな影が通過する。はっとしてみると、誰が連れてきたのか、1人の少女が川に近づき、あろうことかあの物体をよく見ようと駆け出している。

 いけない、と警官が少女を連れ戻そうと走り出す。少女が彼の息子と同じくらいの年なのもまた、焦りに拍車をかけていた。

 だが、その手は少女には届かなかった。

 少女はその身体に見合わないほどの俊足で川べりに近づいた途端、まだ距離があったはずのソレから巨大な触手が少女に近づき――叫び声を上げる暇もなく、幼い命は叩き潰された。

 グチャ、という音と共に、広がる肉片と血。開けた場所だったから、その場にいた誰しもが、その最期をみた――見てしまった。

 一瞬間を置いて――その後は言うまでもない。

「何よあれ!誰よ見世物だって騒いだのは!」

「知らねぇよ!てか誰だあんな子ども連れてきて放っといたの!」

「うそでしょ?これ悪い夢よね、あんな風に叩き潰されるなんて、現実じゃ」

「だから言ったんだ!こんなもの見たくないって!」

「もういやだ!おれは家に帰らせてもらう!」

「――落ち着いて、避難をお願いします!」

 混乱し、阿鼻叫喚の中で警官は声を張り上げる。皮肉なことに、人が、幼い命が潰されたことで、漸く事態の深刻さを理解した市民たちは、警官の声に従って我先に避難を始める。

 歯を食いしばり、警官は自身を責めながら業務を熟す。むざむざ、目の前で少女を死なせてしまったことが、彼の心に深い影を落としていた。

 

 

 

 

 

 

「綺礼様。命令通り、アサシンの一体を囮にしておきました」

「ご苦労。……人1人が死んで、漸く動き出しましたか」

「後は記憶処理か。それから例の停戦問題の最終確認に……ああ、胃が痛い」

「大丈夫ですか」

「大丈夫だ。少し休んでくるよ……」

 

「……何故だろうな。少女を救えなかったあの男の表情は、どうにも」

「――いや、そんなわけない。そうあってはいけないのだ」

 

 

 

 

 




※BLフラグではありません


うん……あの子そこそこ人気あるみたいだけど、あそこでのインパクトを考えたら幼い女の子ってかなりの衝撃あるよねっていう
触手そんな伸びてくるのかよって思うかもですがあれです、挑発されたんです(そう言う設定にしてます)
アーチャーの描写だったり作戦内容を次回は描写したいと思います

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