Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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時臣さんのターンだぞぉ!!


第39章―いじとほこり―

 切嗣は苦悩していた。

 合流したアイリから齎された、昨晩の酒宴での出来事。敵方にうっかり情報が漏れてしまったこともさることながら、セイバーにも詳細が漏れてしまったことは痛手だ。彼女の性格ならばすぐにでも詰問してくるだろう――と思っていたのだが、予想に反してやってこない。なにやら朝からずっと考え込んでいた。

 そして、他陣営――バーサーカーとライダーの陣営は本気で、聖杯戦争を止めようとしているらしい。聖杯の是非など、手に入れてから考えればいいというのに。

 彼らが述べたこの聖杯戦争の違和感は、確かに頷けるものがある。しかし、それらは結局推論でしかなく、実際に聖杯や戦争の仕組みに不具合があるかどうかは定かではない。なのに何故、そこまで停戦に真剣に取り組んでいるのだろうか。

「まぁ、どうあっても僕の道は変わらない」

 あの日、少女を殺せなかった時から。

 あの日、師匠(母親)を殺すしかなかった時から。

 衛宮 切嗣(セイギノミカタ)の道は、変わらない(変えられない)

 朝の目覚め代わりの一服を吸う。口から出た煙が、曇天の空へと舞い上がっていった。

 

 

 

 セイバーは考えていた。自身の願いに対する覚悟を。この時代の人間――アイリや切嗣、舞弥やイリヤたちを犠牲にしてでも、ブリテンを救う覚悟があるのかと。

 答えはまだ出ない。こうして酒宴の後一晩中考えたが、切嗣は兎も角として自身を信頼してくれるアイリを見捨てるのかと問われれば、戸惑ってしまう自分がいる。

 それこそが、自身がまだ王として未熟だという証なのだろうか。

「いや、それは違うのでしょうね」

 自身はあくまでも騎士王。征服王たちとは王としての在り方が違う。それぞれのカタチ、それぞれの王道がある。その中で、自分なりのけじめをつけなければ、自身は戦場に上がる資格すらない。

「私の思う、理想の騎士。民の思う理想の騎士……私は民の理想であり続けたい。ならば」

 あの城から移り、一転和風の屋敷の道場にて。セイバーは精神統一をしながら1人、問答を続けていた。

 

 

 

 

 時臣は命の危機を感じていた。

「さて、時臣。覚悟はよいな?」

 床に膝をついた自身を見下ろすのは、己がサーヴァントであるアーチャー、ギルガメッシュ。 昨夜の酒宴で、時臣が最後自身を自害させると知ってしまった英雄王。

 さしもの英雄王も、自身の信用が裏切りでもって返されると知っては相応の報復を行う。臣下としての態度をとっていたからこそ続けられていた主従だ、問答無用で処断されないだけまだ有難かった。

 時臣は思考する、この場をどう切り抜けるべきかを。口先だけの美辞麗句を述べたところですぐに見抜かれ、彼の後ろに展開する《王の財宝(ゲートオブバビロン)》の餌食にされてしまうだろう。だが正直に根源への欲を口にしたところで結末は同じ。一体どうすればいいのか。令呪を使おうかとも思ったが、漠然とした命令では効力が薄くなってしまう。

 だが、今死んでしまうわけにはいかない。

 今自分が死んでしまっても、凛や桜が根源に至ることが出来るかもしれない。彼女たちは天性の才がある、可能性は高いだろう。

 だが、その愛娘の1人の桜があんなひどい環境にいたという事実を知って、そう割り切れなくなった。

 元より、時臣は魔術師然とした人間ではあるが、家族思いな人格者でもある。我が子が(魔術師の観点から)酷い目に遭っていたと聞いて、そしてその遠因が自身が下した養子縁組だと知って、はいそうですかと軽く流せるものではない。元より、雁夜にそれを知らされたことも、彼の思いに拍車をかけていた。

 だから、この場で死ぬわけにはいかない。時臣はゴクリと唾をのみ。努めていつも通りの口調で答えた。

「――貴方様の信用を裏切ったことについては、私は謝ることはしません。どう繕ったとしても、自身の目的のためにあなたを贄にしようとしたことは事実なので」

「ほう?」

 まずは下手に取り繕わず、事実を口にする。謝罪をすることも一瞬考えたが、目的は変わっていないし、悪いとも思っていない。外面で謝罪することは彼に失礼だと考えたのだ。英雄王は一言口にするだけで先を促してくる。まだ、断頭台へは着いていない。

「ですがどうか、処遇については待っていただけないでしょうか」

「この我に待てと申すのか」

 プレッシャーが伸し掛かる。思わずそんなことは、と口にしかけるがなんとか飲み込む。ここで退いてはいけない、まだ死ぬわけにはいかないのだ。

「はい、待ってほしいのです。せめて、我が娘と話をするまでは」

 こめかみを汗がしたたり落ちる。これほどまでのプレッシャーを感じたのは初めてだ。頭は下げたままでアーチャーの顔は見えないが、その沈黙の真意を時臣はしっかりとつかんでいた。

 

 

 

――自分は今、裁定されている

 

 

「……理由を述べよ」

「私の娘の1人、桜は今現在他の家に養子として出しています。より魔術の鍛錬を積めるように、そして凛と桜のどちらかが、根源へと至れるように」

「くどい、結論を先に言え」

「――養子先に出た娘と再会し、私は彼女を娘として愛していると伝える為です」

「……」

「桜が養子先にて、こちらの約定とは違いまともな調練をされず、あまつさえこちらが見捨てたと、嘘を刷り込まれていると……その家の者からリークされたのです。きちんとした資料と写真もあり、疑う余地はありませんでした」

 

 

「その資料が偽りであったならどうする」

「その可能性は……いえ、ないとは言い切れないでしょうね。いっそ偽りであればいいと思います。そうならば、桜はきちんと魔術師として研鑽を積んでいるということなのですから」

「では、偽りでないと言える理由は」

「あの落伍者が、そんな策を投じるとは思えません。あれはあれなりに、桜を溺愛していたようですから」

「ほう?敵マスターであるあれを信用していると」

「まさか!魔術師の恥晒しである彼を信じるなど。

――ただ、不本意ながらも、あれとは同じ女性を愛した者同士。多少は通じるものがある、それだけです」

 

 

「では、その娘との邂逅が終わったらどうする」

「無論、すぐさま王の処罰を受けましょう。桜と、家族と話し、それが少しでもあの子の希望になったのなら。思い残すことはありません」

「……」

「……いえ、そうですね。自身の手で根源へと至れないのは、残念に思うかもしれません」

「結局貴様はそこか」

「えぇ。根源へと至ることは、魔術師にとっての悲願ですから」

 

 

「では、我が今ここで貴様を処断すると言ったら、どうする?」

「全力で抵抗させていただきます。最悪、令呪でもって自害させることも」

「つまりは聖杯戦争を放棄すると」

「あれとの約束すら守れずに死ぬか勝ち残れば、笑われてしまいますよ。ならば王を優雅に退けて五体満足の状態で場に現れ、あれの驚く表情を見る方が遥かにマシです」

「……我を退けられると?」

「万が一、と言うこともあります」

 

 

 沈黙が流れる。言うべきことは言い切った、後は沙汰を待つのみ。手汗で滑りそうになりながらも、力いっぱい杖を握りしめる。最悪即戦闘もあり得る。一瞬でも隙をついて、令呪を使用。それで無理なら右腕を捨ててでも――

「……フ」

 どれほどの時間が過ぎたかは分からない。沈黙を破ったのは、思わず漏れたといった感じの、アーチャーの笑い声だった。

「フ、フハハハハハハハハハ!」

 大きな声で笑い続けるアーチャー。こんな風に笑ったのは初めて聞く。思わず顔を上げてその表情を確認したいが、今はまだ裁定の時。王の許可なく顔を上げることはできない、と時臣はその欲求を抑える。

「ハハハハハ!時臣、貴様、フハッ、退屈な人間だと思っていたというのになんだ、実に面白いではないか!」

 ゲラゲラと笑いながら、アーチャーが言う。恐らく今の彼はきっと腹を抱えているのだろう、と時臣はどうでもいいことを考えた。

「面を上げよ、時臣」

 その声に、時臣は漸く顔を上げ、アーチャーを見る。時臣の顔を見ると、にやにやと笑っていたアーチャーの笑みが、さらに深まったのが分かった。

「貴様でも、そのような表情をするのだな」

「は?」

 自身がどのような表情をしているのか分からない時臣に、アーチャーはまた笑う。

 表面上は取り繕うようにポーカーフェイスを保っているつもりなのだろうが、その髪は頭を急に上げたことで乱れ、冷や汗が滴り、顔色も悪い。何よりその目は切実なまでに、強い意志を持っていた。

 今までの冷静沈着を繕っていた彼とは違うそれに、アーチャーの気分がよくなる。そう、これが見たかった。大切なものの為に、強大なものを目の前にしても臆さず、しかし畏れながらそれでも立ち向かう気概。

 余裕綽々な様子が見たいのではない。困惑し、恐怖し、絶望を前にしてもそれでも立ち向かう。そんな姿こそがいっそ滑稽で、それでいて生き生きとしているのだ。

 背後に展開した《王の財宝》をしまい、最後に酒を取り出すと飲み始めるアーチャー。その様子にポカンと間抜けな面を見せる時臣に、英雄王が沙汰を告げる。

「よい、此度の蛮行は特別に水に流してやる。己が子と語らい、存分に溝を埋めるといい」

 だが、我をまた自害させようとすれば、どうなるか分かっているな?

 そう笑いながら告げるアーチャーに、時臣は漸く緊張が解けたのか優雅さのかけらもなく床に倒れ込んだ。それを見て愉しそうに哂うアーチャーの声が、遠坂邸に響き渡っていった。




>>「あれとの約束すら守れずに死ぬか勝ち残れば、笑われてしまいますよ。ならば王を優雅に退けて五体満足の状態で場に現れ、あれの驚く表情を見る方が遥かにマシです」

→「あんな奴との約束すら守れないなんて優雅じゃない!」

雁夜さんのことを恋敵として認識していたというコメントを見て、なら未だに対抗心とか、色々言葉にできない複雑な感情を無意識の内に持っていそうだなと

ここら辺の問答で無意識のうちに意地になってる時臣が一番ギルガメッシュの琴線に触れてます

「自身の根源へと至る目的も捨てられないけど一番は家族、その為なら貴方とも戦ってやる!あいつとの約束破るとかカッコ悪い!だから財宝なんて捨ててかかってこい!(震え声)」
「(やべぇ見下してる相手に意地になってやんのwwww普段余裕ぶってるのに面白www)」

こんな感じ……?
何か違和感あったらすいません。でも英雄王の裁定ポイントこんな感じな気がして

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