Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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後半はウェイバー君のターンとなりました


第38章―カミサマ―

 その話を雁夜が切り出したのは、夢でシオの過去を垣間見たからだろうか。朝食の場、間桐家の面々とシオ、ケイネスが揃った場面で、雁夜が口を開いた。

「バーサーカー」

「なんふぁ?」

「お前昨日、“仲間に会うためには人間にならないといけない”“アラガミのままだと一緒には生きられない”って言ってたけど、なんでだ?」

 あの環境の中で、確かにシオのアラガミという種族はハンデになるだろう、肉体的な意味ではなく、立場的な意味で。だが、見た目はまだ人間寄りだ。服装を見繕えば、まだ人間社会に馴染めるのではないだろうか。彼女自身がアラガミの性質を放り出したくないと思っているのに何故、人間になる必要があると判断したのだろうか。

 その質問に、朝食を頬張っていたシオは暫し考えると、口の中のものを飲み込んで答えた。

「アラガミのままだと、シオきえちゃうからだぞ」

「は?」

 突然の爆弾発言に、食卓が凍り付く。日本語での質問だった為に内容を理解していなかったケイネスも、シオの応えに目を見開いている。

 どういうことだ。そう言いたげな面々に対し、シオはそれはアサゴハンのあと!と言ってまた食べ始めた。もやもやしたものを抱えながらも、雁夜たちも食事を再開する。

 朝食ののち、リビングでシオ、雁夜、鶴野に桜が集まり、先ほどの話の続きを聞くことになった。ケイネスは合流したウェイバーと共に書庫にこもっている。昨晩も籠っていたことから、あの酒席で何か情報を得たのだろう。

「で、どういうことか説明してくれ」

「うん、いいぞ。でも、どこからはなせばいいかなー」

 うんうん、と悩むシオにじゃあ、と桜を膝に乗せた雁夜が切り出した。人間になりたい思った時の状況は、と。

「んとな、3かいめのシュウマツホショクがおきたときなんだけど」

 ツッコミをいれたい、入れたいがここで話を逸らしてもいけないから無視だ無視。

「そのときのほしょく、なんだかナカミがなくてな……んーと、ぼうそうしてたんだ。そのままだと、ホシぜんぶイタダキマスしてそれでおわりになっちゃう、みたいな」

 つまり、終末捕食による破壊と再生が、破壊のままで終わる危険性があったと。一大事どころじゃない事態に、しかしシオは何もできなかったらしい。精々、感応波というものを使って暴走を少しでも遅らせることしかできなかったと。いやそれでも十分に貢献できているんじゃないか、月から地球までの距離を考えると、やはりシオの能力は規格外だ。

「でもな、そのときおっきいちからがぶわーってでたんだ。ちっちゃくて、でもあったかいもの」

 さすがに細かいことは分からなかったが、それのお陰で終末捕食の暴走は収まったらしい。だが、どういうわけか終末捕食自体は終わっていなかった。しかし見た感じでは星の様子は変わっていない。が、感応波で調べようとした時に気づいたという。

「その、ちからがでたところだけ、なにもかんじられなかったんだ」

 否、正確にははじかれたというべきか。その領域だけ、シオは何も感じ取れず、全てはじかれてしまったのだ。

 どういうことだろうと悩むシオを他所に、じわじわと探ることが出来ない領域と、緑化された大地が広がっていく。そんな中で、シオはふと感じ取ったのだ。その領域に踏み込んだアラガミが、跡形もなく消え去るのを。

「たぶん、シュウマツホショクのほうこうせい?をちょっとかえたんだとおもう。シオが、ホシじゃなくてツキにむけたみたいに」

 星のすべてを破壊するのではなく、ゆるやかに星を再生していく方向に。その代償の命は、アラガミを構成するオラクル細胞。

「だから、シュウマツホショクがおわったら、シオはちきゅうにはいけなくなるんだ」

 そも、始まりは極東だ。ソーマ達がいるアナグラはもっと先に終末捕食が終わってしまうだろう。そこへ向かって飛んでいくことが出来たとしても、それは自殺と同義。

「もうみんなとあえなくなるとおもったらな、さびしいなっておもって」

 アラガミのままでは、自分はいずれ跡形もなく消えてしまう。アラガミはコアが破壊されれば、他のオラクル細胞はあたりに飛び散っていくがそれとは別だ。その細胞すらも消えてしまうのだから。

「みんなとおなじニンゲンだったら、おんなじようにしんで、いっしょにねむれるのかなぁっておもって」

 だから、ニンゲンになりたいな、っておもったんだ。

 へへへ、と笑うシオに対し、雁夜達の表情は複雑なものだ。特に雁夜は、彼女の過去の一部を夢で見たから余計に。

 彼女は、仲間に大事にされていた。別れざるを得なかった時も、あんなに惜しまれていたというのに。もう、彼らが会う可能性は0に等しいのか。

 いや――

 雁夜は、もっと悪い可能性に気づく。それを確かめようと、彼女に質問した。

「なぁ、バーサーカー」

「ん?」

「お前、月に仲間はいるのか?」

「いないぞ?」

 絶句。彼女はずっと、数年もの間たった独り、月で生きてきたのだ。並の精神ではそんな孤独な世界、耐えられない。もしかすると、彼女は長い時を、今後も独りで生きていかなければいけないのか。

 その時、桜がふと口を開いた。

「……なんで?」

「ん?」

「なんで、はなれるのに笑えるの?」

「だって、みんなまだいきて、わらってるからな!」

 いざとなれば感応波で星の様子も探れるし、彼らが生きているかもわかる。もっと頑張れば、彼らがどんな気持ちでもって過ごしているのかも。

 それができるのは終末捕食が終わるまでだが、それでも、彼らが生きている。笑っている。彼らのカタチが好きだから、彼らが生きて笑っているのならば自分は頑張れるのだと。

 その答えに、桜はそっとシオから目を逸らす。雁夜が彼女の小さな頭を撫でる。家族と引き離された桜と、仲間から離れたシオ。似ているようで、全く正反対の2人。もしかすると、桜は似ていると思ったシオに、自分の感情の置き方を求めたのかもしれない。真偽は雁夜には分からなかったが。

 深刻そうな表情を浮かべる雁夜達を他所に、シオは話が終わったとみるや否やケイネスのおてつだいしてくるー!と言ってリビングを飛び出していった。残ったのは重い沈黙。

「……あいつ、やっぱりバーサーカー(狂ってる)なんだな」

「俺たちの価値観にしてみればな」

 鶴野と雁夜が言い合い、溜息を吐く。言動は幼いが賢い部分もあるためすっかり忘れていたが、彼女はバーサーカークラスで現界している。食事方面にそれがよく表れやすいのだろうと本人は言っていたが、こちらからすればあの考え方ができる時点で狂っている(常人離れしている)。自分だけが幸福な世界から切り離されているというのに、その世界で過ごす仲間をずっと見守っていられるなど。

「ホント、なんで俺のところに来たのアイツなんだろ」

 スペックは申し分なし、バーサーカーにありがちな意思の疎通の不可も、膨大な魔力消費もなく、おまけに知性抜群。

 だが、言動は幼く周囲を振り回し、その価値観と考え方はいっそ眩しすぎた。

 彼女を召喚したことを後悔したことはない。彼女がいたからこそ、今こうして桜や鶴野と過ごすことができ、時臣に渡りをつけることが出来た。知らなかったであろうことも知ることが出来た。

 でも、彼女に対する得体のしれない恐怖は、まだ尽きることがない。寧ろ増しているようにも思える。

 純真無垢ともいえる態度が怖い。常人離れした身体能力が怖い。そのくせ、何もかもを悟ったかのような言動が――怖い。

 普段恐怖を感じていないのは、そんなシオの一端をあまり見ていないからだろう。彼女が命の恩人だというのも大きいのかもしれない。

 彼女がいっそ何も話せなかったら、こんな恐怖を感じることなく、しかし何も救えずに普通に聖杯戦争に参加していたのだろうか。

 考えたところで仕方ないのだが。

 

 

 

 

 一方、ケイネスはやってきたウェイバーやライダーと共に、書庫にて前回の聖杯戦争の資料を漁っていた。召喚されたサーヴァントについては簡単に見つかり、今はそれぞれの真名の推測に入っているところだ。

「気になるのはやはりこのエクストラクラスだな」

 そう言ってケイネスが示したのは“アヴェンジャー”の資料。4日目に敗退したとされるそのサーヴァントは、性別が男性であること、ステータスが貧弱だということ以外は不明となっている。その後、聖杯戦争は聖杯――恐らく小聖杯だろう――が現れたが、正しい所有者を得られないまま破壊され消滅、儀式は失敗している。

 聖杯がサーヴァントの魔力でもって願いを叶えるというのであれば、もしかすると未だに聖杯の中にサーヴァントが収まっている可能性は、と考えたがそこで首を横に振る。

 もしまだ聖杯に魔力が溜まっているのなら、小聖杯は既にどこかに現れている。だがそんな報せはないことから、魔力自体が残っている可能性は低いだろう。

「座に戻る過程で、アヴェンジャーの魂が何らかの影響を聖杯に与えた……?いやそれならば他のサーヴァントが影響を与えていないのがおかしい。だがそれでは無色の願望器という謳い文句が」

 ぶつぶつと考えるケイネスを他所に、ウェイバーとライダーも資料を整理しながら、アヴェンジャーの真名推測に乗り出していた。

「分かってるのはステータスが貧弱ってことと、4日目に敗退するくらいにはやっぱり弱かったってこと、召喚者はアインツベルン。これくらいか?」

「件のアインツベルンは御三家の1つ、しかも英霊召喚の基盤を形作っておるな。他のシステムはどうあれ、召喚に置いてはアインツベルンは優秀だったのだろう」

「つまり、その技術でアインツベルンはイレギュラークラスを召喚したってことか」

 となると、目的となるサーヴァントは余ほど欲しかったものなのか。

「うむ、何か特定のサーヴァントを召喚したかったのだろう」

「でも、こいつすごい弱かったみたいだぞ。期待外れもいいところだ」

「そこが分からんところなんだよなあ」

 一体アインツベルンは何を召喚したかったのだろう。そしてなぜ、件のサーヴァントは弱かったのだろうか。

「何かの手違い、だったとか?」

「ほう?」

 ウェイバーの言葉に、ライダーが先を促す。

「ほら、同一視されたり、起源が同じ英霊だとか神霊は沢山いるだろ。ジークフリートとシグルドもそうだし、カルナと太陽神スーリヤは後に同一視されている。アインツベルンが召喚システムを弄ってスーリヤを召喚しようとして、結果カルナを呼び出した、みたいな手違いがあったんじゃないかなー……って」

 いつの間にかケイネスも視線をこちらに向けていることに気づき、最後はしりすぼみになる。なんかこれ前にもあったような気がするぞ、と考えていると、ケイネスがぽつりとつぶやいた。

「貴様は時折斜め上から推察するな」

 神霊そのものの召喚は不可能。それは魔術師の中では常識だ。ある程度格落ちし、現環境に適応した状態ならば現界は可能とはいえ、そんな不可能に近いことを起こそうとは思わない。

 だがもし、それをアインツベルンがしようと思う位には聖杯に、あるいはこの戦争での優勝に固執していたのなら。一度くらいはと試す可能性はあるのではなかろうか。自分達が英霊召喚の基礎に関わったという実績もある。多少書き加えて召喚を試し、しかしそれが神霊だったが故に失敗し別の存在――それもかなり弱いサーヴァントが召喚されたのだとしてもおかしくはない。

「アヴェンジャーの真名考察はその方面から探るか」

「えっ」

「おう、神霊と同一視された、ないし同じ役割を持った肉体派ではない英霊だな」

「ちょ」

「アヴェンジャー、復讐者と言うからには反英雄だろう。神霊もそれと同じく邪神と思われる。ああ、復讐するに足る悲惨な過去もあるだろうな」

「待って」

「邪神と同一視された、或いは起源を同一とするもの、それで悲惨な過去か……これでもかなりの量があるだろうよ」

「あの」

「何をしているウェイバー。さっさと神話関連の書籍を片っ端から持ってきたまえ」

「は、はい!」

 自分の何気ない言葉一つで、大きく事態が進んだ……のだろうか。もしそうなら、と書庫を駆けるウェイバーの足取りは自然と軽くなっていった。




GE2RBを終わらせたとき、思ったのが「ああ、平和になるんだな」ではなく「シオはもう帰れなくなるんだな」というショックでした
月と地球を往復するロケットが開発できるまでどのくらいかかるんでしょう。支部長の計画の時でさえ、ロケットは月までは到達できていなかったように思えますし

たった一人であの月に居続ける彼女。GE3らしきものの開発がGEOと同時期に発表されてましたが、彼女の話題が出てきてくれたらうれしいです


……で、後半のウェイバー君
魔術師の価値観とかそういうのをあまり知らないからこそ、彼らが思いつかないことを言ってくれる!みたいな期待があります
雁夜たちだと逆に知らなすぎますし

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