Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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前半が上手く進められず……


第35章―おわりとゆめ―

――アイリからの説明が終わった直後の反応は、様々だった

 元より、他の陣営を倒して聖杯を勝ち取るというのは周知の事実。だから、敗北者のサーヴァントの魂でもって聖杯が願いを叶える、というのは特に問題はなかった。いや、ライダーに関しては大いに残念がっていたが。

 問題は、それであっても、かなえられる願いは1つだけ、と言う部分。正しくは、それだけの魔力でもってしても、大きな願いは一つくらいしか叶えられない、ということだ。根源に至る、その為の穴をあけるためには、サーヴァント7体全員の魂が必要とされている。セイバーのような事象の改変ならば最低でも6体、受肉ならば、もう少し少ない魂で何とかなるだろう、と。

 その説明を聞き、アーチャーは顔を顰めた。退屈ではあったが、裏切るつもりもないくらいには信用していた時臣が、最終的には自身を自害させようとしていたことを察知したのだ。礼節でもって接してきていた為に協力していたが、騙していたとなると話は別だ。今後の身の振り方を、アーチャーは考え始める。

 セイバーは思案する。もし聖杯でもって願いを叶えるならば、マスターである切嗣とすら、最終的には敵対する可能性が出てきた。彼自身の事は未だに真意が見えないが、だとしても、彼の願いに対する妙な執着心は少しだけ見ている。こちら側もまた、身の振り方を考えなければいけなくなった。

「そうか……受肉する為には何体か他の者を敗北させなくてはいけないと……そうかぁ……」

「ライダー、げんきだせ、な?」

 他陣営を自身の配下にしようとしていたライダーからしてみれば、それは非常に残念な情報だった。聖杯に願いをかける予定が無いシオが、そんな彼を慰めている。

「これが、私の知ってる聖杯戦争の仕組みよ」

 そう言って、アイリは話を締めくくった。雁夜の脳裏に、ある儀式が思い浮かんだ。

――まるで蟲毒だ、と

 蟲毒。

 容器の中に蛇、ムカデ、カエル、ゲジなどの百虫を入れ、共食いをさせ、最後に生き残った生物が神霊となり、その毒でもって様々な益を自身に齎すための呪法。毒は使い方によって損も益も生むが、人が摂取すれば一定期間ののちに大抵が死ぬという。

 互いに殺し合い、その魔力(にく)でもって願いを叶える。その聖杯に溜まったものは果たして、毒なのか、薬なのか。

 一方、ケイネスはその情報から、ある仮説を考えていた。聖杯に問題があるのではなく、中身に問題がある可能性を。

 聖杯は無色の願望器だという。一見聞こえはいいが、それは逆を言えば、何ものにも染まってしまうという危険性を孕んでいるということ。もし、前回の聖杯戦争において、何か特殊なサーヴァントが呼ばれ、それのせいで聖杯に何かしらの問題が起きていたとしたら。

 確証できるものが何もないとはいえ、仮定ばかりなのは些か気分が悪い。この調子だと、今夜もまた間桐家で資料を漁ることになるだろう。ケイネスは目元を抑えた。前回の聖杯戦争、それもサーヴァントにまで絞れたのは重畳だが、ここから先が難関だ。真名が把握されているサーヴァントがいるかも分からない。

 と、ウェイバーが口を開いた。

「なぁ、小聖杯はあんたが持ってるらしいけど、それはどこにあるんだ?そっちの聖杯に異常がないってことが分かるんだから、身近にあるんだろうけど、セイバーは気付いてなかったみたいだし」

「それは……教えられないわ」

 聖杯が奪われてしまう可能性を考慮し、それは告げられないと首を横に振る。ウェイバーもそれもそうか、とあっさり引き下がった。

 と、アーチャーが立ち上がった。その表情は硬い。

「おう、どうした英雄王。そんな険しい表情で、しわが出来るぞ?」

「たわけ、我にそんなものできるわけがないだろう。私用ができた、ここでの収穫も終わったからな、もうここにいる理由もなかろう」

 そう言うとさっさと立ち去っていくアーチャー。今の話の中で、何か気になることがあったのだろうか、と雁夜は首を傾げた。

 次いでケイネスも立ち上がる。丁寧に服に着いた埃を払うと、口を開いた。

「では、我々もこれで帰るか。調べなければいけないこともできたからな」

 行くぞ。そう言ってケイネスは踵を返す。

「やれやれ、ほんと、あ奴らは自由だな」

「それお前が言えた義理じゃないと思う」

「なぜだ?」

 自覚なかったのかよ!そう叫ぶウェイバーを他所に、雁夜とシオも立ち上がる。

「俺たちも、そろそろ帰らなきゃ。……えっと、今日は突然来てしまってすいません」

「いえ、いいのよ。その、セイバーにもいい刺激になったみたいだし」

 それに、彼らの願いや、新たな情報を得ることもできた。今は戦争中ではあるが、こういう息抜きともいえる時間は必要だったのだと、アイリは思う。

「でも、次に会う時はまた敵同士……覚悟して頂戴ね」

「俺としては戦う気はないんだけど……ていうか、衛宮さんから何か聞いてませんか?」

「え?」

「うん?」

「何も、聞いてないけれど……」

 何かあったの?と問いかけてくるアイリに、雁夜はため息を吐く。どうやらあの場での約束は破られていたらしい。実際には、彼がセイバーのマスターだった為、あの場で目的は果たされていたが、それを雁夜は知らない。

 一度交渉に行った旨を伝えたが、やはり知らなかったらしい。驚いたと言わんばかりに目を見開いている。

「そう、そんなことが……ごめんなさいね、私は何も聞いていないわ」

「その可能性は考えてましたから、大丈夫です」

 では。そう言って、雁夜とシオもまた城をあとにする。最後に残ったライダーとウェイバーもまた立ち上がった。

「うむ、実に良い酒飲みだったわ。新たな知見を得ることもできたしのう。ではな、騎士王。お前さんの王道の先がどうなるのか、楽しみにしておるぞ」

「お前最後まで王道だのなんだのって……あ、えっと、じゃーな!」

 ライダーとウェイバーが去り、残ったのは静寂と、セイバーとアイリ。

 予期せず様々なことに触れ、知ることとなった2人は何を思うのだろうか。

「私たちも、休みましょうか」

「――はい」

 そう言って城の中に戻る2人を、月が照らしていた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

――これは夢だ、と雁夜はすぐに気づいた

 何度も、そんな風に夢を見ていた――のかもしれない。兎に角、雁夜は夢を見ていた。

 そこは、廃墟だった。元は寺だったのだろう、それらしき木造建築がある。雪が降りしきる中、建物の向こう側は崖になっており、その先には海が広がっている。人工島だろうか、ドームに覆われた何かが、海の向こう側に、月と共に見えた。

 そんな寂しい景色の中、不釣り合いなものが目に付いた。鳥と、人間を組み合わせて、鉄で加工したようなモノ。それが地面に横たわっている。恐らくは、死んでいるのだろう。近づいて様子を見てみると、大きな切り傷や、破砕痕、銃創がある。人に狩られたのだろうか……こんな、見るに頑丈そうな生き物が?にわかには信じがたい。

 と、そこにある人物がやってきた。ぼろ布を着た、死んだような白い肌の少女。それは、雁夜が見慣れた人物だった。

「バーサーカー……」

 そう、あの無邪気な少女だ。だが、今の彼女にはその気配が感じられない。うつろな目で、あの鳥人間に近づいていくと――なんと、それを食べ始めた。一心不乱に食べる彼女は獣のようで、雁夜は彼女が人間ではないことを再度痛感する。

 シオが獲物を咀嚼していると、ある一団が、物陰から現れた。大ぶりな銃や剣を携えた、10代や20代と思しき男女5人と、研究職らしきメガネの男性。

 シオを警戒しているのか、武器を持った男女が彼女に身構える。だが、そんなこと知ったことではないといった様子で、シオはつぶやいた。

「オナカ、スイタ……よ?」

「ひぃっ!」

 この場に合わない言葉に、少年が情けない声を上げて武器を再度構える。だが、それを男性が静止した。

 ごめんよ。そういって男性が話すには、シオに用があり、彼女を誘き出すためにこの辺り一帯のアラガミを殲滅したのだという。食べるものがなくなれば、彼女も選り好みはしていられなくなるから、と。

「ずっとお預けにしていてすまなかった。キミも、一緒に来てくれるね?」

 そういって男性が差し出した手を、シオは不思議そうに見つめていた。

 

 

 

 これは、シオの記憶なのだろうと、雁夜は思う。魔力パスでつながった主従は、時たまこうして、互いの過去を夢に見るらしい。今更ながら、自分も夢を見ることになったのだろう。

 シオが秘密裏に連れてこられたのは、研究室らしき一室だった。窓のないそこには、まだ一般には普及していないパソコンを、さらに複雑化させたようなものと、ソファにテーブルがある。

「えぇーーーー!」

 その室内に、先ほど武器を持っていた5人の声が響く。

「あの、今、なんて……」

「ふむ、何度でも言おう。これはアラガミだよ」

 そんな彼らの中心にいるのはシオ。よくわかっていないのか、座ったままの状態できょろきょろと辺りを見回している。

 慌てふためく彼ら――右手首に大きな腕輪をしているから、“腕輪”と呼ぼう――を他所に、研究職のような男性――以下、“博士”――は落ち着きなよ、と言って説明を始める。

 アラガミにある特性――偏食。独自にある捕食傾向。いわば好き嫌いとも言い換えられるそれ。

 その偏食が、シオはより高次のアラガミに向けられているという。ようするに、人間はすでに獲物の範疇にはなく、だからこそ危険性は低いと、博士は論じた。そして、急激に変化――進化するアラガミの中で、シオは人間と同じように「とりあえずの進化の袋小路」に入り込んだものだと。

 この話は、他の誰にも言わないでほしい。そう言って、博士は話を締めくくり、こう告げた。

「彼女とも仲良くしてやってくれ。

――ソーマ、君も……よろしく頼むよ」

「ふざけるな!」

 そう叫んだのは、銀髪の腕輪の青年――恐らくは、彼がソーマなのだろう。彼は、シオから目を逸らすように顔を背けると、言い聞かせるように呟いた。

「人間の真似事をしていようと、バケモノはバケモノだ……」

 そう言って、部屋を出ていくソーマを、だれも止められない。茶髪の、エメラルドグリーンの制服を着た“腕輪”の青年が、悲しそうに彼の背中を見送る。

 シオもまた、ソーマの背中を見つめていた。

 

 

 

 

 同じ部屋だが、恐らくは数日がたったところなのだろう。

 シオが1人、何かを頬張っている。バスケットに入っているのは見たことのない球体で、それを嬉しそうに咀嚼しているのを見るに、これが彼女の好物の“より高次のアラガミ”の一部と思われた。

 どうやら“博士”もいないらしいその部屋に、ふと1人の訪問者が現れた。

「榊、例の資料……って、いないのかあの野郎」

 入室してきたのは、あの青年――ソーマ。目的の人物である榊――恐らくは“博士”だろう――がいないことに舌打ちをすると、もくもくと食事をしているシオを見た。バスケットに顔を突っ込んで中身を貪るその様子を見かねたのか、ソーマが首根っこを掴んでバスケットと離す。

「あう」

「人間のカタチをしておいて、きちんと手で掴んで食うこともできないのか……」

 ほら、こうやって食え。

 書類をそばのテーブルに置いて、ソーマがシオの手にアラガミの一部――コアなのだが、それは置いておく――を乗せて口に運ぶ。キョトンとしていたシオだが、少しして口を開き、食べ始めた。

 もしゃもしゃと食べる彼女に、ソーマは繰り返し手掴みでの食事を教え込む。学習能力は榊が言ったように高いらしく、二度三度繰り返せば、もう1人でも手づかみで食べるようになった。

 頬をいっぱいにして食べ続けるその様子は、どこか小動物を思い起こさせて――

「……シオ」

「ん?」

「子犬みたいだからな、シオ、だ」

 シオ――chiot。フランス語で、子犬。未だに名前の無かった少女に、ソーマは何の気まぐれか、そう名付けることにした。

「ん?ん?」

 まだ名前の概念も分からない彼女は、どういうことなのだと首を傾げている。

「シオ。お前の名前だ」

 シオを指さし、ソーマはそういう。刷り込むように、単語を覚えさせるように。名前は、シオ、と。

 あの時、嫌悪感を示していた彼は何だったのだろうか。それとも、これが素なのか。雁夜には分からない。

 分からないが――恐らくは、これが彼女の、シオにとって、何よりも大切な記憶の1つなのだとは、理解できた。

 

 

 

――数日後、ソーマのいない中で起きた命名会議で、彼女がその名前を言ったことから、彼が名付けたことは知られることになる

 

 

 

 




次回はまるまる1回を使ってのシオの回想です

名づけのエピソードはこんな感じだったらいいなと言う妄想を元にできています

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