Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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勢いそのままにシューゥ!
シオがかなりぐりぐり無自覚にセイバーえぐっています、ご注意を

調整とは一体何だったのか


第33章—もんどう・2—

――べつに、いいんじゃないのか

 そう言ったシオの瞳に、何故かセイバーは寒気を覚えた。何か、得体のしれないものと対峙しているかのような錯覚を覚える。先ほどまでは、ただ見た目不相応な少女にしか思えなかったというのに。

 彼女の言葉に食いついたのは、アーチャーだった。

「べつに良い、と?我達の願いは」

「うん。だって、けっきょくまちがってるかあってるか、なんてだれにもわかんないからな」

 勝てば官軍負ければ賊軍、とは、昔の人は良く言ったものだ。正義の在り方も、人の望みのカタチも、結局は時代によって変わり、人によって変わる。

 ある人にとっては、たった1人の少女を守ることであり。

 ある人にとっては、多くを犠牲に、少数と世界を救う事であり。

 それのどちらが正しいかなど、シオは決められない。あの時、皆を食べるのがいやで、シオは月に飛び立った。その時でさえ、泣いている人がいたというのに。完全に正しい、平和な結末なんて、生み出せないという現実を、シオは知っている。

「ライダーは、じゅにくだったか?それをして、なにをするんだ?」

「無論、世界征服を」

「つまり、たたかいだ。たたかうってことは、だれかがしぬってことだ。だれかがしぬなら、だれかが、ライダーをうらむってことだ」

 どこかで結局、悲しみは生まれる。

「アーチャーはたしか、セイハイをとりもどすこと、だっけ」

「あれは元々我のものだからな」

「うん。でも、せかいのタカラはおれのものー!っていっても、なっとくしないやつはいる。そういうやつは、アーチャーとたたかって、どっちかがしぬか、ひどいけがをする」

 そして、負の感情が広がっていく。

「セイバーは、ふるさとをたすけたいんだよな?」

「ええ。たとえなんと言われようと、その望みは捨てられません」

「でも、じゃあいまいきてるセイバーのふるさとのひとは、どうなるんだ?」

「――」

 言葉が詰まる。セイバーはまだ、生きている。いま(かこ)を生きているサーヴァントだ。だからこそ――彼女にとっての現在はあのカムランの丘であり、この時代は彼女にとってあくまでも、不確定な未来であり単なる望みの為の舞台であった。

 だが、それはセイバーの観点だ。先ほど憤ったケイネスやウェイバーに雁夜、そしてアイリや切嗣、舞弥は今を生きている。ブリテンが滅んだという事実の延長線上に、彼らは立っている。厳密に言えば、さらに先に、シオはいる。

「シオはな、ねがいとか、のぞみとかは、いろんなカタチがあるってしってる。どんなカタチも、みんなそれぞれだからいいとおもう」

 でもな、と彼女は続ける。

 なんだ、彼女は。少女の皮を被った何かが、空恐ろしい。あれを今の今まで、幼気な少女として見ていたのか。

「でも、それでも、ダメなものもあるんだ。えらくないことも、ある。でも、えらくないとしても、やろうとおもうときもあるんだ」

 どれだけの犠牲を払ってでも、成し遂げたい願いがある。そんなものを持つ人間を、シオは知っている。

「――なぁ、セイバー。セイバーは、このじだいにいる、ふるさとみんなのイノチをふみつぶして、セイバーのふるさとのひとたちをすくうカクゴ、あるのか?」

「……ぁっ、わた、わたし、は」

 過去に、セイバーの“今”にいたまま、ブリテンの救済を成し遂げられたのなら、そんなことは気にしなかっただろう。たとえ彼女の判断のせいで、この時代の人理が崩壊したところで、それはセイバーの与り知らぬことだ。

 だが、彼女は知ってしまった。文明の発展を。幸せそうに笑う無辜の民を。アイリスフィールのあたたかな手、イリヤスフィールの無邪気な笑み。そして――自身とは関わろうとはしないが、静かに家族を気遣う、切嗣の優しさを。

 自分の願い1つで、それらすべてが崩れてしまう。シオはあくまでもブリテンの後身、イギリスの人と限定したが、長い月日の中で、異国と関わらないで進む歴史などあり得ない。自分がする願いで、下手をすれば、今生きているこの時代のすべての生命を踏みにじらなくてはいけなくなるのだ。

 重い事実が、背中にのしかかる。今にも倒れて、動けなくなりそうだ。雁夜が、シオを責める声が、遠くで聞こえる。

「おいバーサーカー!何責めてるんだ、こいつの望みは間違ってないって、お前も言ってただろう!」

「シオ、せめてないぞ?」

「――何、言って」

「シオ、きいただけだ。ねがいごと、かなえるカクゴあるかって」

 だって、ぜんぶほんとのことだぞ。

 自分が怒られている理由がわからない、と言いたげに、シオは首を傾げる。まるで、子どものように。おもちゃ、どこにあるの?と聞いただけ、と言うように。

 雁夜は改めて、目の前の彼女とは種族が違うのだと実感する。いや、これは寧ろ価値観か。ウェイバーが化け物を見るような目で後ずさる。アイリも同様だ。他の面々も動揺や困惑を浮かべる中、アーチャーだけは、愉快だと言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 と、悩み続けるセイバーに、シオが声をかける。

「んと、えっと。なやませたなら、ごめん?んー、でもシオ、えらくないことしてないし……えっと、とにかくな?シオは、セイバーのおねがいはまちがってないとおもう。えらい、えらくないはわかんないけど。

 だから、じぶんでもっかいかんがえて、ねがいのかなえかた、きめたらいいとおもう」

 この時代のすべてを見殺しにして、故郷を救うのか。

 それとも、この時代を見殺しにせず、望みを捨てるのか。

 はたまた、そのどれでもない、どちらもとれる道を模索するのか。

 シオが言えるのは、そこまで。それ以上の、彼女の内面に踏み込むことはできない。できるのはきっと、彼女を真の意味で理解し、尚且つ寄り添うことが出来る存在だけ。

 自分がこれ以上フォローしてもいけないと考えたのか、シオはセイバーから少し距離を置いて座り直す。すかさずアイリがセイバーに近づき、隣に座った。セイバーを肩に寄りかからせ、その肩を撫でている。結論が出るのには、時間がかかるだろう。

 どこか気まずい空気が流れる中、それを破ったのは、今度はアーチャーだった。

「さて、では最後に貴様の願いも聞かせてもらおうか」

「シオのか?」

「あそこまで我を弄り倒したのだ、貴様の願いも聞かねば対価にはならんだろう?」

 その言葉に、シオが窮する。あー、うー、と口ごもり、しかし視線に耐えられなかったのだろう、おずおずと話し始めた。

「シオ、な。にんげんになりたいんだ」

「――人間、に?」

 その言葉に、セイバーが反応する。ここにいる中で、彼女が人外の存在だと、明確に知らないのはセイバー陣営のみだ。他の者たちはどういう経緯、理由であれ、彼女が人外であると知っている。

 セイバーの言葉に、シオはうん、と気恥ずかしそうに頷く。

「シオな、まだ、みらいのつきでいきてるんだ」

「未来の……?」

「うん。みらいには、アラガミっていうのがいて、シオはそれなんだ。……で、シオには、シオってなまえをくれて、いろんなことをおしえてくれたナカマがいる」

 数年たった今でも、ありありと思い出せる、あの日々。ほんのわずかな、しかしとても充実した時間。あの一瞬の為に、シオは孤独であることを選んだ。

 だが、そんな彼女にも心がある。寂しいと思う、心が。会いたいと思う、欲求が。

「そいつらに、シオはあいたいし、ずっと、しぬまでいっしょにいたい。でも、それはアラガミのシオのまんまだと、かなえられないんだ」

 聖域は日々、地球上に広がっていってる。その中では、アラガミを構成するオラクル細胞は生きられない。つまり、シオは彼らに会いに行くことが出来なくなる。

 だからこそ、聖域が現れたころから、シオの脳裏には1つの望みがあった。

――人間に、なりたい

 アラガミの強靭な肉体、五感を捨てるなんて、と誰かは言うだろう。だが、そんなものよりも、シオは仲間との時間がほしかった。

「だから、シオのねがいはにんげんになることだ」

 ライダーのそれに似た、しかし違う願い。だがあまりにも些細なそれに、それぞれが拍子抜けしたような表情を浮かべたところで、彼女はでもな、と言葉をつづけた。

「でも、シオはそれを、かなえたくないんだ」

「な――何故ですか。今のままでは、仲間には会えないんでしょう!?」

「だからだ」

 セイバーの問いに、シオは穏やかな表情で答えた。その瞳は、キラキラと星を抱え込んでいる。

「シオがアラガミだったから、みんなとあえたんだ。なのに、みんなといたいからって、アラガミをぽいってすてて、にんげんになるのは、したくないんだ」

 特異点だったからこそ、シオはアナグラの面々に――何よりも大切な、あの青年に出会えたのだ。いい子にしていろと、頭を撫でられたのも、また会おうと約束ができたのも、自分がアラガミで、特異点だったから。

 なのに、皆と一緒にいたいからと、それらを捨てるのは、とてもできなかった。

 シオが人間だったら、あそこまで彼らと関わることはできなかった。あの青年と――ソーマと、寄り添うことはできなかった。あの特別な歌を、教わることもなかっただろう。

「こうかいも、みれんも、いっぱい、いっぱいある。だから――かなえないんだ」

 その苦しみも悲しみも、それらすべてが、あの日々の大切な思い出の残滓なのだから。

 雁夜は、シオの泣きそうな笑みに、顔を顰める。目の前にその術があるのに、叶えないのは――それは、どれ程の覚悟でもってなら、できるのだろうか。シオではない雁夜には、それが分からない。

――シオはただ、それよりも優先するべき事項として、間桐の幸せを掲げているだけなのだが

 セイバーは、そんな彼女を悲しいやら、苦しいやらが混じったような表情で見つめ、搾るように呟いた。

「……いつか。

 いつか、そんな風に、思える時が、来るのでしょうか」

「それは、シオにはわかんないぞ。……でも、もしかしたら、くるかもな」

 くるといいな。そう笑うシオに、セイバーは眩しそうに目を細めた。

「私は、まだ、望みを捨てることはできない。……ですが、ここでライダーや、アーチャー、そしてあなたに会えたこと、語らえたことは、得難い経験だと、思います」

 この聖杯戦争に呼ばれて、良かった――今、他の王道を、他の願いの在り方を知れて、良かったと。まだ暗い瞳で、セイバーは零した。

 そんな彼女に、ライダーもうむうむと首肯する。

「余も此度の聖杯戦争に呼ばれて良かったわい。まさか、死して尚説教を受けることになるとは思わなんだ!」

 はっはっは!と上機嫌で笑うライダーは、ふと立ち上がると全員から距離を置く。

「よぉし!ついでと言ってはなんだが、余の王道を果てに、手に入れたものを見せようぞ!」

 これも対価だ!と言って、戦装束に戻ったライダーが両の手を広げる。その背から風が吹く。今の時期、気候に会わない、熱気を孕んだ空っ風が。

「バーサーカー!アーチャー!そしてセイバーよ!目に焼き付けよ、これが余の王道、余の誇る覇道――」

 世界が塗り替えられる。それは、最も魔法に近いとされる魔術――固有結界

「《王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)》なり!」

 そこに広がるは砂漠と青空と――絆の証。




最後の宝具展開は色々とあれだったかなとは思った、後悔はしていません

あとシオの描写……あれ、ここまでぐりぐりやる予定はなかったぞ?願いはそれぞれ、でも自分がセイバーの仲間だったら悲しいぞくらいで結論が出たはずなのに、どうしてこうなった

上げ下げ激しいな!やり過ぎじゃね!って思った方は遠慮なくご指摘ください
ちなみに問答はもうちょっとだけ続きます、のんびりお待ちを

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