Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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5000文字近くなりました……
まだ続くんじゃよ


第32章―もんどう・1―

 この世のすべては我のもの、と言い切ったアーチャーに、全員が様々な困惑の表情を浮かべる。彼の持つ力の性質は理解できたが、それにしたって高慢、そして強欲だ。

 と、ライダーがその言葉に対し、最もな質問を投げかける。

「では貴様、昔聖杯を所有していた事があると?どんなものか正体も知っていると?」

 聖杯の実態は、御三家の人間以外誰も知らない。ウェイバーが言っていたように、これは「見たこともないものをとりあう戦い」とも言えた。

 だからこそ、その形をアーチャーは知っているのかとライダーは問いかけたのだが。

「知らぬ」

「は?」

 返ってきたのは大半の予想に反して否。話を聞いていた面々も呆けており、皆一様に、ライダーと同じような心境なのだろう。アーチャーはそんな中でも言葉を重ねていく。

「雑種の尺度で測るでない。我の財の総量は、とうに我の認識を超えている。だが、宝である時点で我の財であるのは明白だ。それを勝手に持ち出そうなどと、盗人猛々しいにも程がある」

 この世の宝は我のもの。だから景品に出ている聖杯も、最初から自分の物であり、他の面々がそれを巡って争うのは盗人まがいの行いだと、彼は言いたいのだ。うむ、いっそ素晴らしいくらいのジャイアニズムである。素直にシオは感心してしまう。

 だが、セイバーはその言動に不快感を覚えたらしく、顔を顰めてその言葉を切り捨てる。

「お前の言は、キャスターの世迷い言と全く変わらないな。錯乱したサーヴァントは奴だけではなかったらしい」

 その言葉にアーチャーもまたセイバーに鋭い目を向ける。一気に不穏な空気が漂ってきたが――それを見逃すライダーとシオではない。

「いやいや、どうだかな。何となくだが、この金ぴかの真名に心当たりがあるぞ、余は」

「ほらセイバー、どうどう、だ」

 ライダーが間に入り、シオがセイバーを宥める。ライダーの言葉にアーチャーの注意が向いたらしく、視線がずれたことで一旦は事なきを得た。

「ほう?」

「余よりもでかい態度の王など、この世に1人しかおらんわ。……では、あれか?お主の承諾さえ得られれば、聖杯を得ることも可能だと」

「左様。だが貴様ら如き雑種に、我が褒賞を賜わす理由はどこにもない」

「貴様、もしやケチか?」

 暗に参加者の誰にやる気もない、と言い切るアーチャーにライダーがぽつりともらす。が、アーチャーはそれも戯け、と一蹴する。

「我の温情に与るべきは、我の臣下と民だけだ。故に、お前が我の元に下ると云うならば、杯の一つや二つ、何時でも下賜してやって良いぞ?」

 自らの民、臣下に下るのならば、いくらでも褒賞を与える。彼もやはり、自身の民にはある程度は寛容になるのだろう。

 だが、そこはライダーも一国の王だった存在。蹂躙し、他国を吸収していく側の存在だ。おいそれとそんな誘いには乗れない。そりゃできん相談だわなぁと笑うライダーに、これあの倉庫街でお前がやったこととほぼ同じだぞと、内心で思った。あきれ顔のケイネスも、きっと同じ心持ちだろう。

「でもな、アーチャー。貴様、別段聖杯が惜しいって訳でも無いんだろう」

 しかし、そこで追及を止めるライダーではなく。さらなる問いかけに、アーチャーも言葉を返す。

「無論だ。だが我の財を狙う賊には、然るべき裁きを下さねばならん。要は筋道の問題と云う奴だ」

「つまり何なんだアーチャー、其処にはどんな義があり、どんな道理があると?」

「――法だ」

 至極当然の事実だと、当たり前のことだと言わんばかりに、アーチャーは言い切った。

「我が王として敷いた、我の法だ。貴様が犯し、我が裁く。問答の余地など何処にもない」

 善か悪かではなく、法に反するか、反しないか。それだけを持って、アーチャーは相手を裁定する。そのカタチは、誰でも持っているもので、しかしこれほど堂々と言い切る人間は初めてで。シオはアーチャーが王たる所以を、本能的に感じ取った。

「うむ。となると、後は剣を交えるのみ」

 アーチャーの言に乗る形で、ライダーが宣戦布告する。アーチャーの宝である聖杯を奪う、と。アーチャーもまた、それがライダーの在り方だと知っているからか、否定することは無かった。

 ふたりともなかよくなった、のかな。とシオが見守りながらライダーにもらったジュースを啜っていると、森の中から聞き覚えのある足音が聞こえてきた。ぱ、と立ち上がって走り出す。

「あ、おいバーサーカー!どこ行くんだー!」

「マスターがきたから、むかえにいってくるー!」

 ウェイバーの声にそう返し、シオは森の中へと走っていった。ほんっと、自由に動き回るサーヴァントである。

 突然の行動に3人も数瞬固まったが、セイバーが1つ咳払いをし、その空気を打ち破った。

「征服王よ。お前は聖杯の所有権が他人にあるものと認めたうえで、尚且つそれを力で奪うのか?――そうまでして聖杯に何を願う」

 セイバーの問いかけに、ライダーは少し気恥ずかしそうな表情を見せ、数秒口ごもったのちに答えた。

「――受肉だ」

「はぁ?」

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 昨日の今日で、またここに来るとは思わなかったな。そう思いながら、雁夜は森の中を進んでいく。昨日はあったはずの結界がないのはどういうことだと思ったが、どうせライダーかシオ辺りが壊したのだろう。

 昨日と同じように、城に向かって走り出す。戦闘音は聞こえてこないから、穏便に飲み会は始まっているのだろうけれど、実際に見てみないと安心できない。

 と、城の方向から自身のサーヴァントが走ってきた。

「バーサーカー」

「マスター、やっとこられたんだな」

 そう言って笑うシオの腕には、瓶が抱えられている。誰かに飲料を貰ったらしい。ラベルを見て普通の飲料だと確認、これで酒だったら没収するところであった。

 シオに案内されながら、雁夜は現状について話を伺う。

「いま、向こうで何してるんだ?」

「えっと、せいはいをだれがもらうのか、カク?をきそうんだってー!」

 憂さ晴らしの飲み会じゃなかったのか。いや、会場がこの場である時点でその趣旨からは確かに外れていたが。向こうも、サーヴァントの行いには振り回されてばかりだ。

「でな、いまはライダーと、セイバーと、アーチャーがいる!」

「待てアイツもいるのか」

「そだぞ」

 本当に来たらしい。そういう部分はノリがいいのか。考えてみると、時臣のサーヴァントだと意識していたが、彼の人となりは全く知らない。敵を知る意味はあまりないが、これはいい機会だ。他の陣営の望みも分かるだろう。

 道中で、さらに話を聞くと、アーチャーの望み――というか、目的が分かった。いろいろな意味で規格外のサーヴァントだと、雁夜は思った。時臣みたいに型に嵌ったような人間とは、確かに嚙み合わないだろうとも。もう少し奔放に駆けまわるマスターの方が、相性が良かったのではなかろうか。それでも契約は切らない辺り、それなりの信用関係は築けていそうだが。

 シオに案内された先は、自分が入った城の内部を抜けた先の庭園。酒器がいくつか置いてあり、マスター陣もサーヴァント陣もいるのを鑑みる辺り、ここが酒宴の会場何だろうが――

「なぁ、バーサーカー。なんでこんなに重い空気が漂っているんだ」

「シオしらない、さっきまでこんなんじゃなかったぞ……」

 セイバーが肩を落とし、アーチャーは哄笑を浮かべ、アイリとウェイバーは困惑の表情を。先ほどまで嬉々として話を仕切っていたライダーはセイバーを睨み、頭を抱えていたケイネスもまた、怒りの目をセイバーに向けている。一体、シオが抜けた数分の間に、何があったのか。

 この中で唯一話がまともに聞けそうなウェイバーに、シオと雁夜が近づく。

「なぁウェイバー、何があったんだ?」

「あ、カリヤさん、か。いや僕にもよくわかんないんだ。ライダーとセイバーが、自分の望みを言っていったんだけど……ライダーは受肉で、セイバーは故国ブリテンの救済だって」

 でも、セイバーの望みを聞いてから、アーチャー笑いっぱなしだし、ライダーはセイバーを罵倒するし、ケイネス先生もなんでか怒り始めるし。

 本当に分からない、と言いたげにそう説明するウェイバー。が、雁夜とシオは違った。そこは生きた年数、積んだ経験の違いだろうか。

「ああ……うん」

「うーん、なんとなく、わかっちゃったぞ」

 それは怒っても仕方ないな。笑うのは知らん。

 そだな、うん。

 訳知り顔で頷く雁夜とシオに、納得がいかないと力なくセイバーが口を開く。

「貴方たちも、私の望みは間違っていると言いたいのですか」

「いや……間違ってはいないと、思う」

「うんうん」

「……は?」

 予想していた答えとは違う返答に、セイバーが顔を上げる。ちょっとここいいか、と言って、雁夜とシオはその輪に入った。

「なんて言えばいいんだろうな……。そういえば、セイバーの望みを、なんでライダーたちは受け付けなかったんだ?」

「……こやつの望みは、自らの治世を悔やみ、それらすべてを否定するという事。民が尽くすのが王だというのに、民の為に自らを捧げるのを良しとし、偶像に縛られただけの、哀れな小娘のな」

 突然の問いかけに、ライダーが答える。雁夜はふうん、と相槌をうち、だけどさ、と口を開く。

「最低最悪のどん底に落ちた時さ、誰だって思わないか?【あの時、ああしていれば】って」

 確かに、自分がしてきたことを悔やみ、それを帳消しにするというのは、人を率いる立場の人間がしていいことではないのだろう。責任問題、ともいえる。

 だがそれ以前に、誰だって一度は、それこそ一瞬でもその思いが過ることがある。

――あの時、ああしていれば、と

「もしかしたら、あんた達みたいな英雄(ライダーやアーチャー)は後悔したことがないかもしれないけど、世の中そんな奴ばっかじゃない。英雄全員が、後悔をしなかったわけじゃない。していないなら、聖杯戦争で聖杯に願いなんてかけるやつは、もっと少ないだろう」

 淡々と、雁夜は語る。

「ライダーが怒ってるのは、それが自分の思う王道とは違うからだろう?違うのは当たり前だ。だってセイバーはライダーじゃないんだ」

 王道。そう一言にしてみたところで、その道は人それぞれ、千差万別だ。どんなあり方も、カタチは様々だと、雁夜はもう知っている。

 セイバーとライダーは違う。当たり前の事実だが、ライダーが言葉を呑むには、十分なものだった。

 次いで、雁夜はケイネスに訊ねる。あなたは何故、怒っているのだと。セイバーはまた責められるのだと身構えるが、それは違った。

「――セイバーの望みの是非は知らん。過去を変えたくなる位には愚かで欲深だったというだけだ。だがな、過去を変えるというやり方だけは認められん!それは人理定礎をゆがませ、今この時代を破壊しかねない望みだ」

 やり方がいけないのだと、ケイネスは言う。彼はどこまでも、魔術師だった。他の魔術師よりも良い点は、それでセイバーの望みを全否定するわけではなかった部分だろうか。

 思わぬ場所からの援護に、セイバーも呆けた表情を浮かべる。と、今度はウェイバーが呟いた。

「僕も、セイバーの願いは、間違ってないと思う」

「ライダーのマスター……」

「だって結局は、もう死んだ存在のサーヴァントが自分の望みの為に戦ってるのは変わりないだろ。そういう意味じゃ、ライダーや、あ、アーチャーだって死んだくせに願いやら望みを持ってて、我儘だし、欲深じゃんか!」

「ほう?」

「ひぃぃぃぃぃっ!」

 アーチャーに睨まれ、思わずライダーの背中に隠れるウェイバー。だが、「は、発言は撤回しないぞ!」とだけは主張することを忘れなかった。

 アイリも、よくわからないけれど、と前置きをしてから話し出す。

「セイバーみたいな、優しい王様がいてもいいと、私は思うわ」

「アイリスフィール……」

 短い肯定。しかし、それが、今のセイバーにはとても強いものに聞こえた。

 空気の変わった流れの中で、ライダーは気まずそうに頭を掻き、アーチャーはその中でも楽し気にその光景を眺めている。その目が行く先は――シオ

 雁夜の言葉を肯定する形で頷いた以外は、何も発していない彼女に視線が集まると、シオはぽつぽつと話し始めた。

「セイバーのねがいも、ライダーのねがいも、アーチャーののぞみも。それぞれのおうどうも、べつに、いいんじゃないか?」

――夜はまだ、明けない




ちょっと、セイバーを上げ直し過ぎた気もしてきます
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次回はシオのターン……になるはず

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