Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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第31章―おさけとあい―

 結局、押し切られる形で庭園を貸し与えることになったアイリ。ウェイバーがひたすらに彼女に頭を下げ、ケイネスは胃が痛いのか蹲っている。

 一方ライダーは楽し気に酒樽を庭園の中心に据え置くと、未だ真意が見えないと言いたげなセイバーに向けて話し始めた。

「此度の聖杯戦争に集うは一騎当千、各々の時代の猛者たちだ。これだけの者が一同に会する機会などそうできることでもあるまい」

 そう話すライダーの表情は輝いている。少年のような顔を見せながら、しかしその威風は損なわれず、むしろ無性に惹きつける何かが、彼にはあった。

「まああれだ。我らがこうして顔を突き合わせることが出来ているのも、聖杯の力によるものが大きく、そして我らが存在する理由も聖杯の為であるという事にも異論はないと思う。

 ……そして、この聖杯戦争が誰が聖杯を得るに相応しいかを決める儀であるということも。

 この聖杯戦争に何かしらの異常があるのだとしても、切っ掛けであるそれは変わらん。だろう?」

 異論などあるわけがない。聖杯があったから、サーヴァントもマスターもこの地に集い、聖杯を得るために戦うのが、この戦争。

――シオもまた、呼ばれ方は特殊とはいえ願いはあるのだから

「だがな、別に見極めるだけならば、わざわざ血を流す必要もない。英霊同士お互いその【格】に納得いけば、それで自ずと答えは出る」

「それで、まずは私と【格】を競おうというわけか?征服王」

「然り。お互いに【王】を名乗って譲らぬとあっては捨て置けまい?

 云わばこれは【聖杯戦争】ならぬ【聖杯問答】。どちらがより聖杯の王に相応しき器か、酒杯に問えば詳らかになると云うものよ」

 そう言って、樽の蓋を叩き割ったライダーは、柄杓でもって中身を掬い、それを一飲みする。次いでまたそれを掬うと、セイバーに突き出した。

「呑むがいい。これを呑むことは即ち、この格付けに参加する権利である」

「面白い、受けてたとう」

 好戦的な態度で、セイバーはライダーから柄杓を受け取り、これまた一気に飲み干した。その飲みっぷりに、ライダーがほう、と感嘆の溜息をもらす。

「ではバーサーカー。お主も一杯、ほれこっちだ」

 そう言って荷台からワインではない、別の飲み物を1つ取り出し、蓋を開けてこれまた別の柄杓に注いでシオに差し出す。だが、シオは首を傾げた。

「んと、シオは、カクってのよくわからないから、それにはさんかしないぞ?」

「む」

「あ、でものんでイタダキマスしてはなしてわーいするなら、シオもさんかするー!」

 話してわーいってなんだ、わーいって。シオの発言にウェイバーが内心でツッコミを入れる。

 シオの答えにそうだなぁ、とライダーは考え込む。

「【格】というものは、違う価値観を持つお主にしてみたら、至極どうでもいい事なのだろうなぁ。それよりも、友として語らい、食事を共にしたい、と。……良し」

 そう呟くと、ライダーは中身を飲み干し、今度は飲み物が入った瓶ごと、シオに差し出した。その行動に、シオはまた首を傾げる。

「先ほどのは【格】を競う誘いとして出したものだ。だが、これの中身はまだ何にも染まっておらん。お主が誰かに差し出した時、初めて意味を持つ」

 説明するライダーと飲料の間を行き来するシオの目線を追いながら、ライダーは話を続ける。

「余はこれを友誼の証として、お主に差し出そう。そういえば余からは、同盟の証としての贈り物を何も渡していない。これは丁度良いな!」

 はっはっは!と豪快に笑うライダーに、シオも真意がつかめたのか満面の笑みを浮かべる。ライダーから飲み物を受け取ると、ライダーの柄杓にそれを注いだ。

「ん!」

「ほう、これはなんの一杯だ?」

「ライダーにおせわになってる、おれい!あと、なかまのあかし!」

「――いいだろう、頂くか!」

 ぐい、と飲み干すライダー。と、シオはセイバーにも瓶を差し出してくる。

「セイバーも!いまから、おはなしするおさそい!」

「……仕方ありませんね」

 見た目は同じ年代に見えるのに、その行動は幼く。だからこそ、その誘いを無碍にするのは憚られた。

 差し出された一杯を飲み干す。アルコールを感じない、さわやかなアップルの風味に、ライダーがわざわざ先ほどのワインとは別に用意していたのに納得がいった。恐らくはシオと、己のマスターに配慮したものだろう。

 セイバーもまた飲み干したのを嬉しそうに確認し、シオはライダーの隣に座る。大男と、一見は華奢な少女。ちぐはぐな2人だが、何故かしっくりくる。

 セイバーも彼らに対峙する形で座り、いよいよ聖杯問答が始まる――筈だった。

「戯れは其処までにしておけ、雑種」

 その声と共に、黄金の鎧を着た王が現れる。彼こそが、聖杯問答の最期の参加者、人類最古の王。

 彼の登場に、ライダー、シオ以外の表情が強張る。シオは寧ろ嬉しそうに手を振っている。

「アーチャー、何故ここに」

「いやぁな、街でこいつの姿を見たんで誘っておいたのだ」

 余計なことを。セイバー陣営の心境は一致していた。ウェイバーとケイネスは本当に来たのか、と頭を抱えている。憂さ晴らしのための酒宴とは一体何だったのか。

 そんな彼らの心境を他所に、ライダーは気さくにアーチャーに声をかける。

「遅かったではないか金ぴか。まあ、余と違って徒歩なのだから無理もないか」

「……よもやこのような鬱陶しい場所を、王の宴の場に選ぶとは。我にわざわざ足を運ばせた非礼をどう詫びる?」

 そんなライダーに対し、アーチャーは機嫌が悪いらしく忌々し気に吐き捨てる。シオにとっては緑が沢山あって綺麗な場所なのだが、それこそ彼の価値観故の感想なのだろうと口にはしなかった。

 そんなアーチャーの雰囲気にも圧されず、ライダーはまぁまぁ、と柄杓を差し出す。彼をセイバーと同様に【格】を競う酒宴に誘っているのだ。アーチャーもその趣旨を理解しているのか、特に何を言う事もなく受取り、一飲み。しかしその味が気に入らなかったのか、瞬時に顔を顰めた。

「何だこの安酒は、こんなもので本当に英雄の格を量れるとでも思ったのか?」

「そうか?この町の市場で仕入れた中じゃ、こいつは中々の逸品だぞ」

「そう思うのは、お前達が本当の酒を知らぬからだ。雑種めが」

 はっ、と鼻で笑うと、アーチャーが掌の上の虚空から、黄金の揺らぎを発生させる。そこから出てきたのは宝具――ではなく、黄金の酒器。そこから発せられる芳醇な香りに反応し、シオがそれに目を向ける。

「見るがいい、そして思い知れ、これが王の酒というものだ」

 その言葉に喰いついたのはライダーだった。一番に飲みたいのか、盃を手に取りセイバーとアーチャーの盃に注いで回る。シオも飲みたがっている様子を見せたが、アーチャーは3つの盃しか用意しなかった。彼なりの線引きで、除外されたのだろう。

「うむ、旨い!」

「これは……」

 3人が同時に飲み、ライダーとセイバーはその旨さに驚愕する。彼らとて人の上に立っていた存在。人並み以上の酒を口にしていたが、これほどのものを口にしたことは一度もなかった。

 旨い。それ以外に言葉が見つからない味わいだった。

 そんな2人に対し、アーチャーは当然だと言いたげな表情で自身の盃を煽る。

「酒も剣も、我が蔵には至高の財しかあり得ない。これで王としての格は決まったようなものであろう」

 結論は決まったと言わんばかりのアーチャー。だが、ライダーはいやいやと首を振る。

「ふん、アーチャーよ。貴様の極上の酒は、まさしく至宝の盃に相応しい。

――が、生憎聖杯の所有権とは別だ。まずは貴様がどれほどの大望を聖杯に託すのか、それを聞かせて貰わねば始まらん」

 そう、これは聖杯問答。様々な要素から、聖杯の所有者は誰がふさわしいのか、それを決めようという場なのだ。

 だが、その声掛けも、アーチャーは一笑に付した。

「仕切るな雑種。第一、聖杯を奪い合うという前提からして、理を外しているのだぞ?」

「ん?」

 言っていることの真意が掴めず、ライダーが首を傾げる。アーチャーはまた盃を煽ると、口を開いた。

「――そもそもに於いて、アレは我の所有物だ。世界の宝物は一つ残らず其の起源を我が蔵に遡る」

 故に、世界のすべては我のものだと、アーチャーは言い放った。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 ソラウとランサーの、時計塔の面々の説得は難航を極めていた。

 こちらに帰還したのは約1日前。時差ボケに悩む暇もなく、ソラウは自身の父のもとを訪れ、抑止力の出現と聖杯戦争の異常の可能性、そして調査隊の派遣の要請を行った。

 だが、返ってきたのは難色だった。

――抑止力が、そのようなタイミングで現れる理由がない

――寧ろ、現れたということは既に手遅れなのではないか

――手遅れならば、それが去った後に調査に訪れるべきではないのか

 それは、現場にいない魔術師ならば行きつく当然の結論で。ソラウも魔術師の端くれだ、その結論に納得がいきこそすれ、反論する材料を持ち合わせていなかった。

 今までなら、そこでソラウは立ち止まっていただろう。そうやって、流されるままに生きてきていたのだから。

 だが、今は違う。

 あの時、別れ際に、最後に初めてちゃんと見たケイネスの表情が、脳裏に焼き付いている。心の底から、自身を案じ、そして信じている彼の瞳が。あれが「ソラウ」ではなく「ソフィアリの娘」に向けられたものだとしたら、いっそ拍手したいくらいだ。ランサーに魅入られ、その熱を知ったソラウには、ケイネスの瞳にあるものが、系統は違うのだろうが――愛と、そう呼べるものだと気づいた。気づいてしまった。

 彼には興味がないと、自分が考えていたから気づかなかったのか。単に彼があの見目に似合わず恐ろしいほどの奥手だったから気づけなかったのか、はたまた、ただ間が悪かったからなのか。それは誰にも分からない。

 だが、気づいてしまったからには、彼が真剣に今回の事態に向き合っていることが、ランサーを手助けして度々おぼろげに見える彼の言動からも分かってしまえば、止まることはできない。止まってしまえば、ランサーにも申し訳ない上、ケイネスにも顔を合わせられない。

「ソラウ様、一度休まれた方がよろしいのでは」

「大丈夫よランサー。まだ、まだやれることがある筈よ……!」

 愛する人の忠告も無視し、ソラウは奔走する。ランサーと2人きりであることは嬉しい、うれしかった。だが、それに勝るわけではないけれど、ケイネスの頼みを無碍にするという結論は、今のソラウには到底、出しえないものになっていたのだ。

 

 

 

――ソラウ、ランサー。交渉、難航

 

 

 

 




CCCイベント、一先ずは走り切りました

色々と言いたいことはありますが、楽しい部分も、つまらない部分もあったなぁと



ソラウさんの描写も、入れなければいけないと思っていましたが、書いててなぜか恥ずかしさが……
違うなと思ったことがあったら、遠慮なくコメントまでお願いします
次回こそ、本格的な聖杯問答です

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