・シオの口調はひらがなカタカナで統一されています
・なので大変読みにくいです
・読みづらい等ありましたら、感想欄までご連絡お願い致します
突然の事態に茫然とする雁夜を尻目に、サーヴァント――シオは、臓硯に触れていた掌を見る。そこに乗っているのは、一体の蟲。
「んー、やっぱり、ひとじゃなかったのか?でも、ひとっぽいかんじするしなー」
何やら雁夜にはよくわからない言葉を呟きながら、どこからか取り出した容器に蟲を放り込む。びたん!と痛そうな音が響いたが、蟲はぴくりとも動かない。
様子を確認してから、シオはしっかりとふたをし、雁夜に向き直った。
「な、これ、さっきのやつ!これなんなのか、マスター、わかるか?」
「は?」
ずい、と彼女が見せてきた蟲。それが臓硯だと彼女は宣う。確かにあの性格や見た目から、中身は人外のそれなんじゃないかと思ってはいたが、それにしたって本当にそうだったのは、予想外すぎる。
蟲は容器の中で動かず、死んでいるのか生きているのかも分からない。ぱっと見、他の蟲と同じに見えるが、微妙に違う部分もあり、もしかすると本当に、これが臓硯なんじゃないかとも思えてくる。
ん?ん?とまるで幼児のようにしつこく答えを催促してくる少女に、雁夜はため息をつきながら口を開く。
「たぶん、刻印蟲の特別製だろうな。ほら、この部屋の中にもたくさんいるだろ?それの親玉とか、そんな感じのやつに、ジジイは入ってるんだろ」
入っている、という表現があってるかはさっぱり分からない。というか展開にいまだに脳内が追いついていない。
が、シオはその解答に満足したようで、ふーん、と相槌を打つと、また蟲を観察し始める。相変わらず、臓硯らしい蟲は動かない。
「そいつ、生きてるのか?」
「いきてるぞ?ちょっと、おもいでのなかにいってもらってるんだ!」
かんのうげんしょーってすごいよな!と笑うシオ。いや、かんのうげんしょうってなんだ。漢字を当てはめるなら感応現象だろうが、それと今の臓硯の状態がどう関係しているのだろうか。
よくわからない、という雁夜の様子を感じ取ったのか、シオが説明しようとする――が、
「なぁ、そろそろ上に上がってもいいか?」
「ん?」
――まだ、蟲蔵の中。長話にこの石畳は大変つらいです。
―――――――――――――――――――――
「おお!でっかいなー!」
マスター、ここでっかい!
蟲蔵から出るや否や、屋敷の広さに感動したのか、臓硯が入った容器をもったまま駆け回るシオ。それを見ながらふと、雁夜は自身の体の中で、蟲が暴れないことに疑問を抱いていた。
サーヴァントは使い魔の一種だ。実体化している間は、霊体を維持している間より格段に魔力を必要とする――はずだ。だのに、自身の体内の蟲は暴れる様子を見せない。これは一体どういうことなのだろう。
「マスターマスター!ちっこいやついた!このこだれだー?」
「って桜ちゃーん!?」
思考に耽っていると突然、桜を背負ってやってきたシオ。桜は相変わらず無表情に、されるがままになっている。
「こいつ、シオがあいさつしても、へんじしてくれないんだ!あいさつにはあいさつなのに、してくれない!えらくないぞ!」
「いや、偉いとかそういうんじゃなくてだな……」
桜は今現在、外の世界に関して心を閉ざしているようなもの。雁夜以外にまともな反応を返したことは、ここに来てから数える位にしか見ていない。ましてや、見知らぬ不審者相手だ、はきはきと受け答えができる状態ではないのだ。
そこを説明すべきか。見た目に反して、このサーヴァントは幼い。難しい言葉を並べて、きちんと理解できるのかどうか。数瞬悩んだのち、雁夜は一先ず、桜を寝室に返してから話すことにした。
「一先ず、この子――桜ちゃんは寝る時間だから、部屋に送るぞ」
「むー……わかったぞ」
納得いかないという表情をしながらも、シオは雁夜に従い、桜を寝室まで送ることに。おんぶの状態から、容器を持っていない左手に、抱える体制に変える。少女一人分の重さをものともしないところを見るに、力は見た目とは裏腹にかなりあるらしい。
雁夜の、半ば引きずるようなゆったりとした歩調に合わせ、のんびりとシオは歩く。時折気遣わしげに雁夜に視線を寄越すが、雁夜はそれを今は無視した。
桜の自室までやってくると、扉を開けて中に入る。殺風景な室内をきょろきょろと見回すシオ。
「……おい、桜ちゃんを早く寝かせるぞ」
「お、ごめんなー」
不機嫌そうな声色から、怒られたと思ったのだろう。謝罪しながら、シオは桜をベッドに寝かせる。
「ごめんな桜ちゃん、騒がしい奴で……おやすみ」
「……おやすみなさい、雁夜おじさん」
小さく聞こえた返事を確認し、頭を一撫でしてから、雁夜はシオを伴って寝室を後にした。向かうは自分の寝室。そこで互いの話をしっかりとする。
「くらいなー。いま、よるなのか?」
「ああ、いまは深夜の2時くらいだ」
「そんなおそかったのか!マスター、ねむくないのか?」
「大丈夫だ、問題ない」
「シオしってる!それだいじょうぶじゃないときにいうセリフだ!」
「大丈夫だって」
「ほんとか?むちゃしてないか?えっと、ぱふぱふするか?」
「お前どこでそんな言葉覚えてきたんだ!?」
「コウタからおしえてもらった!」
「こうたって誰だ……」
……しっかりと、できるのだろうか。頭痛がしてきた。
痛む頭を押さえながら、自室へと戻る。本来なら、魔力の行使の影響で死に体の状態で戻る予定だったのに、普通に歩いて戻ってこられたのは奇跡だろう。
ベッドに腰掛ける雁夜から少し距離を置いた場所に、シオが座り込む。それを確認してから、雁夜はゆっくりと口を開いた。
「お前はバーサーカー、で合ってるんだよな」
「ん!シオのクラス、バーサーカーらしいぞ!」
「じゃあ、なんで話せるんだ?」
雁夜のもっともな疑問に、ん?と首を傾げるシオ。どういうことかわかっていないらしい。ため息を1つ吐いて、雁夜は説明を始めた。
「バーサーカーに付与される狂化は、ステータスを底上げしてくれる代わりに言語能力とか、思考能力を奪うスキルのはずだ。なのにお前は話せるし、さっきの行動を見るに考えて行動もできる。その理由が知りたいんだ」
ほうほう、と相槌を打つシオ。暫し考え込むと、もしかして、と口を開く。
「シオが、もともとひとじゃないから、とかかなー」
「人じゃない?」
鸚鵡返しにしたセリフに、シオが頷く。
「シオは、アラガミっていうんだ。んーと、さっきのやつみたいなかんじのからだなんだぞ、ほんとは」
「じじいみたいな……?」
「じじーみたいに、たくさんのコクインチュウ、じゃなくて、オラクルさいぼーってので、できてるんだ」
待て。そもそも臓硯は刻印蟲でできていたのか。そこから初耳だ。
そう言うとシオは瞠目し、そうだったのか!?と大げさなリアクションをとった。そもそも、目の前にいるのが蟲の塊だなんて誰も思うわけがないだろう。
「えっと、んーと、じゃあ、うん。シオは、ちっこいいきものがかたまって、シオにみせてる、ぐんたい!っていったらわかるか?」
目は目の役割、耳は耳の役割。手は手として動き、口は口として動く。
「オラクルさいぼーは、そんなふうに、カタチをいろいろなのにかえられるせーしつをしてるんだ。いっぱいあつまって、カタチをひとみたいにしたのが、シオだ」
最初見た時、人を真似て作られた造形品と思ったのは、あながち間違っていなかったらしい。
「シオのいちばんだいじなのは、そのたくさんのオラクルさいぼーにめいれいしてる、コアってやつ。シオだと、それはむねのなかにあるんだ」
だから、あたまがなくなっても、コアがだいじょうぶなら、シオはしなないんだぞ。
えっへん!と胸を張るシオ。とことん人外じみている、他の英霊もこんなものばかりなのか?いや、それよりも、シオがその言動とは裏腹に、きちんと分かりやすく、理知的に説明できているのに驚いた。相変わらず言動は幼いが、その中身は見た目の年齢相応にあるとみていいのかもしれない。
「で、シオがきょうかってののえいきょうをうけないのは、たぶん、それがあんまりことばとかにでないからだとおもうんだ」
「言葉に出ない……言動に影響しないが、他のところに出ているってことか?」
確かめるように訊ねると、うんうんと頷かれた。どうやら合っているらしい。
「アラガミは、イタダキマスをして、それからいろんなことをまなぶんだ。イタダキマスするのに、スキキライあるけど、それをなくしたら、ぜんぶイタダキマスできる」
全部、食べられる。そう言う瞳からは、冗談といった様子はない。本当になんの比喩でもなく、何でも食べてしまうという事か。
「さっき、ほんとはすごくおなかすいてたんだ。だから、その、じじーちょっとイタダキマスしたんだけど」
「はぁ!?」
「しちゃったんだぞ。えっと、そしたらシオ、ちょっとだけのつもりだったのに、いっぱいイタダキマスしちゃって、それでマリョク?がぼうそうして、じじーがばくはつしたんだぞ」
だからたぶん、シオ、いまのほうがしょくよくおーせーだ!
そう言い切ったシオに、頭痛がひどくなった気がした。
――食料、足りるかな
やせいの はらぺこが あらわれた !