Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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第26章―トーサカ―

 遠坂 時臣と会談がしたい。

 名義上ではあるが、当主となっている鶴野を通じてそう打診すると、ほどなく「是」の返事が返ってきた。やはり、手順を踏んだ正式な申し込みは受け付けるらしい。彼らしいと言えば彼らしいな、と雁夜は思う。

 午前中は数日ぶりに桜の勉強を見て、昼食をとった後、雁夜とシオは遠坂の屋敷へと向かうことになった。さすがにサーヴァントであるシオは中には入れないが、万が一のための護衛として、入り口まではついていくと言ったのだ。

 昼間からいつものぼろ布を着させるわけにもいかず、シオは今回はドレスを着用している。パーカーの雁夜とは色々な意味でアンバランスで、かえって往来で目立つことになり、羞恥で死にたくなったとは雁夜の言葉だ。

「なーな、ほんとうにだいじょうぶか?おこってけっかんパーンしないか?」

「だから大丈夫だって言ってるだろう。ケイネスさんの資料渡して桜ちゃんの現状を話すだけなんだから……」

 ぶつぶつと不満そうに雁夜が呟くが、シオはそれを聞いても心配そうに雁夜の周りをぐるぐる回りながら話しかけてくる。純粋な心配も、度が過ぎれば鬱陶しく思えてくるな、と雁夜は思った。

 その後もなーなーと話しかけられるも雁夜は生返事を返しながら歩き、遠坂の屋敷に到着してようやく一息つくことが出来た。

 門扉の前で立ち止まり、屋敷を見上げる。久しぶりに見たそこは厳かな雰囲気を持っていて、しかしこの家の内情を多少は知っている身としては、どこか得体のしれなさを感じてしまう。

 未だに心配そうに見上げてくるシオを見て、雁夜はその頭を撫でてやりながら落ち着いた口調で諭す。

「大丈夫だって。俺もそんなに馬鹿じゃないし、時臣の野郎もきちんとやってきた客はそう無下にはしないから……そこもなんかムカつくところだがな」

 ふん、と鼻を鳴らし、シオにそこで待機しているようにと言いつけて、雁夜は屋敷の中へと入っていった。それを心配そうに見送りながらも、シオは律儀に門扉の前で待機している。服装も相まって目立つのか、ちらちらと道を行きかう人々に見られるが、シオは気にしない。サーヴァントならば霊体化ができるのだが、シオは――

「ほう、まさか貴様がここに来るとはな、獣」

「あ、アーチャーだ」

 街を散策していたのだろう。シオよりは現代に即した――それでもだいぶ目立つ服装だが――服を着たアーチャーが歩いてきた。不意の登場だったが、シオは普通に挨拶を返す。昼食で腹いっぱいになっていなければ、恐らくは本能のままに突撃していただろう。アーチャーの神性はシオの琴線に触れるほどに高いとシオは考えていた。

 今はまだ昼、夜になるまで時間はたっぷりとある。今この場ですぐさま戦う理由もないので、シオもアーチャーも知り合い程度の態度で挨拶を交わしたのだ。

「マスターがおまえのマスターとはなしたいってことできたんだぞ」

「あの時臣とか。よく渡りをつけられたな」

「んーと、せーしきなしゅだんをつかったんだって」

「成程な。貴様のマスターも、利口になったものだ」

「?アーチャー、シオのマスターのこと、しってるのか?」

「さて、どうだろうな」

 ははは、と笑うアーチャーに対し、シオはむす、とほほを膨らませる。同じ「おうさま」だというのに、ライダーとアーチャーはどこか違う。

 そんなシオに対し、アーチャーは尚も口角を釣り上げて笑う。

「見目だけではなく、中身もまるで人のようだな、貴様は」

「シオ、ひとじゃないぞ」

「それくらい分かっている。でなければ獣などと呼ぶまい」

「む、シオにはシオってなまえがあるぞ」

「わざわざそれで呼ぶ理由がないな」

「むう」

 機嫌がだんだんと下がっていくシオに対し、アーチャーは言葉を続ける。

「ああ、それとも――特異点、と呼んだ方がいいか?」

「!!」

 何故、その単語を。驚いたような表情でアーチャーを見つめる。その反応に、アーチャーは愉快だと言わんばかりに笑みを深めた。

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 一方そのころ。

 雁夜は時臣と対峙していた。

「まさか君のような落伍者が聖杯戦争のマスターになっているとは、間桐もよほど、切羽詰まっているということかな」

 一々癪に障る言動だ。思わず感情のままに言葉を吐き出しかけるが、どうにか理性で落ち着かせる。

「さて、わざわざ正式な席を設けようと訴えてきたんだ、何か特別な用事があったんだろう。座り給え、いくら君が魔術の道を外れた下賤なものだとしても、今は客人として対応しよう」

 魔術師然とし、神経を逆なでするような言動に、雁夜はやはりどうしても、この男とは分かり合えないと痛感する。自分たちのカタチはとことん、かみ合わないらしい。

 イライラする心中を押さえながら席に着く。時臣も、雁夜に対する不快感は出しながらも、一見いつも通りの優雅さを保ちながら席についた。

 これは聖杯戦争の早期終結に必要なこと。さっさと終わらせて帰ろうと、雁夜はさっそく持参した資料の束を2つ差し出す。

「これは……?」

「隠したって意味がないから先に言っておくぞ。俺たちはランサー、ライダー陣営と同盟を組んだ。聖杯戦争を中止、もしくは早期終結を図るためだ」

 雁夜の言葉に、時臣の雰囲気が張り詰められる。アサシンの報告で知っていたが、改めて本人の口から告げられたからだ。だが、すぐに緊張は消えた。ここは時臣の本拠地であり、工房の真っただ中。救援として他陣営が来る前に、雁夜が令呪でバーサーカーを呼ぶ前に、雁夜だけを仕留めるのは容易いと判断した為であった。

「俺自身としては聖杯戦争の是非はどうでもいいが、桜ちゃんに害が及ぶってなら話は別だ。だからランサーのマスター……ケイネスさんに間桐の書庫を提供した。そこにあった情報と、現状から推測される物事をまとめた資料がこれだ」

 そう言って、雁夜は資料の片方を示す。一方、雁夜の話に、時臣は成程、と感心していた。ケイネスが雁夜のような人間と手を組んだことが疑問だったが、どうやら間桐の書庫という情報の宝庫を必要としていたから、ということらしい。外部からの魔術師である彼が情報を手にするには、確かにそれが手っ取り早い。

「その見返りに、桜ちゃんの状態を診てもらった。あの子の現状とその問題点をまとめた資料がこっち」

「……問題点?」

 やはりそこに引っかかるか。雁夜は深呼吸をして話し始める。

「ああ、問題点だ。俺としては、調練のやり方に怒りしか感じないが……あんたら魔術師の世界だと、拷問まがいの調練も、あるらしいな」

「それがその家の調練の仕方だというなら、あり得るね」

 改めて何を言わせるのか、と時臣が表情に出していることに、腹立たしさを感じながら、さらに言い募る。

「だが、ケイネスさん曰く、じ……親父がしていた調練は、桜ちゃんを真っ当な魔術師としてではなく……胎盤、として調整するためのもの、だったらしい」

「なんだって!?」

 驚きで立ち上がりかけた時臣を、雁夜は目で制する。ここで漸く驚いた彼に対し、沸々と怒りがこみ上げる。

「親父は色々あって無力化してるから、これ以上はどうにもできない。ケイネスさんからは、桜ちゃんを時計塔に留学させるように勧められた」

 詳しくはその資料に書いてある。そう言って示された資料に、時臣は目を通していく。落ち着いた様子だが、資料を捲る手が震えているように見えたのは雁夜の願望だろうか。

「属性の強引な上書き……基本的な魔術知識の欠如……これは……」

 ぶつぶつと資料に目を通しながら、時臣が呟いているが、それには耳を傾けず、雁夜は時臣に請う。

「時臣、1回でいい。遠坂の皆で、桜ちゃんに会いに来てくれないか」

 その言葉に、時臣は資料から顔を上げて、雁夜を見る。

「桜ちゃんは自分が養子に出された理由を知らない。兄貴に聞いたら、親父は桜ちゃんに「遠坂に見捨てられた」と吹き込んでいたらしい」

 時臣から、優雅さが消える。

「お前の口から、ちゃんと……ちゃんと、経緯を説明してやってくれ。桜ちゃんはまだ幼いけど、話せばちゃんと、順序立てて話せば、絶対理解してくれるから」

 頼む。そう言って、雁夜は頭を下げた。時臣に、色々な意味で大嫌いな彼に頭を下げるなんて、屈辱の極みだが、桜の為と考えれば、なんとか耐えられた。

 雁夜が頭を下げる中、紙が捲れる音が響く。どうやら雁夜の発言の裏付けを、ケイネスがまとめた資料に求めているらしい。やはり情報の重要度はそちらが上か。文句を言いたい気持ちをなんとか押さえつける。今は耐える時だ。

 どれほど、時間は過ぎただろう。分からないが、いつの間にか、紙を捲る音が止まっていた。静かな室内で、時臣の深いため息がやけに響き渡る。

「――ここにあるアーチボルト氏の署名、そして内容は本物だろう。理屈として筋が通っている上、君がこのように魔術師の観点から桜を分析できるとは思えない」

 その言葉に、雁夜が顔を上げる。時臣はこの数分でかなり疲れた様子で……それでいて、瞳は何かを湛えるかのように輝いていた。

「間桐が契約を反故にしたのだ、私たちがそれを遵守する意味もない」

「じゃあ……!」

「……すぐ、とはいかない。聖杯戦争の資料についても、こちらで分析しなければいけないからね。もし本当に、聖杯やこの戦争自体に問題があって、滞りなく戦争が中止になったのなら……桜と会う場を設けよう」

 時臣から、口頭とはいえその言葉が出たことに、雁夜は歓喜する。今までの事を考えれば、大進歩だ。

「……感謝する、時臣」

「君の為ではないよ。桜の為、そして、この資料を見返りとしてわざわざ用意してくれたケイネス氏に報いる為だからね」

――知ってるさ、お前が俺の言葉なんて歯牙にもかけないことなんて

 そう思いながら、それでもと雁夜は礼を言う。

 桜ちゃん、おじさん、やったよ。

 雁夜の心は、実に晴れやかな物だった。




時臣って雁夜のこと落伍者として見下してたりする割に、歯牙にもかけてない、って感じはしないんですよね(多分雁夜も時臣もそう考えてそうだけれど)
本当にどうでもいいと思っているなら、雁夜の名前も忘れてそう

どこかで某アイドルが言ってましたけど「批判してくる人」→「自分の事考えてくれてる」→「だから自分の事が好き」という理論。最後のは突然ですが、なんとなく的を射ていると思います

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