Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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第23章―それぞれの―

 夜も更け、日付が変わるころ。

 桜は自室のベッドに寝そべり、自分を診ている男2人の様子を観察していた。

「先ほど目を通した資料によると、サクラは厄介な属性を持っているようだな」

「厄介な属性……?すまん、俺は桜ちゃんが養子に来た時にはまだ家にいなかったんだ、詳しく教えてくれないか」

 怪訝そうな表情の雁夜に、ケイネスは健診を続けながらも説明を始める。桜に触れてくる手には優しさは感じられないが、傷つけないよう、不快感を抱かせないように気を使っているのは感じられた。

「我々魔術師はそれぞれに属性を通常は1つ、優秀なものだと2つ以上を持って生まれてくる。

 一般的に火・水・風・地・空の五大元素と、虚数・無の架空元素の内いずれかの属性が該当するが、ほとんどの場合は五大元素を持って生まれてくるな」

 どうやら間桐の人間は通常、水の属性を持って生まれるようだな、とケイネスは言ってから説明をまた始める。

「この少女が持っているのは、稀有な属性である架空元素・虚数。魔術的な観点から、「ありうるが、物質界にないもの」と定義されている。それを手放すなど、随分と遠坂は惜しいことをしているな」

「……桜ちゃんには姉がいるんだ」

「なるほど。そちらもまた優秀だったが故に、扱いが難しい妹を間桐に養子に出したということか」

「虚数属性ってのは、扱いが難しいのか?」

 ケイネスは頷く。さしものケイネスも、虚数属性を持つ魔術師を扱ったのは初めてだ。彼の知る虚数魔術の使い手は、最弱の学科・十一科ロクスートに所属するかつての神童、フラウロスのみである。

「虚数と無の架空元素は、そもそも使い手が極端に少ない。それゆえに前例が乏しく、教育する方法も手探りで行わなければならない。私も扱うのは初めてだ。しかし」

 これは、運がよかったというべきなのだろうか。いや、断片的に聞いていた無茶な鍛錬やその結果から鑑みて、運がよかったとは言い難いだろう。

「鍛錬を行った人間がどのような意図でそうしたかは分からんが、属性が強引に上書きされている。これではせっかくの才能が台無しな上、間桐の魔術もうまく扱えんだろう。これでは彼女を魔術師としてではなく、ただ体の良い――」

 そこで、口を噤むケイネス。ある意味魔術師らしい結論だろうが、それにしたって、この才能を腐らせた張本人には怒りしか感じない。

 雁夜がどうした、と声をかけるが、さすがにその後に続く発言を少女の前でするのは憚られたのか、雁夜を引っ張って一旦桜から遠ざかる。

「カリヤ、これを行ったものは誰だ。ビャクヤか」

「……いや、主導していたのは親父の臓硯だ。バーサーカーがぶっ飛ばしたけど、どうしたんだ?」

 雁夜の言葉に、ケイネスは忌々し気に舌打ちをする。とことん、怒りをぶつけたい相手に恵まれない。

「痕跡から察するに、鍛錬はサクラを魔術師として大成させるものではない。あれではただの繋ぎ――はっきり言えば、優秀な間桐の人間を生むための道具としてしか見ていないとしか思えん」

 そもそも大成させるなら虚数属性を伸ばせばいいし、逆に間桐の魔術をなじませるのなら虚数属性を残しつつ、ゆっくりと適合させていけばいい。幸い、虚数属性と間桐の魔術特性である吸収や束縛は相性がいい。この現状は、桜という存在を魔術師としても、そして同盟の証としても重要視していないことを示しているとケイネスは推測したのだ。

 ケイネスの言葉に、雁夜は思わず声を上げそうになったのを抑える。ここにきてまた、臓硯の悪辣な一面を知ることになるなんて思いたくなかった。

「だが……この現状を見て喜ばしいとは言えんが、養子に出したが故に、サクラは命だけは繋いでいると言える」

「どういうことだ」

 怒っている理由は違えど、現状を好ましく思っていないことは事実なケイネスの口からでた言葉に、雁夜の表情がまた険しくなる。ケイネスはやはり魔術師としては素人だな、とつぶやいてから、説明を始めた。

「先も言った通り、虚数元素を持つ魔術師は貴重だ。貴重であるがゆえに、それを持って生まれたものはサンプルとして重宝される。――ここまで言えば、さすがに分かるのではないかね?」

「……まさか」

「そのまさかだ。遠坂が養子に出さなければ――あるいは間桐のように、胎盤扱いでも生かす方面に持っていく家でなければ――サクラはホルマリン漬けの標本にされていただろう。ある意味、遠坂はそう言った面では我が子を生かす選択肢を取っていたということだ」

「嘘だろ」

 信じられない様子の雁夜に、ケイネスはため息を零す。魔術師としての価値観がない人間には、恐らく理解しがたいことなのだろうと。

「魔術師の後継者はたった一人、それ以外の兄弟はその後継者の予備として扱われる。恐らく、何らかの理由で保険として第二子を必要としたのだろう。だが、生まれた子どももまた、長子がいなければ後継者になりうる存在。予備にするには持て余すほどの才能の塊だ。

――推測でしかないが、遠坂の当主はその血をひくものが根源に至ることが、子ども達が幸せになる道と考えているのだろう。だからこそ、サクラを生かして魔術の鍛錬をしてくれる家を探し、結果的に聖杯戦争に同じく長く関わっている間桐を信頼し、彼女を預けた」

 なまじ同業なだけに、その結論に至るのも想像に難くない上、納得がいく。だからこそ、詰めが甘い部分があることがケイネスは不愉快だった。魔術は秘匿するべきものだとしても、どういった教育を施していくのかをしっかりと確認しなくてどうするんだ。仮にも血のつながった我が子だというのに。

 一方雁夜は、憎き時臣が――どういう理由であれ――我が子を思っての決定だったという結論に、動揺を隠せない。それが魔術師としての観点からのものだから、一般人である雁夜には理解できるはずもなかった。

 解せないと言いたげな雁夜の表情に、ケイネスはまた溜息を吐く。

「まぁ、貴様は魔術師ではないからな。こちらの都合や価値観は全くもって理解しがたいのだろう。だがそれが魔術師の親子の在り方――カタチの1つなのだ」

 魔術師のカタチ

 そのワードが、やけに頭に残った。

 

 

 

 

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 一方、ライダー陣営。

 ウェイバーは帰る道すがら、街の真ん中を流れる川を訪れ、いくつかの地点で水を採取していた。キャスターの拠点を魔術的方法で見つけ出すという役目を果たすため、まずは川の水から、その痕跡を見つけようとしていたのだ。

 ケイネスから借りた隠匿の礼装を使用しながら作業を行う。礼装は魔術師としてはまだ未熟な自分でも簡単に扱えて、ケイネスの優秀さをまじまじと見せつけられた気分になる。

「のう坊主、どれだけの地点で水を汲まなければならんのだ。もう夜も遅い、マッケンジー夫妻も心配するぞ」

「こういうのは元になるデータの数が勝負なんだ、なるべく多く回収しないと」

「そうは言うてもな、どうやってキャスターめの拠点を探るんだ?」

「見て分からないのかよ……川の水に術式残留物がないか、それを調べるんだ」

 キャスター陣営が大量の児童を攫っているとして、その子どもたちを連れてどこかの住宅に入っていたら、それはかなり目立つだろう。ならば隠れるならどこだ、人目が付かない場所だ。

 大きな下水道や廃工場、その辺りの拠点になりそうな場所の近くの水を採取し、魔術の痕跡がないかどうかを調べようとしているのだ。

 魔術としては基礎の基礎。下策ともいえるやり方だが、手掛かりが見つかる可能性は高い。

 だから、汲み上げる場所は多い方がいい。場所の絞り込みに使えるのだから。

 ウェイバーの説明に納得したのか、ライダーもまた水汲みを手伝い始めた。

 結局、2人がマッケンジー宅に着いたのは深夜2時を回ったころ。その上、それから痕跡を調べるために時間を割き、場所を特定、ようやく眠りについたのは朝方の事だった。

 

 

 

 

 

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「――ん?」

 雁夜は、ふと気づくと見たことのあるような、妙な空間にいた。

 窓のない空間。落書きをされた、無機質な壁。何かに食べられたかのような家具。

 自分は確か、ケイネスから桜について話を聞いた後、自室に帰って眠ったはず……。だというのに、気づいたらこんな場所に立っている。一体どういう事だろう。

 室内を見回すと、出入り口は1つだけ。そこから出て、ここがどこかを確かめたら脱出方法を探さなければ。そう思って扉に手をかけた時だった。

「なんだ、もう帰っちゃうのか?」

「!」

 ば、と振り返ると、そこには先ほどまではいなかった少年がいた。

 年は10代、中高生あたりだろうか。オレンジがかった茶髪のショートカットに、黄色い帽子、黄色い上着にオレンジ色のズボン。首にはマフラーを巻いている。

 そして何より目を引くのは、右腕につけられた赤い腕輪。服装はちょっと羽目を外したおしゃれな少年、といった風にみられるが、腕輪だけがアンバランスさを醸し出していて、異様な印象を雁夜は受けた。

「――あんた誰だ」

 ベッドに腰掛けている少年を睨みながら、雁夜がそう問いかけると、少年は相変わらずへらへらと笑みを浮かべながら答える。

「俺の名前って意味なら、無い、が正しいな。この姿も、この空間だって、俺が()()()の中で覗き見たのを元に構築してるだけで、俺の容姿も名前も何もかもが、もうどこからも消え去ってるわけだし」

「意味が分からない。あんたがここを作ったってことか」

「そうだね。ここは俺が作り上げたし、あんたが作り上げたとも言える」

「……どういうことだ」

 なかなか要領を得ない解答に苛つきながら、雁夜が問いかけるが、少年はまぁまぁ、と軽く聞き流してしまう。

「でも、名前がないままじゃ呼ぶときに困っちゃうな。どうせ今夜限りの縁だけど……そうだな、本来のこの姿の持ち主の名前も借りるとしよう」

 そう言って、少年は立ち上がる。雁夜と向かい合うように立つと、にっ、と歯を見せて笑いかけてきた。

「俺の事は便宜上――藤木 コウタって呼んでくれ」

 

 

 

――彼は求めていた

 

――毛の筋ほどの、希望を

 

――ごく普通の日々(しあわせ)




結局描写がライダーバーサーカー陣営だけでした

他陣営のあれそれ書きたかったんですがうまく書き切れそうにありませんでした……


ゲストキャラクター(?)、今回と次回限りの参戦です

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