Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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ここに彼が来たなら言わなきゃ損ですよ


第20章―ちゅうばつ―

――ウェイバー・ベルベットという人間は、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトという人間が苦手だ

 もっと言うと、嫌いという表現のほうがあっているのかもしれない。

 自身の実力を認めてくれようとはせず、渾身の出来だと思っていた論文を、あろうことか晒しあげたうえで罵倒したのだ。好きになれるわけがない。

――ベルベットという生徒は、エルメロイという教師が苦手だ

 それは今現在も変わらない。聖杯戦争の異変を察知し、勝敗を放り投げたうえで押しかけてきたケイネス。自身が協力依頼を承諾することが、当然と言わんばかりの態度。苛立ちを隠しはしないが、目的のために今までは歯牙にもかけなかったであろう、魔術師のなり損ないとも手を組む彼。

 今まで見たことがなかった一面を知った今も、彼を苦手に思う気持ちは変わりない。

――ウェイバーという魔術師(凡才)は、ケイネスという魔術師(天才)が苦手だ

 その態度や風格に似合った実力を持っていようと、その態度が気に喰わない。恐らく――恐らくだが、彼と自分はきっと、どこまでも分かり合えないし、分かり合おうとすることもないだろう。

 だが、それでも、ウェイバーは彼の人となりにむかっ腹を立てると同時に、その才能にはどうしようもなく認めてもいた。だからこそ、認められたかったのだ。その結果は、悲惨な物であったが。

――ウェイバーは、ケイネスが苦手だ

 でも、同じ目的のために奔走するこの状況は、悪くはない。何故だか、そう思ってしまう自分がいた。

「おいライダー!ちゃんと止まれよ!?子ども諸共轢き殺しただなんて、僕は嫌だからな!」

「はっはっは、こ奴らがそんな真似はするはずがあるまい!……たぶん」

「ライダーァ!?」

「おいウェイバー、貴様それでもマスターか!きちんと使い魔の手綱は握っていろ!」

「できてたら苦労しませんよおおおお!」

「みんなたのしそーだな!」

「楽しくない!/楽しいわけがあるか!」

「がっはっはっはー!」

 この先にあるであろう光景とは裏腹な、どこか気の抜けた会話をしながら、一行は森を轟音と共に駆け抜けていく。

 一方、忍ぶ気もない轟音に、キャスターとその海魔に1人奮闘していたセイバーと、キャスターが気づいた。その物音に、双方の動きが止まる。

 新たな襲撃者か――セイバーが迎撃するか逡巡した直後だった。

「みぃつけ、」

 その声が聞こえたのは、先の轟音より近く。

「――た!」

――上!?

 一瞬の間で近づいた声と共に、巨大な刃が上方から降ってきた。それが狙うはセイバーでも、キャスターでもなく、周囲に大量に発生していた海魔。

 ズトン!と得物ごと着地して海魔数体を真っ二つにし、直後着地の風圧で周囲に僅かに土煙が巻き起こる。それを得物の持ち主――シオ自身が振り払うと、瞬時に彼女はセイバーを突き飛ばした。間髪入れない行動に、セイバーは成すすべなく数メートル程飛び、しかしすぐさま着地する。セイバーが体勢を整えた直後、

「――AALaLaLaLaLaLaLaLie!」

 彼女らがいた場所に、戦車が飛び込んできた。いつの間に”遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)”を発動させていたのか、バチバチ、と通過した後に雷で焦げた跡がある。通り道にいた海魔は犠牲になったのか、黒焦げた何かも散乱していた。

 どうにか直撃コースは免れた、とシオはほっとし、けれど辺りを見回して眉尻を下げる。あの道中に、しっかりと聞いてしまっていたのだ。――子ども達の、断末魔を。恐らく、生存者はもういないだろう。

 ライダーも辺りを見回して厳しい顔つきになる。

「どうやら、手遅れだったようだな」

「は!?おい嘘だろ……」

 動揺するウェイバーを尻目に、止まったところを襲撃してくる海魔を、ケイネスは月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)でもって迎撃する。

「貴様が、キャスターだな?」

 睨みを利かせるケイネスの視線の先にいるのは、世間一般が浮かべるような悪の魔術師のローブを身にまとった、1人の男。その手にはこれまた怪しい魔導書があり、セイバーが彼と敵対していたのを見るに、彼が件のキャスターで間違いない。

 その彼は、忌々しいと言いたげにシオ達を睨んでいる。

「貴様らよくも!よくも私とジャンヌの神聖な時間に割り込んでくれたなァ!」

「――ジャンヌ?」

 あれ、とその名前にシオは首を傾げる。雁夜の推測だと、セイバーはアーサーという人物らしいんだが。彼の推測が間違っていたのだろうか。

 が、その疑問はすぐにセイバー自身が否定する。

「キャスター!私はジャンヌではないと言っている!」

「ああ、やはりまだ記憶が戻りませぬか、ジャンヌ。でしたら、もっとCOOLなものを見せて差し上げましょう!」

 どうやらキャスターは、セイバーをジャンヌだと思い込んでいるらしい。あの様子だと、恐らくは何を言っても認めようとはしないのだろう。だが、その名前が決定打になった。

「――あいつ、ジル・ド・レェか!」

 ウェイバーが声を上げる。聖女ジャンヌに付き従い百年戦争を戦い、しかし彼女が処刑されてしまった後は悪道に堕ち、多くの幼い少年を殺害した男。

――ジル・ド・レェ元帥、正確にはジル・ド・モンモランシ=ラヴァル

 なるほど、彼ならば殺人鬼である――と推測される――マスターとの相性もいい。児童を数多く誘拐していたのも頷ける。彼自身が生前に児童、それも少年を誘拐し、陵辱、虐殺を重ねていったのだから。

 キャスター――ジルはそんな外野の声も耳には入らないのか、大仰に魔導書に手をかざす。と、シオの視界の隅に1人の少女が映った。

 いきてる――?あまりにも不自然に生き残っている少女に、生来の勘からシオが躊躇し、長年の経験則からこれから起きることを予感したライダーがキャスターに突貫し、魔術師の気質から何かを直感したケイネスもそれを援護。

 少女を心配したウェイバーは逃げろと叫び、セイバーもまた少女をこの場から離れさせようとしたが――間に合わなかった。

「ぐぼげぁっ!?」

 およそその年齢の少女が発するような声とは思えない叫びをあげた彼女の口から、腹から、背中から。その内側から食い破るように海魔が飛び出してくる。肉片と血があたりに飛び散り、接近していたセイバーのカラダにも降りかかった。

「う……っ」

 余りに凄惨な最期に、ウェイバーは胃の中のものを戻してしまう。シオの顔色も悪い。

「っ、キャスタァァァァ!!」

「ハハハハハ!その顔です!その顔を待っていましたよジャンヌ!これほどの絶望、実にCOOLではありませんか!」

 ご満悦と言いたげなジルに、さしものライダーも怒りの形相を浮かべている。

 そんな中、ケイネスは一つ、呟く。

「――よろしい」

 それは、先ほどまでと同じ口調、トーン。しかし――その態度は一変していた。

 ケイネスは魔術師だ。そして、誇り高い貴族だ。

 彼にはプライドがある。ただの魔術師としてのではない、歴史ある貴族の魔術師としての、だ。

 だからこそ――サーヴァントであれなんであれ、同じ魔術師という枠組みに入っているジルが、卑しい欲の為に無関係の人間を殺したことが、彼の怒りを買った。

「よろしい、ならば誅罰だ」

 その言葉と共に、ケイネスの月霊髄液をはじめとする魔術礼装が、海魔たちに襲い掛かる。

 

 

――ケイネスは魔術師だ。だが、完全な人でなしではない

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 一方そのころ、雁夜は城の入り口に到着していた。

 物音ひとつしない内部を入り口から恐る恐る覗き込み、もしやここには誰もいないのでは、という考えが浮かぶ。キャスターが襲撃してきていたのだ、拠点を離れている可能性は高い。

 が、彼の人並み外れた耳は、わずかではあるが、誰かの足音を捉えた。摺り足で、恐らく常人ならば聞き逃すであろうそれを聞き、まだ誰かがいるのを雁夜は確信する。

 ケイネスのホテルを爆破したという人間かもしれない、警戒しつつ、雁夜は一気に音がしたと思われる場所に駆け出す。直後、入り口で爆発が起きた。

「うおっ!?」

 急停止して後方を振り返ると、どうやら地雷だったようで、入り口側に向かって球体が発射された跡が見える。

「クレイモア地雷とか、なんつーもん設置してんだ……!」

 勢いよく飛び込まず、普通に入り口から入っていたら、自衛の術がない雁夜ではひとたまりもなかっただろう。単独でやってきたのは間違いだっただろうかという思いが頭をよぎるが、今更うだうだ言ってる暇もない。雁夜は全速力で人がいるであろう場所へと再び駆け出した。

 階段を一気に駆け上り、2階の廊下に飛びだした時、銃声が響いた。直後、肩に激痛が走り、体勢を崩してしまう。

「ガッ!」

 なんとか倒れないで済み、肩の傷口を押さえながら、感触で傷の状態を確認する。どうやら銃弾は貫通しているようだ。

「――へぇ、驚いた」

 そう言いながら、廊下の向こうからやってきたのは、銃を構えた黒ずくめの男。昨晩見えた、黒ずくめの女の仲間だろうか。ならば、彼女もまたセイバー陣営の協力者ということだ。

「僕はてっきり、ライダー陣営の誰かが奇襲してくると思ったんだが」

 そう言う男の風体、雰囲気に、雁夜は――なぜか、どこか懐かしさを覚えた。彼に埋め込まれた、シオのオラクル細胞の影響なのだろうか。

――脳裏に、見覚えのない金髪と、銀髪の男二人が浮かんで、消えた。

「あんた、セイバー陣営の関係者か」

「なら、どうする?」

 雁夜の質問に、男は疑問を返すことによって、返事をする。

「どうもしない。戦いに来たわけじゃないからな」

 肩を押さえていた手をどける。目に見えるほどではないが、出血が治まり、傷の修復が始まったのを感じたのだ。

「俺は間桐 雁夜。バーサーカーのマスターをしてる」

「……知ってる」

 突然の自己紹介に、男――切嗣は怪訝そうな表情をしながらも応える。銃口は油断なく、雁夜へと向いている。

「俺みたいなのも知ってるのか。じゃなくて、今は俺たちも、聖杯戦争について調べてるんだ」

「……」

「聖杯がちゃんとあるのかどうかも、俺たちは把握してない。だから、聖杯戦争を一旦止めて、調査を行っていきたいんだが……えっと、要するに休戦のお願いをしにきたんだ。セイバーのマスターに会わせてくれないだろうか」

 切嗣は沈黙したまま、銃口を下ろす気配を見せない。それゆえ、雁夜も迂闊に動くことが出来ない。

 沈黙が続き、切嗣が答えた。

「――断る。何故僕が敵の手助けをしなければいけないんだい」




「よろしい、ならばこれは決闘ではなく誅罰だ」

が原作での台詞なんですが、こちらの先生は聖杯戦争を決闘とは認識していないので、省きました
先生、魔術師ではありますが、感性はまだまともなんですよね(真人間ではないけど)
ウェイバーはもっとまとも(まだ魔術師としては半端だし)
2人が魔術師の中では人としてまともながらも、同じ状況の中で抱いた感情の違いを表現したかったです(できてる気がしない)

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