Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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多分またケイネス先生に夢見てる気がする


第19章—もりのなか—

 シオが出ていったのを見送り、ライダーがでは、と手を叩く。

「あやつがキャスター本人、ないし工房を見つけられなかった時の対策を考えるとするか」

「あいつが見つけられないかもしれないって言いたいのかよ」

 むす、とした様子で言葉を返す雁夜。なんだかんだ、彼女の実力は買っているのだ。

 が、ライダーは違う違う、と首を振る。

「あやつの能力について心配はしておらん。だが、その能力の埒外にしか、痕跡が残っておらん可能性もある。探しているのはキャスター、魔術師だ。どうだ、バーサーカーが魔術の痕跡を探せるか?」

 そう言われてしまえば、反論することはできない。彼女が優れているのはあくまでも五感だ、魔力を察知する能力は備えていない。もとより、魔術を知らないで召喚されたのだ、その方面については発展途上である。

 雁夜が黙り込んだのを見て、やはりな、とライダーは笑う。この主従の共通点は、どちらも魔術に関する知識、経験が少ないところだ。その分、一般的な常識だったり、未来の知識だったりと、こちらが備えていない方面での長所がある。

 対して、こちらは魔術的な素養には大変優れているが、一般的な常識に疎く、聖杯戦争を調べるにあたって必要な情報が足りなかった。ある意味この協定は、ウィンウィンの関係なのだろう。

「あいつが痕跡を辿れなかったら、魔術の痕跡を探すとして……。どうすればいいんだ?」

「……あんた、そんなことも知らないのか?」

 聞こえていたのだろう、ウェイバーが静かにツッコミを入れる。雁夜はそれにうっせ、と不機嫌そうに返事を返した。

「なら、魔術の痕跡からの追跡は僕がやろうか?」

「お前が?」

「ほう……?」

 ウェイバーからの提案に、雁夜が怪訝そうに聞き返し、ケイネスからも関心が向けられる。突っ返されると思っていたのか、内心動揺しながらも、ウェイバーは自薦の理由を述べていく。

「だ、だってお前は魔術師のノウハウもないんだろ。で、先生は調査に忙しいから追跡に時間を割くわけにはいかない。僕の魔術は……そりゃ、先生には及ばないけど……追跡くらいならできるからな!」

 ぼそぼそと、途中に何かを呟いていたのは聞こえなかったが、そう言い切ったウェイバーに、雁夜は数瞬考えた後に肯定の返事を返した。

「じゃあ、えっと……ウェイバー、だったか。もしもの時は追跡、頼む」

「時間と手間はかけるな、いいな」

「分かってますよ……」

 厳しい言われ方だったが、頼られることになったのはうれしいらしく、照れ臭そうに頬を染めて、ウェイバーは作業を再開する。

 と、ライダーが次に、と人差し指を立てた。

「キャスターの真名の推測だ。今回の調査で判明すれば良いが、それが出来ないならなんとか推測するしかないだろうな」

「今のところ、幼児が好きで、殺人鬼、キャスタークラスだから生前、魔術に関わりのあった人間ってところか……候補なんてごまんとあるぞ」

「候補だけでも挙げていくべきであろう。ほれ、始めるぞ」

 ライダーに促され、キャスターの候補、その対策をそれぞれ挙げていく。日本をはじめとする東方の英雄が候補から外れるとはいえ、その数はかなり多い。情報がほとんどない今、候補を列挙し、リストアップするしかなかった。

 

 

 

――キャスターっぽいの、みつけた!

――そう、彼女がパスで報せてきたのは、もうすぐ日も暮れる黄昏時のことだった。

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 シオのパスから見えた景色から地形を把握し、素早く準備を済ませた後、ケイネス達三人は戦車に乗って、一方の雁夜はその後を追いかけるように、夜に染まった街を駆けていく。全速力ではないとはいえ、戦車の速さに食らいつく雁夜の速力に、ウェイバーたちは瞠目する。

「なんだあれ。強化の魔術はかけてないみたいだし、あれがアイツの実力なのか?主従揃って人外じみてあだぁっ!」

「これ、同盟相手を罵倒するでない。だが、不可解なのは事実だな。昼間のあやつからは、あんな身体能力は全く感じなかった」

「間桐の修行の成果、と言うわけでもないだろう。それならば他の人間も、あのような身体能力を習得していることになるからな。今夜の件を終わらせた後、聞くとしよう」

 そんな会話は、走る雁夜の耳にもわずかながらに聞こえていた。これなら戦車に乗せてもらった方がよかったんじゃないか、と思うが、いくら同盟相手とはいえ、未だ信頼できるとは思えない相手の乗り物には乗らないと決めたのは雁夜だ。

――こども、いっぱいつれてる。なんか、なかにはいってて、たすけるの、むずかしい

――あと、どっかいってるぞ。もりのほう……ん、へんなバリア?ある!

 発見の一報の後に続けて告げられた報告を思い出し、雁夜は顔を顰める。子どもを何かに利用しようとしているのは、火を見るよりも明らかだった。真っ先に救出したいところだが、彼女単独ではとてもじゃないができない状況。

 厄介な事態を聞き、真っ先に策を練りだしたのはライダーとケイネスだった。ケイネスは行き先にキャスターの工房がある説と、キャスターが見つけた別陣営の本拠地がある説を提示。ライダーはそれに基づき、二手に分かれてキャスターとそのマスターの捕縛、或いは別陣営の説得にあたることを提案したのだ。

 二手に分かれるのであれば、必然的にライダーたちと雁夜達という分け方が必定。だが、雁夜はそれを拒否し、代わりに自分のみがキャスターのマスター、或いは別陣営のもとに赴くことを提案した。

 サーヴァント相手に、戦力は多い方がいい。それが、雁夜の下した判断だった。

 もしキャスターの目的地が別陣営の場合はどうする気だと、ウェイバーやシオから異論が挙がったが、年長者であるケイネスとライダーはこれを承知。結果、雁夜単独で行動することが決まったのだ。

 パスからも感じる、シオの不満げな感情に雁夜は苦笑する。帰った後拗ねていそうだな、と考える位には、まだ余裕がある。気を抜けば、勢い余って地面に転がりそうではあるが。

 冬木の外れにある森。その近くまでくれば、魔術の素人である雁夜にも、何かが張られているのは判別できた。

「お疲れ、バーサーカー」

 言われた通りおとなしく待機していたシオに、雁夜は声をかける。頷くことで返事を返しながらも頬を膨らませているシオは、やはり雁夜の単独行動には異論しかないのだろう。反論しないのは、それが一番とまではいかずとも、正しいやりかただと理解しているという証拠だった。

「やはり人避けと隠蔽、守護の結界が張られているな。悪意ある侵入者に反応し、警報を鳴らす仕組みといったところだろう」

 数瞬の間に、ケイネスが結界の解析を済ませる。

「それなりに強固なものではあるがなに、侵入するくらいならば造作もない」

 そう言うと、ケイネスは携帯してきた魔術礼装を用い、あっさりと侵入を果たす。他の面々が独力で静かに――ケイネス曰くここが重要らしい――侵入できないと見たのか、雁夜達もケイネスの手助けで結界の内側へと入り込む。

 真っ先に見えたのは、聳え立つ大きな城。あんなもの、雁夜は見たことがない。ということは、ここは以前から結界が張られていた可能性が高い。つまり――

「この先にあるのは別陣営の本拠地」

「十中八九、セイバー陣営だろう」

 そう言うケイネスの表情は険しい。雁夜達は知らないが、ケイネスの本拠地を爆破したのはセイバー陣営の人間、衛宮 切嗣だと断定していた。この先に、あんな手段をとった相手がいるのだと思うと、気分が下降するのは仕方ない。本来ならば自分が駆けつけたいところだが、今は現状の打破が優先。自分の精神状態では交渉すら難しいと、ケイネスは冷静に自己を分析していた。

 一方雁夜は、森の中に響く戦闘音を耳にしていた。シオも聞き取ったのだろう、そちらの方面を指さしている。

「あっち、だれかたたかってる!」

 その言葉でもって、双方の行き先は決まった。

「俺は城に行く。セイバーのマスター……アイリスフィール、だったか。彼女なら交渉は簡単そうだ」

「僕たちはあっちのキャスターだな」

「ああ。……間桐、1つ忠告しておこう」

 ケイネスからの珍しい言葉に、雁夜がなんだ?と訊ねる。

「確かにセイバーのマスター相手ならば、交渉は容易いだろう。だが――私の工房をホテルごと爆破した人物が、あの陣営にいる」

「!!」

「マスター自身が納得しても、協力者が納得しない可能性がある。注意しておくことだ」

 そう言う彼の表情や、少し接しただけでもわかるプライドの高さから、ケイネスが他人にその人物の対応を任せることに、納得していないのを感じた。その上で、自分に任せてくれたというのも。

 だから、自分がしっかりと結果を出さなくてはならない。

「ああ、分かった」

 ケイネスの忠告に頷くと、雁夜は城にむかって走り出した。森の中での疾走はまだ慣れない。先ほどよりもスピードを落としながらも、一目散に目的地へと走る。

 それを見送る暇もなく、シオたちもキャスターの方面へと向かう。

「バーサーカー、案内は任せた」

「うん、こっち!」

 シオが走り出す。

「小僧、ケイネス、しっかり掴まっておけ、目的地までまっすぐに向かう」

「は、お前まっすぐってまさか――!」

「さぁ征くぞ!AAAALaLaLaLaLaLaLaLie!」

「おいバカキャスターのところには子どももいるんだぞー!」

 ウェイバーの叫びも、ケイネスの内心の悲鳴もいざ知らず。ライダーは文字通り一直線に、前方を走るシオの後を勢いよく追う。

 

 

 

――月夜の中、形勢を変化させ、聖杯戦争は再び幕を開けた

 

 

 

 




次回、ようやくキャスター戦です

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