早めの昼食を摂っていたころ、それは放たれた。
「教会からの招集命令?何かあったのか……」
教会から上がっている印に、雁夜が首を傾げる。一先ずは話を聞くべきなんだろう、と使い魔を寄越そうと準備をしようとして――なにやら着替えようとしている自身のサーヴァントを目にして、固まった。
「何してんだ、お前」
「ん?おはなしききにいくんだろ?なら、シオのかっこうじゃだめだから、きがえてる!」
「直接行く気か!?」
シオの言葉に頭を抱える雁夜。今から向かう場所には、恐らく全陣営が参加するというのに、わざわざ戦いが起きる可能性がある場所に行く必要は無い。いや、言動に似合わず律儀な部分があるシオのことだ、やりそうな気もするが、それはそれだ。
「バーサーカー、今から行くところには他陣営も来るんだぞ、戦いになる可能性もある」
「え、たたかいって、きほんよるにしなきゃいけないんじゃないのか?」
「確かにそうだが、それを守らないで奇襲する奴もいる可能性もあるだろ」
「まちのなかだぞ、だいじょーぶだいじょーぶ!」
それに、マスターはシオがまもるもん!
自信たっぷりにそう胸を張られると、雁夜も脱力してしまう。彼女のずば抜けた能力は、昨晩確認済みだ。それに、
そんな彼女が守る自分も、もはや半分人ではないのだが。なんて、シオ本人が聞いていたらそんなことない!と否定する思いを抱きながら、雁夜は渋々、彼女とともに教会へ行く準備を始めるのだった。
一方、ライダー陣営も、教会へ行くべく準備を始めていた。
もちろんそれは、教会の招集に応えた形でもあり、聖杯戦争の中断、あるいは調査の協力要請や許可をもぎ取るためである。ケイネスが教会へ向かうということで、ウェイバーもいそいそと用意を進めていた。
午前中に色々と議論を重ねていたが、やはり情報が少ない。一番手っ取り早く聖杯戦争自体に異常がないかを調べる為、聖杯の検分の許可を取るのが大本命。次いで聖杯戦争の停止の判断が下れば上々。最悪調査の要請に応えてくれるだけでも御の字だ。
「今になって思うんだけど、実物も見たことない聖杯を求めて争うって、なんかおかしくないか?」
「見えないからこそ、夢を持たせてくれるものもある。聖杯はそういう存在なのだろう」
ウェイバーの最もな疑問に、ライダーが答える。霊体になるのを嫌う彼もまた、教会へ向かうため現代の服装に着替えていた。
彼の答えにふぅん、と相槌を打つと、ふと思い浮かんだ疑問をライダーに投げかける。
「ライダー、お前はこれでいいのか?」
「ん?どういうことだ坊主」
「このまま聖杯戦争が止まって、もし中止になったらお前の望みは叶わないんだぞ」
彼は世界征服を成したいと言っていた。そのための足掛かりに、今回の聖杯戦争に臨むのだと。だが、聖杯戦争が中止となればそれもかなわなくなる。この戦争の是非は置いといて、ウェイバーはそれが気になったのだ。
だが、そんなマスターの疑問に、ライダーは笑って答えた。
「はっはっは!そんなことを気にしていたのか坊主!」
「う、うっさいな!気になったんだよ」
ぷい、と顔をそむけるウェイバーに、ライダーは一転静かな笑みを湛えて言葉を続ける。
「このままでも構わんさ」
「――!」
「もし此度の聖杯戦争が原因で星が滅ぶのだというなら、それを退けるというのは即ち!世界を救うことだ。どうだ、世界を丸ごと救うなど、これほど胸躍る偉業はあるまいて」
これに加担できただけでも、余は大満足だ。世界征服は、世界が無ければできん事だからなぁ。
英霊となった後にも関わらず、これほどの偉業に関わることができることを、ライダーは喜んでいた。それを、ウェイバーは驚いたと言わんばかりの表情で見ている。
「本当に聖杯戦争に問題があるか分からないのにか?」
「元より余の生前も、その先は見えないことが沢山あったからなぁ。世界が丸であることなども知らぬまま、死んでしまった」
「……」
「なぁウェイバー。お主がどんな回答を期待、あるいは予想しておったかは知らんが、これに携わることはお主にとってもチャンスではないか」
「え?」
「ランサーのマスター――ケイネスだったか――の信を得て、その実力を見せつけるいい機会だぞ?」
もっとも、見せつける実力があるかも問題だがな!
付け加えるように言われた言葉にむっとしながらも、ウェイバーは納得する。そうだ、これはチャンスだ。にっくきケイネスに自分の実力を見せつけるための。
そうと決まれば、さっさと着替えて教会に行かなければ。ウェイバーは準備を再開した。ライダーもその様子に満足そうに頷き、準備を整える。
主従のあたたかな空間が、そこに広がっていた。
「貴様ら……それをわざわざ私の前で言うとはいやがらせかなにかかな?」
――ケイネスが同室で準備をしていなかったらの話だが
―――――――――――――――
教会の招集に応え、使い魔を送り、その様子を見始めた切嗣は見えた光景に頭を抱えた。
昨晩大暴れをしたバーサーカーとそのマスター、ライダーとそのマスターと、何故か――生きているとは思っていたが――ランサーのマスターがわざわざ足を運んでいたのだ。
特に、魔術師然としたランサーのマスタ―、ケイネスが使い魔を寄越さずに直接教会を訪れているのはおかしい。予想外のことが起きすぎて、切嗣は思わず頭を押さえた。その隣では、舞弥とアイリスフィールが心配そうにこちらを伺っている。
「ん?おー、ライダーだ!おまえもちゃんときたんだな、えらいぞ!」
敵であるはずのライダーにも、気さくに声をかけるバーサーカー。その服装は昨晩のぼろ布とは違い、白のシャツに白のショートパンツ、赤のニーハイにスニーカーと、季節に合っていないことを除けば、運動をしに来た少女とも言えなくもない。具体的に言えばそう、野球とか。
「ほほう、バーサーカー達も来たのか!他の者たちと同じように、使い魔を寄越すのみだと思っておったぞ」
そんな気さくな敵ににこやかに対応するライダー。つくづくどちらも大物である、無論、それぞれ別の意味でだが。双方のマスター陣が頭を抱えているのが見えて、思わず同情しかけてしまった。
唯一冷静を保っていたケイネスが、咳払いでもって場を収めると、バーサーカーにいかにも胡散臭そうな笑みを浮かべて話しかけていく。
「貴様たちも来たのはちょうどいい。この会合の後に聞きたいことがごまんとある、付き合ってもらえるかな」
「んなっ、誰がそんなこと、」
「いいぞ」
「バーサーカーっ!?」
敵方にあるにも関わらずあっさりと了承したバーサーカーに、さしものケイネスも驚きの表情を浮かべる。というかマスターの了承なく答えたバーサーカーにライダーのマスター――ウェイバーも瞠目、ライダーに至っては大声で笑い始めた。
「バーサーカー、お前なに敵側の要請に応えてるんだよ!情報がどう悪用されるか分かったもんじゃないってのに!」
バーサーカーのマスター――確か間桐 雁夜――が彼女の肩を掴んで揺さぶる。だがそんなこと別に気にしないとばかりに、バーサーカーは不思議そうに首を傾げた。
「だってマスター、あれ、ハカセのめとにてる。だからだいじょうぶ」
「いや意味が分からん!結論から言う癖をやめてくれ」
雁夜からのお願いに、バーサーカーが説明を始める。……そういえば、バーサーカーは狂化の影響で言語能力や思考能力が損なわれているのではなかったか、なんて今更な疑問からは目をそらすことにした。これ以上頭痛の種を増やしたくない。
「あのめ、おっきなもんだいにふれるときのめだぞ。ハカセがシオのコアをせいぎょするの、がんばってたときのめとおなじ。それにあいつ、もうたたかえないぞ」
「は?」
雁夜の反応を無視し、バーサーカーがケイネスに話しかける。
「なぁ、おまえのサーヴァント、もうこっちにはいないんだろ?」
「――何故分かった」
素直にサーヴァントの不在を認めたケイネスに、ウェイバーもライダーも驚く。切嗣も驚愕していた。聖杯戦争を実質放棄したと言っても過言ではないのだ、あのケイネスが、戦いの舞台から。恐らくライダー陣営とともにきたのは、なんらかのやり方で同盟を組み、護衛としていたのだろう。
切嗣は悔し気に唇を噛む。未だ本拠地の分からぬライダー陣営と合流したのなら、ケイネスの打倒は非常に難しい。やはり昨夜念入りに始末しておくべきだったか、と思うものの後の祭りである。
ケイネスの疑問に、バーサーカーが答える。
「だって、おまえあの、ランサーのマスターだろ?ランサーのあのかんじだと、てきがいっぱいのところにくるのに、ついてこないのおかしいぞ」
言動とは裏腹に理知的な考え、そして理由に切嗣は一気に警戒心を強くする。バーサーカーでありながら、あれほどの知性を持っている。力も知恵もあるのは非常に厄介だ、真っ先に始末するべきだろう。
一方、ケイネスはふむ、と考えて頷いた。
「バーサーカーの癖に随分と賢いのだな。さすがは、星が生み出した守護者といったところか」
「んー、それ、ちょっといやないいかただぞ。シオのことは、シオってよんでほしい」
「――それが貴様の真名か」
「ん」
あっさりと真名を明かすバーサーカー――シオに対し、また雁夜が反発するかと思われたが、至って冷静にしている。何か秘密があるのだろうか。
「ふむ、今度もまた取り乱すかと思ったのだが……そうでもないらしいな、バーサーカーのマスター」
「まぁな。こいつの一人称が自分の名前の時点で、いずれバレるだろうし。第一、こいつの真名から来歴や弱点は絶対に分からない」
「ほう?」
雁夜の発言に、ケイネスが眉を上げる。真名からは何の情報も得られない――これはある意味大きい情報だった。
と、シオが雁夜を引っ張る。
「なーなー、そろそろおはなしききにいかないと、おこられるぞ」
「あー、分かったよ。ったく、なんで敵に情報を渡さないといけないんだ……」
「ふん、私たちも行くとしようか」
「は、はい」
「さて、どうなることか」
シオ達が入ったのを皮切りに、それぞれが教会の中へと入っていく。
――賽は投げられた、どう転ぶかは、カミのみぞ知る
口プロレスがどのくらい書けるかが次の話にはかかっている……!
あとシオは半分勘でランサーがいないと答えてます
服装は懐かしのコラボ服です、あの野球の