Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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今回独自解釈が含まれます

タイムパラドックスって難しいですな


第13章—いっぽうそのころ—

――欠けた夢を見る

 

 もっと、もっと見ていたい。

 光を、闇を。人を、獣を。世界を、自らを。

 この世すべてのものを、見ていたい。

 だが、それは過ぎた願い。とうにこの身は朽ちかけ、今は滅びを待つのみ。

 嗤うしかない。そうであれと願われていたというのに、呼ばれてみればその通りの強さは持たない、かつてのままだったのだから。

 嗤う、人々の愚かしさを。嗤う、愛おしい人々のことを。もはや己にはそれのみしかできないから。

 だが、もし叶うならば。

「もっと、世界(自由)を知りたかったなァ……」

 

 

 

――欠けた夢を、見ていたらしい

 ぱちり、と、目を開ける。起き上がり、窓の外を見ることで大体の時間を推測する。やっと、夜が明けたころだろうか。そろそろ朝食を作らなくては、彼らが起きてしまう。

 こそこそと足音をたてないように部屋を出て、台所へと向かう。その道中、ふと不思議に思った。

 何故寝てしまい、夢まで見たのだろう、と。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 アイリスフィール・フォン・アインツベルンはひたすらに困惑していた。

 昨晩の戦い――実質聖杯戦争初戦のあの戦いで現れた、抑止力だというバーサーカー。

 あの後、セイバーに訊ねてみたが、彼女自身もあまり知らない、といった様子だった。

「申し訳ありません、アイリスフィール。わたしは正式な英霊ではないためか、サーヴァントとしての知識が乏しいのです」

 ただ、とセイバーは続ける。

「大凡の推測は出来ます。おそらく、抑止力とは世界にある安全装置と呼べるものなのではないでしょうか」

「安全装置?」

「はい。世界が危機に瀕した際に発動する、防衛機構と呼べるものかと」

 セイバー自身、この聖杯戦争に呼ばれるために、世界と呼べるものと契約を交わしている。世界に――明確にかはさておき――意思のようなものがあると仮定すれば、そんなものがあってもおかしくはないと、セイバーは考えていた。

 だが、直感が別の何かを告げている。あれはよくないものだ、世界を滅ぼしかねないものだと。この直感を根拠にするならば、あれは安全装置でも何でもなく、ただの破壊機構と言えるものである。だが、そうなるとあの場でわざわざアーチャーが嘘を言ったということになる。短い時間だけとはいえ、あのアーチャーが嘘を言うとは考えられなかった。

「ただ、推測で物事を考えるのはよくないことだと思います。アインツベルンの城になら、資料があると思うので、そちらから資料を取り寄せるべきかと」

「そうね。切嗣にも相談して、一度連絡をとって取り寄せましょう」

 直感による警告については告げず、セイバーはアイリスフィールに助言をする。この胸の悪い予感が、何を示すのか。アーチャーの言葉が正しくて、自身の直感が間違えているのか。複雑な疑念を抱きながら、セイバーは今日も、聖杯戦争に挑もうとしていた。

 

 

 

 

 遠坂 時臣は思考していた。聖杯戦争の資料に一通り目を通してみたが、過去において抑止力の使いらしきサーヴァントが召喚された例も、介入された例も確認されていない。念のため、前回に関しては監督役を務めていた言峰 璃正に訊ねてみたが、やはり抑止力のような、強い何かはなかったという。

 ただ。

「前回で今までと違った点として挙げるのであれば、アインツベルンがイレギュラークラスを召喚していたことでしょうな」

「アヴェンジャー、でしたか」

 だが、それはあくまで前回の話。アヴェンジャーが現れたのが問題だったのなら、前回に現れている方が自然である。

 この件は関係ないだろう、と時臣は結論付け、さらに調べを進めることにする。

「抑止力の使いであったとしても、今はサーヴァント。聖杯を手に入れるうえで、倒さなくてはいけない敵だ」

 目的は不明。もしかすると、自分が根源へ至るのを阻止するためにやってきたのかもしれない。発動するタイミングが少々おかしい気もするが、その可能性も高いと考えながら、時臣は対策を考え始めていた。

 その後、相変わらず好き勝手しているアーチャーの豪遊っぷりをアサシンの報告で知り、頭を抱えることになるのだが。

 

 

 

 

 雁夜とシオ、そして鶴野は顔を合わせていた。桜には自習と伝え、昨晩のことを含めて話し合うためである。シオが話していなかったことについて、さらに詳しく聞くためでもあった。

「――昨晩については、以上だな。まさかアーチャーに、初見でいろいろバレるのは予想外だ……ちっ、時臣の奴とんでもないの呼び出しやがって」

「マスター、どうどう」

「俺は馬じゃない。で、こいつがまだ話してないことについて詳しく話すのに、兄貴も呼べとうるさいからこうなった」

「ビャクヤもだいじなナカマだもん!」

「あーはいはい」

 ここ数日で案外仲良くなってきたな、と思いながら、鶴野は黙って先を促した。彼らに付き合っていたら何度話が脱線するか分からない。主にシオのせいだが。

「で、バーサーカー自身は抑止力とかいうのに心当たりはあるのか」

「あるぞ!ずっとまじゅつしのべんきょうしてたから、しってた!だからびっくりしたぞ」

「なんで驚いたんだ」

「んと、アーチャーが、シオがそれとほぼおなじだって、きづいたこと」

「……抑止力じゃないのか、お前」

「いまはヨクシリョクじゃないぞ」

 今は抑止力じゃない。

 妙に引っかかる言葉遣いに、雁夜も鶴野も眉間にしわを寄せる。そんな2人に対し、シオはいつものように、はきはきと答えを述べていく。

「マスターにはあのあといっただろ、つかえないホウグ。あれが、シオがトクイテンのアカシだって」

「特異点は、ノヴァとかいうアラガミのコアを指してるんだったか」

「だぞ。で、このノヴァが、シオがみにつけちゃったホウグ、《しゅうえんのケモノ》のオリジナルだ」

 それで、ノヴァが、アーチャーのいってたヨクシリョクのゴンゲ。

「ノヴァは、アラガミのなかでもちょっとちがうんだ。トクイテンをかくにして、ホシぜんたいをイタダキマスして、せかいをのみこむ。そのあと、イノチをくばりなおして、また、セカイをつくりなおすんだ」

 ホシのヨクシリョクなノヴァは、ホシにとってえらくないことがおきないと、ぜったいにはつどうしない。そう説明するシオ。あくまでノヴァはカウンターであり、アラガミの出現で、緩やかな絶滅が決まりかけていたあの世界だからこそ、発動した存在だと。

「アラガミをうみだしたのはホシだ。でも、それはミライのはなし。こっち、このじだいでアラガミをうみだすのはできないぞ。だって、まだホシはおこってないからな」

 星の意思が動かないなら、抑止力の力は発揮されない。そう、シオは言いたいのだろう。ここまでは分かった、だがまだ、彼女が今は抑止力ではないのかがわからない。

「なんで、今のお前は抑止力じゃないんだ?」

「だって、このじだいにはノヴァ、いないだろ?」

 あまりにもあっさりと、当たり前のことのように告げられた言葉に、思わずはっとする。そう、アラガミは彼女しかいない。ならば、彼女をコアとしたノヴァが起動することはあり得ないのだ。

 だが、懸念事項はまだある。それならば、彼女が持つ宝具が発動すれば終わりではないか。

 その疑問を察したようで、シオは首を横に振った。

「シオのホウグ、つかえないぞ」

「なんでだ、こっちでも星の抑止力がそうしろって言ったら、できるかもしれないじゃないか」

「ううん、できない」

「……なんでだ?」

 納得いかないと言いたげな雁夜を制し、鶴野が訊ねる。その言葉に、シオはだって、と言葉を発する。いつものように、当たり前だと言いたげに。

「だって、シオはいまサーヴァントだぞ。そんなおっきいチカラつかったら、このじだいのヨクシリョクにけされちゃう」

 シオを生み出したのは、あくまで未来のガイアである。この時代のガイアは、アラガミを生み出してすらいない。それゆえに、彼女を使役することはできないし、むしろその権能をシオ自身の意思で――万が一にだが――発揮しようとしたら逆に、この時代の抑止力に排斥されてしまうだろう。

 ガイアの中には時間の概念がない、と言う可能性も否定できないが、今現在宝具が封じられているのを鑑みるに、この聖杯戦争で使えばどうなるかはわかり切ったことであった。だからこそ、シオはサーヴァントである今は、抑止力の使いではないと言い切ったのだろう。

「だいたい、ミライにいるシオがやってきて、かこをどかーん!ってつくりかえたら、シオのいるじだいがへんてこになるぞ、パラドックスしちゃうぞ」

「正確にはタイムパラドックスな。あー、そう考えると確かに納得できるな。今年で世界が終わったら、バーサーカーが生まれなくなって矛盾が生じるのか……」

 思わず納得し、雁夜も鶴野もシオを見つめる。やはり彼女、知性だけはきっちり成人している。それなのにこの言動なのはどうにかならなかったのだろうか、教育した人間よ。

――どこか遠くから「仕方ないじゃないか」という抗議の声が聞こえた気がしたが、さすがに気のせいだろう

「よし、バーサーカーについては、この位にしておくか」

「次は何を話し合うんだ。そろそろ酒飲みたい……」

「ビャクヤ、もうちょっとだけガマンだ、な?」

 鶴野の言葉を無視し、次はサーヴァントについてだ、と雁夜が口にする。その手にあるのは、今日起きてから調べ上げた、サーヴァント達の資料だ。きっちり3部あるそれに、シオがにやにやと嬉しそうに笑みを浮かべているのをよそに、雁夜はさっさと配り、説明を始める。

「ライダーは言わずもがな、イスカンダルだ。アレキサンダー大王とも言うな」

「カミサマのにおい、ちょっとだけした」

「ダレイオス三世との因縁があるやつか」

「まぁな、詳しいのは後にする。次、セイバーなんだが……見た目が騎士、見えた剣が星によってもたらされた兵器、ってのでとりあえず、神話とか逸話に似た剣がないか探してみた。黄金の刀身は特徴的だったし、隠していたということは、あれが真名に直結するものだと思ったからな」

「で、結果は」

「ビンゴ……でいいんだろうな。アーサー・ペンドラゴンの持つ、エクスカリバーがヒットした。あいつ見た目は女だったけど、色々あって男装してたんだろうな。あの恰好、堂に入っていたし」

「セイバーもおうさまなんだな!」

「恐らくは。で、最後にランサーだが。黒子に赤と黄色の二槍で探してみたら、見事ヒット。ディルムッド・オディナが引っかかった。こいつは――」

 細かい逸話を説明し、3人で話し合いを重ねていく。それが中断したのは昼頃、ご飯だよと桜が呼びに来た時だった。




冷静に調査させたら、ルポライターな雁夜おじさんの情報収集力は上位に喰い込むと思うの

前回までのケイネス先生に夢見過ぎ回、好感触ばかりでちょっとうれしかったです

一番の難所はやっぱりシオが抑止力として動かない理由を考えるのががが

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