Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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ケイネス先生に夢を見過ぎている第2章


第12章—せんせいとせいと—

 ようやく夜が明けるという時、ウェイバーは混乱していた。

「ふむ、旅行の折、教え子が祖父母の家に滞在していると耳にして来てみましたが、まさかこんな早朝にも関わらず顔を合わせてしまうとは思いませんでした。実に健康的な暮らしをしているのですね」

「あらあらケイネス先生ったら、そうおだてても紅茶とお菓子しか出ませんよ。……時に、学校での孫の様子をお聞かせ願えませんか?」

「ふむ、ではこの前提出してもらったレポートについての話でも……と、やぁウェイバー君」

「な、」

 早朝から騒がしいなと思い、今だ眠気が取れないままに一階へ降りてきてみたら、どうだ。自分のことを孫だと暗示で思い込んでいる老婆――マーサ・マッケンジーと共にいるのは、本来なら敵対している相手。

「あらウェイバーちゃん、もう起きてしまったの?昨日は遅かったみたいだから、寝ていてもよかったのに」

「え、あ、うんそれは大丈夫、自然と目が覚めたし……ってそうじゃない!」

 マーサの言葉についいつもの調子で答えるも、すぐに気を取り直して件の人物を指さした。

「な、なんでケイネス先生がいるんだよー!!」

 ウェイバーの叫びにマーサはあらあら、と困ったように呟き、ケイネスはしてやったりと実に癪に障る笑みを浮かべていた。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 朝食を済ませ、自室に戻ってきたウェイバーは頭を抱えていた。自室で珍しく待機していてくれたライダーが、おや、と首を傾げる。と、その後ろから入ってきた人物に目を細めた。

「おぬしは誰だ?見たところ魔術師のようだが」

「この馬鹿が聖遺物を盗まなければ、貴様のマスターになっていた者だ」

 ふん、と鼻を鳴らしながら答える男――ケイネスに、ほう、とライダーが感心したような声を上げる。

「わざわざ敵の本拠地にやってくるとは、昨晩隠れておった臆病者とは思えんな」

「事情が変わったからな。籠ってはいられなくなった」

 実際、籠っていられなくなったのは事実だ。拠点を無くしたのだから。

 昨晩、ソラウとランサーをイギリスに送り返すため、いち早く冬木市を脱出させたが、その参加者らしくない動きを悟らせないために、ホテルにはダミーをしかけ、細心の注意をもって行動していた。天才と謳われたケイネスにとって、自分たちの気配や姿を完全に隠匿するのは、特性の礼装を駆使すれば容易いことだった。

 それが功を奏したのか、はたまた勘付いた上で、拠点を潰すのみでも良しと考えたのか、戻ってくると拠点としていたハイアットホテルは炎に包まれていた。自分があのままあそこにいたのなら、今さっきまで使っていた礼装の大半を失っていたのだと考えるとぞっとする。天才は運すらも味方につけるというが、まさに九死に一生を得た感覚だった。

 敵の拠点を、魔術師らしからぬ手段で破壊するものがいる――

 ホテルの原因が爆発物だと知った時、ケイネスはそう思い知った。これは神聖な儀式ではない。目的のために、卑しく景品を争う戦争なのだと。

 ソラウを帰らせたのは本当にいい決断だった。ランサーが彼女のそばにいるのが気に喰わないが、状況を鑑みればベストな選択だ、仕方ない。時計塔に帰還したら真っ先にランサーに誅罰をくわえよう(八つ当たりしよう)、そう心に決めた瞬間でもあった。

「で、でも先生がどうしてここに……はっ、ランサーもまさか一緒に」

「やつならソラウと共に、今頃は飛行機の中だ」

「――はっ?」

 予想外の言葉にウェイバーが声を上げ、ライダーもまた驚愕の表情を浮かべている。それもそうだろう、聖杯戦争における唯一の戦力を手放したのだ、参加権を放棄したようなものである。触媒である聖遺物をわざわざ用意していた人間とは思えない行動だ。

 2人の反応など知ったことではないといった様子で、ケイネスは話を続ける。

「抑止力が出てくる事態、それも状況がかなり特殊だ。今すぐにでも聖杯戦争を中断したいくらいのな」

「ちょ、ちょっと待ってください!そもそも抑止力ってなんですか!」

 ウェイバーの言葉に、お前そんなことも知らないのかと言いたげな視線が向けられる。それに窮しながらも、ウェイバーは再度同じ質問をした。嫌味の1つでも返ってくるかと思われたが、そんな暇もないらしく淡々と説明が始まった。

「抑止力は人類、あるいは星が持つ集合無意識が作り出した安全装置だ。ふつうは目に見える形では現れないが、ごくまれに我々にも目に見える形で現れることがある。精霊種や守護者などがこれだ」

 星の集合無意識――ガイアと、人類の集合無意識――アラヤ。この2つはともに、星、あるいは人類の現在を守るために抑止力を発動する。

「魔術師が根源を目指し、到達するとほとんどの場合抑止力が発動する。これは根源を目指す魔術師ならば常識だ、覚えておくことだな」

「は、はい」

「ふむ、余たちの英霊の座が置かれているのはガイアだな」

「貴様たちサーヴァントも、見方を変えれば精霊種に近い」

 ライダーのぼやきに反応を返し、ケイネスは話を続ける。

「抑止力が出てくるということは、この儀式に何かしら致命的な欠陥――それも、星の根幹に関わるような事態が想定される」

 ケイネスの言葉に、ウェイバーの顔から血の気が引いていく。自分の実力を見せつける為だけに来たというのに、とんでもないことが起きるかもしれない、だなんて想定もしていなかったのだ。

 反面、ライダーはいつも通り落ち着いた様子で、ケイネスに質問を投げかける。

「のう、抑止力はカウンター、つまりは起きた事態に迅速に対応する存在ではないのか?今現在、何かが起きているようには思えなんだが」

「そこだ、そこが問題なのだ。どうやら君よりサーヴァントの方が頭の回転が速いようだな」

「うぐ」

 嫌味にもとれる正論に、言い返す言葉が見つからずに沈黙するウェイバー。ようやくいつもの調子を取り戻してきたケイネスを睨みながらも、情報を聞き逃すまいと集中する。

「抑止力はあくまでカウンターだ。だがアーチャー曰く抑止力の権化だというバーサーカーは召喚されている、()()()()()()()()。その理由を答えよ、ウェイバー君」

「え、えっと、ことが起きてないのになぜか抑止力の使いがいるんだろ。だから、もうすでに手遅れな事態が目に見えないところで起きている……とかですか?」

 ウェイバーの答えにケイネスは「25点」と厳しい評価。む、っとするウェイバーを無視し、さらに説明を重ねていく。

「それも、想定される事態の一つだ。これを懸念して、私はソラウ達を時計塔へ帰したのだからね。

 だが考え方を変えてみろ、アーチャーはあれが『抑止力の権化』としか言っていない。()()()()()()()()()()()()()()()()。第一、奴は敵だ、一から十まで飲み込んでしまうのは些か軽率すぎる。抑止力が発動しているのなら、バーサーカーを真っ先に潰せと言うのもおかしいものだ。星の根幹に関わることだというのに」

 淡々とおかしな点を指摘していくケイネス。その様子はさながら、教え子に解説する先生のようだった。実際先生と教え子なのだが。

「さらに言えば、抑止力が発動し、あのバーサーカーが召喚されたにしても、サーヴァントとして正式に参加しているのは割に合わない。もし聖杯戦争に問題があるのなら、外部から介入し、聖杯そのものを破壊すればいい。アレはアーチャーの宝具を喰らっていた、そのくらいは出来るだろう」

「しかし、バーサーカーは正式なサーヴァントとして参加しておる。そこが抑止力の本懐を達成するのなら矛盾している、とお主は思っているのだな」

「……ライダー、今からでも私に乗り換える気はないか。話が早くて大変助かるのだが」

「残念だが昨晩にその話については結論が出ているなぁ」

「ちぃっ……!」

 わぁケイネス先生がすごい目で睨んできてる。ざまぁと言いたいが、言ったら言ったで何されるか分からないので黙ることにしたウェイバーであった。

 数瞬、蛇蝎のごとくウェイバーを睨んでいたケイネスだが、咳ばらいを1つし、気を取り直して説明を再開する。

「想定される事態としては、先ほどウェイバー君が挙げた『水面下で事態が進行している説』、そして『バーサーカーのマスターが意図的にアレを召喚した説』、最後に『聖杯が招き入れた説』だ」

「聖杯が!?」

「この戦争の始まりの御三家はアレを無色の願望器と謳っているが、アレのような規格外が現れているのだ。何かしらの異常が起きており、それを解決するために聖杯自らが招いた可能性もある」

 まるで聖杯自身が意思を持つかのように話すケイネスに、ウェイバーはついていけない。ケイネスはそれを察してか、溜息交じりに説明をくわえる。

「私とてこの推測は馬鹿馬鹿しいと考えている。……が、ことがことだ、どんな下らん可能性も切り捨てられん」

「うむ、その姿勢は実にいい。この国には百聞は一見に如かずという諺があるというが、何事も確認するまでは正解は分からん」

 ライダーからの賛辞を気にも留めず、であるから、とケイネスはウェイバーを見る。

「この聖杯戦争に何かしらの異常がないか、時計塔から援軍が来るまでに事前に調べておく必要がある。だが、そうちょこまかとマスターが単独で動いていれば狙われる可能性が高いうえ、私1人では扱える量が限られる。そこで、君を探しに来た」

「ぼ、僕ですか?」

 ウェイバーの言葉に、実に不本意だがな、と苦虫を百匹は嚙み潰したような表情で言うケイネス。自分の力ですべてやりきれないのが悔しいのかもしれない。

「参加者の中で面識があるのは君くらいだからな。ライダーという強力なサーヴァント(護衛)もいる。助手としては……実力が伴わないが、まぁいないよりはマシだ。及第点としておこう」

 つまり、聖杯戦争について調べる間、助手兼護衛として協力してほしい、と。

 状況が状況なだけに妥当な判断なのだが、それでも助手と言う立場に――苦手な教師だとしても――立てるのは誇らしい。貶されていたがそれはそれだ、今回は気にしないことにしよう。

「分かりました、助手兼護衛、引き受けます」

「ふん、当然のことだ。この私が頼んでいるのだからね」

 あ、やっぱりこの人気に喰わない。そう思ったウェイバーだった。

 

 

 

――ライダー陣営、ケイネスと同盟締結

 

 

 




「時にウェイバー君」
「なんですか先生」
「この家、空いている部屋はあるかね」
「たぶんいくつか……ってまさか!」
「護衛と離れて暮らす者がどこにいる。狭い屋敷だが仕方ない、私もここに住もう。交渉は任せた」
「うそだろおおおおお!?」


そんな会話があったかもしれない

前話では色々とツッコミありがとうございました
そのおかげで設定が固まってきた気がします

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