Fate/GODEATER   作:ユウレスカ

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最後らへんスマホで編集したので多少表記揺れがあります


表記ゆれ訂正しました


第8章—ココロのなか—

 ――気が付くと雁夜は、見たことのない場所にいた。

 鉄板のようなもので四方を囲まれた一室。出入り口は1つで、室内にあるのは簡素なベッドと、壁に取り付けられた棚。そして小さな冷蔵庫のみだった。無機質なそこは、どこか囚人を収監する部屋にも思えてくる。

 間桐の家を出た後も、もちろん戻った後も見たことのない部屋に、雁夜は戸惑いを隠せない。そもそも何故、自分はここにいるのだろう。記憶を遡ろうとするが、何故かよく思い出せない。何か、大切なことをしていたような気がするのだが……。

 頭を悩ませていても仕方ない。雁夜は一先ず、部屋を出ることにした。

 部屋を出たところにあったのは、見たことのない機器がひしめく場所だった。アニメや小説なんかで見る、近未来的なラボのようにも見える。まだ貴重な機材である、PCをさらに発展させたような機器もあるが、この部屋にも誰もいない。

 出入り口は、今自分が出てきたところ以外にもう2つあるようだ。真正面に1つと、機材を挟むように自分が出てきた扉の()()に1つ。恐らく()()の部屋は先ほどの部屋と同じだろうと考え、真正面の扉からまた外に出る。

 部屋を出ると、そこは廊下だった。カーペットが敷かれたそこから、真正面に工事現場のそれを思い起こさせるエレベーターがある。部屋は他にエレベーターに向かう途中に両側に1つずつ。

 ここまで見ても、雁夜にはここがどこだか分からない。だが、何故だろう――ここを、懐かしいと思ってしまう何かがあった。

 両側の部屋を確認しようと、最初に左手の扉に手をかける。

「……ん?」

 鍵がかかっているのか分からないが、何故か開かない。右の扉も確かめてみたが、開くことは無かった。どういうことだろうと思いつつ、雁夜は他の空間の探索をすることにする。

 エレベーターに乗り、どこへ行こうかと考え――る前に、自然と手が1つ上の区画のボタンを押す。

 ――あれ?

「俺なんで、今押したのが1つ上の区画だってわかったんだ?」

 疑問が浮かぶが、それを考える間もなく、エレベーターが到着する。開いた扉の先に会ったのは、先ほどのとよく似た廊下。部屋の配置も同じだが、扉の形状が違う。それもそうだ、ここは●●●たちの――

「待て、●●●って誰だ」

 頭を横に振って、変な思考を振り払う。どうにも、ここに来てから妙な感覚に襲われる。早くここから出て、戻らないといけないのに。

 ――もどる、どこへ?

 どこへ。応えようとして、先ほどまでしっかりと思い浮かべていた帰る場所が、思い出せないことに気づいた。かすんだように、しっかりとつかむことが出来ないのだ。なんだ、ここに来てから妙なことばかりが起きている。

 ――ここにいつきたの?

「いつ、ってさっき来たばっかりだ」

 そう、先ほど来たばかり。あんな変な部屋で起きて、状況が読めないから、この無人の施設を探索している。

 ――じゃあ、なんであなたはあのへやにいたの?

「連れてきたやつが運び込んだんだろ」

 そうでなきゃ、説明がつかない。

 誰と話しているか、そも誰もいないのに会話をしているという異常事態に気づかず、雁夜は探索を再開する。まずは向かって右手の部屋だ。

 モダンな一室。とくにこれといって特徴はないが、清楚な感じを受ける室内だ。ソファとベッド、そして隅にはターミナルが――もはやなんで名称がわかるかは無視する――設置されている。窓を模したスクリーンには青空の映像が映し出されており、ここが地下とは思えない。●●●らしい、大人な女性を思わせる自室だ。

「だめだ、なんだこの感じ」

 先ほどから入ってくる、身に覚えのない知識やキオク、そして人の顔。それにだんだん自身が侵食されて行っているようで、酷く恐ろしい。

 ここに長居をしていたら、自分が自分でなくなるのでは――そんな予感すら胸をよぎる。早く出口を探さなくては。立ち上がると、雁夜は●●●の部屋を後にした。このフロアにあるのは神機使いの部屋だけだ、アナグラの外との出入り口はエントランスのみ。侵食されるのは恐ろしかったが、自分が自分であるうちは、この知識は存分に活用できた。

 エレベーターに駆け込み、一番上のボタンを押す。早く、早く。帰らなくてはいけない、待っているのだ、あの子が。帰る場所は思い出せなくなったが、待っている人物もかすんできたが、それだけはしっかりと覚えていた。

 エントランスに到着する。出発ゲートは右斜め前にある、あの巨大な扉だ。あそこから外に出れば――

 ――ガキンッ、と音がした

「――え、」

 扉が、開かない。

「嘘だろ、なんで!」

 もう一度力いっぱい開こうとするが、びくともしない扉。なんで、ここからいつも●●たちはデートに出かけていた。ここからなら出られると思ったのに、一体どういう事だ。分からない、分からない。

 どうすればいい。いつも頼りにしていた●●●はいない、ふざけあっていた●●●もいない。それにそれに――

「くそっ、黙れ!」

 頭に浮かぶ、別人の思い出と考えに、思わず自身の頭を殴ってしまう。痛みで頭が揺れるだけで、しかし見知らぬ誰かの思考は止まらない。

「なんだよこれ……誰なんだよお前は!」

 叫ぶように怒鳴るが、無人のエントランスに●●の声がむなしく響くだけで、反応は返ってこない。

 帰らないといけないのに、帰らなくてはいけないのに。ここから出られないなら、どうしようもないじゃないか。

 ――一旦落ち着こう。もう一度、自分がいた部屋に帰るのだ。そこにもしかすると、手掛かりがあるかもしれない。

 ふらふらと頼りない足取りで、●●はエントランスを後にする。エレベーターに乗り、ラボラトリの区画を選択する。ふと、もう自分の名前すら思い出せなくて、恐怖を覚えた。時間がない、なのに、出口がない。いっそ、寝て忘れてしまおうか。そんな考えがよぎった、その時だった。

 ――……じ……

 ふと、誰かの声が聞こえた。立ち上がり、到着したラボラトリの区画に降りて声の主を探す。だが、そこには相変わらず無人の廊下が広がるだけ。

 ――お……さ……

 また、声。後ろから聞こえる。ということは――

「別の区画か!」

 エレベーターに再度乗り込み、すぐにボタンを押そうとはせず、また声が聞こえるのを待つ。

 ――し……か…………て、おじ……ん

「下……確か●●●が大事なものがあるって言ってた場所か」

 下の方から聞こえてきた声に、迷いなく最下層の区画を選択。何故か押すときに指が震えたが、それを気にする暇もない。

 あの声の主を探さないといけない。きっと寂しがって、いや、そんなことを思う心もなくなってしまっているだろうけれど、見つけないといけない。いなくなるのは嫌だ、と言っていた。そばにいると決めたんだ。あの子との小さな約束すら、守れなくてどうする――!

 最下層、開いた扉の向こう側は、暗闇だった。

 ――いや、暗闇ではない。何かが蠢いている。これは、●●もよく知っている、いつもこの大群がいる蔵に放り込まれて、あの子もこれの中に放り込まれて。

 そうだ、ここは、

「蟲蔵……」

 そうだ、蟲蔵だ。だが、気のせいだろうか、いつも入っていた蟲蔵より、蟲の数が何倍にも膨れ上がっているように思える。

「カッカッカ、まさか怖気づくことなく、ここまでお前がたどりつくとはなァ」

「な、お前は!」

 突然、蟲の大群の中から、嗄れた翁の声とともに、見覚えのある人物が現れた。彼は――そうだ、彼は自身の父親だ。だが、何故彼がここにいる、だってこいつは●●●●●●に体を壊されたはず。

 そんな●●の考えを悟ったのか、彼は下卑た笑みを浮かべる。

「どうやってここを見つけたかは知らぬが、ここは出口であると同時に、お前の恐怖の象徴だ。蟲による陵辱はかなり堪えていたようじゃなァ、これほどまでに蟲が増えるとは思っていなかったぞ」

 そう言って高笑いを上げる男。つまり――つまり、今目の前にいる男も、●●の恐怖の象徴、と言う事なのだろう。事実、今現在自身の足は震えている。

 何故自分はここにやってきたのだろう。一度は逃げた場所だというのに、何故。また、記憶がかすんでいく。

「わしも現実のやつよりは非情ではない。おまえがここを去り、どこかで眠りにつくというなら、何もせず逃がしてやろう。どうだ?安らかな休息が与えられるぞ?」

 提案されたそれは、とても魅力的なものだった。今戻れば、蟲に貪られる恐怖を味合わずに、ゆっくりとした休息を与えられる。何もしなくていい、ゆっくりと休める。頭の中で騒ぐ見知らぬ思考からも、見覚えのない空間の恐怖も、何もかも忘れられる。

 思わず、頷きそうになった時だった。

 ――おじさん

「!!」

 声が、また聞こえた。先ほどよりずっとはっきりと、幼い少女の声が聞こえた。

 ――おじさん、いやだよ

 また、同じ声が。

 ――いっしょにいなきゃ、いやだよ

 紫色の髪の、あの子が。

 ああ、元の黒い髪、綺麗だったのに、蟲蔵に入れられたせいで、見た目も、心も汚されて。

 ――おじさん、●●●とのやくそく、守ってよ

 あの子が、明確に願望を口にするのは、初めてじゃないだろうか。

 ああ、初めてだ。あの子が、大切な子(さくら)が、明確に望みを口にしている。

 何かが晴れていく。

「そうだ――思い出した」

 バーサーカーに、体を治すための偏食因子というのを注入されたんだ。壊れた体を治して、桜のそばにいるために。死ぬ可能性があるとか、アラガミになる危険性があるとか言っていたけれど、もしかするとここは、自身の――雁夜の心の中と、アラガミの心の中が混ざった世界か。

「ありがとう、桜ちゃん」

 小さな声だったが、それのおかげで、彼は思い出した。あの蟲蔵に入ることへの恐怖なんて、全部覆い隠してしまっていたんだ。彼女を――桜を救い出すという願いが。

 もう、大丈夫。

 一歩踏み出した雁夜に、男――臓硯の姿を模した何かが驚き、声を上げる。

「ほう、正気か雁夜!蟲蔵で自身の体を貪られる痛み、恐怖!忘れたとは言わせぬ!」

「忘れてないさ――忘れるもんか」

 むしろ、忘れられないからこそ、雁夜は多少正気を失っていた。それは多分――今も。

 冷静な今だからこそ、桜のこと以外が多少かすんでいる今だからこそわかる。●●(桜の父)を殺すということの愚かさを。だがそれも、きっと目覚めてしまえば忘れてしまうのだろう。それを止められるのはきっと、自分の周囲の人間だけだ。

「でも、それを乗り越えてでも守りたいものがあるんだよ、くそ親父!!」

「ぐぶぉっ!?」

 臓硯とのすれ違いざま、きつい右フックを食らわせる。予想していなかったのだろう、臓硯はモロにそれを受け、蟲達の中に突っ込んでいった。予想外のアグレッシブさに驚いたのか、蟲達が動かぬ間に、雁夜は走り出す。

 光は見えない。どこまで行けばいいかも分からない。だが――不安はない。桜の声が聞こえる、その方向へ走ればいいのが分かる。

 段々と、意識が黒く染まっていく。ああ、やっと出られるのか──そう確信した雁夜の耳に、臓硯の声が聞こえてきた。

「ハッ、1度逃げおおせただけで安心するでない。アラガミ(ワシら)はいつもお前の体を狙っている。それをゆめ、忘れぬようにな……」

 そんな言葉を最後に、雁夜の意識は無くなった。

――次に起きたら、桜とバーサーカーに、礼を言わなくちゃな……。




愛は偉大だよねって話

どっかの変人だって王妃への愛で獣にならずに済んだんだもの、この位の奇跡、起きていいじゃない、ってスタイルです

ちなみに本来のシオの部屋には、偏食因子から入り込んだアラガミがいて、雁夜が起きてからは博士の研究室に待機してたとかいうどうでもいい裏話
諦めた瞬間badendでもありました、テヘ☆

三日目を次に描写して、さっさか倉庫編へ飛ぶ予定です

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