異星艦娘と新任提督(事務員)   作:対艦ヘリ骸龍

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更新遅れました。



それでは第二十五話です。どうぞ!


第二十五話  異質

「感情リソースってなんですか?」

 

「「は?」」

 

「いやそれ何なんです?」

 

「何って……艦娘の感情を表すための演算機能だろ」

 

「はい?」

 

 

どうやら行き違いが生じているようだ。そう判断した神崎と常陸。まず常陸に説明を求めた。

 

 

「俺達は、俺達自身を、軍艦に搭載されていた戦闘用人工知能が実体化したものであり、この姿は対人インターフェイスだと考えている。演算領域はつまりその人工知能の演算能力を表す。」

 

「その一部を利用し、人間同様に感情を作り出す。その部分を感情リソースと呼ぶ。この感情リソースの容量は馬鹿にできなくてな、カットするだけで戦闘効率は跳ね上がる。普段は余りの能力だけで艤装の操作、つまり戦闘を行っている」

 

「では、拡張領域はどうなのでしょうか?」

 

「戦闘用人工知能の戦闘ログ及び人工知能本体のデータが入っている。ほとんどの艦はそれで完全に埋まってしまうが、霙級と多重艦は違うな。特に須磨。アレの拡張領域はおかしい」

 

それを聞いて、神崎は唖然とした。当たり前だ。自分が知っている艦娘の演算領域とあまりにもシステムが違いすぎる。

 

彼が言った言葉を噛み砕いて端的に言うならば、普通の艦娘は、人間素体であるのに対し、彼等は、生体ロボット──アンドロイド素体に近いということだ。

 

普通の艦娘は、感情を含め、通常の思考も戦闘時の思考も全て体に付属する。そして、戦闘の際に艤装を動かす時の計算のみ、演算領域に頼る。拡張領域とは、所謂超過装備──大和型や長門型以下の試製51㎝連装砲など、本来の兵装とは異なる装備の時にのみ利用される領域であり、普段はまず埋まらない。

 

一方で常陸達は、全ての思考を演算領域に頼っている。それは前前世が、人工知能搭載戦闘艦という特異な形態だったからだろう。艦娘となってもそういう設定まで反映されているのだ。そしてそれは演算領域全てが普段から埋まるという結果をもたらした。

 

つまり彼等は、本来の兵装しか装備出来ないと言うことだ。

 

須磨の拡張領域がおかしいというのは、おそらく彼女が試験艦──それもほとんどの装備の試験が可能な軍艦だったからだろう。元から多種の兵装が装備可能なら、人格や感情など全て格納しても、余裕があるのだろう。

 

 

そう言えば、と神崎が思い出す。いつの間にか、門で陸軍と睨み合う部隊に機動戦闘車に似た車両や、見たことのない戦車が加わっていたな、と。そして初日に、須磨がそれを展開させたことも思い出した。

 

 

……海軍の軍艦が陸軍の、しかも陸戦用装備を搭載し、装備できるのはどうかと思うが。

 

ともあれ、つまり彼等は、異質な存在であると分かった。

 

現行の艦娘では勝つことの出来ない強者である事も。

 

そしてそんな彼等ですら苦戦するという相手、超兵器。元は異次元の地球産の兵器だというソレが、常陸達同様、次元を超えて現れた。

 

どうやって相手をすれば良いか、悩み始める神崎だったが、答えは目の前からもたらされた。

 

「基本は全部俺達がやる。今度から遠征部隊に、俺達sideの艦娘を一人か二人入れろ。二人居れば確実に時間は稼げる」

 

「遠征部隊となると、燃費を考えると、駆逐か軽巡である必要があるんですが……」

 

「俺と伊吹は核融合炉、須磨も多分積み換えが可能だ。駆逐軽巡は、雫を除けば通常動力だが。燃費については考えなくても済むだろう」

 

雫は航行にはともかく、兵装に多大な電力を必要とする。

 

そのため、駆逐艦としては異例であるが、伊吹の融合炉に似た融合炉を1ユニットのみ搭載している。

 

他も、島風改級を含有する暮風を除き、太刀風級、霙級、湧別の機関の燃費は、現代艦なだけあって異常に良い。艦隊全艦が、遠征に組み込む条件を満たしていた。

 

「本当なら全ての遠征部隊が南方へ行かなければ良いが、そういうわけにもいかないのだろう?であればせめてこの鎮守府だけでも迎え撃てるようにしなくては」

 

観測されたノイズによれば、超兵器は未だ南極を周回中であることが判明している。また、その移動速度から対象超兵器は、ヴィント級の超高速艦と判明した。いつ北上するか分からないが、あの速度では襲撃が判明してからでは迎撃は遅すぎると分かっている。対策は早い方が良い。

 

「そうで「神崎さん」──はい、なんでしょうか?」

 

了承しようとした神崎の言葉を遮るように、部屋の入り口から声がかかる。

 

「呉第一鎮守府の植野提督からお電話です」

 

「わかりました──はい、変わりました、横須賀第三の神崎です」

 

『呉第一の植野だ。実は頼みがあってな』

 

「はい、なんでしょうか?」

 

『鎮守府間交換訓練を申し込みたいのだが』

 

「……それは構わないのですが、どちらかというとこちらから申し込むべき事かと思ったのですが……?」

 

『いや、ちょっと気になることがあってな。そして条件がある』

 

「──条件、ですか。それはどのような?」

 

『貴官のもとに居る、例の12隻。その中から6隻で一艦隊を編成し、こちらに寄越してほしい。選ぶ6隻は自由で構わない。こちら側の編成は、大和、衣笠、那珂、雪風、磯風、伊13だ』

 

「────了解しました、ではこちらの編成は追って送ります」

 

『変な要求をして申し訳ない』

 

「いえいえ、そのような条件をつけるということは、気になることとは彼らに関することなのでしょう?一応我々と彼等の指揮系統は並列ですから、我々としては、そちらの高練度艦に来ていただくのはメリットしかございませんので」

 

『時期は1週間後で良いだろうか?』

 

「────はい、ではそれでよろしくお願いします」

 

『うむ、ではな』

 

「ええ────それで常陸さん、どうなさいますか?」

 

「旗艦は須磨。それに太刀風級3人、それから雫と雹を送る」

 

即決した常陸に神崎は目を剥いた。一方で伊310は冷静に理由を問う。

 

「常陸、理由は?」

 

「向こうの目的は、こちら側の情報収集だろう。それを叶えてやろうと思ってな。しかし、俺は一応この艦隊の総旗艦だ。簡単に動くわけにはいかないし、伊吹は艦隊唯一の航空戦力。手元に置くべき。となると大型艦で残るは霧の穂高と須磨だが、霧はどうも危なっかしいからな。一方で須磨は連邦艦の中で最先任で、しかも艤装換装が可能。行かせるには十分だ」

 

「空母を連れていけない以上、防空はしっかり対策すべき。そこで太刀風級を入れる。連携を取りやすいのは同型艦同士だしな。それに暮風は島風改級だ。水上砲戦にも振れる。そして雫は、その火力を当てにしている。半ば敵地に送り込むようなものだからな。雹は戦闘経験を当てにしている。これも理由は同じだ」

 

「んでまあもう1つ付け加えるならば相手が潜水艦(伊13)を連れてくるなら、こちらも残しておくべきだ、と思ってな。いやしかし中々楽しそうだな」

 

「では連絡してきます」

 

 

 

そして数日後。呉第一鎮守府から派遣艦隊が出港するのと同時に横須賀第三鎮守府派遣艦隊も出港した。

 

()()()()を試すため、全員が超過艤装を展開した状態で。

 

 

 




以上です。


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