不完全燃焼かもしれませんが、お付き合いください
それでは異星艦娘と新任提督、第二十三話です、どうぞ!
日本皇国海軍、呉第一鎮守府提督、植野忠海軍中将は出世欲が強い。が、同時にとても賢い──賢しい人間である。一般的に、出世欲が強い人間は、より少ない資源で大戦果を求める。そのため鎮守府運営はブラックとなってしまう。そしてやがて摘発される。横須賀第三鎮守府が良い例だ。
だが植野は、艦娘を、出世に必要なものであると捉えているため、むしろ運営はホワイトである。艦娘との関係も良好。ただし、出撃メンバーに選ばれるためには、かなりの練度と技術、それらのための相応の努力が必要となる。それゆえ堅実に戦果を得ることができ、植野の評価も上がる。
さて、このような状態にある植野の艦隊は当然ながら日本トップクラス。大本営の直轄を除けば文字通り頂点の鎮守府である。だからこそ、今回の敗北は
「すみませんでした提督!」
「何がだ?」
「その…勝利することができず……」
「初見でアレに勝てるのは、大本営だけだと、思うがな……」
植野は小声で呟いた。演習開始後、横須賀第三の神崎提督から見せてもらった資料は、その結論を導き出すには十分だった。深海棲艦出現前の護衛艦に近い戦闘能力を持ち鉄壁の防空網を敷ける
ただ単に全てが現代艦ならば、とりあえず当てれば撃沈できるレベルでしかないが、光学兵器に陽電子砲すら積んでいる
これを指揮下の艦娘達に言うべきかどうか迷った植野だが、最終的に保留することにした。それより前に、演習の反省はすべきだと考えたからである。彼女らに驕っていた所が無かったとは言えないのだ。その点で、今回の大敗は、良い薬になったのではないかと思う。それで心を折られると正直困るが。
「敗因はなんだと考える?」
「……私たちが油断していたことだと思います」
「そうだな、相手の情報はほとんど開示されていたからな。いくつか不明な点もあるがそれは後で対戦者に聞く。他に何かあるか?無いならこのまま反省会だ」
「はい!」
「どうした島風……と夕立もか?」
「移籍できないか?って誘われたっぽい!」
「移籍?確かにお前らは高練度艦だし横須賀第三には居なかったはずだが……それは他の高練度艦にも当てはまるのは多いが……」
「何か戦闘の速度と能力がどうのって言ってたっぽい!」
「…ふむ、そう言えばお前らは敵の駆逐艦娘とタイマン勝負していたな。あとでその話も詳しく聞かせてくれ、他にはあるか?……ないな。ではまず夕立と島風、執務室へ来い。そのあとは……大和達だな、敵戦艦と近接戦闘したものは全員来い」
「はい!」
「さて、島風、夕立。お前らはアレをどう見る?」
「ドロップ艦とは思えないっぽい」
「同感。あと多分アレが全力じゃない」
「最後のラッシュは?」
「あの変なアラームの後のでしょ?何もあそこまで手を抜いていた訳ではない、と思う」
「最後の時は目が違ったっぽい」
「目?」
「どこかで見たことあるような……あ、佐世保第一三鎮守府の娘があんな目をしていたような……」
「佐世保第一三だと?それは……」
佐世保第一三鎮守府は、一年前、呉第一鎮守府が主体となって摘発した、いわゆるブラック鎮守府の典型的な例であった。資材の横領、明らかに艦娘の能力を超過する多重出撃、日常的暴力。艦娘は、欲望の捌け口か、化物、兵器として扱われ、鎮守府解体後も、戦線に復帰した艦娘は少ない。そんな彼女達は、摘発突入時に救出されたとき、自らを含めた全ての艦娘を『兵器』として見ていた。
それと同じ目ということはつまり、
「
「感情が消えてたし、何も読めなかったっぽい」
機械が定められた作業をするように追い詰め、撃沈に追い込んだ。そこには彼女等の感情は一切関与していない。それは大抵どの艦娘もそうだが、しかし目から何も読み取れないというのはあり得ない。それはつまり、意思すら介在していない事になるからだ。夕立も島風も最大限改装を終え、多くの経験を積んでいる。彼女達から意思を隠し通すのは非常に難しい。
「分かった。ああ、あと勧誘は何と言われたんだ?」
「えーと確か、『お前らなら俺達の戦闘速度についていける可能性があるから、可能であれば仲間になってほしい』とかなんとか」
「ふむ……分かった。下がってよし。ああ、大和達を呼んでくれ」
「わかりました」
「──大淀、お前はどう思う」
「そのまま、と考えます。彼女等…いえ、男の方もいらっしゃいましたね、彼等は、艦娘として人間らしい感情を持ちながら、おそらく自分の意思でそれを
「お前達も出来るか?」
「悔しいですが不可能です。多分それは他の…例えば大本営直轄艦隊でも不可能でしょう。これは多分練度の問題ではないと思います」
「横須賀第三で何かしら非合法な事が行われている可能性は?」
「あそこは今、艦娘が全体をまとめています。艦娘に対する非合法行為が可能とは思えません。自らの意思による実験等であっても神崎少佐が止めるでしょう」
「だな、神崎少佐が見逃すとは思えない」
「であれば彼等は最初から、そうだったのでしょう」
と、ドアをノックする音。
「──大和です、演習第一、第二艦隊全艦を連れてきました」
「入れ」
入ってきたのは、大和、武蔵、長門、陸奥、伊勢、日向、扶桑、山城、金剛、比叡、榛名、霧島の12人。先の演習で第一、第二艦隊として、常陸以下の横須賀第三鎮守府水上砲戦部隊と戦った者達だ。
以上です。
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