異星艦娘と新任提督(事務員)   作:対艦ヘリ骸龍

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閑話です、前話の霧sideのお話になります。



それでは、異星艦娘と新任提督、最新話をどうぞ!


閑話  彼女の決断

気付いたら人型になって海の上にいた。意味がわからない。理解不能。

 

 

 

それが彼女の端的な思考だった。彼女の主観では、ついさっき帝国海軍軍艦としてドイツ軍と交戦、味方航空母艦を庇って撃沈したばかりなのだ。

 

周りを見渡せば、限りなく広がる太陽と彼方に見える水平線。そして自分と同じ境遇だという同僚と妹達。

 

全員が、あの悪魔共と戦った時期に見たことのある軍艦であることは嬉しかった。が、一方で、対超兵器戦初期に、沈んでいくのを指をくわえて見ているしかなかった妹達はいないと知り、やや落ち込む。駆逐艦だけでなく、かつての計画に同番号艦として指定された他の2隻の力も使える今なら、何があっても今度こそは守りきれたはずなのに、と。

 

でも、叶わないことは仕方がない、と、この時は割りきった。この時は。

 

 

 

 

 

 

次にその思考が復活するのは呉鎮守府との演習の時だった。突然鳴り出した懐かしい、だが忌避感を覚える警報。

体の主導権は穂高に渡していたものの、生駒も霧も、意識は覚醒させた状態で、外部状況の把握に努めていた。そんな状況で鳴り出した、超兵器発見の警報は、彼女等に悪寒を覚えさせた。特に、霧にとってはそれは長い係留期間において、妹達が死地へ駆り出される合図でもあったため、彼女の精神的外傷(トラウマ)をえぐり、結果として彼女は一時的に思考を停止する。

 

 

 

完全に同艦種である琴風と異なり、異艦種間転載が行われたリークは、その演算領域を分割し、必要に応じて、知識のみを供出することで戦闘効率と生存率を高めていた。そのため、艦娘となった今も、艤装を切り換える際には意識ごと変える必要がある。

 

しかし、主導人格はやはり霧。それが一時的に思考停止に陥ったことで、そのカバーを生駒が行うはめになり、生駒は普通に表に出たときよりも働くことになったのは完全な余談である。

 

 

 

霧が平常運転に戻ったのは、鎮守府に帰るマイクロバスの車内。良く考えればここには頼もしい味方が居るのだ。究極超兵器や超兵器の源と相討った味方が。ならば犠牲もそこまで多くはない。あの時とは違うはずだ、そう考えていた。

 

鎮守府の埠頭で、他の皆が超過艤装を展開していくのを見て、その考えは強まっていく。高速超兵器であっても、陽動部隊は、阻止部隊は必要ない。<幻炎>がいるから。100㎝、80㎝砲であっても恐れる必要はない。<三河>と<常陸>が居るから。空母系でも大丈夫。<伊吹>が、<湧別>が、<霙>級が、<太刀風>級の皆が居るから。航空機型?望むところだ、<玉星>改二の前で無事でいられる飛行物体など存在しないことを示してやろう。陸上型?<三河>と<須磨>の射程外に逃げられる陸地など存在しない。

 

 

 

そんな楽観的思考を持っていたのも、超過艤装を展開したとき、ある物を見つけるまでだった。埠頭に横付けされた防空駆逐艦<霧>。タラップを通って乗艦しようとした霧の目に留まったものは、本来、ここにあるはずの無いものだった。それは全ての軍艦に支給されるもの。埠頭に停泊するときに、同型艦の区別が付くようにタラップの前に置かれる艦名板。それは何も珍しいことではなかった。それが、十数枚も有ることを除けば。

 

「……こ、れ……は……」

 

目に付いたものを取り出してみる。それにはこう記されていた。

 

《R-Ⅰ-ⅩⅡ Rewake》

 

R 級防空駆逐艦Ⅰ型12番艦、リウェイク。霧ことリークの原型とほぼ同型の駆逐艦。そう認識した瞬間に、頭の中に情報が流れ込む。現旗艦の常陸を中心に、電子巡洋艦<劔>が自分の演算領域のほぼ全てを用いて稼働させている、帝国・連邦合同艦隊データリンクを介して、劔艦内のデータベースから送られてくる、リウェイクについての情報だ。

 

 

───惑星ポラヴィル史暦2759年10月22日、ヴェイルクロイツ連邦スクィバ州ディバリア海軍造船所にて竣工。翌年3月26日、超兵器<シュトルムヴィント>撃沈作戦において阻害艦隊として出撃、主砲弾複数命中により大破。同年12月12日、超兵器<アラハバキ>撃沈作戦において、艦首ドリルに艦体を分断され沈没。

 

 

把握済み。自分が出撃する前に沈んだ16の妹の内、直接遺言を、断末魔を聞いた、()()()()()()()11の艦魂の内の一人だ。無論、全て覚えている。でもそれがなぜここにあるのかが分からない。全ての板を確かめてみる。予想通り、それらは全て、最期の様子を直接聞いた妹達の名前が刻まれていた。

 

 

なぜ今更のように。背負えとでも言うのだろうか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。生き残った者にはその義務がある。

 

 

 

だがなぜ自分のところに?姉だから、だろうか?不甲斐ない姉に何を望むのだろう。

 

 

 

 

そして、それを思い出す。

 

 

 

 

 

『──連邦ヲ、ヨロシク頼ム』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、そう言うことか、つまりまだその願い(遺言)は終わっていないのか。なら、やることはただ1つだろう。

 

《穂高、生駒》

 

《なんだ?》

 

《どうかしましたか?》

 

《手伝って》

 

《何を》

 

《作る。演算領域をギリギリまで割く。感情リソースを閉鎖する、カバーをお願い》

 

《了解。だが一体何をする気だ》

 

《……連邦の最終兵器を。アドミラリティの戦術システムを構成する。次いで擬似演算領域の構成を試みる。上手くすれば艤装も展開できるかもしれない》

 

《……正気か?》

 

《だからこそ》

 

《了解しました。そちらは上手く私がサポートしましょう。戦闘面は穂高、貴女に任せます》

 

《……国滅んでも知らねえぞ?》

 

《すいません、お願いします》

 

「──戦術AI<リーク>起動。感情リソースを圧縮。隔離保存、完了。A級特殊戦艦の戦術システムの再構成を試行。成功するまで繰り返す。演算領域の80%を回せ」

 

 

 

 

この時を以て、防空駆逐艦<霧>は、自分自身で感情を表現する術を失い、以後は<生駒>の感情リソースを流用する事になった。感情リソースを圧縮隔離した<霧>は、完全に歴戦の戦術AI<リーク>そのものと化していたが、戦闘においてもほとんど<穂高>に任せるようになった。それに気付いたのは常陸と伊吹、須磨、そして暮風のみだった。

 

 

超過艤装を降りた後、艦名板が変化したクリスタルを纏めたネックレスを付けて、それに誓った。

 

「次は絶対に、何があっても、皆を、何をしてでも、守るから。そのためなら感情なんて捨ててやる。だから、力を貸して、お願い、アドミラリティ」

 

 

もう迷うな。動くのは自分からだ。

 

今度は自分からデータベースにアクセス、A級アドミラリティの項を参照。

 

──A級特殊戦艦アドミラリティ。竣工年月日、戦没年月日ならびに搭載兵装、要項、()()()()。戦歴、対超兵器、ルフトシュピーゲルング、フィンブルヴィンテル戦に参戦。フィンブルヴィンテル戦においてR級リランと共に接近戦後、消息不明。誘爆に巻き込まれ沈没したとされているが、当該海域に残骸は確認されていない。

 

さあ、突き進め。それが決して開けてはならない、()()()()であったとしても。仲間を護るためならば、その程度障害になるものか。




以上です
アドミラリティ級特殊戦艦…

次は、感想で要望あった通り演習後の呉の話となります。いつになるかはわかりませんが、8月中には更新するので、更新遅くなっても見放さないでいただけると幸いです。

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