まあそこまでチートじみた開発はしませんよ、ええ。
…お楽しみは最後の方にとっておくべき、でしょう?
それでは、異星艦娘と新任提督、最新話です!
「えっと、開発って何をすれば良いのかしら?」
鎮守府に帰投後、暮風を連れて工廠まで来たは良いものの、何をすれば良いのか分からず途方にくれる伊吹。
「工廠責任者は明石って人だって神崎と長門司令から聞いたけど……どこに居るのかな?」
「明石さんいらっしゃいますか?」
「あ、は、はい!」
「長門司令と事務員から開発を頼まれたのですが方法を教えていただけないでしょうか?」
「ああっ、はい!こちらです!」
工廠の建物の奥へと案内される間、伊吹は明石と雑談していた。
「え?じゃあ、呉に勝ったんですか?」
「ええ、完封できなかったのが残念だけれど」
「完封は流石に厳しかったんじゃないかな~と思いますけど……強かったですか?」
「いいえ、錬度はともかく応用がほとんど効いてないわ。何人か、良いのは居たけれど、彼処で、あんなのと共闘してるんじゃただの宝の持ち腐れね。世代が2つか3つ開くとはいえ、戦力比は5倍だからもう少し攻めてこれたと思うのだけれど」
「あはは……あ、ここです」
「このレバーを引けば良いのかしら?」
「はい、開発品は横の台に出ます。あ、資源量はどうしますか?」
「どうするって?」
「開発したい装備が当たりやすい量の組み合わせがあるので」
「艦載機でお願いするわ」
「わかりました!えっと、許可証には5回開発可能とありますが……」
「全部それでお願いね」
「わかりました!……はい、どうぞ」
レバーを引くと、台の上に光が出現。
暫くして光が弱まり、消え去る。そこに有ったのは、見たことのない航空機。黒く塗装された前進翼の機体。それを見た伊吹が苦い顔をした。不思議に思い、明石が暮風を見ると、こちらは苦笑している。
「あの、どうしたんですか、伊吹さん?」
「うわあ……よりによってそれ引くのか~引いちゃうのかぁ……」
「何か問題が……?」
「"帝国軍の黒き死神"、<タナトス>……引きが良いのか悪いのかわからないねぇ……」
帝国空軍電子戦闘偵察機、FR-11ERtype-3<タナトス>。
多種多様な情報収集機器と、それらのデータを守るため、自衛のためだけの高火力。そしてそれらを運ぶための大出力エンジンを搭載した電子偵察機。
情報収集を主任務として、眼下で敵、味方が幾ら死のうと、ただそれを見下ろすだけ。積極的に戦闘に介入することはない。その任務姿勢から付いた渾名は"黒き死神"。実際、任務としては情報収集がメインなのだから、交戦し撃墜されては元も子もないので彼らは命令を遵守していただけの話なのだが。
ちなみにこの偵察機は、空母でも運用は可能である。
「外れではないね、次いこ次!」
再びレバーを引く。
出てきたそれを見て伊吹の顔は蒼ざめた。その輪郭はおおよそ六角形。側面に複数の円盤が付けられた、かなり大きなヘリ。
「ヴァ、<ヴァルキュリオン>…」
連邦海軍、対艦隊用攻撃ヘリ<ヴァルキュリオン>。小型汎用レールガン2基を中心に多数のミサイル、ロケットポッドを搭載した化物ヘリ。水雷戦隊程度であれば文字通り殲滅できる。というか実際に殲滅している。伊吹が蒼ざめたのはそのせいだ。
「……次、行こっか?」
再びレバーを引く。次に出てきたのは……
「良かった、これは普通の艦載機だね!」
<烈風>改Ⅲ。二重反転プロペラ、ターボプロップ換装の烈風。前世──空母<伊吹>だったころ、建造中に練習機として運用されていた機体だ。暮風達や霙達ならばリアルタイムで見たこともある。
「次次!」
帝国空軍戦闘攻撃機、F/A-24typeB2<ティターニア>、イーグル隊。空母<スヴィル>、すなわち<伊吹>所属機の精鋭。ようやく伊吹の顔が明るくなる。
「ラスト~」
戦闘攻撃機<ティターニア>、ドラゴン隊。イーグル隊と対を為す部隊。
「う~ん…今回出た中で渡せそうなのは烈風改Ⅲくらいかな~?」
「そうね、ヴァルキュリオンもタナトスもティターニアも通常艦には……」
「載るわけがないね~」
「載っても飛ばせないでしょう……」
耐熱甲板ではないのにどうやってジェットを飛ばす気なのだろうか。
「あたしもやってみたかったな、開発」
「超音速魚雷とか、試作型超高速対空誘導弾とか出るかもね、あるいは
「完全に……いや、魚雷ならどうにかできるんじゃない?」
「まともな発射管出ればでしょう?角形四連装とか出ても装備できないわよ……」
「須磨よりはましでしょ~?」
「あいつが開発したらそれこそ軍艦に搭載できない物とか出てくるんじゃないかしら…ドーラ・ドルヒとか」
それは超兵器だ。
搭載できるできないの前に兵装ですらない。
工廠で開発が行われていた頃、残りの艦娘のうち、常陸と伊310を除くメンバーは、港で超過艤装のチェックをしていた。
「艤装展開!」
埠頭に横付けする形で、1隻の軍艦が顕現する。現代型の軍艦に良く似た灰色の艦影。石狩改型防空巡洋艦<湧別>。
「おおー、出来たね!」
「次は誰がしますか?」
超過艤装を消しながら湧別が問う。と言っても、ここにいる艦娘のうち、湧別、須磨、雫、霙、雹、音風が既に終わり、あとは霧と琴風のみであった。
「二人同時にいけるだろ?さっさと済ませちまおうぜ」
音風の言葉に、二人は顔を見合わせて頷く。
「「艤装展開」」
2隻の駆逐艦の艤装が顕現する。1隻は秋月級の形を残しながら、その砲塔はより小口径の3連装砲へ換装されている。そして魚雷発射管が存在せず、代わりに自動機関砲と
一方で、琴風は自分の本来の超過艤装──太刀風級防空艦<琴風>をひたすら見つめるだけだった。さっき展開していた姉妹艦<音風>との外見上の相違点について確認していたのだ。
「どう?」
「やはり少しおかしいように感じます。具体的にいうならば、主砲の砲身が音風より若干長いような気がします。あと動かさないと詳しくはわかりませんが、多分機関出力も上乗せされているかと」
「霧の方は…違和感はないわね。恐らく琴風は同艦種だから、でしょうけど」
雹が2隻を見ながら呟いた。
「霧!そろそろ戻るわよ!」
「…了解」
「大丈夫ですか霧、何か気分悪そうですよ?」
「大丈夫、ありがとう琴風」
いつも通りの声に少し安堵した琴風だったが、それでも霧を心配そうに見つめていた。その視線の先で、霧は首に下げた何かを見ている。乗艦前は持っていなかったから恐らく艦内から持ち出したか、艦内で着けたかのどちらかだろう。
「はやく、二人とも」
「行こう」
「…うん」
超過艤装を解除しながら横目で霧の様子を伺う。光の粒子になって消え行く超過艤装を見ながら、霧は首に下げた何かを握り、呟いた。恐らくそれは独り言のつもりだったのだろう。だが近くにいた琴風には途切れ途切れだが聞こえていた。
「───次は、絶対に、……があっても、……をしてでも、守るから」
そのためなら、
そう聞こえた気がして、霧を振り向くと、滅多に感情を出さないはずの霧が、泣いているように見えた。
はい。さて、この後に投稿する閑話への繋ぎを作っておきました。
戦闘偵察機タナトスですが、戦闘妖精雪風の黒塗装メイヴをイメージしてください。
それでは、評価感想批評等々お待ちしております!