いえ、彼女は任務に忠実かつ、相手に対しても誠実なだけです。
「何なんですかあれは…」
神崎は目の前の状況を見て唖然とした。開始早々呉鎮守府の空母6隻が沈み、攻撃隊は殲滅された。しかも非常識なまでの長距離砲撃と、現代・近未来兵器のオンパレードにより。
そして気づけば二艦隊プラスアルファが撃沈判定。
攻撃隊の殲滅はまだわかる。イージス艦が居る上に、AWACSによる誘導。現代のジェット機やミサイルを相手にするため構成された防空システムの前では練度など無意味。
しかしだ、最新レーダーを積んだ弾着観測機が居るとはいえ、百キロ先の軍艦を、全て撃ち抜くなど、並々の腕ではない。
何より、姿を現すことなく、二艦隊を殲滅した恐らくは潜水艦。
「成る程、化け物と自称するだけはあります…」
5:1という数の差をあっさり埋めに来る現代兵器。だがこれでも、性能には制限が掛かっているらしいのだ。その制限が解除された場合、何処まで強くなるのか。神崎は、冷や汗を流しながらもその戦力の予測を冷静に行い始めた。
「次は俺たちの出番かな。」
常陸が呟く。
「何処まで通じるかな?」
追走する穂高が笑う。
「艦隊決戦かあ…腕が鳴るねえ。」
「SSMが無いのが残念だがな。」
「それじゃ演習にならないじゃないですか…ていうか逆にVLS発射型魚雷とか何処から持ってきたんですか?」
「須磨の武器庫。」
「ああ、成る程。何で持ってたんでしょうか?」
「暇だったから作ったんだそうだ。」
「あの人は一体何を…っ!レーダーに反応。」
「相手の水上砲戦部隊か、穂高。」
「一番、二番、射出。」
常陸の命令に応え、穂高は搭載する水上偵察機晴嵐改2機を発艦。
「あーあ、射撃管制レーダー使えないのキツいなあ…」
「贅沢言うな。戦術システムとネットワークのリンクは許可してるだけましだろう。」
「そうだな……来たぞ。目標は金剛型4、やや遅れて
「想定最大戦力は、
「それって不味くないですか?」
「紀伊…大和型は俺が相手する。今のうちに観測射で仕留めるか。後ろの6隻を潰す。巡戦は穂高達で捌け。」
「いや、待て。まだ居る。巡洋艦6の艦隊が一つ、水雷戦隊が二つ。俺達だけじゃ重すぎる。」
「成る程な…流石に1隻で一個艦隊相手ってのは荷が重いか。こちら常陸、伊吹へ。対艦フル装備を4個小隊よこせ。」
『こちら伊吹、現在敵攻撃機ならびに巡洋艦から攻撃を受けているため、要請は達成できない。』
「攻撃機?!……っ、潜水空母か。艦隊分派……は間に合わんな。いや、須磨は?」
『<劔>は航空管制中。業務を本艦が引き継ぐ。ただし水上戦闘の火力を維持できない。<雫>全兵装の使用許可を申請。』
「まだ使っていなかったのか?構わない。相手が全力ならこちらも可能な限り全力を出さねばならない。」
『了解した。では須磨を分派する。』
「助かる。──これで戦艦が1隻増えたな。振り分けるぞ。穂高は巡洋艦を、暮風以下は水雷戦隊を。俺が戦艦を引き受ける。どちらかが終了すれば、もう片方へ応援に行け。倒せない場合は遅滞戦闘に努めろ。いずれ須磨が来る。全力での戦闘を許可。」
「「「「了解。」」」」
暮風、琴風、音風は水雷戦隊へ、穂高は巡洋艦、そして常陸は戦艦隊へ、それぞれ舵を切った。
「四時の方向、敵潜1、深度50。」
「零時の方向敵編隊、数は4。」
「一時の方向、敵機1、観測機の模様。その先に敵艦隊、数は6、巡洋艦のようです。」
「雹、霙、迎撃。ミサイル使用を許可。雫は対空戦、湧別と劔は航空管制。防空隊順次発艦!」
横須賀第三鎮守府第二艦隊は今、少々忙しくなっていた。雹と霙のVLSから打ち出されたSSMが敵艦隊へ向かう。伊吹から緊急発艦をかけた遊星と陣風が湧別と劔の誘導によって敵編隊に襲いかかる。雫はレーザーを用いて撃ち漏らしを潰す。潜水艦は、伊吹から発艦していた対潜ヘリが潰しにかかる。
しかし、流石は巡洋艦というべきか、SSMもあまり効果が有るようには見えない。距離を詰めたことで、砲弾が飛来し始める。艦隊に唯一存在する水上砲戦用の艦艇は劔のみ。応戦を開始する。
『こちら常陸、伊吹へ。対艦フル装備を4個小隊よこせ。』
「こちら伊吹、現在敵攻撃機ならびに巡洋艦から攻撃を受けているため、要請は達成できない。」
『攻撃機?!……っ、潜水空母か。艦隊分派…は間に合わんな。いや、須磨は?』
「<劔>は航空管制中。本艦が業務を引き継ぐ。ただし水上戦闘の火力を維持できない。<雫>全兵装の使用許可を申請。」
<雫>の主兵装たる陽電子砲は、弾道ミサイルの撃墜から対艦戦闘まで可能だが、その特長から、ペンキで再現できないため、演習で利用するときは、注意が必要だ。制限はないが、肉体に当てたら色々とグロい。そのため出来るだけ温存しておきたかったが、必要なら使うべきだろう。
『まだ使っていなかったのか?構わない。相手が全力ならこちらも可能な限り全力を出さねばならない。』
「了解した、では須磨を分派する。オーバー」
『助かる、オーバー』
「雫、聞いていたわね?巡洋艦群は任せるわ。こちらヴァルキリア、ゴースト。」
<<ゴースト、ヴァルキリア。用件は?>>
「遠出して構わない、敵潜水艦を殲滅しろ。」
<<了解した、敵攻撃機の進路情報を要求。>>
「送信する。──完了。幸運を祈る、オーバー」
<<感謝する、オーバー>>
伊310との通信を終えたあと、雫を探すと、既に突貫をかけていた。50ノット程出ているのではなかろうか。
「全力運転掛けてるのね…どれだけ戦いたかったのよ…」
伊吹は一瞬だけ呆れたような顔をしたが、雫が本気になっている以上、巡洋艦は問題ないと判断。
「全機急速発艦!」
ならば後先を考えず、守りきり、そして撃ち漏らさぬように。合計106機の艦載機を全て大空へと放つ。電子偵察機とAWACSを軸に、対潜機と攻撃機による超広範囲索敵網を形成。攻撃機と潜水艦を1隻残らず把握し、ほぼ同時に襲撃を掛ける。伊310による超長距離雷撃や、低空からの機銃掃射と空爆。航空機に対しては遥か上空からの高速機による一撃離脱。三次大戦基準の対応に
『呉鎮守府、潜水艦伊8、伊13、伊14、伊58、伊168、撃沈判定。』
「なんなのよこいつは…!」
呉鎮守府第六艦隊、重巡衣笠。彼女は今、両手の主砲を失っていた。いや、手に持っては居るのだが、両方とも
ちなみに、この艦隊には他に重巡青葉、妙高、那智、足柄、羽黒が所属しているが、全員が艤装がほぼ完全に破壊されるか、場合によっては足すら切断された状態で、海面に転がっている。不思議と傷からの出血は全くない。
が、それでも演習では遣り過ぎである。
『呉鎮守府、重巡洋艦、青葉、妙高、那智、足柄、羽黒、艤装の戦闘航行能力喪失、撃沈判定。』
「弱いなあ…こんなんじゃ物足りないよ?」
「物足りないってあんた、これは演習よ?!なのにどうしてこんな……」
すると、雫は笑みを引っ込めてこう言った。
「知ってるよ?だからこうしてるじゃん。」
「な…!」
「別に陣形組んだままで、遠くから一方的に乱射しても良かったんだよ?て言うか実戦なら気絶させるだけでは済まさない。演習だからこそ、
雫ちゃん…
艤装破壊→陽電子砲を模した対人レーザー
足切断→対人レーザー
とお考えください。