演習を一ヶ月後と決定した、大本営からの帰り道、常陸が呟いた。
「雹、アレを脅しに使うのは正解だったんだろうか?」
「なぜ私に?それに…今更でしょう?アレの存在を知った時点で私たちは既に退路を見失っています。」
「だが…アレは本来ここでの存在を許されてはいけない代物だぞ?それをここで引っ張り出すのは…」
「それこそ今更でしょう。それに、貴方の決定にケチをつける艦は居ません。既に全艦覚悟を固めています。あとはやれることをやるだけです。」
「常陸、私達が安寧を求めて何が悪いというのです?折角ですから、今回くらい、私達本位で動きましょう?」
あっさりと言ってのけた二人の駆逐艦。だがその内容はその口調とは裏腹に重い。
伊吹搭載の特殊兵器群。それらは、正規空母スヴィルであったときは、帝国と連邦の2国間で締結された条約によって使用が禁じられたレベルの危険兵器である。
タイラントと呼ばれるのは、戦略級核爆弾以上の破壊力を誇る
トリニティと呼ばれるのは、核爆弾である。
ラグナロクと呼ばれる兵器が最も破壊力が大きい。その種類は反物質爆弾。なんでこんなもの作ったんだと言いたくなる代物である。
これらが伊吹が搭載する特殊兵器群の中で特に危険な物である。ついでに言うと、これらが単純にやばすぎるだけで特殊兵器は多く存在する。航空機搭載型の汎用レールガンだったり、成層圏以上で戦う亜宇宙戦闘機だったり、艦隊を殲滅する攻撃ヘリだったり…
新鋭艦載機と共に伊吹の第2格納庫特殊兵器庫で発見されたこれらの大規模破壊兵器。常陸は場合によってはこれらをも演習に投入する気で居た。勿論演習用模擬弾となるが。
ちなみに、演習で使用される演習弾は妖精さん達の手によって、それが実弾である場合に与えられる危害半径や、射程、飛行特性すら再現されるもの。よって上記化物兵器を元にした演習弾の場合、起爆地点から危害半径以内は全て、しかも濃く、黄色のペンキで染まることになる。ちなみにペンキの濃さは、被害の大きさを示す。
「そう…だな。とは言えあれは最終手段とする。今回俺達が示すべきなのは、俺たち自身の力なのだから、大道具に頼ってばかりも居られまい。問題は相手が実弾を使用した場合だが…」
「潰しましょう。」
可能性はそこまで高くない予想ではあったが、雹はあっさりと即断する。
「まあ私自身としては、どちらかと言うとまだ
「アレ等…?……まさか、いや、あり得るな。鎮守府に戻ったら、外洋警戒を出すよう言っておかなくては。」
「最初に来るのは、順番が変わってなければ潜水艦…面倒ですね。」
「来ないことを祈るさ。来たら
「そう言えばありましたね…<劔>で撃ち破れませんかね?」
「わからん。」
雹の台詞に一瞬訝しそうな表情を浮かべたが、すぐにその意味に思い当たる。自分達を沈めあるいは相撃ちになった
(蜃気楼とか摩天楼来ても勝てるんじゃないかこれ…)
密かにそう思った常陸だった。
それから数時間後、南極にて。
1隻の大型艦が姿を現した。それは
その艦橋には一人の女性の姿。
「ここは…南極ね、帰ってこれたのね。…これからどうしましょう?姉上達はまだいらっしゃってないようですし………この反応はあの娘かしら?」
ただ一人で呟く彼女。
「なら行くべきかしらね、でももう少ししてからで良いかな。姉上が来てからでも構わないでしょう?だからそれまで、」
死なないでくださいね?ウロボロス。
彼女の名は、原子力重巡洋艦、ヴィントシュトース。
高速型超兵器のプロトタイプであり、超兵器として認識されること無く、最初に撃沈された哀れな超兵器。
撃沈を成し遂げたのは当時退役間近であった艦隊随伴用駆逐艦U級23番艦、ウロボロス。
後に、搭載する制御用AIを、V級駆逐艦ヴィローネへ転載した戦闘艦であった。
以上です。さて、どうなるでしょうねえ…演習の途中で乱入しないことを祈ります。
ちなみにウロボロス含むU級は、<島風>改級がモデルです。またヴィントシュトースも、最後に止めを刺したのがウロボロス、というわけで、一騎討ちして勝ったわけではないです。