それではどうぞ!
「却下だ。」
そう言って静寂を切り裂いたのは他でもない、常陸だった。
「今、何と…」
「耳が塞がっているのか?却下だ。そう言った。」
先程と全く異なる口調で言った。
「貴様、自分が何を言っているのか…」
「良く分かっているさ。ところでそんな些細なことは置いといて。大将、艦娘には自分の意思を持つ権利、その意思を実現する権利は無いのか?」
「…仮に、無いと言ったら?」
「まあ俺達の仲間が生きるために、琴風を逃がす。そのためには全力戦闘も、味方撃ちも厭わない。暮風が、横須賀第三鎮守府に辿り着くまでは持つだろう。そうすれば後は友が…同胞が仇を討ってくれるさ、この世界には最悪な結末だが。」
常陸は、ここに来る前、伊吹にとあることを確認していた。それがあるからこそここまで強気に出れるのだ。この国どころか
「そ、祖国を滅ぼすというのか貴様!」
「お言葉だが大将、先程俺は言った筈だ。俺達が辿った歴史は、この日本とは全く異なると。俺達にとって、
元々戦艦<常陸>としての意識が薄い彼にとって、そもそも日本という国そのものが祖国とは思えなかった。彼にとって帰属意識を抱く祖国とはケイキュリア帝国──彼が戦艦アドミラル・ヴェルスとして存在していた国──以外の何物でもなかった。
「戦艦8か、最期の相手にはちょうど良いくらいかもしれんな、雹、何隻相手できる?」
「最大で2隻相手できれば良いところでしょうね。火器管制システム全て起動、対空誘導弾を対艦転用します。」
背中に顕現する艤装が唸る。同時に常陸も腕を組んだまま艤装を顕現。艦中央部に密集する大量の対空火器が動き始める。
「確かに俺達は軍艦だった。そして今もなお、祖国を、或いは人類を守るための兵器として顕現している。だがな、同時に今、我らは人間と同じ心と肉体を持つ。一個人として考えても良いだろう。そして我々は協力者だ。従属も隷属もしてはいない。俺の知る日本は国民を隷属させ意志を持つことを許さないような独裁国家ではなかったと思うが。ここがそうであるというのなら、やはりここは我らの祖国たり得ぬのだろう。そして祖国だった者が我らに仇為そうと言うなら、我らも全力で対応せざるを得まい?」
そう言いながらゆっくりと立ち、雹の横にならび、暮風を守るように仁王立ちし、提督たちを見渡す。
「……本気か?神崎君、君はこれを認めるのかね?」
「俺達は本気だ。こっちの世界に来たときから、な。」
「楠木大将、我々は、彼らに協力を要請する立場です。どう転んでも強制できる立場にはない。そしてなにより、彼らが言う通り、本来、我々のいるこの日本は、彼ら本来の祖国ではないのですよ。認めるも何も、それ以外に我々にとれる行動などありはしません。…そうですね。たとえば…常陸、もしここで、琴風が人質に取られて我々への協力を強制されたらどうする?」
「手持ちの特殊兵器と核兵器でこの国を滅ぼすだろうな、そもそもこいつらが琴風を人質に取れる能力があれば、だが。身内の失敗を、罪を平気見過ごす能無しにそんな能力を期待するのは、猫に提督してもらうより難しいと思うがね。」
それは、不可能と言っているに等しい。
「本当かね、常陸。」
「ええ、間違いないと思いますよ、楠木大将。琴風は軍艦時代の戦闘経験は少ないですが、速力は恐らく駆逐艦組ではトップクラスですし。」
駆逐艦の中で、最大の雷数と最速を誇る島風改級。防空戦において大火力を発揮できる太刀風級。駆逐艦の果たす役割の内、対空と対艦にそれぞれ特化した艤装を持つ暮風は、運用次第では、化ける可能性が高い。無論、光学兵器と反物質兵器主体の
「なんなら演習でもやってみますか?うちの艦隊とどっかの鎮守府でも。」
と常陸が冗談混じりで言った。艦隊とはいえ12隻に、1つの鎮守府、となると戦力差は凡そ1対5程にはなるだろう。
「ふむ…力を示すには良い機会か?良かろう。やってみようじゃないか?誰か、演習をやりたい所はあるかね?」
「では私が。」
そう言って名乗り出たのは、呉第一鎮守府提督の植野忠。
「呉か、良いだろう。演習の規則においては通常通りとするが、隻数についてはどうする?」
「先程彼は12隻と鎮守府1つと言っていましたが…」
「それで構いません。もっと増やしても構いませんよ。」
とあっさりという常陸。そんな態度に、提督や後ろの秘書艦達は、少々苛立つが常陸と雹はいまだ臨戦態勢。下手な刺激はできない。
「では彼らと呉第一鎮守府所属全艦での演習を行う。勝利条件は…」
「どちらかの全滅。」
「片方が一方を全滅させる、ということで良いかね植野大将。」
「は。問題ございません。」
こうして、合同艦隊12隻対呉第一鎮守府所属艦64隻の演習が決定した。
以上です。特殊兵器は次でまた出てくると思います。次は常陸と提督の話し合いです。
艦橋直後にVLSを、その周囲に光学兵器…