オールド・ワン   作:トクサン

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市街戦 準備

 オールド・ワンとハイエナ達の協力は、存外早い段階で実現する事となった。

 事発端はオールド・ワンが拠点に腰を落ち着けてから四日後、昼頃に資材調達から戻って来たゲイシュが告げた一言だった。

 

「BFが街の周囲を嗅ぎまわっている」

 

 オールド・ワンを含めた全員は緊急作戦会議を開く事となり、倉庫の片隅でテーブルを囲い顔を突き合わせた。

 

 どうにもBFの所属先は帝都、部隊はシーマルクのものらしい。恐らく渓谷での戦闘痕からオールド・ワンの小隊を追って来たのだろう。しかし此処まで辿り着くとは、オールド・ワンは驚き半分、呆れ半分の気持ちでゲイシュの報告を聞いていた。

 

「遠目だったが、中量機が二機、多分エンブレムはシーマルク所属の奴だった、進行方向は俺達のホームだ、話して帰って貰うって感じではなかったな、此処に到着するまで三時間って所だ」

「どうやって此処が分かったのかしら……連中の目的は――」

「十中八九、オールド・ワンだろうね」

 

 全員の目がオールド・ワンを射抜く、彼はその視線を一身に浴びながら頷いて見せた。その瞳に込められているのは、何が何でも彼を守ろうという意思。実際BF同士の戦闘になった場合はオールド・ワン達が唯一の戦力なのだが、まぁハイネも戦えない事は無い。戦力として数えられるかは微妙なところであるが。

 

 何故追われているのか、恐らく皆は気になっているだろう。

 しかし各々が彼を気遣い、その点に触れる事無く迎撃作戦を練り出した。

 

「敵がホームを見つけるって確証は無いし、このまま黙って隠れるというのはどうだろうか? もしかしたら街に入らず、引き返すかもしれない」

「……恐らく、ソレは無いな」

 

 オールド・ワンは何故こうも連中がピンポイントに自分の位置を知っているのか、心当たりがあった。国境付近を飛んでいるUAVだ、アレが情報を送ったのだろう。アレには機関銃が搭載されているがBFに対して有効な武装とは言えない。

 

 恐らく、ハイエナとの戦闘をUAVに捕捉されたのだ、しかし敵勢力がBFだと知り遠方からの偵察に切り替えた。それに気付かず自分達は街に入ったという筋書き。連中は自分が街に潜伏していると知っている、その場所まで知っているかどうかは不明だが楽観視は出来ない。

 

 街にもUAVは飛んでいる、少なくとも絶対に来ないと言い切れる程安心材料は揃って居ない状況。ならば最悪に備えるのが吉。

 

「なら………いっその事、迎え撃つ」

「そうね、私は賛成だわ、都市内で戦うなら私達の庭よ、奇襲で一機位潰せるわ」

「そう言って挑んだのがこの前の出来事だろうよ……」

 

 どうやら自分達に挑んだのもディーアの案だったらしい、ゲイシュの言葉に彼女は「うっ」と言葉を詰まらせた。どうやら彼女は勝気な性格で、自信家の様だ。

 

「だがディーアの言う奇襲は兎も角、俺も迎え撃つ事に賛成だ、都市内なら有利な状況で戦える、それにBFを改修するチャンスだ――オールド・ワン、こんな事を頼むのは何だが、連中との戦いを頼みたい、悔しいが俺達には満足に戦える戦力がねぇ」

 

 ゲイシュはそう言うと、オールド・ワンに頭を下げた。他の面々も熱い視線で自分を見る、ひとりハイネだけは少しだけ悔しそうにしていたが、恐らくBF乗りとして自身の未熟さを噛み締めているのだろう。

 

 オールド・ワンはゲイシュに頭を上げる様に言うと、快く戦闘を引き受けた。元はと言えば自身の撒いた種、古巣の客である。嘗ての仲間に銃を向ける事に何も思わない訳ではないが、祖国に愛着があるかと言われればノーだ。

 

 自身とカルロナ、カイムを捨てた祖国に未練は無い。

 と言っても、恨みも無い訳だが。

 

「……そうか、悪い、すげぇ助かる」

 

 ゲイシュは申し訳なさそうに呟き、再度小さく礼をする。それ見てオールド・ワンは「気にするな」と笑った。

 

「なら、オールド・ワンとカルロナ、カイムを主力として、僕たちはバックアップと支援だね、可能なら誘き出して罠にでも掛けたい、出来るかな?」

「カイムは足が速い、上手くいけば誘導も出来るだろう」

 

 グルードの言葉にオールド・ワンは肯定的な返事をする、軽量機のカイムは足が速く動きも変則的だ、大した被弾も無く敵を誘導できるだろう。グルードは小走りで倉庫の片隅にある棚に向かうと、何やら下の段を漁って一枚の大きな紙を引っ張り出した。

 

 それは妙に黄ばんでいて皴だらけだが、戻って来たグルードがそれをテーブルの上に広げた事で紙の正体が分かる、それは街の地図であった。所々線が歪んでいたり、曲がっている事から手描きである事が分かる。

 

「誘導して罠に嵌めるなら……此処だ、此処が良い」

 

 グルードはホームから指を動かし、丁度都市の中心から南に数百メートルほどの場所を指した。其処は工場が密集している工業地帯で、背の高い建物が多かった、更に建物同士が密集しているので隠れ場所が多い。

 ホームからも近い、今から準備に掛かるとしても迎撃には間に合うだろう。

 

「此処に爆薬を設置して、敵の脚部を吹き飛ばす」

「まだ離れにLEEは残っていたよな? 俺も戦うぜ、腕の一本位捥ぎ取ってやるよ」

「私も、ライフルでモノアイを撃ち抜く位は出来るわ」

 

 グルードに続き、ゲイシュは勇猛果敢な兵士らしい気概を見せ、ディーアも好戦的な笑みを覗かせた。彼らに続く様に、ハイネも工場の一角を指差し、「私、此処で待って、後ろから襲う」と言い切った。

 

「多分、真正面から行ったら、負けるから」

 

 自分の実力は自分が一番知っている、そう言いたげなハイネにオールド・ワンは力強く頷いた。彼も彼女の力量は理解しており、正規軍の相手を真正面から務めるのは難しいと踏んでいた。

 

「あぁ、分かった、カイムに追いついたらまず、自分とカルロナが側面から仕掛けよう、そうだな――此処と、此処に潜伏しよう、機を見てハイネも参戦してくれ」

「うん、分かった」

 

 オールド・ワンが指差したのは、グルードが罠を仕掛けると言った地点を挟む様に建っている建築物。罠で脚部を吹っ飛ばされた敵機に奇襲を掛け、一気に殲滅する腹積もりだ。最悪失敗しても、ゲイシュやディーアの援護もあるし後詰めでハイネも控えている。

 

 BF二機を相手にするなら十二分だろう、本来ならばオールド・ワン達が真正面から仕掛けても問題がない戦力だ。尤も、相手が一般兵であった場合に限るが――

 

「グルード、爆薬は何を使うつもりだ? イグードとTNTはもう残り少なかった筈だ、少なくともBFの足を吹き飛ばす量はこの前見た時は無かったぜ?」

「大丈夫、BFの脚部装甲を吹き飛ばすくらいなら……骨董品だけど、対戦車地雷があった筈だよ、GGN1、旧ロシアの遺物だけれど、幾つかあったからルートを遮る形で並べれば確実に踏むと思う」

 

 グルードは誘き出す予定地から数センチ指を動かし、ピッと指で線を引く。そのラインに地雷を埋めて爆発させるのだろう、丁度そこは角を曲がった先で視界が悪い、地雷を仕掛けるポイントとしてはアリだとオールド・ワンは思った。

 

 元々対戦車地雷は履帯を破損させる目的で使用されるが、BFであってもゼロ距離からの爆発で無傷である可能性は低い。どれだけ凄まじい装甲を誇る機体でも、脚部、それも足の裏などは脆いモノだ。それは関節などの装甲で覆えない部分も含め、ホールと呼ばれている、BFの弱点部位。

 

 足を吹き飛ばす事は出来なくとも、内部をズタズタにする事は出来る筈だ。行動不能とまでは言わない、機動力が削がれれば十二分だ。

 

「本当ならもっと強力な地雷があれば良かったんだけれど」

「無いモノ強請りしたって仕方ないわ、今ある武器で戦いましょう、それに大丈夫よ、こっちにはBFが四機も揃っているのだから」

 

 少しだけ難しい顔をしたグルードに、ディーアは負ける要素など無いとばかりに胸を張った。その表情は戦意に満ちており、敗北するなど欠片も思ってない。それだけ頼りにされているという事なのだろう、オールド・ワンは誰かに頼りにされるという懐かしい状況に、少しだけやってやろうという感情が沸いた。自分でも安っぽい感情だと思うが、今までの環境が環境だった為、仕方ない事だろう。

 

「ゲイシュ、時間、無い」

「あぁ、そうだな――細かい打ち合わせをする時間はない、ぶっつけ本番だ、グルードは先に地雷を持って誘導場所に仕掛けてくれ、俺とディーアは銃器を見繕ったら向かう、オールド・ワン、ハイネは指定場所で潜伏、オールド・ワンはカイムに指示を頼む」

「任された」

 

 手早い指示にオールド・ワンは頷き、ハッチを閉じる。それに続く様に各々が早足で散会し、自身の仕事を果たす為に動き出す。ゲイシュ、ディーア、グルードの三名は火器を取りに保管庫へ、オールド・ワンはカルロナ、カイムの僚機に起動を促してハイネを見た。

 

 膝を着いたBFに乗り込み、そのまま起動コンソールを叩く彼女。

 取り敢えず、負ける気は欠片もない。

 精々良い機体である事を願おう、装備を換装出来る程度には。

 

 

 




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 いやはや、皆様の優しい言葉が胸に染みます。

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