特に何もない素晴らしい1日だった。   作:緋月夜

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すみません、長らくお待たせしました。
地霊殿編その1となります。

それでは、どうぞ。


地霊殿の場合 その1

幻想郷は秋を迎え、暑さよりも肌寒さが目立つ季節になってきた。

妖怪の山は全体的に紅葉で色鮮やかに染まり、幻想郷の住人達を飽きさせることはない。

秋になってすることと言えば、代表的なのは月見や紅葉を見に行くことなどだろう。

だが、僕はそんなことお構い無しにある場所へと向かっていた。

 

 

―――幻想郷 地底入り口

ぽっかりと大きな穴が口を開け、その穴の底の方はは闇で黒く染まっていた。

「あ、相変わらず深いな…ここは」

自分で行くと決めておきながら、毎回ここで足踏みしてしまう。

「……よし、行くか」

覚悟を決めて、足を踏み入れようとして立ち止まる。

ふと、頭の中を空にして周りに意識を広げる。

……反応はない、近くには居ないみたいだな。

「…ふぅ、よし」

そして僕は、ゆっくり地底へと降りていった。

 

 

―――地底 入口 中腹

縦穴をゆっくり降りていき、そろそろ半分まで来た頃だろうか。

未だ穴の底は見えない、上を見上げれば太陽が見える。

「…にしても、深いなぁここは」

思わず息をついてしまう深さであった。

「また来たのかい?拒んだりはしないけど、アンタも物好きだねー」

と、頭上から声がする。

「うわっ、ビックリしたぁ…なんだ、ヤマメちゃんか」

そこには地底の蜘蛛、土蜘蛛の黒谷ヤマメが逆さまに降りてきていた。

「なんだとは酷くないかい?」

と苦笑しながら近付いてきた。

「それで、今日は地底に何しに来たの?」

「んー、久々に地底の皆に会いに行こうかなーと思ってさ」

勿論ヤマメちゃんにもね、と忘れずに付け足す。

「そうなんだね、ちょっと嬉しいかも」

と、照れ笑いするヤマメちゃんもやっぱり可愛い。

「まぁ、鬼に捕まって酒盛りになんなきゃいいけど」

と、意地悪そうに言って去っていった。

……お酒呑むことになったらどうしよ。

 

 

 

―――地底 地底街入口

長い縦穴を、漸く降りきって到着したのは地底に広がる街の入口だった。

街頭が2つ立っているためわかりやすい。

入口の洞窟を抜けた先にまず見えるのは、木造の橋。

そこに1人の女性が佇んでいた。

こちらの足音に気付いたのか、振り向く彼女の瞳は、深い緑色だった。

「…なんだ、貴方か」

と、一見不服そうな声でそう呟く彼女は橋姫と呼ばれる妖怪。

名を水橋パルスィ。

「や、やぁ、久しぶり」

「…妬ましいわ」

「えぇ!?」

人差し指でこちら指してさらに一言。

「半年もこっちに来ないで地上でよろしくやってたのが妬ましいのよ!」

「えぇ…」

彼女は寂しがり屋な面が強く、少しわがままであった。

「……なによ」

と、こちらを見上げて覗き込んでくるパルスィ。

「い、いや、ちょっと色々忙しくてさ…」

ごめんよ、と一言謝ると彼女は、

「ふん…どうせ彼方此方ウロウロ通ってたんでしょ、貴方の事だし」

と、そっぽを向いてしまう。

「…待たせ過ぎなのよ」

と、小さく呟く彼女の頭を後ろから撫でてみた。

「ひゃ……っ…!?」

「ごめんよ、別に差別して皆の所を周ってる訳じゃないんだ」

なるべく優しく、落ち着かせるように撫でる。

「……分かってるわよ、それくらい」

少し落ち着いたのか、声音が優しくなってきていた。

「…こっちに来る頻度を低くしないでって言ってるの」

と、段々素直になり始める。

「ん、分かった、次から気をつけるよ」

苦笑しながら頭を撫でてあげる。

「……ふん」

未だに不満そうに鼻を鳴らす彼女の顔は、赤く染まりにやけていた。

また来る、と一言告げて手を振ってみると、意外にも手を振り返してくれた。

嬉しい。

 

 

―――地底街

パルスィの居た橋から奥へと進んでいくと、旧い町並みが目の前に広がる。

石畳の舗装された道を歩いていくと、何やら騒がしい声が聞こえる。

その喧騒の中に、ひときわ大きな声で高らかに叫ぶ者がいた。

「次ィ!!私に挑んでくるって奴はいないのかい!?」

その声で僕は確信した、その声の主は鬼の四天王の1人。

名を星熊勇儀。

どうやら、酒の席の延長で腕相撲大会をしているようだ。

普通に考えると、彼女の腕力を上回れる者を見たことがない。

よって、いくら彼女に挑んでも勝ち目はほぼほぼないだろう。

同じ鬼だとしても、彼女とそこらの鬼とでは比べ物にならない。

あまり関わらずにその場を立ち去ってしまった方が良さそうだ、でなければ酒を呑まされてしまうに違いない。

落ち着いてから改めて会いに来よう、と心に決めその場を離れた。

いつ見ても、鬼は楽しそうだ。

 

しばらく歩き、家屋の類が減り始めた頃、僕は漸く目的地を視認することが出来た。

(久々に来たな…地霊殿)

地底の旧い和風な建築様式に対し、僕の目の前に現れた建物は少し昔の西洋風な建築様式であった。

何処か紅魔館に似た様で、色は真逆の白を基調としている。

そしてここに来る時まで、僕が探している人を発見することは出来なかった。

きっと地霊殿の中に居るのだろう、と気を取り直し足を進めた。

玄関の大きな扉を開けると、そこには広い玄関ホールが広がっていて、目の前には2階に上がるための階段、天井は高く大きなシャンデリアが吊るされていた。

「いつ来ても…豪華絢爛って言葉が良く似合うなぁ」

思わず息をついてしまうほどの豪華さである、それに紅魔館程ではないにしろ、ここも広いことは間違いない。

「……迷いそう」

未だに誰も通りかからないため、仕方なく歩いてまわることにした。

壁のいたるところに絵画や写真、または調度品や骨董品の数々が並んでいた。

素人目でしかないからなんとも言えないが、恐らくどれも大きな価値がある逸品なのだろう。

そのまま館内をゆっくり歩いていると、目の前に1匹の猫が現れた。

「そう言えばペットとして動物を飼ってるんだっけ…ん?」

その猫をよく見た時、ゆらりと揺れる尻尾が一本ではなく、元を同じくし二又に分かれているのが確認できた。

「……妖怪?」

「にゃーん」

喉を鳴らして擦り寄ってくるあたり、普通の猫と変わらないが、やはりのその尻尾は見間違いではなく、二又に分かれていた。

長く生きた猫は、尾が二つに分かれ妖怪化すると言う。

一般的に猫叉と呼ばれるモノである。

「…確か、お燐ちゃんだっけ」

「にゃーん!」

ふと思い出した名を呼ぶと、一際大きな声で鳴き、光に包まれた。

「…っ…!?」

恐る恐る目を開けると、そこに居たのは一人の女の子であった。

赤い髪は二束の三つ編みにしてあり、猫の耳が生え、全体的に黒を基調としたゴスロリのような服を着ている。

そしてその腰からは、やはり二又に分かれた尻尾が生えていた。

「やぁ、お兄さん、久しぶり」

ニコッと目を細めて笑う彼女は、火焔猫燐、火車である。

「やっぱりお燐ちゃんだったか、久しぶりだね」

「最近忙しいみたいだね、地霊殿に来るのも楽じゃないだろうに」

と、気遣ってくれるお燐ちゃんは、本当に人間に興味がないのかと疑いたくなるほどであった。

「ん、少し遠いけどね、苦ではないよ」

「そっか、それならいいんだ」

にひひ、と笑う彼女に見とれてしまい、少し顔を背けてしまった。

「そう言えば今日はどうしたんだい?」

「あ、あぁ、そうそう、今日さとりさんに会いに来たんだけど、いるかな?」

と、聞いてみると

「さとり様なら、自分の部屋で本を読んでるんじゃないかねぇ、行ってみたら?」

と、教えてくれたので早速向かうことにした。

「ありがとね、お燐ちゃん」

「ん、気を付けてねお兄さん」

 

 

―――地霊殿 2階 廊下

1度玄関ホールに戻ってから階段を上がって2階へと訪れたものの、如何せん部屋が多いのでどこがさとりの部屋なのか分からない。

多分、気配を読み取れば見付けられるんだろうが、折角だし色々と見て回ろう、と足を進める。

「……」

ところでさっきから見るこの人たちは何なんだろう、喋らないし何かふよふよ浮いてるし……

もしかして幽霊…?

「あ、あのすみません」

と、意を決して声をかけてみる、しかし反応はなくそのままふよふよと通り過ぎてしまった、やはり幽霊だったのか。

「霊と話そうとするなんて、ひゅーがは面白いねぇ」

「…ッ…!?」

ふと、後ろから声をかけられて、振り向きつつ距離をとるために後方へ飛び退る。

「わぁ、すごいねひゅーが!」

「な、なんだ…こいしちゃんか」

その声の正体を確認し、胸をなで下ろす。

彼女は、古明地こいし。

この地霊殿の主、古明地さとりの妹だ。

そして、今回会おうと思っていた内の1人だ。

「えーい!」

と、こちらへと飛びついてくるこいし。

「うわわ…久しぶりだね、こいしちゃん」

苦笑しつつも抱き留めて、そう声をかける。

思えば抱き着かれることが最近多くなってきた気がする…気のせいかな。

「そう言えば今日は何しに来たのー?」

と、腕の中からこちらの顔を見上げて首を傾げるこいし。

「んー、簡単に言うとこいしちゃんとさとりさんに会いに来たんだ、久々に挨拶しようかと思って」

と、軽く髪をなでながら答えると、こいしは目を細めながら、そうなんだー、と一言だけ返してきた。

「それで、迷っちゃったんだねぇ」

な、なんと……バレてた。

「お姉ちゃんのお部屋なら3階よ、3階」

と、上を指さして微笑む。

「そうなんだ…ちなみに3階のどこの部屋なのかな」

「案内してあげるよひゅーが、こっちー」

と、そのままこいしに手を引かれて廊下を進んでいく。

いつでも元気で、表情豊かな彼女も、少し変わったところがある。

彼女は能力に違わず、無意識的に行動するため、記憶もあまり残さない。

よって、いつもどこか冷たい寂しさを纏っていた。

しかし、今の彼女にそれは見受けられない、どうやら彼女も良き方へと変わっていっている様だ。

その事に気付き、少し頬が緩んでいることに気が付きつつ、こいしに導かれるように前へと進んでいった。

 

 

―――3階 さとりの自室前

「さ、着いたよー」

ふとある部屋の前で立ち止まってこちらを振り向くこいし。

「この部屋がさとりさんの?」

「そうだよー、さ、ノックしてから入ってね」

ふふ、と笑いながら手を離し少し離れる。

「あれ、こいしちゃんは来ないの?」

と、聞いてみたところ

「私は後でいいのー、今はお姉ちゃんとの時間でしょ」

と、微笑みながらふと姿を消してしまった。

……後で、か。

何だかデジャヴのような、前にもそんなことがあったような…。

やはり、妹は姉に譲る反面、独占するのは長めなのだろうか。

少し顔が赤くなるのを感じたので、深呼吸してから、ドアをノックした。




申し訳ないです本当に((
感謝しております、これからも読んでいただければ嬉しいですね。
それでは、また次回。

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