マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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 次話投稿します。

 戦闘描写で字数が増えたので、後一回は同サブタイトル。






汚い手だと思うかい? その三

 『参番組はそのまま迎撃を継続!一軍と教導隊は西側に集結後、合図の信号弾を待って、南側に集結しているギャラルホルンMW群の側面、及びその後方の歩兵部隊を叩く。以上かかれ』

 

 ルイスの命令を受け、CGS残留を決めた者たちが動き出す。

 結局、逃亡を選択した者たちは一軍が約半数、参番組は数名、教導隊と整備班からはゼロとなったことを踏まえての作戦命令である。

 ちなみに、デクスターは残留組に、ササイとトドはいち早く逃亡組に加わっている。

 

 序盤、参番組は集中砲火を加えるギャラルホルン部隊に対し、遮蔽物に身を隠して防戦につとめる。

 双方MWを主力としているが、総合した錬度、火力、機体数はギャラルホルンが上であるためにうかつに飛び出せる状況ではない。

 だが、ある距離をギャラルホルンのMW群が通過したところで、オルガの号令が飛ぶ。

 

 『投擲隊、発射!』

 

 オルガの声に続き、防衛に当たっていたMWの後方に待機していた部隊から、一斉にドラム缶が投擲された。

 整備班の製作した、着脱式投擲装置を設置した輸送用MWから投擲されたドラム缶を反射的に射撃したギャラルホルンのMW数台が炎上する。

 ドラム缶内に満載されたバイオ燃料が爆発炎上し、それがそのまま降り注いだためだ。

 続いて、守備にまわっていたCGSのMWらも、優先してドラム缶に射撃を当て、爆発炎上させていく。

 予備電源の燃料として、ビスケット自宅の農園その他から、定価の倍で優先的に集められたトウモロコシを原料に、タービンズの輸送してきた精製装置で作られた、その燃料はよく燃えた。

 本能的な火に対する恐れと、MWへの熱によるダメージにより、ギャラルホルンの足が止まる。

 

 『よし、続いて切り込み隊、行け!』

 

 オルガの次の号令に、三日月や昭弘ら錬度の高いMW乗りが、ギャラルホルンのMW群に肉迫し、撃墜につとめる。

 たまらず後退するギャラルホルンに、切り込み隊は深追いをせず、守備にあたるMWらの援護射撃を受けつつ、後退する。

 

 『ルイス隊長、敵の足を止めました。MSが出るまで現状を維持は可能そうです』

 『了解、苦労だが、参番組は暫しの間その場を死守しろ』

 『了解、訓練の成果を見せてやりますよ』

 

 CGS施設を見下ろせる監視塔から、参番組の報告を受け、ルイスは次の段階へと取り掛かる。

 側に待機していた、デクスターとビスケットの両名に、クーデリアとフミタンの地下格納庫への誘導と、各部署への連絡役を任じ彼らが走り去った後に、ルイスは傍らに置いたスイッチを押した。

 少しの間を置いて、CGS施設の北側から多数の信号弾が上がる。

 逃走した連中の乗る機体に、あらかじめ仕込んでおいた信号弾が、発射されたのだ。

 

 「マルバが素直に逃がしてくれるわけないだろ。悪いが僕らのために頑張ってね」

 

 聞く者のいない監視塔でルイスが一人つぶやくその眼下には、更に火力の鈍るギャラルホルンの攻撃が映る。

 ギャラルホルンの目的がクーデリアの拘束ないし、殺害と見ていいこの襲撃で、今CGSの敷地から逃げるものがあれば、彼らはそれを追跡せざるを得ない。

 だがその発覚が突発であれば、いかに練度の高いギャラルホルンとはいえそちらへの追撃か攻撃続行かの判断が下るまでの、時間差が生じる。

 その隙を突くかのようにMW群に一軍が、歩兵達には教導隊が西側から側面攻撃をかける。

 守備に回る参番組からも、援護射撃がおこなわれ、ギャラルホルンのMW群は更に数を減らす。

 

 「さて、これで相手が引いてくれればいいんだが、そうはいかないか」

 

 目視で襲撃の更に後方を、監視していたルイスの目に、大きな移動物が映る。

 

 『MS一機、接近中!参番組と一軍は後退!教導隊は適当なところで切り上げて帰還せよ!以降エイハブリアクターの影響で通信は困難となる。各自身近の上官判断に従い奮戦しろ!以上通信終わり!』

 

 最後の通信を終えるとルイスは、監視塔から走り退出する。

 目的地は地下格納庫、そこに眠るMSの元である。

 

 

 CGS地下格納庫、現在そこでは一機のMSを起動させようとしていた。

 この敷地で見つけ、マルバが敷地ごと買い取ったガンダムフレーム、ガンダムバルバトスである。

 事前の整備により、稼動に問題の無い様にレストアされたそれに、MS襲来の連絡と共に、オルガの指示でここに来た三日月が、コクピットに乗り込み起動の準備をしている。

 

 「あの社長さん。三日月はアレを動かせるのですか?」

 「ああ、あいつは阿頼耶識システムを三つ埋め込んでいる、うちの中じゃ一番ガンダムを上手く使えるはずですぜ」

 「阿頼耶識システム!?あれは」

 「非人道的システムって言いたいんでしょうが、黙っていて下さいよ。俺らは清く正しく飢え死により、毒でも皿でも食って生きてたいんでね」

 「それは!でも」

 「社長の言うとおりだよ。これのおかげで俺も仲間も生きてこられた」

 

 避難してきたクーデリアは先に地下格納庫にいたマルバに、言い募ろうとするも先に三日月に釘を刺されて沈黙する。

 本人が納得している以上、部外者である自分が騒ぐ事の愚かさと傲慢さを、優秀なクーデリアは理解したからだ。

 故に、雪之丞からレクチャーを受ける三日月を見送るしか出来ない自分が、クーデリアは歯痒かった。

 

 「一度、起動はしたが、今度はどれくらい稼動を続ける事になるかわからねえ。死なない程度にきばってけや」

 「わかったよ、おやっさん。じゃ出すよ」

 

 施設内の予備電源への切り替えと、バルバトスの起動を終え、三日月は出撃する。

 地上で奮闘する仲間達を救うために。

 

 

 ギャラルホルンのMS、グレイズが戦闘に参加してから、CGS側は徐々に不利に陥っていた。

 ギャラルホルンのMW群は、グレイズからの指示で信号弾を発した逃亡組へ向かい、歩兵らの方も教導隊のかく乱で無力化され、数としてはグレイズ一機のみ。

 にも拘らず、その戦力差はCGSに不利であった。

 MWの攻撃は命中しても、その装甲にほぼはじかれるが、グレイズからの攻撃は命中すれば致命的な上に、機動力もグレイズが圧倒している。

 かろうじて投擲組のドラム缶投擲のみが有効であったため持ち堪えているが、用意した数の残りは後五回分で打ち止めである。

 対MS用の弾頭が、隊長機には装填されているが、これはあくまでこちらのバルバトスの援護用であり、現状で発射しても、わずかばかりの足止めにしかならないだろう。

 そう判断したオルガは、ひたすらに三日月の到着を待ち、参番組や一軍のMWが、グレイズに潰されるのを、歯噛みしつつも指揮を続けていた。

 

 「お前ら、もう少しで三日月が戻る!それまでの辛抱だ!」

 

 せめて士気を下げないように、そう思っての激励であったが、その声はグレイズに拾われてしまった。

 

 『貴様が指揮をしているのか?』

 

 グレイズから、そう声が響いたかと思うと、オルガの乗るMWに攻撃を仕掛けてきたのだ。

 せめて仲間を巻き込まないようにと、オルガは機体をジグザグに走らせ、荒野のほうに出る。

 

 『ほう、なかなか素早いな。どこまで逃げられるかな?』

 

 グレイズから聞こえる声には、侮りと慢心がにじみ、オルガが子供の頃から聞き慣れた、大人が自分らをいたぶる時と同じ声色だった。

 そして、その声色の通りに、グレイズは射撃を使わずに、手にした武器か足で、オルガの機体を潰そうとしてきたのである。

 

 グレイズの武器と足が、荒野に降り注ぐたびに、衝撃と瓦礫がオルガの機体を襲い、遂に回避に致命的なほどに体勢を崩してしまう。

 その隙を見逃さず、グレイズの武器攻撃がオルガの機体をその搭乗者の高笑いと共に振り注ごうとした時、横合いから飛び出した機体、一軍の隊長機が弾き飛ばす。

 直後のグレイズの武器が地面に突き刺さるのと同時に、グレイズの背後から土砂の吹き飛ぶ音が響き、その音に思わず振り向いたグレイズのコクピットめがけ、巨大な鉄塊が迫り、次の瞬間にそのコクピットを搭乗者ごと叩き潰した。

 その鉄塊はメイスであり、それを握るのは三日月の乗るバルバトス。

 悪魔の名を冠したガンダムが、地上へと帰還を果たした瞬間であった。

 

 

 

 




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やっとここまで、先はまだ長い。



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