マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。

補足 グシオンルージュ…回収したグシオンをバルバトス用パーツを用いて、アミダの戦闘スタイルに合わせて改修した機体。
 背中にクタン参型の大型スラスターを搭載することで長期航行戦闘にも対応できる。
 イメージとしてはグシオンリベイクの射撃モードと、隠し腕部分をはずし、大型スラスターを背負わせて、全身を赤く塗ったもの。
 武器は、ライフルとグシオンチョッパー、電磁ナックルガード。





間を持たせれば、本命が来るぜ

 「今ごろ、三日月達は戦っている頃ですね」

 「でしょうな、まあ今の内にこっちの準備を急いで終わらせねえといけませんぜ」

 「わかっております。私共の荷物の整理は終わりましたので、後は積み込みだけです」

 

 お互いにノーマルスーツに身を詰め込んだマルバとクーデリアはイサリビの通路を荷物を抱えて、格納庫へと急ぐ。

 現在、イサリビとハンマーヘッドは、アリアンロッドと地球外縁軌道統制統合艦隊(以下地統艦隊)の管轄の境目であり、両者のどちらが受け持つべきか曖昧な地帯で、地球行きの為の積み込み作業を行っている状況だ。

 

 「こういう状況を見逃してくれると、ありがてえんですがねえ」

 

 そうぼやいたマルバの言葉に応じるように、艦内に警戒音が響き渡る。

 

 『所属不明のMS六機が本艦、及びハンマーヘッドに接近中!各自戦闘体制に移行してください。繰り返します…』

 「そうもいかねえみてですな」

 「な、なんとも嫌なタイミングですね」

 「俺の所為じゃねえですよ?」

 「わかってますよ」

 

 ミストの艦内放送が響き渡る中、微妙な雰囲気のままマルバとクーデリアは更に足を速めるのであった。

 

 

 

 

 『アストン、デルマ!ここであいつらを止めるぞ!』

 『ああ、昭弘さんたちが戻るまでは俺たちが鉄華団を守るんだ!』

 『少しでもイサリビから、引き離す!』

 

 お互いに声を掛け、昌弘たちの乗るマン・ロディ三機が迎撃にあたる。

 現在のイサリビとハンマーヘッドは、地球環境での運用に換装されたMSに加え、ダルトン家との決闘に最強戦力である三日月らが当たっているために、戦力が一時的に低下している。

 加えて、降下船への荷物の積み込み作業中により、この場から動けない状態にあった。

 その隙を突く形での襲撃は敵ながら、よくタイミングを練られているものであり、恐らく暫く前より狙っていたのであろう。

 

 『いいか、昌弘、アストン、デルマ。命を捨てるような戦いはするな。まだお前らにゃ教え足りないことばかりだからな!』

 『わかってます、鉄雄教官。時間稼ぎに徹します』

 

 昌弘が代表してブリッジで指揮を取る鉄雄に返事を返し、アストンとデルマはその言葉に頷きで返す。

 ここまでに来る間に、鉄雄の指導にしごかれた彼らの意識は、命を捨てたヒューマンデブリの戦い方から、技量で無茶をしない傭兵のそれへと変化をしつつあった。

 

 『まあ、死ななきゃうちのテレジア先生がきっちり治してくれるぜ?小言つきでな!』

 『うええ、あの先生、いい腕だけどおっかないからなあ』

 『俺は、嫌いじゃない、ああいう人』

 『でも小言はいやだから、怪我しないようにしなくちゃな』

 

 デルマのぼやきに、アストンは朴訥に応じ、昌弘がまとめる。

 ブルワーズ時代からのチームワークは、今なお彼らの間には健在であった。

 

 

 

 「襲撃者は二手に別れ、当艦とハンマーヘッドに向かってます。数は互いに三ずつです」

 「機体はグレイズか?」

 「いえ…補足した百里からの映像データの照合の結果、ジルダが二、スピナ・ロディが四。それが一:二の三機編成を組んでいるようです」

 「支援つきとは、面倒だぜ団長」

 「スリン、詳しいのか?」

 「大体の場合、ジルダに乗ったやつが支援と指揮を取る。ジルダは動きは早いが装甲は薄い。先にスピナ・ロディを潰すと逃げる可能性があるな」

 

 イサリビのブリッジで、ミストからの報告を聞いていたオルガは、つぶやくようなスリンの短い情報を聞き、判断を下す。

 

 「今回は防衛が目的だ。それを前提としての指示を、防衛チームに頼むぜ鉄雄。ミストはおやっさんたちに作業の続行を伝えてくれ。所定の荷物を積み終えたら、そのまま人員の乗り込みにかかるぞ」

 「了解ですが、大丈夫でしょうか?」

 「防衛してくれてる奴らを俺は信じるぜ。ああ、あとカガリビのユージンにもこの情報は渡しておいてくれ、あいつなら上手く活かしてくれる」

 

 オルガの判断に、多少の不安を機械音声に滲ませるミストであったが、オルガは片目をつぶり笑いながらでそう応じた。

 

 

 

 『くそっ、あいつら妙に動きがいいな』

 『落ち着け、デルマ。こちらの被害は軽微、悪くない状況だ』

 

 ジルダ、スピナ・ロディの混合三機編成の襲撃者達を前に、昌弘たちマンロディ隊は善戦している。

 暫く前に、会敵した後は相手の前進を阻み、いくらかの被弾を受けつつも、重厚なマンロディの装甲にたいした損害は無い。

 ジルダのロングライフルによる支援の元で動く、スピナ・ロディ二機は厄介であったが、事前に鉄雄から連絡を受けていた為に、その程度の被害で済んでいる。

 

 『ただの物取り連中じゃないな、こいつら』

 『なんであれ、兄貴たちの邪魔はさせない!』

 

 昌弘たちの士気は高く、それを下支える操縦技能も、阿頼耶識込みとしても充分であり、ただの海賊程度の相手ならば、容易い。

 が、襲撃者三機の連携と練度は、海賊程度になしうるものではなかった。

 ジルダの精密な射撃により、徐々にダメージが蓄積され、マン・ロディの動きは鈍くなっていく。

 加えて、別れた襲撃者側の相手をしているのは、百里に乗ったラフタのみでこなしている状態であることを知る昌弘たちに焦りの気持ちが大きくなる。

 

 『くそっ!』

 『やめろ、昌弘!』

 

 焦りからか、昌弘はアストンの制止も聞かずに、思わず一機のスピナ・ロディにダガードスによる接近戦を仕掛けてしまう。

 その隙を見逃さないジルダの正確な射撃が、昌弘のマン・ロディを捕らえる。

 一瞬の行動不能に追い込まれ、そこに合わせるように狙われたスピナ・ロディがライフルを捨て、接近しつつアクスを手にもち、それをマン・ロディのコクピット目掛けて大きく振りかぶった。

 

 『昌弘!』

 

 思わず悲鳴を上げたのは、アストンかデルマか。

 その言葉に反応するように、アクスを振りかぶったスピナ・ロディの上方からMSの反応が現われた、と思う間も無く、スピナ・ロディが大きく弾き飛ばされる。

 

 『弟たちに手を出す奴は、この俺が許さねえ!』

 『兄貴!』

 

 そこに出現したのは、白い上半身に四本の腕を持ち、下半身を深い緑に染めた昭弘の乗る、方天画・激の姿。

 離れた場所で決闘に挑んでいた彼が、どのようにしてこの場所に存在するのか?

 

 『兄貴!どうしてここに』

 『襲撃を受けた情報を聞いてな。決闘で敗北を認めて離脱した後、アミダ姐さんのグシオンルージュに送ってもらった』

 

 オルガにより、イサリビ襲撃の報を受け取ったユージンが、既に五機まで数を減らした仇討ち部隊の様子を見て取り、アミダと昭弘に援護に戻るように指示を出し、仇討ち部隊の相手を三日月とシグルドに任せたのだ。

 その後、クタン参型の大型スラスターを搭載したグシオンルージュに掴まり、最大速度でイサリビとハンマーヘッドの場所まで駆けつけ、アミダがハンマーヘッドの応援に向かう途中で別れた昭弘が、アクスを昌弘に振り下ろそうとしたスピナ・ロディに体当たりを仕掛けたということだ。

 

 『俺の機体の残りガスが少ない。協力して一機落とすぞ』

 『わかった、兄貴』

 

 短く会話を交わすと、思わぬ乱入者に動きを止めていたジルダと残りのスピナ・ロディの内、身近にいたスピナ・ロディに方天画・激が襲い掛かる。

 咄嗟にアクスで応戦するスピナ・ロディの攻撃をかいくぐり、背後に回った方天画・激が四本の腕で、スピナ・ロディの四肢を拘束すると、そのままスピナ・ロディを頭上に担ぎ上げ上方にスラスター全開で上昇する。

 

 『ぐああ!貴様何をする気だ!』

 『行くぜ、昌弘』

 

 急速なGに叫ぶスピナ・ロディの搭乗者を無視して、短く告げた昭弘はその勢いのまま反転し、今度は下方へと急降下する。

 方天画・激により金縛りにされたスピナ・ロディの搭乗者が見たのは、これも急速にこちらにダガードスを両手で構えて上昇してくる昌弘のマン・ロディの姿であった。

 

 『や、やめろ!きさ』

 

 最後まで言葉を告げることなく、スピナ・ロディはマン・ロディのダガードスによりコクピットを貫かれて沈黙した。

 それをその場に放り捨て、ジルダのほうを見た昭弘は、ジルダが残るスピナ・ロディの腕を掴み、この場から遠ざかっていくのを見た。

 

 『どうやら、終わったようだな』

 『昭弘さん!ラフタさんたちから、向こうも撃退したって今連絡が!』

 『そうか、ラフタも無事か。ありがとうな、デルマ。よし、お前らイサリビに戻るぞ』

 『うん。それと、さっきはありがとう兄貴』

 『気にするな、今までの分もお前らを守る。それが俺のしたい事だ』

 

 兄貴、やっぱり兄貴は俺の、俺達のヒーローだよ。

 昌弘はそう心の中でつぶやき、アストン、デルマと共に、イサリビへと帰還を果たすのであった。

 

 

 

 『ほんとにしつこいね、アンタ。妙に鋭いし、早くて嫌になるよ』

 『貴様も、阿頼耶識だけのガキじゃないな。もう壁が使えなくなった』

 

 鉄華団とダルトン家仇討ち部隊の戦闘は終盤に入っていた。

 バルバトスはアドラーグレイズと一対一の戦いに突入しており、仇討ち部隊の残るゲイレール三機が、かろうじてシグルドの乗るブリュンヒルデをひきつけていた。

 だが、風に舞う木の葉のごとき回避を見せるブリュンヒルデにろくなダメージを与えられず、逆に追い込まれている状況だ。

 後数分ほどしか持たないであろうゲイレールらが落ちれば、ツヴァイの側に圧倒的不利が訪れるのは自明である。

 

 「それでも、勝つのは俺だ!」

 

 人知れず一人吼えたツヴァイは、バルバトスへとアドラーグレイズを奔らせたのであった。

 

 

 

 

 




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 ツヴァイは果たして仇討ちの本懐を遂げられるのか?
 兄と父の見守る中、ツヴァイは奔る。

 次回「ツヴァイ、散る」 ご期待ください。



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