補足 ブリュンヒルデ…シグルド・モンタークの乗るMS。
グレイズフレームの原型であるヴァルキュリアフレームを使用している。
軽装甲、高出力を活かす為に遠心力を利用するスピアを主武装とする。
本人の力量もあり、戦闘能力は恐るべきものがある。
エイハブリアクターは本来のものではなく、鹵獲品を取り付けてあるので、ギャラルホルンのデータバンクでは判別できない。
グルーガ・ダルトンが見届け人として乗る白青のシュヴァルベグレイズを挟み、鉄華団とダルトン家の仇討ち部隊が対峙する。
お互いに既にMSを展開させ、いつでも戦闘に移れる状態にあるのは互いに承知していた。
『規定の刻限が目前につき、簡単に今回の仇討ちについてを再度知らせる。ダルトン家の仇討ち対象は、ガンダムバルバトスとその操縦者のみとし、機体の破壊と操縦者の死亡、若しくは戦闘不能を持って仇討ちの完了とする。また、仇討ち側のダルトン家は、代表者のツヴァイ・ダルトンの死亡、若しくは戦闘不能をもって仇討ちの失敗とみなす。双方異論はないか?』
グルーガの宣告に、バルバトスが手を挙げる。
『ねえ、銀髪の人。いいかな?』
『何かな、三日月・オーガス』
『その周りについてる人たちは、どうすればいいの?皆やっちゃえばいいのかな?』
『戦闘放棄、つまり武器を捨てて負けを宣言しない限りは、それでいい』
『うん、わかった』
互いに日常会話レベルの平坦さで会話を終え、他に質問は無く開始の刻限を待つ中、バルバトスに通信が来る。
相手は対峙するツヴァイが乗る機体からだ。
前回のステンジャ家のグレイズ同様のカラー、黒い機体の両肩を赤く塗り、通常のグレイズより大き目の脚部を備えたその機体からの通信を、三日月は特に考えるでもなく受信をする。
『ダルトン家、アドラーグレイズのツヴァイ・ダルトンだ』
『え、あー鉄華団、バルバトスの三日月・オーガス、です』
『事を始める前に、一つ礼をしておく。アインを始末してくれてありがとう。お陰で僕の出番ができたよ』
『?そいつ誰?』
『知らなくていいさ、ただの気持ちの問題だよ。君を殺す前に言って置きたかったんだ』
『ああ、そう。まあ俺がお前を殺すと思うけど』
『たいした自信だね。まあいい、じゃあそろそろやろうか』
『そうだね、やろうか』
『では、両者とも存分に成されよ』
鉄華団と仇討ち部隊の戦闘は、代表者同士の会話のぶつけ合いが終わった直後に届いた、グルーガからの通信によりその火蓋が切られた。
ダルトン家仇討ち部隊が指定してきて来た地点は、地球が目前に迫る軌道上近くであり、アリアンロッドと地球外縁軌道統制統合艦隊の受け持ちが曖昧な地点であるというのは、何故かギャラルホルンの事に詳しいアルベルトとシグルドの言である。
相対する陣容は、鉄華団側が所有する強襲装甲艦の弐番艦カガリビとMSが四機、仇討ち部隊側が旧型のロックドラス級戦艦に、ゲイレールフレームとアドラーグレイズでMSが十六機。
数の上では、仇討ち部隊側の有利である。
互いの技量に大きな差が無ければ。
『よしやるぞ!これを成功させれば俺達は無罪放免だ!』
『上手くすれば、上層部への取立ても狙える!勝つぞ!』
前回のステンジャ家の仇討ち失敗を踏まえ、鉄華団側の戦力を少数精鋭であるとみたダルトン家は、不意打ちでの戦力削減を捨て、正面から鉄華団を潰すべく、仇討ち対象をバルバトスとその操縦者に絞込み、常に一機のMSに対して複数で当たる策を立てた。
加えて、セブンスターズの覚えをめでたくしたい者たちだけでなく、コーラルの元で不正を働き、処分を待つだけの元火星支部のMS乗りたちを減刑を条件に助太刀に組み込み、士気と練度を高めることも忘れていなかった。
加えて、ダルトン家当主ギザロの手配により、ゲイレールの状態は現役のグレイズと同等程度に良好な状態にレストアされていた。
がそれ故に、今対峙する鉄華団側のMS乗り達の技量が、自分達のそれよりも大きく上回る事を実感する事となる。
『クソ!コイツらなんて回避力だ!』
『ライフルが当たらん!接近戦を仕掛けるぞ!』
まず両端から、バルバトスを包囲しようとした三機編成の部隊二つが一機ずつのMSにそれを阻まれる。
一つは、全身を赤に染め、背中に大型スラスターを搭載したガンダムフレームとみられる機体であり、もう一つは頭部のツインアンテナが特徴的な、全身の銀色を赤で縁取った見たことの無い機体であった。
どちらも三機がかりの射撃をほとんど回避しつつ、手にしたアサルトライフルで各ゲイレールにダメージを与えてくるのだ。
ならば接近戦をと、アックスを手に距離を縮めた六機のゲイレールであったが、それが相手の望むところであった事には気がつかない。
まず一機がライフルを捨て、腰に装着したスピアを手にした銀赤の機体、シグルドの乗るブリュンヒルデにコクピットを貫かれ沈黙する。
『おのれ!くらえ!』
『遅いぞ』
残る二機が左右に別れ、ほぼ同時にブリュンヒルデに襲い掛かるゲイレールに、シグルドが楽しげな声でつぶやき、引き抜かれたスピアを高速で横に回転させ、左右のゲイレールのアックスを持った手を弾く。
ほぼ同時に見えたゲイレールの攻撃を、どちらが早いかを見抜き瞬時に対応したシグルドの技量と、それに答える俊敏性を備えたブリュンヒルデに一瞬呆けたゲイレールの搭乗者達は、続いて迫るブリュンヒルデのスピアの高速の突きにより、あの世へと旅立つ羽目となる。
『やるね。シミュレーターだけの腕前じゃなかったようだね』
『恐縮です。そちらももう終わりそうですね』
『手を貸してくれても、構わないよ?』
『必要ないでしょう、貴女には』
『そういう態度だと、女から恨まれるよアンタ』
『その点には気をつけましょう』
『お、俺を無視しやがって!ぐひやあああ!』
最後の通信はアミダの乗る赤いガンダムフレーム、グシオンルージュの持つジェット加速したグシオンチョッパーにより、鍔迫り合いをしていたアクスの柄ごとコクピットをへし切られたゲイレールの搭乗者のものだ。
残る二機のゲイレールは既に大型スラスターを利用し間合いを奪った、グシオンルージュの両手に装着した電磁ナックルガードの餌食となり宇宙を漂うデブリと化している。
アミダとしては電磁ショックによる、機体の無効化を狙っていたのだが、グシオンルージュの高出力により強化された突撃力に、ゲイレールのコクピット部分を圧壊させてしまった事はアミダ本人以外は気がつかないであろう。
『中々の槍さばきじゃないか』
『ええ、以前はブレード二刀流に固執していましたが、こちらのほうが俺には合うようです』
『また随分と尖った武器を使っていたね。まあナックルを使う私が言えた義理でもないけどさ』
『ハハハ、さて次はどうしますか?援護にしても、直接あの場に乗り込むのは難儀そうですが』
そういってブリュンヒルデが指し示すのは、合計十機に囲まれる三日月の乗るバルバトスと、昭弘の乗るカスタムされた方天画、方天画・激(ほうてんが・げき)の姿があった。
通常であれば、それは苦戦の状況であろうが、彼ら二人の場合では事情が異なる。
シグルドとアミダの見るところ、逆に自在に宇宙空間を駆けるバルバトスと方天画・激により十機のMSが翻弄されているようである。
『あのアドラーグレイズという機体だけは動きがいいですが、あとは然程の脅威でもなさそうですね』
そうシグルドが言う間にも、バルバトスと方天画・激に両足を掴まれた二機のゲイレール同士が衝突させられ戦線から離脱した。
『鉄華団になる前からの付き合いの阿頼耶識持ち同士だしね。たいしたコンビネーションだよ』
『では、我々は後ろの船でも襲いますか』
『それでいこうか、じゃあ着いて来なよ』
帰るべき艦を失う、そう思わせれば敵方の判断が鈍る事を期待してのシグルドの発言にアミダは頷き、ロックドラス級目掛けて二機のMSが駆ける横で、バルバトスのメイスと、方天画・激のハルバードに左右からコクピットを潰されたゲイレールが戦闘から離脱させられる。
『ふん、言うだけはあるね、三日月・オーガス』
『アンタも手ごわいね。早くやられて欲しいんだけど』
混戦の中、バルバトスとアドラーグレイズは、何度か接触するが互いに決定的な一撃には至らずにいる。
だが周囲のゲイレールらは、どこかしら損傷を受けており、既に六機へと数を減らしていた。
『おいお前ら、バルバトスともう一機の連携を崩す!三番と四番は俺に従い、残りの四機であの白い上半身のMSを足止めしろ!』
『ハッ、わかりました!』
「まったく、使えない道具はどこまでも使えない…」
ゲイレールの搭乗者達への通信を終え、アドラーグレイズの中でそうつぶやくツヴァイの顔立ちは、アインとほぼ同一のものであるが、その肌は青白く、髪は色素が抜けたように白い。
「だが、俺は使えない道具じゃないって事を、父上たちに証明してやるぞ!」
ツヴァイは赤い瞳を光らせ、バルバトスを睨みつけるのであった。
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『さっきのは地獄の阿頼耶識コンビネーション、パート1だっけ?』
『…勘弁してくれ』
命名者はユージン。