マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


補足 コロニー群について…各経済圏の公営、または国有の組織。
 地球の環境破壊防止のために、重工業等の二次産業を宇宙空間へ隔離する為に設立された。
 その為、作業の危険度、人体への汚染、重労働の仕事がコロニー生活者に重くのしかかり、搾取しか考えない各経済圏への潜在的不満は相当に高まっている。





花の欠片は渡してやるぜ

 ドルト3宙域での戦闘行為が終結に近づきつつある頃、ドルト3にあるドルト本社ビル、その会議室の一つで沈痛な顔をした大人たちがいる。

 彼らは全部で九人いるドルトカンパニーの役員たちであり、今回のドルト人民軍の起こした行動に対しての対応策を練るために、早朝にも拘らずこの会議室に集まっているのだ。

 

 「しかし、我々が集まる意味があるのかね?戦闘なぞギャラルホルンに任せておけばよかったのではないか?」

 「そうですね、とうさ…社長。僕達は会社経営をアフリカンユニオンに任せられた、いわば選ばれた存在。その過酷な任務の為に、充分な休息の時間は確保しておくべきでしょ」

 

 そう発言するのは、代々ドルトカンパニーの社長と副社長を務める一族のものであり、初代はギャラルホルンの退役将校であった彼らの発言に、残りの七人の役員達は、返事はせずに顔をしかめる。

 先の二人が、実情はアフリカンユニオンの要求をドルトカンパニーに押し付けるだけの存在であり、残りの七人の役員らが苦労してその要求を実現している間、この二人が何をしているかを知っているからだ。

 

 「ギャラルホルンの太鼓もち共が、偉そうに」

 

 ぼそりと七人のうちの誰かがつぶやくも、先の二人は慣れない早朝出勤に集中力がないのか気がつかず、残りの者たちはその発言を取り上げなかった。

 言葉にはせずとも、駐在する統制局や警務局のギャラルホルンたちに接待すること以外していない社長と副社長に対して、思うことは同じだ。

 昨日とて、『大きな作戦』前の慰撫としてドルト3の高級店でギャラルホルン駐留部隊の幹部らと、会社経費で散々飲み食いしているである。

 その結果が、今会議室のスクリーンに映し出される光景であるとなれば、残る七人の示した態度はまだ穏当であろう。

 

 『今、鎮圧されつつあるテロリスト、ドルト人民軍を自称する者たちが駆けつけたギャラルホルン駐留部隊に包囲されてております。もはや解決までは時間の問題のようですが、今だ予断を許しません』

 

 ドルトコロニーネットワーク(以下DCN)の女性キャスターが画面の向こうから告げてくる活舌の良い声が、ボリュームを押さえつつも室内に良く響き渡る。

 今回の事件の最大の問題は、この事件が『偶々』ギャラルホルン駐留部隊への、DCNによる密着取材中に起きた事であろう。

 会議室で映されてる映像は、襲撃直後から事件現場に居合わせたDCNクルー達の手により、緊急生放送としてドルトコロニー全域に生中継されている。

 つまり、ドルト3を襲撃してきたドルト人民軍により、ギャラルホルンのグレイズが討たれる場面や追い詰められる場面、鉄華団のMSが助けに入る場面なども、ドルトコロニー中に放送されたのだ。

 

 「ともかく、ギャラルホルンの皆さんの手を煩わさないように、じっとしているべきですね」

 「社長の言うとおりだ、特にサヴァラン君!君はスタンドプレーが多すぎる!僕らに逆らうと解任するぞ!」

 

 こと今に至って、このような言動しかできない社長と副社長に、サヴァランは意を決して、強い声で発言した。

 

 「対策の前に、緊急動議を提案いたします!現社長グラッセ・ドルト及び現副社長ボンボン・ドルトの解任を要求します!賛成の方はご起立を願います!」

 「馬鹿な、正気かね君…えっ」

 

 サヴァランの発言を鼻で笑おうとしたグラッセとボンボンは唖然とする。

 社長と副社長を除く役員全員が、起立していたからであった。

 

 「過半数の賛成により、提案は受理されました。次に、新しい社長職の選任を行います」

 

 次に発言をしたのは、ドルト6で圏外圏との取引担当であった役員。

 

 「新社長には、サヴァラン・カヌーレ氏を推薦します。賛成の方はご起立を願います」

 

 彼の発言に、一度着席していた役員達は再び起立する。

 

 「全会一致で、新社長はサヴァラン・カヌーレ氏と決定します。では新社長お願いします」

 「ふ、ふ、ふざけるな!」

 

 それまで口をパクパクとさせていたボンボンが顔を赤くして激昂し叫ぶ。

 

 「き、貴様ら俺たちに逆らうつもりだな!警備員!早く来い!会社への反逆者どもを捕まえろ!」

 

 その叫びが聞こえたのか、会議室の扉が開き、警備員達がなだれ込んで来る。

 が、その先頭に立っているのは、ギャラルホルン警務局の者たちであり、彼らがあごで警備員達を動かし、グラッセとボンボンを拘束した。

 

 「こ、これは一体!?」

 「グラッセ・ドルト、ボンボン・ドルト。貴様らを機密漏えい、殺人教唆及び収賄罪で逮捕する!抵抗するな」

 「し、知らないぞ、何のことだ!」

 「こ、これは罠だ!おい貴様ら俺を誰だと」

 「抵抗だ、鎮圧しろ!」

 

 警務局の人間の声に、警備員達は腰の変形警棒を抜き、グラッセとボンボンを囲んで一斉に打ち据える。

 その動きに一切の加減は無く、一部はうっすらと笑みすら浮かんでいたのは気のせいではないだろう。

 警務局の職員から二人の罪状を聞き、逮捕に協力を申し出た者を多数から選び出すことになる程に、彼らには人望が無かった。

 やがてわずかに痙攣するだけで、動かなくなったグラッセとドルトを、引きずるようにして警備員達が運び出す。

 

 「ドルトカンパニーの皆様、お騒がせしました」

 「いえ、警務局の皆様もお勤めご苦労様です。今後ともよろしくお願いします」

 「ハッ、我らは常に秩序のために粉骨砕身しております」

 

 声を掛けてきたギャラルホルン警務局の職員に、サヴァランが代表して応答する。

 そして、彼らが退出した後に、サヴァランはグラッセの座っていた席へと着席し、言葉を発する。

 

 「では、今後は労働者と圏外圏との融和を第一として、新たな役員として、ナボナ・ミンゴ氏とジャスレイ・ドノミコルス氏を迎え…」

 

 その顔には決意と覚悟に満ちた、戦士の顔であった。

 

 

 

 

 グラッセとボンボンを乗せ、ドルト本社ビルから遠ざかるギャラルホルンの車両を物陰から見つめる者たちがいる。

 

 「顧問、上手くいったようですね」

 「そうだなビスケット、これもこいつらのお陰だぜ。よくやってくれたよ、スリン」

 「なあに、死体をひとつ、人気のないちょいと監視のきつい家にほおりこんで来るだけだ。大して手間じゃねえ」

 「まったくでさ、ドンパチ無しなら楽なもんすわ」

 

 背広を着たビスケットとマルバの言葉にそう返したのは、労働者用の服を着て帽子を目深にかぶったスリン・スリングとその仲間達だ。

 

 「後は、ビスケットの兄貴が対策を軌道に乗せるまで、労働組合が大人しくしてれば何とかなるな」

 「でも顧問、あのマカロンを始末したことになった人は、裏切りませんか?」

 「ああ、あいつはノブリスの部下らしいが、大丈夫だろ。何かノブリスにすごい忠誠誓ってるらしくてよ、今度のこともノブリス直々の命令だって喜んでたくらいだぜ」

 「へ、へえ。人はそれぞれなんですね」

 「まあな、世の中には能力が在っても、したいことのない奴はいるもんだ。そういうのを取り込むのが上手いのかもな。それよりも、ビスケット、お前は大丈夫か?」

 「…今回の件ですか?確かにこういう謀(はかりごと)は好きにはなれないです。でも、こうすれば皆が、オルガが楽になれるのなら、僕は後悔もためらいもないですよ。それに、兄さんとナボナさんのドルトでの立場も、結果的にいい方向に進められたと思いますから。でも心配はありがとうございます」

 「何、ビスケットの兄貴がここの実権握ってくれたほうが都合がいいから、テイワズとノブリスへ『提案』したまでだ。これからどうなるかは悪いがお前の兄貴次第ってとこだぜ」

 「それでも、ありがとうございます。今回のことがなければ、兄さんがどうなっていたか判らないですから」

 

 マルバの言葉に、ビスケットは帽子を胸に頭を下げる。

 

 「それとな、これからもこういうことはあるだろうが、オルガを頼むぜビスケット」

 「はい、皆を引っ張るオルガを、僕らが支えますよ」

 

 マルバとビスケットの会話を、スリンたちは笑みを浮かべて聞いていた。

 

 「で、顧問。これからどうするんで?」

 「おう、そうだな。次はオルガに連絡とって、次の計画に入るぜ。こいつをしとかねえと地球へ入りづれえからよ」

 「了解でさあ。よし、行くぞおめえら」

 

 スリンの掛け声に、元スリングショット傭兵団の面々は頷き、彼らは路地裏へと消えていく。

 それから暫くして、最後まで抵抗していたドルト人民軍が、ギャラルホルン駐留部隊の集中砲火により、奪取したクルーザーごと宇宙の藻屑となったことで、今回の騒動はひとまずの落着を見るのであった。

 

 

 

 

 

 




 誤字脱字のご指摘、ご意見感想等ありましたらよろしくお願いします。

 多少は派手になったドルト編だったな。



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