マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。

27話に補足:仇討ち(ギャラルホルン式)を追加しました。




仲間が増えて、トラブルも増える

 ブルワーズとの抗争から数日後の今、鉄華団とタービンズはデブリ帯近くでの係留を強いられていた。

 ハンマーヘッドはともかく、イサリビはグシオンにより与えられたダメージが、想定以上であり船外作業を含めた修理の必要があったためだ。

 幸いにもブルワーズの武装輸送艦にはその資材は充分にあるため、修理自体は問題が無い。

 この先にも同様のトラブルがある可能性を考えれば、ここでできる限り直しておくべき、という意見で鉄華団とタービンズの首脳部も一致したのは当然であろう。

 

 「一緒に作業することで、ブルワーズのヒューマンデブリの人たちと、少しは仲良くなれたのは嬉しい誤算というべきかな」

 「そうだな、ビスケット。後は音羽さんの公平な医療手当てのお陰か」

 「ああ、怪我の酷い人から立場に関わらず、優先的に治療していたからね。ブルワーズの人たちも大分協力的に動いてくれてるよ」

 

 抗争後の治療や修理等は、基本各自が自前で行うのが当然の時代に音羽の取った行動は異端であり、初めはいぶかしんでいたブルワーズ側も、実際に治療を受けることで驚きと共に態度の軟化を見せていた。

 

 「まあ、そのせいで一部勘違いして、暴走した人たちもいたけどね」

 「そいつらのその後は悲惨なもんだがな。俺はあの人の恐ろしさがよくわかったぜ、ビスケット」

 

 治療に当たったクーデリアらに、性的な要求をしてきたブルワーズの一部のものは、音羽の怒りの制裁により両手足を砕かれ、床を苦痛のうめきと共に這い蹲る羽目になっている。

 

 「綺麗に繋げてあるらしいけど、痛み止めは一切無しだからね」

 「命に関わらない程度の痛めつけ方って、えぐいよなあ」

 「その上仲間からも、助けてもらえない、か。まあ自業自得といえばそれまでか」

 

 艦内の自室で雑談を交わしつつも、オルガとビスケットは、ブルワーズの資産チェック作業を続けていた。

 メリビットによりまとめられた一覧に目を通しつつ、今後の鉄華団に必要な物資と資産を抜き出す事は、タービンズとの折衝を行う為に必要な作業である。

 現在、新たに増える予定の人材に伴い、支給する衣食からして一度計算をしなおす必要もあった。

 そのためにオルガ発案の合同慰霊式の準備を、マルバをサポートにつけた副団長のユージンに丸投げしている状態にあり、オルガは事務系の人材の不足を痛感していた。

 

 「今考えると、CGSは良くまわしていたよな」

 「まあ、顧問もそう言う計算は得意だし、ルイスさんも暇があれば手を貸してくれてたからね。基本的には、デクスターさんが仕切ってまわしていたよ」

 「今だから気がつくけど、あの人もすごい人だよな。まったく俺らはまだまだ足りねえ」

 「でも、だからこそやりがいも感じる。でしょ?」

 

 笑い掛けるビスケットにオルガも片目をつぶり、笑みで返す。

 

 「まあな。火星への仕送りもいくらかできるしな」

 「そうだね、途中で寄るドルトコロニーから送ってもらえるって話しだし。それまでにはまとめとかないとね」

 「ああ、頼むぜビスケット。こういうことはお前がいないとな」

 「了解。精々頑張るよ」

 

 そう言葉を交わして、再び作業に専念するオルガとビスケットであった。

 

 

 

 『この戦いで死んでいって奴らのために、そいつらがあの世で安らぎ、望んだやつがまたこちらで生まれ変われるように、祈ってやってくれ。弔砲の後に一分間の黙祷してくれ!』

 

 武装輸送艦の甲板から宇宙へと、今回死亡した者たち全ての遺品をつめた棺が送り出された後に、イサリビのブリッジからオルガの言葉が伝えられる。

 その言葉が終わると同時に、イサリビの主砲から弔砲が放たれる。

 それは宇宙へ放たれると青い華のように咲き、参加者一同を感嘆させる。

 二つの華が三度宇宙を飾った後に、オルガが黙祷の声を掛け参加者一同はその声に従った。

 今だけは立場に関係なく、皆が死んでいった者たちへと祈りを捧げた。

 

 「で、あんたが俺に話があるって人かい?」

 「ああ、名前はスリン・スリング。傭兵崩れの海賊ってとこだな」

 

 慰霊式を終え、後ろを振り向いたオルガの前に三十後半と思われる大柄な男が、両脇に銃を構えた鉄華団員二名を背後に立っている。

 禿げあがった頭髪と反比例に黒々とした髭を口周りにたくわえブルワーズの制服を若干窮屈そうに着て、両手をオルガに見えるようにひらひらとさせていた。

 武器を持っていない事のジェスチャーであるが、スリンの体格と傭兵という経歴ならば、油断はできないところである。

 

 「で、そのスリンさんが何のようだ?」

 「簡単に言うと、売り込みだ。『俺たち』を雇っちゃくれないか」

 「…元傭兵っていってたが、そっちのほうでか」

 「話が早くて良いねえ。元『スリングショット傭兵団』の生き残り十名、のことだ」

 「悪いが、兵隊は間に合ってるぞ」

 「ああ、そうだな。兵隊は足りてるな」

 

 スリンはそういってにやりと笑う。

 いかつい顔だが不思議と愛嬌のある笑顔であると、オルガは感じた。

 

 「つまり、アンタを含めた十名は兵隊以外のこともできることはあるといいたいのか?」

 「ああ、MS乗りはこれまでのドンパチでおっ死んじまったんで無理だが、操船から料理まで色々得意なやつらが生き残ってるぞ」

 「…経理ができる奴は?」

 「うちの元金庫番はしぶとくてね、ピンピンしてるぜ」

 「後で条件を提示する。その内容でよければ、採用しよう」

 「ああ、それでいい。良い条件を期待してるぜ、団長さん」

 「アンタも元は団長だったんだろ?」

 「もう潰れちまった団だ。名前で呼んでくれや」

 

 そういうとスリンは、両脇に控えていた鉄華団の団員のほうを見て頷くと、彼らを従えるようにブリッジから退出しようとした。

 

 「なあ、スリン。何でうちに入ろうとしたんだ?」

 「理由か?ブルワーズは再建できそうにないし、タービンズの紹介してくれるまっとうな仕事ってのも性にあわねえからってとこだ」

 「それだけか?」

 「まあ、後あげるとしたら、俺も含めてほとんどの奴は立ち上げからいる元ヒューマンデブリだからかな。ヒューマンデブリのために何かしようって奴は今まで会った事がなくてな。そういうやつの元で働いてみるのも悪かねえ、とな」

 

 振り向かずにオルガにそう伝えたスリンは、ブリッジから退出していった。

 

 「…海賊にも、色々あるんだね」

 「ああ、そうだな…じゃあ悪いがビスケット、残業つきあってくれ。頼むマジで」

 「わかったよ。ああユージン、君も一緒だよ。いいよね?」

 

 そう告げた、あいつの笑顔が、怖かった。

 後にユージンは、シノにそう零したという。

 

 

 

 

 

 「さて、ぼちぼちこいつの中身を調べねえとな」

 

 同時刻、マルバはイサリビに積まれた、テイワズのマーク入りコンテナの群れを眺めつつ、雪之丞の横でそう呟く。

 

 「なんかあんのかよ、マルバ。俺だけ連れてきてよ」

 「ああ、オルガから話を聞いたときからどうも気になってな」

 「そうか、急ぎの荷物を頼まれただけだろ?」

 

 イサリビが今積んでいる荷物は、飛び込みでテイワズに入った仕事で、届け先は地球圏にあるアフリカンユニオン直営のドルトコロニー群にあるドルト2。

 荷物は工業用の物資で、送り主はGNトレーディングという一般企業であり、タービンズを介して、鉄華団の仕事として運んでいるものである。

 

 「一つ一つは問題ねえがよ。全てを重ねると怪しいんだよ。まず何でその依頼がテイワズを通して、タービンズに来たかだ。地球圏にあるんだから物資を地球から運んだら良いだろ?時間も手間も輸送費もそのほうが安く済むぜ」

 「そりゃ、あれだ木星圏でしか取れない希少な物資とかなんだろ」

 「そんな希少な物資をだ、俺らみたいな入りたての組織に運ばせるか?それに、前に聞いたがドルトにもテイワズの支部はあるんだぜ。そこに運んで、そいつをドルトの連中に売るとかするだろ」

 「むう、確かに妙だな」

 「つまり、地球圏からは運べない、若しくは知られたくねえ荷物って可能性が出てくるわけよ」

 

 そこまでマルバの話を聞いた雪之丞は、わずかにマルバの疑念を理解する。

 

 「でだ、今丁度ブルワーズの襲撃後の修理をしてるよな。そして襲撃の影響で荷物を係留しておく装置に異常があり、積んだ荷物のコンテナの『一部』に破損があったのを発見した俺らが、念のため中身を確認するってことよ」

 「よくもまあ、そんな屁理屈を思いつくよ、お前さんは。でもそんな破損どこにあるんだ?」

 

 そう問うた雪之丞への返事の代わりに、マルバは貨物室の入り口近くに積んである修理用資材から、棒状の資材を取りだして手にすると一番手前のテイワズマークの入ったコンテナを何度か殴りつけた。

 

 「おお、手が痛てえわ。ほら、ここにあんだろ、へこみが」

 「お、おお」

 

 若干引き気味の雪之丞を尻目に、マルバは自らが僅かにへこませたコンテナを開封しようとする。

 

 「おい、危なくねえのかよ」

 「細工でこいつが開けたらドカン!と行くやつでも向こうで起こすよりは、今ココで起こしたほうが被害は少ねえぜ。精々、おっさん二人がこの世から消える程度だ」

 「俺もかよ!ひでえなあ」

 「俺がひでえのは、よく知ってるだろうがよ」

 

 軽口を叩きつつ、開いたコンテナは幸いにも爆発はしなかった。

 だが、その中にあるものは工業用の資材、などではなかった。

 

 「新型のアサルトライフルとその弾が満載かよ、おいマルバ」

 「ああ、こりゃあ厄介な事になりそうだぜ」

 

 その中身を見た二人は、思わずお互いの顔を見合わせて苦い表情を浮かべたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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