マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


補足:方天画…テイワズフレームにスピナ・ロディのパーツをメインに取り付けた近接戦闘主眼のMS。昭弘・アルトランドが搭乗。
 規格が合わない部分は百錬のものを使用しており、全体で見るとスピナ・ロディの白色の上半身に百錬の青色の下半身がついたガチムチという印象。
 フレームが厄祭戦後期の設計の為、阿頼耶識システムの取り付けが容易であり、鉄華団搬入後に阿頼耶識システムを導入している。


取られたものは取り返すだろ? その三

 『ビトー!ビトー!!』

 

 昌弘は搭乗していたマン・ロディから降り、グシオンのハンマーから自分と兄を庇い、MS程もあるデブリに縫い付けられたビトーの乗るマン・ロディにそう何度も呼びかける。

 

 『昌弘!少し下がってろ!』

 

 昭弘は方天画を操縦し、ビトーのマン・ロディのコクピット周りを丁寧にこじ開けていく。

 が、昭弘と昌弘はそこに下半身を押しつぶされた、瀕死のビトーを見出す事になった。

 

 『昌弘、無事だったか?』

 『ああ、ビトー。お前のお陰で俺も兄貴も無事だ!今から助けるからじっとしててくれ!』

 『いや、俺はいいんだ。俺は、お前らとは、いけない』

 『何でだよ!俺らはチームじゃないか!一緒に行こう!』

 

 昌弘の誘いに、ビトーは静かに首を振る。

 

 『俺は、ペドロを殺した、お前の兄貴達を、許せない。だけど、お前らが、向こうにいって、ココよりましな、生き方をする、邪魔もしたくない、から』

 『だからって…』

 『じゃあ、最後、に約束。俺と、ペドロが生まれ、変わったら、また五人、チームを』

 『約束する、約束するから!死なないでくれビトー!』

 『あり、がと…アストン、とデルマ、にも…ともだち…』

 

 その言葉を最後に、ビトーは息を引き取り、遺された昌弘は号泣した。

 いつの間にか、方天画を降りた昭弘は昌弘を正面から抱擁し、昌弘が泣き止むまでそのまま黙って抱きしめ続けた。

 

 『ああー!!どいつもコイツも、煮ても焼いても叩いても食えねえ屑ばかりねぇ!』

 

 この事態を起こしたクダルは、すぐに猛追してきたバルバトスにより、その場にとどまることを許されずに、逃走を続けていた。

 途中、何度かマン・ロディを見つけ接触を図るも、グシオンを見るやマン・ロディはその場から離れていき、誰もグシオンの側によろうともしなかった。

 痺れを切らせ強引に近づこうとするも、その度にアミダの百錬から的確な射撃が飛んできて、グシオンの装甲の薄い部分へと命中させ、少なくないダメージを与えられてしまうのだ。

 そして、その間にバルバトスが接近してきて、両手に持った太刀をグシオンに叩きつけ、その装甲を削り取っていく。

 どれほど逃げても逃げ切れない二機の存在に、クダルは自身の少ない正気も削り取られていく気分を味わっていた。

 二匹の猫にいたぶられるネズミ、その心境を今一番わかる存在がクダルであろう。

 

 『てめえら!そんなに人をいたぶるのが楽しいかよ!ゲスどもが!』

 『は?コイツも何言ってんの?』

 『ほっときな、三日月。それより、止めは任せるよ』

 『うん、任せてよ』

 

 実際はアミダはグシオンの高出力と高火力を警戒して、地道に遠距離からの攻撃によるダメージ蓄積に専念しているだけであり、三日月は慣れない太刀の扱いで、重装甲のグシオンに思うようなダメージを与えられていないだけであり、クダルの考えるようにいたぶる意図はなかった。

 

 『三日月、とりあえず突きでやってみな。それならいけるだろ』

 『そっか、ありがとう姐さん』

 

 アミダと三日月の会話をする間にも、グシオンの速度は徐々に落ちていく。

 重装甲、高機動の代償として燃費の悪いグシオンの推進剤は、急速に枯渇に向かい、対する百錬とバルバトスはクタン参型のお陰で今だ推進剤に充分な余裕があった。

 

 『じゃ、やってくる』

 『きっちり仕留めるんだよ』

 

 共に戦場とは思えないほどに淡々と会話を交わす両名の共通回線での通信を聞き、クダルは真に恐怖していた。

 アミダと三日月にとって、自分の相手をする事に何の緊張も高揚もなく『いつも通り』に動けば仕留められる、そう言われていると感じたからだ。

 そして、恐怖から更にその速度が落ちたグシオンにバルバトスが更に速度を上げて追いすがり、遂にはその前方に回り込んだ。

 

 『よっ、と』

  

 バルバトスの太刀による高速の突きが吸い込まれるようにグシオンの対艦砲の発射口を捕らえ、そのまま深く刃を内部へと滑らせる。

 グシオンの加速も相乗されたその突きの威力は、わずかに残るナノラミネート装甲をたやすく貫いたのだ。

 クダルにとっての不幸はその発射口に装填された弾頭がまだ残っていた事であり、バルバトスの突きがその弾頭を機体内部で起爆させてしまった事であろうか。

 確かにナノラミネート装甲に加え、稼動ぎりぎりの装甲で覆われたグシオンは頑健であった。

 内部で次々と誘縛する残弾の影響を、外部に漏らさず、わずかにグシオンの装甲の隙間から見せた発光のみで押し留めるほどに頑健であった。

 当然の帰結として、クダル・カデルはグシオン内部にて、一握りのデブリと化したのであった。

 

 

 

 間も無くして主戦力のMSを失い、ブリッジもハエダ率いる強襲部隊に占拠されたブルワーズは、鉄華団とタービンズに降伏を申し入れ、今各組織の代表たちはデブリ帯の外で待機させていたブルワーズの武装輸送艦、その格納庫の一つで対面していた。

 適当な貨物の上に腰掛ける名瀬と、その横に立つオルガ、両手を拘束バンドで押さえられ両脇で銃を構える鉄華団員に押さえられたブルックという具合に、各組織の現在の力関係を物語る配置であった。

 

 「さて、ギャラルホルンもいつの間にかいなくなったようだし、仕方ねえからお前と手打ちの話をするぜ、ブルック・カバヤン」

 「へ、へへ、仕方なかったんだよ名瀬さん。ギャラルホルンに逆らえなかったんだ」

 「それがお前さんの言い分か?なあ兄弟どうしたら良いと思う?」

 「そうすね。六:四でいいんじゃないですか」

 「そこらが妥当かねえ」

 

 名瀬とオルガの言葉にブルックは豚のような顔に卑しい笑みを浮かべる。

 

 「う、うちの財産の四割でいいんだな」

 「なに勘違いしてやがる」

 「へ?」

 「ブルワーズの全資産の六割を兄貴のタービンズが、残り四割を俺達鉄華団がもらうって意味だよ」

 「ふ、ふざけ!グヘア!」

 

 オルガの宣告に怒りで立ち上がりそうになるブルックを、両脇にいた団員たちが数回銃床で殴りつけてその場に再度跪かせる。

 

 「なあ、ブルック。てめえらブルワーズは俺らテイワズに弓引いたんだぜ。圏外圏で俺らテイワズを舐めた罪の判決は『死刑』しかねえんだよ」

 

 冷たい目で見下ろす名瀬の瞳に、ブルックは頭と肝が冷えていくのを感じる。

 テイワズの首魁、マクマード・バリストンが若かりし頃起こした血の粛清劇『木星の嵐』は、子供の頃から聞かされており、悪い事をするとテイワズに連れて行くと、年長者連中に脅されたことを鮮明に思い出していた。

 

 「まあ、俺は優しいから、お前らの命まではとらねえぞ。ただ『ブルワーズ』という組織は今日で死んでもらうことになる」

 「…もし、俺がその条件を飲まなかったら?」

 「その時はお前さんを宇宙に放り出すかこの場で始末するかして、次のNO2、はいねえからNO3か。そいつをココに呼んで来て了承するまで同じ事をするだけだな」

 

 冷たい目のまま淡々と告げる名瀬に、ブルックは心の底から震え上がる。

 名瀬の言葉に一切の淀みはなく、発言のままに躊躇い無く実行するだろうという確信を得てしまったからだ。

 

 「か、完敗だ。俺が甘かった…クダル、すまねえ」

 

 ブルックは心を折られ、情人への侘びの言葉を呟き、その場へと蹲った。

 その日、『ブルワーズ』という組織はこの世界から消滅した。

 

 

 

 「よお、やっぱりまだ起きてたか」

 「ああ、顧問なんすか?」

 

 ブルワーズの件に目処をつけ明日の朝から処理を開始する事を決め、自室へと戻ったオルガを、 その手に琥珀色の液体が入った瓶と二つのグラスを持ったマルバが訪問した。

 

 「顧問、俺は酒は」

 「こいつは度数の強い奴だからよ、舐めるようにしてやる奴だ。試してみな」

 

 オルガの返事を待たず、マルバは二つのグラスに指一本分ほどの分量の琥珀色の液体を注ぎ、一つをオルガに差し出す。

 やむを得ずと思ったのか、オルガはそのグラスを手に取り、共に部屋のソファーに対面で座るとマルバと琥珀色の液体をちびちびと喉に流し込む。

 

 「結構、上手くやれたと思うんすよ」

 「そうだな」

 

 グラスの液体が無くなる頃に、オルガがポツリと呟く。

 

 「でも、死んじまった奴も救えなかった奴もいるんすよ」

 「そうだな」

 

 マルバはただ肯定の言葉だけを返す。

 

 「精々ふんばっても、こんなものなんすかね?」

 「俺から見りゃ、十分上等な結果だぜ。圏外圏で俺達を舐める奴らはほぼいなくなるだろうからな。まあ、後気をつけるとすりゃ、恨まれるほどに強くならねえことだな。どこぞの地球圏の守護者気取りみてえにな」

 「強すぎても、不味いですか?」

 「ああ、不味いな。今でさえ良くわからねえ恨みを買ってるだろ?強くなればなるほど、こんなのがどんどん増えるってこった。そんな連中ばかり増やしても、いいことはねえからな」

 「…ああ、そういう仕組みすか。まったく、碌でもねえ仕事すね」

 

 マルバの少しおどけた言葉に、オルガはわずかに笑みを漏らす。

 

 「まあ、だからよ。オメエやその下のもんに、お嬢さんや名瀬さんからまっとうな仕事をもらえるようにしねえとな。それが今回の俺らの目的なんだからよ」

 「うす」

 

 そういってマルバは立ち上がると、酒精で赤らんだ顔をするオルガの頭を撫でる。

 

 「それまで、潰れんなよ?オメエを頼りにしてるし、少しは俺らを頼っても良いんだぜ団長さんよ?」

 「いや、やめてくださいよ。ガキじゃねえんすから」

 

 そう返しつつも、オルガは自身の重かった心が、少し軽くなっていくのを感じていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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